微か確かに確かめて
今まで、狂おしく誰かを求めた事は一度も無かった。そうでなければ今感じている熱に覚えがあっただろう。ランドは己の感情を抑制出来ないでいた。
幸福を知る事と恐怖の誕生は表裏一体である。喪失の業苦を自らで織り上げ、形作る愚かさだ。それでも求めてしまうのは、恐怖すら凌駕する幸福に魅了されているからなのかもしれない。
少し力を入れて押せば、されるが侭にレグレルグの体が柔らかな布団へ倒れる。レグレルグの体は華奢ではないが、ランドの褐色とは違う白い肌が温まった事で微かな赤みを帯びているさまは艶やかさを感じさせた。そしてそのような視点を持ち合わせていた事実にランド自身でも驚く。以前まで形ある事柄を超越していたが、限りあるものを何処かで羨ましく思っていたのかもしれない。
行為に及んだところで何も中身は無いのだろうが、其処に己が作り出した感情を乗せると途端に意味があるように思えてくる。その勝手をレグレルグも抱いている事実は、やがて孤独な意味を甘い秘密めいたものに変化させた。
見下ろしていたレグレルグの頬を撫で、その侭額にある気体を吐き出す管状の器官を弄る。この器官と気体の正体は、以前は肥大化抑制の為に設けられた生命力放出器官だったが、現在はその形を残しただけのものであるらしい。
「此処、触られるとどうなんだ?」
「ん……、ちょっと擽ったいです」
「耳みたいなもんか」
「そんな感じです」
レグレルグが笑いながら言うところ本当に痛みは無いのだろう。事実に安心しながら、不意にランドは顔を寄せる。唇が触れ合うと驚いたようにレグレルグの体が若干跳ねたが、やがてランドの背に腕を回した。
ランドはレグレルグの唇を割るように角度を付けると、舌を差し入れてレグレルグの口内を彷徨う。レグレルグから伸ばされた舌が触れ、熱く絡み付いてくるとランドは思考の芯を焼かれるような心地になり、夢中で吸い付き絡まり合った。
その中でランドの指がレグレルグの額の管をなぞる。
「んっ、んふ……」
根元から先端までを擦り上げられ、続けざまに先端の穴の縁を指先で軽く弄られると、レグレルグの背筋に小気味よい悪寒のような感覚が駆け上がった。悦楽とは異なるが、多幸感に包まれつつあるのは気の所為ではあるまい。
息が詰まりランドが口を離すと、熱に浮かされた表情でいるレグレルグの荒い呼吸が耳までも刺激し、胸中を擽る。ランドは欲の赴く侭にレグレルグの首へ口付けると、首筋を舌を這わせて下り、辿り着いた鎖骨を軽く唇で挟んだ。
「あっ……、はあ……」
横に投げ出されたレグレルグの手が布団を掴んで動揺を示す。上下する胸の片方を撫でながらもう片方へ何度も吸い付いてみると、擽ったいのかレグレルグの腰が揺らいだ。その腰へ手を伸ばし軽く撫でると、大仰にレグレルグの体が跳ねる。
「ひゃっ」
弱い箇所を見付けた事にランドは喜びさえ覚え、レグレルグの浴衣を脱がしながら腹へと下りていった。レグレルグの腰を撫でながら、人間ならば臍があったであろう辺りを舌先で軽く抉る。すると舌へ僅かな刺激を感じ、そろそろ肌が汗ばんでいる事に気付いた。
「あっ、やっあ……、ああっ」
レグレルグが足をもどかしげに動かす中で、ランドはふとこれからを考える。互いに排泄器官ならばあるが、其処へ指を差し入れたとて無性の体では苦痛に襲われるだけだろう。苦痛を与えるのは本意ではない。出来る行為の少なさはランドへ僅かに憂鬱を連れてきたが、出来る限り求めていたいのも事実だった。
ランドは身を起こすと、次にはレグレルグに覆い被さるように抱き付く。レグレルグがその背を優しく抱き留めた。
「レグ」
耳元で聞こえたランドの声にレグレルグは感じた事の無い幸福を覚える。ただ名を呼ぶだけのものが途方も無く喜びを呼んだ。
「これっぽっちでも、俺はお前が欲しい」
言葉にレグレルグが小さく笑い、甘えるように頬を寄せる。
「充分すぎるくらいですよ、ランドさん」
身を起こしたランドの表情を慰めるように、レグレルグはランドを引き寄せて口付けた。
レグレルグを背中から抱え込み、ランドは伸ばした手の指をレグレルグの唇に這わせる。レグレルグが薄く唇を開いたところで二本の指を差し入れ、熱い口内を努めて優しく撫で回した。ぬめる中で歯を避け、柔らかな舌の表だけでなく裏も弄ると、レグレルグが身を震わせる。
「んっふ、うう、んんぅ……」
されるが侭でいるレグレルグが時折指に吸い付き、感覚にランドは更に高揚させられ、レグレルグもまた高揚しているのだと知ると、堪らない心地がランドの歯止めを利かなくさせた。
レグレルグの耳を緩く唇で食むように挟み、吸い上げ、舌で弄ぶ。押し寄せる感覚と音にレグレルグが体をよじった。
「はふ……ぁあっ、んむ、うぅ……」
空いた片手でレグレルグの胸を撫でているとぬめりに気付く。唾液が此処まで垂れてきたようだ。その事実で更にランドの思考が熱を持ち白く染まる。
傷付けないよう徐に口から指を抜くとレグレルグから手首を掴まれた。そうして指を名残惜しそうにしゃぶるさまがランドの胸中を激しく疼かせる。熱い吐息と舌が絡み付き、夢中であるのはランドだけではないのだと知らしめるようだった。
レグレルグを再度押し倒し、ランドは貪り付くようにレグレルグへ口付ける。絡む舌が蕩けて一つになるような感覚に陥り、ますます心身を熱くさせた。
「……なんか」
ふと口を離し、ランドが熱に揺れた声で告げる。
「やめ時、解んねえ……」
「ふふ……、僕もです」
一際艶やかに見えた微笑みへまた口付け、ランドは己の感情に心地良く振り回された。
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