no title
7-313様
黴臭い部屋にはぎしぎしと、乾いた木がたてる耳障りな音が響いている。人間二人の体重を乗せた古い寝具があげる悲鳴だった。
それに重なる押し殺した息遣いには偶に、極小さな呻きが混じる。
窓からの月の光に照らされ、目が覚めるような豪奢な青い髪がちらちらと輝いている。
シェゾはそのひと房を指で絡めとり、流れるままにするすると滑り落ちる様を見た。
ゆっくりと撫でつける手がうなじを辿り、背骨をなぞるようにまっすぐ降りていく。
女がゆらりと身をよじり、手のひらが尾てい骨に到達すると、先を促すように自らそれを持ち上げる。
シェゾは微笑しながら片方の手で彼女の顎を捕らえる。
「どうした?いきなり素直すぎるぜ」
返事を待たないまま唐突に唇を塞ぎ、強引に舌を突き入れ、ねっとりと口内をまさぐる。
「んん…」
切なそうに呻いて女も自分の舌を絡ませる。わざとらしい唾液の音が部屋中にこだまする。
シェゾは顎にかけた手を離し、口付けながら、両手を使って尻の双球をゆっくりと持ち上げるようにして触れた。
「ん、…んん〜…」
塞いだ唇の隙間から苦しげな息が漏れてくる。
吐息が鼻声になり、流石に苦しいかと唇を話してやると、女はとろんとした目のまま、彼に言った。
「…取って、よ」
彼女は普段からは想像もつかないような弱々しい声で呟く。
「取って…これ」
「あぁ?」
「腕…」
身を捻り、腕を見せ付けるようにしながら、女は懇願する。
興奮と羞恥のため朱に染まった頬と、目を覆う真っ白な布とのコントラストは、暗い中でもはっきり解る。
「ねぇ…お願い…」
うしろでまとめられた両腕を、むずがる子供のように左右に振ってみせる。
大きな白い乳房が、それにあわせて揺れた。
「ね、…、っひゃあっ」
その赤い先端をべろり、と舐め上げられ、女は思わずのけ反った。
「煽ってんのか?」
悪魔の笑顔でシェゾは言う。
「ちが、」
最後まで言う前にべろりと思い切り唾液を含ませた舌を回す。反射的にのけ反る白い喉に、シェゾは思わず目を細める。
「ん…や…やだっ…取ってったら…、あ」
「いった後で取ってやるよ」
「そんな、」
ぱしん。
「…きゃっ!あっ、」
突然、乾いた破裂音が響き、さっきまで優しく愛撫されていた尻にぴりりと痛みが走った。
思わぬシェゾの行動に、女は困惑して身体をぶるりと震わせた。
「いや!いやあっ…、」
「黙ってろ」
ばしん。
「……!」
一層強く叩かれ、震える息を吸って押し黙ってしまう。
叩かれるたびに柔らかい肉が揺れて、じんと響く焦れるような感覚が徐々に蓄積されていく。
振動が、すぐ傍の箇所にも刺激を与え始める。
プライドが邪魔して言えなかった、本当は一番触れてほしくて堪らなかったそこに。
「………ん」
視界が遮られているうえに手足の自由もきかないため、自然と意識はそちらに向いてしまう。
なにか、熱い膿のようなどろりとしたものが下腹部に渦を巻いているようだ。
「ん…、んっ…ん…」
シェゾの舌がが汗が伝う谷間を舐めあげる。
「んっ、ぁあんっ」
噛み締めていた唇を思わず開いてあげる嬌声に、シェゾの左腕が粟立った。
汗に照った胸元から、汗とコロンが混じった体臭が漂ってくる。まるで媚薬だった。
「ん…ふぅう…っ」
乳首を強く摘まれると、汗ばんだ顎をシェゾの肩にのせて唇を噛んで悶える。
熱い吐息が、汗で冷えたシェゾの皮膚にかかる。ごりごりとかなり強めに刺激すると、女の嬌声がいよいよ切羽詰まったものになる。
「ああっ、はっ、あっ」
