アルル編
7-273様
顎の関節が痛い。
城の門をくぐって外へ出た時、大気に熱が充満しているのが分かった。蒸している風の匂いが鼻腔を焼く。
薙ぎ倒された草原に沿うように伸びる畦道を顎をさすりながら歩けば空は夕暮れ前の薄い金色だ。
軋んだ音を立てる両耳をつとめて気にしないよう努める。
唾液が唇の狭間から滲みた。舌先で拭う。口の中に僅かに残る異臭に、アルルの目は再び正しいピントで
世界をとらえ始めた。
サタンの動作は、祈りに似ている。絶望を千倍に引き伸ばして薄めた何かを全身にまといつかせてアルル
に触れるのだ。
押し殺して封じたなにかを分かち合う相手を求めて(それは押し付けと同義だろうかと、アルルは少し
悩んだ)ときに急いた動きをみせる。
きっかけは同情だった。呆れるほど気長にアルルの愛情を乞う魔王。
諦めたような微笑で向かい合う顔を見るたびに、それほどの価値が自分にあるのか疑わしく思っていた。
今はこちらが逆に騙された気分だ。逢瀬が重荷になる。閉塞感がある。
あんなことで、気持ちよくなんかなれない。
今日はついに、面と向かってそう告げてしまった。すると予想に反してサタンは何かを企むような表情を
見せた。
ならば調べてやろうと言い放ち、アルルの膣に不躾に指を侵入させてこねくり回してきた。内部の一点を
執拗に刺激される。膀胱の裏かなにかだったのかも知れない。しだいにアルルは尿意をおさえきれなく
なった。サタンの目の前で、意思とは裏腹に放尿してしまったのだ。彼女に非はなかった。
サタンは微笑み「お前は極めると潮を噴くのだな…」と意味不明なことを口走った。そのまま顔をアルル
の性器に押しつけて、その迸りを味わった。
気候に反して背筋が粟立つ。あ、と思う間もなく精液が流れ出して下着に沁みた。衝動的にマントを掻き
合わせ、きつく目を伏せる。
「どうしよう。変態みたいだよ…これじゃあ」
大人になりたくない。何も知らずにいたいのだ。今はまだ。