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■道を説く君

街は今、極東の町の文化がブームらしい。
ラグナスにはいわゆる流行というものにはさっぱり縁も興味もなかったが、
武器屋にも流行に乗っかり、入荷されたその文化の集積ともいえる刀を見、うーんと唸っていた。
何本かの日本刀が、ショーウインドウに抜き身の刀と鞘がセットで飾られていた。
一本一本どれを見ても遜色なく、武器としては上級の部類に位置することは間違いないであろう業物。
白刃の美しさ、機能美に思わず熱の入った目で眺めるラグナスに、武器屋の親父がうれしそうに話しかけてくる。
「お客さん、やっぱりその刀の良さわかりますか?」
「ああ。美術的にも素晴らしいけれど、その上実用的に極めて優れているというか……
 実戦のために鍛え上げられているものだっていうのが見ているだけでもよくわかるよ」
「わかりますかわかりますか!いやー、私も最初は冷めた目で和ブームというものを見ていたんですけどねえ、
 これ見たら東の果ての物でも馬鹿に出来ないものがあるなあって見直しちゃいましたよ」
自分には長らく愛用している剣があるから買い換えたいとまでは思わなかったが、
冒険者にはあこがれの逸品となってもおかしくない出来の良さの武器を見て
なるほどこういうものにあふれているなら、入れ込む人が出てくるのもわかる気がする、とラグナスは思う。
「ありがとう、いいものをみせてもらったよ」
「また来てくださいね!」
武器屋を出ても、あちこちに「JAPAN」「和」の文字が目に入る。
洋風の町並みに躍る、対極的な和風のディスプレイ。
なんだか、いつもとはまったくちがう異国漂う雰囲気に、多少心が躍る自分がいた。
「桜餅はいかがですかー?」
ピンクのお餅を、パックに入れて一生懸命声をあげて売り込む女性が、ラグナスに微笑みかける。
桜色の、ほんのり甘くていいにおいがする、お餅。それはきっとやわらかく、あの子のほっぺのように。
脳裏に思わず浮かび上がった少女の面影を餅に重ねながら、お餅をみて思い出されるっていうのは
女の子にとっては不名誉な気分なんじゃないだろうか、と勝手な想像をしながらラグナスは苦笑いする。
「それ、ください」
ラグナスは桜餅売りから受け取った包みを手に、歩き出す。
頭の中に浮かんだ少女が、それこそお餅のようにほっぺを膨らませたような気がしたから。