唇にかぶりついて押し倒してやりたい衝動をおさえ、シェゾは手をするりと両足のつけねに持って行く。
女が額を肩につけたまま小さく首を振ったが、構わず指を添えた。
じっとりと湿った割れ目をつうとなぞると、しなやかに伸びた腿が小さく揺れた。
ショーツごしに、指を多く使ってぐりぐりと入口をこねる。
「ああっ…」
上から触れているだけで、ぬめった水音が響く。シェゾはかすれた声で笑って、言った。
「…聞こえるか?これ」
「っは…あ…」
する、と指だけをわずか上方にずらすと、贅肉のない引き締まった腰が目に見えて揺れた。
移動させた先をわざと避けてぐるりと円を描くと、割れ目へ添えたままにしてあった指に新しく温い感触があった。
「…やらしい女」
「くっ…、……あぁんっ…!」
悔しげにあえぐ声を聞き、シェゾは指をわざと止めた。ああ、と女は切なそうに腰を揺らす。
「や……」
「…あ?」
「っ…」
すでに触れてはいないのに、女は身を捲ってシェゾの胸元に頬を擦り付け、苦しげにあえぐ。
「…い、…じわる…!」
唾液で鈍く照る唇がシェゾにはやけに赤く見える。よほど長く噛み締めて耐えていたらしい。
女は舌を突き出してシェゾの肌をなぞる。流れる唾液が、肌の上に道を作っていく。
「…おい」
すっと女が顔をスライドさせた。赤い舌で銀髪がはりつく首筋を這いまわり、耳たぶをかすめると、シェゾがびくりと息を震わせた。
「てめっ…!」
「…はやく」
吐息が、シェゾの耳に注ぎ込まれる。
「さわってよぉ…」
女の声は蜜をたらしたように甘ったるい。
「…こんの馬鹿女…」
なぜに馬鹿とののしるか自分でもわからないまま、シェゾは彼女の後頭部へ手を延ばす。
目を覆っていた布を取り去ると、それは汗と涙で、顔側がじっとりと湿っていた。
外気に晒された瞳が、欲情のために煌々と輝いてシェゾを見た。
たまらなくなり、無理矢理に唇を奪いながらシェゾは再び彼女の下腹部に手を伸ばす。
股間部分の布を器用にずらし、今度はダイレクトにそこに触れた。
「ひあ、」
待ち兼ねて跳ねる腰を押さえ、ぐち、という生々しい音とともに導かれるまま指を侵入させていく。
「…おい…垂れてきてるぞ」
「あ…あ…」
溜まりきっていた体液が、支えをなくして引き締まった腿に伝っている。
それを見て、女は股にシェゾの指をくわえたまま、立ち膝をがくりと崩す。
その拍子に、指がずるりと根本まで入ってしまった。
「んあぁっ!」
「はは、何してんだよ…」
興奮を体現するように、つっこんだ箇所がぶるぶると痙攣している。
わざと水音を立てるように指を抜き差しすると、白い喉をひきつらせて彼女は後方にのけぞった。なだれこむように、押し倒す姿勢になる。
「あん、痛…!」
女が息も絶え絶えに訴える。
腕を拘束しているのをすっかり忘れていたシェゾであった。
「あぁ、そうか。…わりいな」
謝りながら、その腰を軽々抱えて座り直す。
解いてくれるものと思っていた…が、下腹部に、あまりに唐突に、ずんと衝撃が走った。
「ぃっ…!?」
ルルーは思わず眉を歪め叫ぶ。
「あ、は…!!」
下腹部を強烈に圧迫する、熱い塊が一気に身体を貫く。
指とは段違いの質量に、彼女は混乱して束ねられた腕を横に振った。
「あっ、あ、はいっ、て…!」
「だから、わりい、って…」
入れた途端にぎゅうぎゅうと収縮するそこは、余裕のあったシェゾの息の温度を急激に上昇させる。
「嘘っ、はいっ、…んあっ!あぁっ」
軽く腰を揺さぶられるだけで、意識が飛びそうになる。
「ふぅっ、んん…あああ!」
シェゾは目のまえで息を乱す彼女の頭を撫でる。乱暴に揺すりながら、張り付いた髪をどけるその手つきはまるで労るように優しい。
