君がいれば

「なんだよ笠原、さっきからずっと唸り声なんかあげて。かなり怖いぞ、今のお前」
「うっさい!怖いってなによ怖いって」
「そのままだって。んな低い声でうーうー言ってたらちょっとひくぞ」
「まあ流石に怖いわよね〜」
 失礼なことをのたまう手塚と柴崎をまとめて睨みつけるが、二人とも全く気にしない。
「別にあんたらにひかれたからって痛くも痒くもないっ」
 反駁してからご飯と味噌汁を一口。腹が減っては戦は出来ぬというし、空腹状態じゃいいアイデアも浮かばないだろう。そう思って少し冷めつつあるランチを攻略していると、先ほどまでの失礼さはどこへやらという気遣わしげな表情で手塚が問うてきた。
「……また喧嘩してんのか?」
「はぁ!?なんでそうなるのよ」
「お前がそれだけ頭抱えてる理由ってそれくらいしか思いつかない」
「何気に失礼なこと言って、人に喧嘩売るつもり?」
「売ってないから買うなよ。他の理由の候補としては業務中に何かやらかしたとかだろうけど、今日はお前とバディだったから、何かしでかしてたら俺も見てるだろ」
 何もやらかしてなかったから、後は消去法だ、と手塚に筋道立てて説明されると郁はもう何も言えなくなる。 これが間違った予想ならまだしも事実だからだ。ぐうの音も出ないっていうのはこういうことか。 色々な悔しさで握りこぶしにも力が入る。
 一緒に手塚の説明を聞いていた柴崎が「あはははっ!」と笑い声をあげた。大口開けて笑っていても美人は美人で、普段は気にしないそんな部分も悔しく感じる自分はきっと卑屈になっているのだろう。
「朴念仁の弟子も分かってきたのねー、その予想大当たりよ。この娘ってば堂上教官の誕生日とクリスマスのプレゼント考えるの忘れてて、今必死になって悩んでるのよー」


本文より抜粋。



-back-