宝石に惹かれたと、嘘をつく。 本当はお前の肌触り、愛くるしい瞳、長い耳、かわいらしい尻尾、 大食いで悪食なところも含めて全てを愛している――
しかしお前は、こちらの意などまったく解さないのだな。 まったくあっちへいきこっちへいき、ぷよを見つけては食べ気に入らなければビームを放つ。 まあ、その気ままなところも愛しいのだが。 まるで凶暴な猫を買っている気分だ、とサタンは目の前の黄色い生き物を撫でる。 その黄色い生き物――カーバンクルは、鼻ちょうちんを膨らませながら サタンのひざの上ですやすや寝入っている。
どうすれば、カーバンクルに私の想いが伝わるのだろうか。 大好きなものになる……とはいえカレーになれといわれても、さすがの私でもそれは無理だ。 カーバンクルに喰われるのは本望だが。 目に入れても痛くないというが、今の私はカーバンクルに喰われても痛くない。 カーバンクルに食べられる……この舌で、私を。 サタンはカーバンクルの口の中に指をそっと含ませる。 カーバンクルは、口に入ってきた異物を本能で舌先でなぞる。 食べ物かどうか確認し、違うと認識するとやさしく舌で押し返した。 「……」 その舌先のざらつきと、指についた唾液が、どうも自分にはなまめかしくおもわれて―― アルルや、女の子に戯れてカーバンクルが顔をなめている姿を思い起こされた。 あんなふうに。自分もカーバンクルに……
「――何を考えているのだ、私は」 目の前の生き物に、性的な欲求を起こしてしまうなんて。 私は違う。そんな風にカーバンクルを愛したいんじゃない。断じて違う。 ――違う。 私はただ、カーバンクルのぬくもりを常に抱いていたい、それだけなのに。 サタンは、悲しそうに目を細めると、深いため息をついた。 「お前がかわいらしすぎるのがいけないのだ。なあカー君」 誰に聞かせるでもなく、発した独り言。 それはだれが聞いてもいい訳じみていて、サタンの心をよりいっそう深く沈ませた。
蝉の声が聞こえる。 私がこんなことを思ってしまうのも、この暑い夏のせいだ。 今度は何をしよう。早く、こんな気持ちから抜け出して退屈を壊さねば。 でないとまた、お前を閉じ込めてしまいそうだから。 |
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