宝石に惹かれたと、嘘をつく。 本当はお前の肌触り、愛くるしい瞳、長い耳、かわいらしい尻尾、 大食いで悪食なところも含めて全てを愛している――
しかしお前は、こちらの意などまったく解さないのだな。
まったくあっちへいきこっちへいき、ぷよを見つけては食べ気に入らなければビームを放つ。 まあ、その気ままなところも愛しいのだが。
まるで凶暴な猫を買っている気分だ、とサタンは目の前の黄色い生き物を撫でる。 今は夏。暑いけれども手に触れるぬくもりだけは、この熱さを溶かすように和ませる。
その黄色い生き物――カーバンクルは、椅子に座るサタンの膝の上で 鼻ちょうちんを膨らませながら口をあけ、
かーくーと寝息をたててすやすやと寝入っていた。
安らかなその寝顔が、サタンの口元をほころばせる。 かわいらしくてかわいらしくて、何度もカーバンクルの背中を撫でた。 どうすれば、カーバンクルに私の想いが伝わるのだろうか。
大好きなものになる……とはいえカレーになれといわれても、さすがの私でもそれは無理だ。 カーバンクルに喰われるのは本望だが。
目に入れても痛くないというが、今の私はカーバンクルに喰われても痛くない。 カーバンクルに食べられる……この舌で、私を。
自らの指をカーバンクルの口の中に指をそっと含ませる。
「ぷぴ……むにゃむにゃ」 カーバンクルは、眠りながらも口に入ってきた異物を本能で舌先でなぞる。
食べ物かどうか確認し、違うと認識するとやさしく舌で押し返した。 「……」
その舌先のざらつきと、指についた唾液が、どうも自分にはなまめかしくおもわれて――
アルルや、女の子に戯れてカーバンクルが顔をなめている姿を思い起こされた。 あんなふうに。自分もカーバンクルに……
「――何を考えているのだ、私は」 目の前の生き物に、性的な欲求を起こしてしまうなんて。
私は違う。そんな風にカーバンクルを愛したいんじゃない。断じて違う。 切なさに目を細めると、深いため息をつく。 ――違う。
「ぐぅぅ〜……むにむに……ぐうぅ……?」 ぱちん。 鼻ちょうちんがぱちっとわれ、その破裂音にカーバンクルがうっすらと目をあけた。 ちいさな手で目をこすりながら、膝の上でもぞもぞと起き上がる。 「おお、カー君。お目覚めか」 「ぐう」 まだ眠そうにあくびをするカーバンクルを抱き上げると、肩に乗せた。 「おやつにしようか、カー君」 「ぐ……ぐっぐう!」 おやつ、という言葉にカーバンクルは寝ぼけ眼をぱちりと見開かせる。 一瞬でもわいた邪な心が、カーバンクルに伝わらないようごまかすように前を見て歩く。 気の迷いだと言い聞かせても目を見ることがためらわれた。 食堂に入ると、キキーモラにありったけの甘いものを用意するように言いつける。 厨房からなんともいえない甘い香りが漂ってきていて、これはどうしたのかとたずねてみると、 「今日は新鮮な牛乳が大量に手に入ったんです。 美味しい牛乳に合うドーナツやケーキを作ったところですので、お待ちくださいね」 と嬉しい報告が耳に入ってくるのであった。 「ぐぅ〜!」 カーバンクルが嬉しそうに肩の上で跳ねる。 「はは、よかったなカー君」 椅子に座ると、どーんと選り取り緑のスィーツがピッチャーに入った牛乳とともに運ばれてくる。 「!!!!!」 キラーンと目を光らせたカーバンクルがものすごい勢いで舌を伸ばし、 出来上がったばかりの甘いものを口に運んでいく。 「こらこら、そんな勢いで食べていたら喉に詰まらせるぞ」 サタンは小さい子の食事の手伝いをするかのように、時折カーバンクルの口に牛乳を含ませてやりながら 自分もドーナツに手を伸ばす。 「ぐぅ」 「こ、こらこらカー君、それは私の分だ……あー……」 カーバンクルが、サタンの手に舌を伸ばし、ぺろりとドーナツを食べてしまう。 「はははこやつめ」 「ぐぅ」 「ほら、口にあふれた生クリームがついて――」 ぺろり。 カーバンクルの口元の生クリームを指ですくうと、カーバンクルは生クリームを舌でなめる。 そのざらっとした感覚に、思わず背筋に駆け上るものがくる。 しばしぼうっと今こみ上げた感覚はなんだったのか、信じられないという思いで サタンは自分の指を見、眉根を寄せる。 「ぐ……ぐぅ?」 カーバンクルが、サタンの顔を覗き込んで心配するように見つめていた。 ちなみに、山盛りにつんであったにもかかわらずおやつの皿はもう空っぽである。 「あ、あ、カー君」 「ぐうぐう!」 「食べてしまったのか。私はまだ一口も食べていないのだが、仕方ないな」 苦笑いして先ほどまでの気分を振り払うかのように首をふると、カーバンクルに牛乳をコップについでやる。 満腹になったカーバンクルは一回りお腹を大きく膨らませ、 口元や体をクリームやスポンジカスだらけにしながらもとても満足そうな笑顔で牛乳を飲み干していた。 「よしよし、体を洗うついでに水風呂で遊ぼうか」 「ぐー……」 しかし、牛乳も気に入ったのか牛乳のコップを手放さないカーバンクルに、サタンは一つの提案をした。 「そんなにその牛乳が気に入ったのなら、牛乳風呂に入ってみるか?」 「ぐっ?!」 「うむ。ぬるーいお風呂に一リットルくらいの牛乳をまぜて入るのだ。お肌つるつるいい匂いだ!」 「ぐうぐう!」