「アルル、おじゃましてもいいかい?」
「あれっ、ラグナスが遊びに来るなんて珍しいねー!」
「うん。これ、おいしそうだからつい買ってしまったんだけど、よく考えたらそんなに甘いものが好きでもないし
 ひとりで食べる量でもないし。アルルこういうの好きかなって思って。よかったら一緒に食べないかな?」
「うわあ!!嬉しいな嬉しいな。あがって!ボクお茶入れるから!」
いくつもの桜餅が入った包みを満面の笑みで受け取るアルルを見て、やっぱり買ってきてよかったと思う。
彼女の笑顔はいつ見ても春のようで、心を和ませる。
部屋に入ると、遠慮なくダイニングに座らせてもらう。
テーブルに置かれたファッション雑誌。彼女もちゃんと今ドキの女の子だな、と思った。
「極東特集……花魁に学べ・新しミステリアスメイク 彼とたまには知的に交そう、和歌と恋文
 脱がされてもこれで大丈夫・着物の着付け 〜お代官遊びの極意〜 ??」
表紙に書かれた煽り文字がものすごく気になる。特に最後。
「それ?向こうの文化って面白いよね。ボクもめったにこういう雑誌はかわないんだけど、つい買っちゃった」
アルルがお盆にお茶と、お皿に盛りなおした桜餅を乗せて持ってくる。
ラグナスの目の前にその二つを置きながら、目を向けた雑誌の内容に目を輝かせながら食いついてきた。
「着物にサムライにニンジャ、和歌や短歌に、小物だってかわいいのたっくさんだし!!」
「ああ、来る前に街をのぞいてきたけど、ずいぶん変わった文化みたいだね」
「うんうん。ぼく、一度だけ旅で行ったことがあるんだけど、観光で行ったわけじゃないから
 ぜんぜんそれらしいところ見られなかったんだ。次回はぜひゆっくり見てきたいなあ
 食べ物も変ってるけどおいしいものいっぱいみたいだよ。あ、これも美味しいね〜」
アルルがおいしそうに桜餅を口に運んているのを見て、ラグナスも一口桜餅をかじりつくと
柔らかい口応えの後、ほんのりとした甘さが口の中に広がった。
「うん、控え目で上品な甘さだね。男の僕でもこれなら結構食べられそうだ」
「近くの喫茶店でも、和菓子フェアやってるみたいだよ。ほら」
アルルが雑誌を開いて、近所のスイーツ特集のページを指し示す。
「ふーん。本当に流行ってるんだね」
「ラグナスは男の子だし、あんまりこういうところはいかないかな」
「そうだね。あまり縁がないよ」
「たまにはこういうのは?勇者様がこんなふうに知的に手紙書いたらきっと伝説として後世に伝わるよ」
女の子らしい話題は不得手なラグナスに、アルルは気を使ってページをめくると、第二特集の古文・和歌のページを見せる。
少し読んでみるが……確かに知的ではあるが、それ以前に読めない。読めないものは書けない。
「そっかあ。残念」
「サムライといえば、武器屋にさえも流行りが伝わってたよ」
「ええっ、なになに、ニンジャの手裏剣とか?!」
「それもあったけど、サムライが使ってる日本刀っていうのかな、すごく素晴らしいものだった」
「ああ、カタナ?サムライモールがもっているやつだよね」
「そうそう。いやあ、あれは本当に感心したよ」
「へえー、どんなところが?」
「ええとね……」
ラグナスは、いかに日本刀が実用的で、優れている武器かどうかをアルルに説明しだす。
つい熱が入った説明に時間を忘れて話し込んでしまい、アルルが困った笑顔を浮かべているのに気がついたのは
夕日の柔らかい光が窓に差し込んで来た頃だった。
「あはは、男の人って、やっぱり武器にロマン感じるんだね〜」
「ああ、ごめんごめん!僕ばっかりがしゃべり続けてしまったね……」
「いいよ。ほら、残った桜餅二つに分けておいたから」
アルルがいつの間にか二つのパックに入れなおしておいてくれた桜餅をみて、
そんなことにも気が付いていなかった自分がいかに一方的にしゃべっていたのかを知り、顔が熱くなる。
「本当にごめんね!またお詫びに何か持ってくるから!」
マントをつけて飛び出していくラグナスに、アルルが後を追う。
「あ、ちょと、ちょっと待ってよラグナス〜!!」
「見送りはいいよ。こんな時間まで居座っちゃって、すまなかったね」
「そじゃなくて、さ」
後ろでアルルが何か言っているのも聞かず、飛び出すラグナス。
そして、すぐに気が付く。

桜餅忘れた……!

