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■鬼は外

2月も半ばになった頃。

冷たい夜の風が目に染みる。
満天の星空が美しい夜空がサタン城の上を覆っていた。
「アルル、チョコレートくれなかったな……」
カー君人形を愛でながら、サタンは涙ぐみベランダから一人さびしく夜空を見上げていた。
「いいんだ……どうせ私は孤独な魔王……ぐすっ……」
悲しみがサタンの背中に哀愁を漂わせていた。
せめて義理チョコでもいいから欲しかったなあ。もしや男性としてどころか友達としても見てくれていなかったのだろうか。
「鬼はー外!」
悲しみに暮れるサタンの顔に、外から飛び込んできたアルルが豆をぶつける。
打ちひしがれていたサタンは、目の前に突如現れたアルルの行動にそれこそ豆鉄砲を食らったような顔で立ち尽くす。
アルルはまるでサンタのような大きな袋を肩に担いでいた。中身は大量の豆のようだった。
袋を下に下ろすと手を突っ込んでは豆をサタンに投げつける。
「そーれ、鬼はーそとー!福はーうちー!!」
鬼とは私のことか。当たらずとも遠からずだが。角あるし。
しかし、節分はもうとっくに……
「なんだアルル、節分はもう終わったぞ」
チョコレートだったら遅れても喜んで受け取るのに。なぜ今になって節分。
「もう、ノリ悪いなー。10万粒も集めるのにすっごい苦労したんだからね!」
ぷんぷんとアルルは腰に手を当ててほおを膨らます。
10万粒…大量だな。それだけ大きな袋なら、入るのだろうか……
「10万粒…10万粒?」
「あは、やっと気がついてくれたみたいだね。10万と25粒!責任もって食べてね!」
「もしやこれだけの量を、私のために?」
「そうだよ。お金足りなくて値下げになるまで待つことになっちゃったし
 在庫かき集めるだけでも時間かかっちゃったしね。
 ごめんね、ほんとは当日にやりたかったんだけど……あげる」
照れたようにそっぽを向きながら、でも嬉しそうにアルルはずいっと10万粒の豆入り袋をサタンに押し出す。
受け取ると、あまりの重たさに手を離してしまいそうになり、慌てて両手で袋の口を持つ。
これを運んできたのか。この小柄な少女が。
袋とアルルを交互に見る。あのちいさな手で、私のために、こんなに大量の豆をっ……。
「あるうううううううううううううううううううううう!!」
サタンは感激にむせび泣きながらアルルに抱きつき、すりすりほお擦りする。
「私はっ、私はっ、なんて幸せ物なんだっ、一生幸せにするぞアルル!!」
「ぎゃ、やめてよ、鼻水つくっ!!はなれろこのロリコーン!!」
チョコレートなどいらない。もっと大きな大切なものを受け取った(気がする)サタンは、
律儀に豆を完食しようと食べつづけ、おなかを痛くしてしまいましたとさ。
それでも気合で食べきり、袋の底にチョコレートが入っていることに気が付くには
あと一週間の時間がかかるのでした。


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