「ほら」
承太郎が差し出したコーヒーを仗助は受け取った。ゆらゆらと揺れる地面に未だ慣れない。甲板に座りこんでいた仗助は立ち上がると歳上の恋人に笑いかけた。
「あんたいつもこんなところで仕事してるんスか」
「時々な、クジラの観測の為に何十日も海にいたこともある」
「信じらんねー」
おれには絶対に無理っスと言うと仗助は海面を見下ろす。夜の海は暗くて何も見えない。
騙されたとため息をつく。クルーザーでデートというのは名目で実際はスタンド使いの調査だ。
せっかく会えたっていうのに。仗助はコーヒーを飲みながら承太郎を睨む。すると目が合ってどきりとした。いくつになってもこの甥は格好良くてずるい。
ごまかすようにコーヒーを飲む。じんわりと温かさが広がっていく。
「さて、相手は出てきますかね」
「わからないな。イルカは賢い動物だからな」
仗助はふと昔、スタンド使いのネズミをを二人で狩に行ったことを思い出した。眉間を摘まむ。
「どうした」
「いや、おれたちって変わらねーっスね」
「そうか」
「せっかく恋人になったってのに」
「それならば、恋人らしいことをするか」
承太郎の長い指が仗助の頬を撫でた。それだけで仗助は真っ赤になる。
「や、やめときます」
「つれないな」
「思ってないっスよね」
心外だと承太郎は肩を竦める。
「いつだっておまえに触れたいし、キスしたいと思っているが?」
「は
――」
絶句する仗助に承太郎は笑う。
「おまえが思っているよりずっとわたしはおまえに救われているんだ」
どう意味だと尋ねる前に承太郎は前方を指差す。
「見ろ、仗助」
日の出だった。水平線から光が現れる。空は白み始め、海は青さを増していく。
その太陽のそばで二頭のイルカが跳ねた。
「来たな。行くぞ」
承太郎が駆け出していく。
――おれの手はきっとあんたに届く。届くよ。
自分を呼ぶ大きな背中を見て思う。
暗い海の夢はもう見ない。
【ハッピーエンドを願っている】