後ろで何か言っていたのは、桜餅わすれてるよってことだ!
さらにあわてて引き返すラグナス。
ラグナスの勢いに追いつけなかったアルルが家に入っていく後姿を見つける。
「柔肌の熱き血潮に触れもみで 悲しからずや道を説く君、……かあ」
家に入っていくアルルがつぶやいた言葉。
ラグナスは、意味こそわからずとも何か重要な意味が隠されているような気がした。
ほんの一瞬だったが――意味を考えたその数秒、足を止めた間にアルルは家の中に入って、ドアを閉める。
追いかけるのも、アルルに意味を問うのも間違っている気がして、間が悪くラグナスは結局家の道のりへと戻っていく。
自分に言われた気がした。
たしか、短歌とかいったか。5・7・5・7・7のリズムで作る言葉遊びのようなものだって、アルルが話していた。
やわらかいはだの血潮に……触れもみで?触れないで?だろうか?
触っても見て?触れ揉み手?これは違うような……?
悲しからずっていうのは悲しいのか。悲しくないのか。道を説く、というのもどうにもよくわからない。
「うーん???」
首をかしげながら、家への道のりを歩いて行く。本屋にでも行って意味を調べてみようか。
街に入ると、食料の買い出しにでも来たのであろうか、シェゾがいくつもの袋を提げて歩いて来るのが見えた。
「やあ、ヘンタイ」
「誰がヘンタイだ!!お前まで言うかそれを!!」
「成敗しないだけありがたいと思え」
「く……街中じゃなければぶっ殺すところだ」
会うなり険悪な挨拶を交わしあうと、そういえばシェゾもあちこち旅しているから色んな知識を持っているんじゃないかと思う。
本屋で調べるよりも手っ取り早いかもしれないと、気になっていた短歌の意味を聞いてみることにした。
「なあシェゾ、短歌って知ってるか?」
「ああん??短歌って、今流行りの東の国のやつか?」
「それ」
「向こうの国も行ったことはあるからその国の古文くらいは多少読んだ。
 そっちのほうで手に入れた魔道書の解読するのに必要だったからな。
 だから少しくらいなら知ってるが、それがどうした?」
「柔肌の熱き血潮に触れもみで 悲しからずや道を説く君 って、どういう意味だかわかるか?」
「ぶっ!!」
シェゾが、真っ赤な顔をして噴き出し、にやにやとラグナスを見ながらいう。
「おまえ……だ・れ・に・そんなこと言われたんだ??」
「な、なんだよ!別に僕が言われたわけじゃなくて、道端できいて妙に頭に残っただけで……」
嘘は良くないけれど、まあ、別に嘘でもない。
とっさにごまかしたラグナスに、とたんに興味をなくした顔をするシェゾ。
「あ、なーんだ。つまんねーの。簡単にいえば”真面目な話より私を押し倒しなさいよ”だな」
「ぶっ!!」
今度はラグナスが噴き出した。お、押し倒せ?!そんな意味だったのか?!
「まあ、詳細な意味は面倒だから省くが、意訳するとそんな感じだ」
「そ、そ、そうか……」
「お前に気がある女に、説教かくそまじめな蘊蓄でもたれて言われたのかと思っちまったじゃないか」
「うっ……は、ははは……」
おそらくはその通りなのであろうことを指摘され、ぎくりとしたラグナスには気がつかず、シェゾは欠伸をしながら背伸びする。
「じゃーな、話はないなら俺はもういくぞ?」
「あ、ああ……」
立ち去っていくシェゾの背中をみながら、今しがた言われた言葉が、ラグナスの頭の中をぐるぐる回っていた。

押し倒しなさいよ。
押し倒しなさいよ。
押し倒しなさいよ。

家に帰り着くまで木にぶつかりそうになること3回、ぶつかったのが2回。
予想外も予想外な展開に、ラグナスは自宅のベットの上で悶々と考えを巡らせていた。
そうか、アルルは実は僕のことを……
そうだよな、僕は何の考えもなしにアルルの家に遊びに行ってしまったけど、
普通は女の子の一人暮らしにどうでもいい男なら招き入れるなんていくらさっぱりとしてるアルルでもしないよな。
それを僕は熱心に日本刀の美しさについてとっぷりと語り、延々と女の子相手に武器のうんちくをたれて……
それでは甘いムードどころか冷められてもおかしくない。
悲しからずや道を説く君っていうのは、目の前の熱い思いを抱えた肌にも触れず、
つまりは手も出さずなんか話してるだけで悲しいよってような意味だったのか。
あれ、もしかしなくとも僕は期待させたアルルのことをがっかりさせてしまったのか!?
「な、なんてことだー!!」
いや、僕はまがりなりにも勇者、女の子の家におしかけて襲うなんてことは許されるのか?!
だがしかし、アルルはきっと僕を待ってる、僕のほうから行動してくれるのを待ってるんじゃないのか?
「ああああ……勇者的にどう行動するべきなんだ……」
まず、アルルは僕に好意をもってくれてるんだよな?
で、僕は……
初めて会ったときから、運命のようなものを感じていた。
幾銭の旅や出会いと別れを重ねて来て、そしてアルルに初めて出会った時――何度もあったことがあるようななつかしさと、
ああそうだ。胸の底から甘酸っぱい気持ちになったんだった――
そして何度も会うたびにその気持ちは安心感へ、一体感へと変わっていった。
一緒にいて自然で、当たり前のようにある安らぎ。気がつかなかっただけで、僕も……好きだ。
アルル。君が好きだ。
柔肌の熱き血潮に触れもみで 悲しからずや道を説く君。
そうだ、僕は今まで、模範的な勇者であることを心がけていた。
それでアルルに対しても、平和な空気であることを、いつも通りの穏やかな日常を過ごそうと
つい無意識に自分の気持ちを封じ込めて接していたのかもしれない。
アルルに、女性としての気持ちを傷つけるまでに。
「僕はなんてバカだったんだ……アルル、君をもうこれ以上傷つけはしない!」
勇者である以前に男として、大切な女性にあそこまで言わせてしまった以上
僕は何としてもアルルにその、そのですね。

