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■欲望

宝石に惹かれたと、嘘をつく。
本当はお前の肌触り、愛くるしい瞳、長い耳、かわいらしい尻尾、
大食いで悪食なところも含めて全てを愛している――

しかしお前は、こちらの意などまったく解さないのだな。
まったくあっちへいきこっちへいき、ぷよを見つけては食べ気に入らなければビームを放つ。
まあ、その気ままなところも愛しいのだが。
まるで凶暴な猫を買っている気分だ、とサタンは目の前の黄色い生き物を撫でる。
その黄色い生き物――カーバンクルは、鼻ちょうちんを膨らませながら
サタンのひざの上ですやすや寝入っている。

どうすれば、カーバンクルに私の想いが伝わるのだろうか。
大好きなものになる……とはいえカレーになれといわれても、さすがの私でもそれは無理だ。
カーバンクルに喰われるのは本望だが。
目に入れても痛くないというが、今の私はカーバンクルに喰われても痛くない。
カーバンクルに食べられる……この舌で、私を。
サタンはカーバンクルの口の中に指をそっと含ませる。
カーバンクルは、口に入ってきた異物を本能で舌先でなぞる。
食べ物かどうか確認し、違うと認識するとやさしく舌で押し返した。
「……」
その舌先のざらつきと、指についた唾液が、どうも自分にはなまめかしくおもわれて――
アルルや、女の子に戯れてカーバンクルが顔をなめている姿を思い起こされた。
あんなふうに。自分もカーバンクルに……
「――何を考えているのだ、私は」
目の前の生き物に、性的な欲求を起こしてしまうなんて。
私は違う。そんな風にカーバンクルを愛したいんじゃない。断じて違う。
――違う。
私はただ、カーバンクルのぬくもりを常に抱いていたい、それだけなのに。
サタンは、悲しそうに目を細めると、深いため息をついた。
「お前がかわいらしすぎるのがいけないのだ。なあカー君」
誰に聞かせるでもなく、発した独り言。
それはだれが聞いてもいい訳じみていて、サタンの心をよりいっそう深く沈ませた。

蝉の声が聞こえる。
私がこんなことを思ってしまうのも、この暑い夏のせいだ。
今度は何をしよう。早く、こんな気持ちから抜け出して退屈を壊さねば。
でないとまた、お前を閉じ込めてしまいそうだから。


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