女の心中になにか込み上げてくるものがあるが、それを考える間もなく突き上げられて、思いつくままの言葉しか言えなくなる。
「…ばかっ…バカ、い…っ」
髪をどけた手のひらが、まっすぐ頬に降りてくる。
「…いてえ?」
「ちが、…っ、い、」
「…、あぁ…?」
シェゾは彼女の言わんとすることを聞いてやるためにピッチを緩めてやる。
「い、っい、きなり、すぎ…んのよおっ…あんたはぁっ…!!」
文句。彼女らしい。聞いたシェゾは笑う。
「わりぃな」
微塵も悪いとは思っていない顔だった。
その証拠にシェゾは、言い終わるやいなやぐいと女の尻を引き寄せて、勢いよく揺らし始める。
「あぁんッ!ひぁ」
ぐちゃり、粘液の混じりあう音がふたりの身体を、息を震わせる。
「はあっ、あ、ふあっ…あぁぅ…!!」
女は額をシェゾの口元に寄せ、白く霞がかる意識で精一杯に彼に寄り掛かる。
「…ぁ、っだめえ…、もうだめっ…!」
「もう、かよっ…」
「だめ、だめっ、無理…いくの…あぁ、」
「っ…、…く、ぁ」
きつく閉じた瞼から淵から涙が流れ、シェゾは思わず頬に手をやった。
女は手にすがるように顔を傾けながら、苦しげに言葉を紡ぐ。
「…シェ、ゾっ、」
「…ん、だよ…!」
「シェゾ、…ふ、あぁ…!」
耳元で、揺さ振られて途切れ途切れの息で、女は切なく名前を呼んだ。
「…シェゾ…!」
涙の伝う顎が大きく震えた瞬間、二人の頭の中はまっしろになった。
腹にくすぶっていた熱い塊がどろどろと溶け出し、繋がった部分から白濁して流れ落ちる。
「はあっ、あっ、は、あ、…」
シェゾは余韻に浸って目を閉じた女の頭を片手に抱えて、繋がったままで後方にどさりと倒れ込んだ。
腕の布を外してやった途端、邪険に振り払われた。
白い背をぷいと向けられ、シェゾは眉間にしわを寄せて呻く。
「おい…なんだ?その態度」
「…別に」
「何だよ。何か不満あんのか」
「別にー」
「…手首外してやんなかった事か?」
「違うわ」
「あれか、いきなり入れた事か?そんなん先に謝っただろが」
「…いいわ、もう」
わけがわからない。かたくなな口調に、シェゾはあからさまな溜息をついた。
付き合いきれない。さっさと寝てしまおうと目を閉じる。
すると、拳で胸をどんと叩かれた。
目を開くと、彼女はいつのまにか身体を反転させてこちらを見ていた。
「呼んでくれなかったじゃない」
「あぁ!?!?」
「…私の名前、呼んでくれなかったじゃない?」
意外な言葉にシェゾは面食らった。素直な感想が口を突いて出る。
「…んなくだらねーことで…怒ってたのか」
「ちっとも下らなくないわ。これって問題よ」
女はずい、と顔を近づけ、その直後にこりと笑って言った。
「練習しましょ」
「は?」
「練習するの。呼んで」
「バカバカしい…」
「ルルー、って。ほら」
「…誰がするか。寝る」
寝返りを打とうとすると、ぐいと無理矢理に顎をつかまれ、二人は顔を見合わす格好になる。
じっと見つめあううち、彼女が囁いた。
「シェゾ」
その声が先程の熱を帯びた光景に重なり、シェゾは不覚にも何とも言い返せず絶句してしまう。
そんな彼に女はふと微笑む。
苦しげな様子と違い、柔らかく微笑する彼女に見つめられて顔に血が上るのを感じ、彼はひそかに自分に絶望した。
「…赤くなっちゃって」
「うるせえ!貴様もう、寝ろ!!!」
よりによって彼女の前で大失態。やけくそに抱き締めると、胸元から、ふふ、とくぐもった笑いが聞こえた。
「あんたの弱点を見つけたわ」
おしまい。