アルルを押し倒す。

ついついちょっぴり想像したところで頭の中がショートしたようにぼんとはじける。
ちょちょちょまて、僕は別にアルルにエロいことがしたいからとかじゃなくて、いや男だししたいけど
て、そうじゃない!男性として女性に恥をかかせるようなことはしちゃいけないっていうか傷つけた以上責任を――
キスってどんな感じだろう。”熱き柔肌”って、どんな――
今まで色恋からは意図的に遠ざかっていたラグナスも男の子。自分が踏み出そうとする冒険に、目の前がくらくらする。
ぼ、僕がアルルと……いや、僕がアルルに……
逃げちゃだめだ勇者ラグナス、がんばれ僕、男として立ち上がれマイ光の剣!!
一人頭の中が暴走していくラグナスを尻目に、夜はこうして更けていくのであった。


「あ、ラグナス。この前お餅追いてっちゃったよね?もしかして取りに来てくれたのかな。
 ごめん、賞味期限が心配で全部カー君と食べちゃったんだ……あ、お茶ぐらい飲んでいって?」
笑っているアルル。きっと君を傷つけたのに、僕を笑って迎え入れてくれるなんて――
僕だって一線を越えるのは怖い。だけど男なら、黙って踏み越えなきゃいけない一歩がある!!
部屋に入ってドアを閉めると、アルルを力強くだきしめる。
「えええええ、ら、ラグナス?!」
「アルル……」
「え、あ、な、何??」
男になれ、勇者ラグナス!負けるなラグナス!!
「好きだーーーーーーーーーーーーー!!」
「んぐっ」
はじめてのキスはレモンの味というが、緊張しすぎて味はわからなかった。
逃げようとする頭を抱え込んで、めちゃくちゃに口の中をなめまわす。
「ぷはっ……はあはあはあ」
唇を離すと、同時に口から息を吸い込む音が漏れた。
「ら、ラグナスぅ……?」
わけがわからなく、ただキスされてしまったという事実がアルルの顔をゆでダコのように真っ赤にさせていた。
だがそれ以上に真っ赤なのは、ラグナスの顔である。ラグナスの足は、期待と緊張と不安で、震えてさえいた。
「ごめん、乱暴で。でも、僕も初めてで、と、とにかく一生懸命なんだ!」
簡単にいえば、押し倒せ――シェゾの言葉が、頭の中でリフレインする。行動あるのみ。
「きゃっ?!」
アルルを抱えると、ダッシュでベットにもつれ込み、押し倒す。
もう悲しからずや道を説く君なんて言わせない!!勇者ラグナス、参上!
「ど、どうしたのラグナスー!?ち、ちょっ」
とっさに上半身だけ起こしたアルルが、目を白黒させて叫ぶ。
服を脱ぎ捨てていくラグナスを顔を押えた手の指の間から見ながら、アルルは混乱最高潮に達して動けない。
ラグナスは、最後の一枚を脱ぐとアルルをもう一度押し倒す。
「きゃ、なに?!なんなの〜?!」
「もう君を悲しませない!!」
「はああああ?!」
興奮し己の光の剣を屹立させたラグナスが、アルルの胸をわしづかみにもみくだく。
「あ、や、ら、ラグナス?!ちょ、ちょま」
「アルル、好きだ!大好きだ!」
柔らかい感触が、ますますラグナスの頭に血を上らせる。
「やっ、ラグナス、どうしちゃったの?!あうっ」
