現代パロ
7-273様
駅を出たところで追っ手を見つけた。公園までおびきよせて三人殺した。
公衆便所で顔と手についた返り血を落とす。クソ忌々しいかぎりだ。思わず舌打ちが洩れた。
ざっと濡れた顔を袖で拭って外に出た。目の中に飛んだ血が染みる。
赤い視界に、スモークの夜空が滲んでぼやけた。
天球は静かに回っている。
*
「遅いじゃないの。変態」
寝ぐらと化した常宿に戻ると、頭からタオルをかぶった女がペディキュアを塗っている。
とろりと筆先から落ちるのは銀をまぶした紺色。濡れて艶めく青色の髪が光を放つ。
シェゾは鼻を鳴らして笑った。
「男には色々事情があんだよ」
「何よそれ、気に入らない言い方するわね」
「世間知らずのお嬢様には分からねぇ事情ってもんだ」
ルルーがむっとして機嫌を損ねたのが分かる。だがシェゾに女の機嫌をとる気など元からない。
「……釣った魚に餌やらない漁師みたいだわ」
やがて柳眉をしかめてルルーが毒を吐いた。シェゾは唇を歪めてコートを脱ぐ。
「あのな。世の中の男ってのは大体そんなもんだぜ。勉強になってよかったな」
「…あんたほんとムカつくわ」
生意気な唇は塞いでしまうに限る。華奢な肩を押すと、簡単に細い身体はソファの上に転がった。
「…なによ」
きつい目が、覆いかぶさったシェゾを睨んだ。そういう顔を、無防備に見せるのが悪い。
シェゾは答えずに襟ぐりの開いた胸元に顔をすり寄せる。他の女達とは比べるまでもなく豊かな方
だろう。形は悪くないし感度もまぁ良好だ。
乱暴に裾をまくりあげると、ぽろんと二つのふくらみがこぼれた。柔らかいそこに、シェゾは荒々
しくむしゃぶりついて先端に唾液を絡めた。
「あ、んんっ…」
悩ましげに眉をひそめて堪えているルルーに、嗜虐心がそそられる。
「さっきまでの威勢はどうした?」
冷めた表情のまま口元だけで笑うシェゾに、一瞬ルルーの顔にちらりと怯えがよぎる。だがすぐに
それは強気な虚勢の裏側に隠された。
「黙れって顔したのはあんたじゃない」
「っとに、可愛くねぇ口だな。こうしてやる」
「ふぁ…っ んむ…」
無理な体勢から唇を奪ってやる。背筋がぴくんとわななく。初心な身体の反応とは裏腹に、舌は
シェゾを歓迎するかのように熱く絡みついた。口内の粘膜が擦れ合い、淫らな水音が鳴る。
唇を離すたびにつたう唾液の糸を追って何度もお互いに舌を絡めてキスをする。
「ふ、はぁ、あぁ…」
ようやく唇が離されると、ルルーは脱力して口をぱくぱくと酸欠の金魚みたいに動かしている。
せっかくの美人なツラが台無しだ。やれやれ。シェゾは微笑んで鼻先を軽く噛んでやる。
ついでにルルーの身体を覆う邪魔な衣服を取り除いていった。ぴちぴちのしなやかな身体があらわに
なった。
「ん…」
目を細めたシェゾに、上段からじっくりと視姦されて、それだけでルルーの秘所がじわじわと潤って
ゆく。もじもじと腰をくねらせる動きにつれて、亀裂から蜜が溢れてソファに染みをつくった。
「もう濡れてやがる。まだガキのくせに、いけない身体だな」
「あっ…!」
「やらしい匂いがするぜ」
鼻先を襞にこすりつけるようにして匂いを嗅いだ。表情こそまだ青臭いものの、そこは濃密な雌の匂いを
漂わせていた。
「そのガキに、こんなことしてるあんたは何なのよぉっ…はぁん!」
もう殆ど理性は陥落しかかっているくせに、最後の見栄を張って挑発的な口を利く。ここまできて。
だがそれでいい。余計にその仮面を剥ぎ取る瞬間が楽しみになる。泣きながら許しを請う顔を想像するだけで
股ぐらがいきりたった。
「その余裕がどこまで続くか見ものだな」
「あ、やだちょっと、何すんのよ、やめて…!」
*
疲れきって身体を離した頃には、もう日付が変わっていた。
「あんたの首筋から、さっき血のにおいがしたわ」
それと硝煙のこげる臭い。どうして?とルルーは首を傾げて微笑む。
何もかも知っていると言わんばかりの顔で。
「昼と夜、どっちが本当のあんた?」
「さぁて…どっちだろうな」
こんな小娘を闇のなかに引き込もうとしている自分の狡さに、シェゾは今更ながらに底冷えを覚えた。
もう遅いけれど。
「帰るか? あの男のところに」
そして二度と帰ってこなくてもいい。今ならそれができるかも知れなかった。
ルルーの不安を見透かして軽口を叩くシェゾ。
尻尾を巻いておめおめと逃げ帰ってたまるものか。ルルーの負けん気に火がついた。
噛み付くように、キスをひとつ。
「―――冗談じゃないわ」