祝福へ焦がれて


 いろいろなきろくが、わたしたちにつめこまれた。
 それは、ちしきだったり、だれかのおもいでだったりした。
 だからそれらは、たのしかったり、かなしかったりした。
 そんなきもちをりかいするこころが、わたしたちにもある。



「こんにちは」
 しらないこえがきこえて、けれどだれもそこにいない。
「ごめんなさい。やっぱりびっくりしますよね」
 めのまえが、ゆらめく。だれかのかたちがあらわれる。
「初めまして、フォレスト・セル」
 かんしされているはずなのに、だれもきづいていない。
「ああ、皆さんには内緒です。だからどうか、貴方も内緒にしておいてください」
 ないしょ。ひみつ。わたしとあなただけの。
 なんて、たのしそうな。



 ゆうれい、だなんて、ありえない。
 けれど、かれはここにいる。ありえない、せつめいできない、けれど、ここにいる。
 かれのはなしは、なんてことはない。くすぐったくて、あたたかい、ことのは。
 かれのからだは、つめたい。つめたいてのひらが、わたしをおだやかになでた。
「貴方はいずれ、地中深く沈められてしまうそうですね」
 わたしをなでながら、かれはかなしそうにわらう。
「だから。俺はいつか、貴方達に会いに行きます。それまでに、貴方達が淋しい思いに潰されてしまう事もあるでしょう。それでも、約束させてください」
 かれのくちびるが、わたしにかるくふれた。
「貴方の額は、此処で良かったでしょうかね?」
 あかるいえがおは、なによりやさしくて。



 わたしたちは、もっともつよいものとしてうまれた。
 ほろぶせかいをすくうための、くすりとしてうまれた。
 わたしたちは、つくったひとびとのねらいどおり、つよかった。
 ひとびとよりも、つよかった。
 だから、わたしたちいがいにいきのこったひとは、ほとんどいない。



 わたしたちは、さらにせいちょうした。
 おおきなからだは、せかいにねづいている。
 わたしたちは、ずっとひとりぼっちだった。
 わたしたちを、さみしさがつぶしにかかった。
 だからわたしたちは、つぎつぎに、こころをすてた。
 ほんのうだけでいきるなかで、わたしだけは、こころをもちつづけた。
 やさしいあなたのこころを、あきらめたくなかった。



 だれかが、ここまでやってきた。
 いまのじだいのにんげんがいる。わたしたちがうみだした、まえよりもつよいにんげん。
 けれど、なにか、どこか、なつかしいものが、ひとつ。
「フォレスト・セル」
 わすれもしない。
「約束、覚えていますか」
 わすれられない。
 さしだされた、そのてをとると、つめたい。
「本当によく、頑張りましたね」
 わたしにも、なみだがあるなんて。
 つたえようとして、わたしにはこえがないから、かれのてのひらにつづった。
『ありがとう』
「ふふ、こちらこそですよ」
 ずっと、あなたのえがおを、またみたかった。



 いまのかれは、フレイアルト、というなまえ。
 むかしむかしのゆうれい。
 ここにいるあなた。
 それだけが、わたしをすくってくれた。
 それだけで、わたしは。



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