なんで俺はこいつと、シャンパンなんか空けてるんだっけ?
アルコールが程よく回った頭で、ぼんやりとそんなことをシェゾは考えた。
机の上のボトルはすでに二本目で、食い散らかされたケーキがあって――
ああそうだ、アルルの奴が「今日くらい楽しくやろうよ」って食べ物持って押しかけてきて
それで勝手に棚のグラスを持ってきてメリークリスマスって……
「ほら、まだ残ってるよ」
テーブルをはさんで座るアルルが、半分ほど開いたシェゾのグラスにシャンパンを注ごうと
ソファーにもたれかかりながら酒を飲むシェゾに、注ぎ口を向けた。
「酔っ払いめ……」
呆れ顔でグラスをもった手をアルルのほうへ伸ばすが、微妙に届かない。
酔っ払いとアルルに軽口を叩く自分も、かなり酔っ払ってきている自覚がある。椅子にまともに座るのも、少ししんどくなってきていた。
舌打ちして床のラグに座りなおす。
「くだらねぇ……ほんとに」
なんでこの時期って、誰もが浮かれて――本当にくだらない、とシェゾはシャンパンをあおる。
そんなシェゾをみて、アルルは口を尖らせながらシェゾにシャンパンを注ぐ。
「シェゾ、空気読めって色んな人に言われない?友達いないの?」
「うるせー、俺はこういう浮かれた行事みたいなのが心底嫌いだし苦手なんだよ」
「えー。せっかく人が一人寂しいシェゾ君を哀れだと思って遊びに来てあげたのにー。
そんなんだから変態って言われるんだよ」
「それと変態にどんな関係があるんだよ!!」
どん、と拳をテーブルに叩きつける。
「大体、お前だって一人だからこんなところに来て――」
「違うもん!」
ぷーと、酒で赤くなった頬を膨らませてアルルもシャンパンを飲み干す。
「ボク、サタンにパーティーに誘われたもん……」
手酌でアルルがシャンパンを飲み干していく。
量が減っていくにつれて、アルルの手元もおぼつかなくなっていて、見ていて危なっかしいが
自分も手伝うと返ってひどいことになりそうで――というかもうどうでもよくなってきていて――
「じゃーなんでこんなところにいるんだよ、仲良くヤってくりゃいいじゃないかよ」
なんて、まさに火に油を注ぐような余計なことを、言ってしまう。
「なんか今『やってくる』の発音がおかしかったー」
そしてやっぱり変態、と最後に付け足して、アルルが床に倒れこむ。
「シェゾがさっさとボクに――――だけの話なのにな」
「ああ?」
回らない口でうつ伏せになって言うものだから、良く聞き取れずにシェゾはアルルの方へ寄ると、
「あんだって?」
としゃがみこんだままアルルに耳を寄せた。
「馬鹿だっていってるのー」
寝返りを打つと、アルルの目の前にシェゾの顔がくる。
「シェゾ、顔だけはいい男なんだから早く馬鹿を直してよ」
アルルの指が、シェゾの首に触れる。
「もう一回体吹っ飛ばしたら馬鹿もなおるかなあ……?顔だけほしいなあ」
うっとりした顔で、アルルがシェゾの頬に触れる。
アルルの目がアルコールに潤んでいて、口がかすかに開き、乱れた髪がさらさらと頬からこぼれる。
ああ、酒は女を5割増でよく見せるというが本当だなあ、と思った。
「残念だが、顔だけになっても俺は俺だぞ」
「ありゃ、残念。馬鹿のままか」
「馬鹿馬鹿って、馬鹿じゃないぞ俺は。ついでに変態でもない」
「ほんとにぃー?」
目を細めて笑うアルルが、別の生き物に見える。
ああ、こいつも女だな――って、そのときは本当に実感した。
二本目のボトルももうほとんど空っぽで、これならお互い酒のせいにもできるもんなぁ、と
世の中の行事の有効性みたいなものを、少しだけシェゾは認めた。
シャンパンで濡れた小さな柔らかな唇を重ねると、暖かな体を抱き寄せた。
シェゾの二本の腕の下で、小さく「いや」とお決まりのセリフがアルルの口から漏れる。
どこにでもよくある、定型句とパターン化されたシチュエーション。
こんなものにはまってみるのも、たまにならいいものなのかな。
「へんた……いっ……」
シェゾの体の下であえぐアルルを貫きながら、ぼんやりと、思う。
クリスマスもまあ、悪くないなと。 |
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