そして……なぜか純度100パーセントの牛乳風呂が出来上がった。 「ぐっぐうー!!」 サタンが服を脱ぎ捨ててタオルを腰に巻いている隙をみて、 カーバンクルが浴槽に走りより牛乳風呂に飛び込もうとする。 「こら、カー君!かけ湯……かけ牛乳?してから入りなさい。あと危ないから走らない」 カーバンクルを抱えると牛乳をカーバンクルの頭からかけ、牛乳石鹸をあわ立て洗ってやる。 「ぐっぐ〜、ぐっぐ〜」 いつもは世話焼きに嫌がることの多いカーバンクルも、 今日は牛乳のいい匂いにおとなしくされるがままにされている。 「カーバンクル!カーバンクル!カーバンクル!!カーバンクルぅぅ うううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!! カーバンカーバンカーバンクルぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー! いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ! カーバンクルたんの黄色の頭をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!」 恍惚の表情で、洗いきれいになったカーバンクルを抱きしめた。 牛乳ですべすべになったカーバンクルからは、なんともいえないいい匂いが立ち込めている。 自分も牛乳をかける。風呂中に牛乳の甘い匂いが立ち込めていて、思わず鼻が動く。 カーバンクルにももう一度牛乳をかけてやり、顔の辺りをぬぐってやる。 「ぐう!」 さっぱりしっとりすべすべのカーバンクルの出来上がりだ。 「食べちゃいたいくらいかわいいぞ、カーバンクル」 愛しさにどうにかなってしまいそうな気持ちを抑えながら、カーバンクルを抱き上げる。 冗談だ、と言い聞かせながらカーバンクルのほおを軽くなめると、濃厚なミルクの味がした。 「ふふ、甘い味がするぞカー君」 「ぐー!」 くすぐったそうにカーバンクルが身をよじると、おかえしだ、といわんばかりになめ返してきた。 「こ、こらこらカー君!や、やめなさいっ」 その舌は反則なのだ。今の私には―― それ以上されては、私の理性が音を立てて崩れてしまいそうで。 「ぐ……ぐう!」 サタンの体も牛乳がかかっているので、カーバンクルはかすかに牛乳の味がして美味しいのと、 ここまで動揺するサタンを面白いと思ったのか執拗にサタンをなめまわしはじめた。 「や……やめ……カー君、悪かった、頼むから」 カーバンクルの体をつかんでやめさせようとするが、どこまでも長く伸びる舌は捕まえられず いたずらにサタンの体をべろべろとなめまわしてくる。 「ひうっ」 舌先がサタンの胸をなめると、思わず声が出てしまった。 わ、私がっ……カー君の舌でそんな、い、いかんっ!! くすぐったいだけだ、ただのいつものお遊びだ!これはお遊び! 「ははっ、はあっ……そろそろ怒るぞ!カーく……うあっ、うあーやめ、やーめーてー」 魔王の威厳もへったくれもなく、サタンはカーバンクルの舌に声をあげ、逃げ惑い耐える。 カーバンクルを性的な目で見ているわけじゃない、これはただの生理的な―― しかしむくむくと、自分の股間が大きくなってしまっているのだけは認めざるをえない。 カーバンクルが性的なことについてわかるわけはないが、それでもこれはいけないことだと。 大きくなってしまったものを気づかれたくないと、必死で股間を隠す。 「ひっ……ひう……」 泣きそうになっていろいろ我慢し困惑しているのに、追い詰めるようにカーバンクルが舌でなめまわす。 「ぐっ!ぐぅ〜」 サタンが右手で隠しているところ、そこが弱点なんだなとカーバンクルはなんとなく気が付いていた。 舌でなめる所を左手で追い払おうとする。なら、次の弱そうなところをしつこく責めてやれば、 両手を使わざるをえない……獣の本能といおうか、なんと言おうか。 カーバンクルは無邪気に残酷に、サタンのとがった両乳首をべろべろなめまわす。 「ちょっ、カーく、それはまずい、いくらなんで」 嬌声をあげてしまいついに両手を使ってカーバンクルをとめようとする。が。 「う……うあっ、やめ、あ、あ〜!!」 舌が、サタンのタオルの中へ――そして、魔王のシンボルをぺろりとなめた。 「あっー………………あ……ああ………………」 びくりと大きく根元が動き、一度跳ねるように大きく痙攣する。 そして……びゅくびゅくと、牛乳よりも濃いミルクがサタンの股間から放出されていった。
「カー君……もう二度と、あーゆうことはやっちゃいけないよ」 「ぐう?」 牛乳風呂の中で、タオルを頭に載せながらカーバンクルに諭すようにお説教する。 けれど言葉に覇気が出ない。 ――やってしまった。 最低だ……カー君をつかって、こんな…… 自己嫌悪に顔だけ出して風呂に沈む。 冷めた牛乳の甘い匂いと滑らかな感触。 「夏のせいだ。きっとそうだ」 「ぐー」 顔の上に乗っかるカーバンクル。 「それとお前がかわいらしすぎるからいけないんだぞ、カー君」 「ぐ?」 カーバンクルを顔の上に載せたまま、顔も牛乳の中に沈ませる。 水面を見上げてみたけれども、牛乳の濃さに浮かぶカーバンクルの姿を見ることは出来ない。 泣きそうなほど切ない胸のうちを抱えながら、目を閉じてここちよい冷たさに身をゆだねる。 はやくこんな季節過ぎてしまえばよいのに。 ここは城の中で、お風呂で、外の声など聞こえるはずないのに。 蝉の声が聞こえるような気がした。 |
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