Wish

「そういえばさー、業務部の方で、来月のディスプレイの準備始めたんだって」
「ああ、年末年始の分も含めての準備か」
「もうそんな時期かと思うと早いよねぇ」
 色々な事が起きた夏が終わり、十五夜やらハロウィンやらの館内イベント事もこなしていると、あっという間に十一月に突入していた。この間まで涼しい程度の気温だったのに、気付けば上着が必要な季節になっている。
「あと何週間後には、魔の十二月が迫ってるんだよねえ……今年も忙しいんだろうなー」
「忙しいのは館に利用者が来てくれているって証拠だしな。忙しいのも毎年のことだし、我慢するしかないな」
「分かってるわよぅ。でも去年のことを考えるとさー」
 今の話の流れで、郁は昨年の年末に大変だったことを思い出した。
 結婚して最初の年末、世の慣例に則って十二月にやればいい、と悠長に構えていて痛い目にあったのだ。
 郁も堂上も独身時代は寮生活を送っていたとあって、掃除や洗濯、片付け等の習慣は身についていた。
 郁は時々散らかしてしまうこともあったが、その度に柴崎にツッコミを入れられていた。その内に『使ったらしまう』という習慣が染み付き、今もそれは続いている。対する堂上も、部屋を散らかしがち、という一般的な若い男性のイメージとは違い、普段から余り散らかすタイプではなかった。
 そんな二人の結婚生活において、掃除や片付けは、忙しくてままならない時がある、という点以外では特に問題にならない家事だった。
 だが、『大掃除』となると話は別だと知ったのは、実際に年末を迎えてからのことだった。
 図書館に新刊として入ってきた主婦向けの雑誌を見て、ふと、大掃除をしなきゃいけないな、という話になった。しかし十二月の図書隊は年末に向けて非常に忙しく、ようやく一日休みが入ったと思えば、飲み会をしたがる部隊内の人間に引っ張っていかれたりもする。
 そんな事の繰り返しでは休みの日に家の中の事をする気力も湧かず、結局大晦日ぎりぎりにバタバタと行うことになった。
 疲れている身体に鞭打って家の中を磨き上げるのは、日頃から訓練して鍛えているとはいえかなり堪えた。
 そして、『来年は、早い内から少しずつ掃除しよう』と反省したのだった。
 その事を堂上も思い出したようで、
「……よし、明日は大掃除するぞ」
と、堂上家の大掃除は十一月に行われることと相成った。


本文より抜粋。



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