アルルの体温と、恥ずかしさに上気した肌が、ラグナスの理性をぼろぼろと崩れさせていく。
触れる体は剥きたての卵のようになめらかで、やわらかな肉感は思った以上に生々しく、雄の本能を刺激した。
自分の息がうるさいほどに荒々しい。心臓が早鐘を打つようにどくどくと鼓動を鳴らしている。
「ラグ……ナスぅ……」
アルルが眼尻に涙をいっぱいに貯めた目で、ラグナスを見つめていた。突然すぎる行動に頭がついていけず、
ただ自分の身に起きている荒事に、真っ赤な顔をしながらわけもわからず切なげな表情で髪を振り乱す。
「ああっ、やだあ、ああああん」
両手の指先が、直にアルルの服をめくりあげ、小ぶりな胸にふれる。
「だめ、だめぇ、おかしいよ、一体どうしちゃったの、ラグナスぅ……」
なめらかな肌に指が触れるたびに、アルルが快感か羞恥のためかわからないが、身悶え体を震わせる。
ラグナスの指を止めようと、アルルがラグナスの両手首をつかんで体から離そうと力を入れるが、
外気に触れ、ラグナスが伝えてくる刺激から硬く隆起していくつぼみを口に含むと、小さな悲鳴のような嬌声がアルルから漏れる。
「ひんっ」
そのまま口に含んだまま転がし、吸いつき心のまま弄ぶうち、アルルの抵抗ももはや形だけのものになっていくのが
手首に伝わる力加減で、ラグナスにもよくわかった。
「んああ、あああっ、だ、だめ……」
アルルの抗議もものともせず、固くなった乳首をいじめ続ける。
「んはあ、ラグナス……いやああ、ラグナスっってばあ、やだ、やだよぅ」
「アルル……アルル」
耳にキスするたび、首筋がぴんとし、髪が揺れ、ラグナスの鼻腔が少女の甘い匂いでくすぐられる。
狂わしいほど愛おしく、肌同士がふれあう度気が違ってしまいそうな快感と興奮が、体中を駆け巡る。
「うっ、ああああああああっ」
ラグナスは片手を、アルルの下半身へ這わせていく。
さっと抜き取られた下着の中、下腹部のふくらみに指を這わすと、申し訳程度に薄く生えた恥毛に覆われたそこが、
ラグナスの指にかき分けられ、かすかに水音をたてた。
「あっ、はぁ……だめ、それ以上……や……」
ここが……アルルの……
「みちゃや、だめ、いやあ、ラグナスっ、ラグナスってば!!」
力任せに閉じようとする脚をこじ開け体を割り込ませると、なんとか手で一番恥ずかしいところを隠そうとするアルル。
そのの手首を片手つかみ上げて、指でぴったりと閉じた割れ目を開くと、とろりと蜜にまみれた桃色の女性器がラグナスの目に入る。
「見ないで、見ないでっ」
「アルル……可愛い」
舌先で蜜を掬い、粘膜同士がこすれ水音を立てるたびにアルルの腰がびくびくと跳ねるように動く。
「やあっ、ラグナス、いやああ」
なんで、とかすかに漏れたアルルの言葉は、ラグナスに届かない。
「あっ、あ……」
「ごめん、我慢できない」
「あっ」
ラグナスがアルルの入口にあてがい、腰を進めようとするのをみてアルルはギュッと目を閉じた。
入口にラグナスのものが触れ、ぐっと力をこめて侵入しようとした瞬間……

