■-43

ネプの記憶-
 拠点の宿へ帰り着いて、部屋のドアを閉めた途端力が抜けた。ずるずるとドアを擦って崩れ落ちる。
 毎日を極度に緊張して過ごしている気がする。そんな事をしているのはきっと俺だけだ。
 目眩と寒気がする。原因は使っている薬だろう。心身尽き果てるなら、それでもいいと思った。今までずっと生にしがみ付いていたのに、初めて思う。
 疲れた心身が、ふと、ある考えを持ってくる。
 この侭俺が死んだらどうなるのだろう。あの子がいない事を知っているのは俺だけだ。俺さえいなくなれば、嘘は暴かれないし、こんな悲しい現実も消えてくれるんじゃないだろうか。
 …悲しい?
 そうだ。誰にも悼んで貰えないんだ。あの子は悲しくて悲しくて堪らなかっただろうに、それが無かった事にされるなんて。
 そんな事は寂し過ぎるじゃないか。

「ぐ、うぅ…っ」
 少しでいい、あの子に救いを。誰でもいいから。



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