自分の誕生日に大活躍な荒北氏。荒福。メタです。(それ以外のCPも出てきますのでご注意下さい)
ケツと腰が痛ェ。
荒北は走っていた。どことも知れぬ土手の上。
ひどい倦怠感に襲われながら、足を動かす。
それもこれも、こいつのせいだ。
忌々しげに荒北は制服の上に掛けられたタスキを睨む。
『本日の主役』
タスキにはそう書かれていた。
何が主役だ。一番の重労働を強いられている。
「ハァー。小野田チャンの次はどいつだよ」
さっきまで一緒にいた眼鏡をかけた少年を思い浮かべる。
『今日は荒北さんが主役ですから。ぼ、ボク頑張りますっ』なんて言っていたが、所詮小野田ちゃんは小野田ちゃんである。
荒北が小野田の倍働いたのは言うまでもない。
「可愛かったからいいけどォ」
だが、疲れた。後、どれくらい回らなければならないのだろうか。
自然とため息が出る。
「疲れているようだな」
すると背後から声がした。
「福ちゃん!」
自転車に乗った福富が荒北の横に並ぶ。
「久しぶりィ」
荒北はへろりと笑った。
福富とは朝早くに“福荒”回の時に会っていた。
「その、すまない。あの時は少し乱暴をした」
「大丈夫だって。ところで福ちゃんが来たってことは次は“荒福”なのォ」
もしかして。期待がこもる。
しかし、残念な事に福富は首を横に振った。
「いや、次は新開だ」
マジかよ。荒北の顔は引き攣る。福富は首を傾げた。
「嫌なのか? 新開は優しいだろ?」
確かに奴は優しいかもしれない。それは否定しない。
「あの体力バカには付き合いきれねェ」
疲れた身体ではかなりキツイ。疲れてなくてもキツイ。
「R-18展開なしになんねェかなァ」
「無理だろう。期待している人がたくさんいる」
「福ちゃん、冷たいねェ」
荒北はがっくり肩を落とした。
「仕方がないだろう」
福富が少しだけ困った顔をする。
「今日はお前の誕生日なのだから」
――だから、なんで誕生日の人間が一番重労働を課せられるんだよ。
心の中で再度突っ込む。福富に言ってもそれこそ仕方がない事だ。
荒北は気分転換をする為に話題を変えた。
「なァ“荒福”はいつなんだよ」
ちょっと待て。そういうと福富はどこからともなくメモ帳を取り出した。
片手運転になってもふらつかないのは流石だ。
「最後だな」
「最後ね。了解」
正に残り物には福があるだな。ちょっと違うか。などと考えていると隣の福富の様子がおかしい事に気付いた。
メモを見つめたまま顔をちょっぴり赤くして動揺したように目を泳がせている。
「福ちゃん? どうかしたのォ」
「あ、アァ」
福富はビクリと身体を震わせるとメモを荒北に見せた。
びっしりとカップリング名が時刻共に整列している。
「ナニ?」
「“荒福”の前が“金荒”なんだ」
それがどうかしたのか。怪訝な顔をする荒北に福富は顔を赤らめて言った。
「き、金城がどんな風にその、したのか、後で訊いてもいいだろうか」
ブチィ。荒北の中で何かが切れた。
「ちょっと福ちゃーん」
荒北は笑った。怒りに顔面を痙攣させながら。
「あ、荒北」
異様な荒北の雰囲気を察したのか、珍しく福富が焦った顔をした。だが、もう手遅れだ。
「今日は日付が変わるまで寝かせねェから」
低い低い声でそう宣言すると荒北は駆け出した。
「
――荒北」
後ろから福富の声が聞こえるが止まるわけにはいかない。とっとと終わらないと。
少しでも多く福富と過ごす為に。
それぐらい許してもらえるはずだ。
なんてったって、今日は誕生日なのだから。
荒北は気合を入れる為に空へと拳を突き上げた。
【お誕生日ヒーロー】