あ これ き もちよすぎ

「あ、っ……」

どくん、どくん、どくん……
興奮のあまり暴走したラグナスの光の剣から、情熱と欲望の塊がアルルに向かってあふれほとばしっていた。
「あ、あ、あああああああ」
しまったと思う間もなく、さらにラグナスを不幸が襲いかかる。
しゅるるるるる、とラグナスの体は、二重の意味で縮んでしまった。
光の剣もだらんとうなだれている。
「……………」
「……………」
気まずい雰囲気が、空間を支配する。
「……………ダダダダダダダダダダダダダダイヤキュートぉ……」
「うあああああああああご、ごめんなっさあああああああああああ」
「ファイヤー!!」
どごおおおん。
目を怒りの炎に染め呪文を放ったアルルを見て、ラグナスは己がいろんな意味で失敗を犯した、と悟るのであった。

「で、なんでこんなことしたの?」
まだ裸のまま部屋の隅っこで土下座をしている勇者ラグナス(小)に、アルルは腕組みしながら見下ろし、聞いた。
「実はこの前遊びに来た帰り別れてすぐに、餅を忘れていったって気がついて元の道を戻ってアルルを追いかけたんだ」
「ふんふん、それでぇ?」
「それで、追いついたときにちょうどアルル、君が家に入っていくところで、その時に君の独り言を耳にしてしまって」
「独り言??」
「悲しからずや道を説く君って……その時は意味はわからなくて、たまたま次の日に会ったシェゾに聞いてみたんだ。
 そしたら”さっさと押し倒してよ”って意味だって言われて、それで」
「た、確かに歌の意味はそんなかんじだけど、ボ、ボクはそんなつもりでいってたんじゃないよお」
「うん。どうやら、そうだったみたいだね……」
ずーんと、後悔の念がラグナスの肩にのしかかる。
「もうちょっと女の子相手なんだから話題を選んでくれればいいのになとか、
 ボクって本当に女の子として見られてないんだなーとか、そんな気分で言っただけなんだよ」
「少し飛躍しすぎたよ。本当にごめん」
頭を下げ続けるラグナスの足元に、アルルがしゃがみ込んで声をかけた。
「ね、そのさ、ボクがラグナスに押し倒してほしいって思ってるって勘違いしたから押し倒したの?」
「へ?」
顔をあげてラグナスは、アルルを見る。
ラグナスの目の前にしゃがみ込んだアルルがちょぴっと悲しそうな顔で見つめていた。
「そう思ったからこんなことを実行してしまったのは確かだけど、で、でも、僕がアルルのこと好きなのは本当だよ!
 好きじゃない女性だったらたとえ誘われても抱きたいなんて思わないよ」
「本当?」
「こんな時にいえる台詞じゃないかもしれないけど、僕は好きだ……アルルのことが、女の子として好きだ」
「なら……」
もう一度立ち上がって、アルルは笑って言った。
「こんどはあんみつ。一緒に二人で食べにつれてってくれれば許してあげる。もちろんおごりでね?」
「あ……」
その言葉に精一杯の大きな声で、ラグナスはアルルにもう一度頭を下げて、言った。
「ありがとう!!」
「今度は、もうちょっと落ち着いて行動してよね」
腕を組んで赤く染めた頬をしながら呟いた言葉が、ざくりとラグナスに突き刺さる。
「ううう。本当にすみませんでした」
自分がやったことが、今更ながらに恐ろしすぎる。
しかし、今度は、落ち着いて行動してほしいって……。
”落ち着いて行動”すれば、受け入れてもらえたりするのだろうか。
そういえば好きだって告白の返事も聞けていない。

ちら、とアルルの顔を盗み見る。
桜色のほっぺが、少しぷっと膨れていた。
ラグナスと目が合うとさっきまでのことが恥ずかしくて、怒った顔でそっぽを向いてしまう。
誰が見ても照れ隠し以外の何物でもない表情に、ラグナスはついついかわいい、と思ってしまう。
やっぱり、君はやわらかくてほんのり甘い桜餅のようだ。
僕たちの関係も、いつか春が来ますように。



追伸
とりあえず、次の日シェゾを探し出して殴りました。


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