サタン・アルル・シェゾの三角関係?

7-865様

―――前半・本気サタン―――

サタンは苦悩していた。
最近、毎晩のように私の夢にアルルが出てくる。
今まで散々アルルにちょっかいを出して来たが…
一体私は一人の男としてアルルに認識されているのだろうか?
よもやただのアホカコイイ中年魔王様だと思われているのではないか?
………
このままではまずい。
そろそろ私の真の魅力をアルルに解らせる時やも知れぬ。
…しかし、この私が夢精をするとは…
………

翌日。
アルルは苦悩していた。
今日はシェゾがぼくの家に来る。
「大事な話がある」って言ってた…とても真剣な顔で。
ぼくは何故か断ることが出来なかった。
いつもと違うシェゾ。
この家でシェゾと二人きり…?
わぁぁ〜っ、ぼくは一体何を考えてるんだろう。
そして一瞬、アルルの頭を過った人物がもう一人。

その時だった。
誰かが扉をノックする音。
アルルはきっとシェゾだろうと思い、いささか緊張した面持ちでゆっくりと扉を開ける。
しかしその先に立っていたのは…
「サタン!?」
アルルは仰天した。
まさか今日に限ってサタンが訪れるとは。
「い、一体どうしたのさ!?」
午後の日差しに包まれて佇むサタンは、明らかにいつもと様子が違う。
「アルル、お前の純潔を頂戴しに来た」
ひ、ひえぇぇぇっーーー!?
「なっ何を言い出すんだよサタン!それに今日は…」
「うるさい。つべこべ言わず大人しく私のモノとなるのだ」
「ちょ、ちょっと待ってサタ…ひゃあぁっ!?」
アルルの抵抗も空しく、かっちりとキメたタキシード姿の男に軽々と抱き上げられる。
「サタンのばかばかっーーー!何するのさ、早く降ろしてよぉっーーー!」
サタンの胸を固く握った拳でドンドンと叩くものの、サタンは構わず家の中へと進入して行く。
漆黒のタキシードに真紅の蝶ネクタイが、彼を魔界の王者だということを改めて思い起こさせる。
今まで気にしたことも無かったが、結構まつ毛が長い。
鼻先のサタンの首もとからはどこか生々しい大人の香りが漂う。
今日のサタンはまるで知らない男の人のようだ。

そんなことを考えていると、ドサリと部屋のソファに押し倒される。
「わ、わぁぁ〜っ!ちょ、ちょっと待ってよサタン!突然こんなこと、ホントに一体どうしちゃったのさ!大体ぼくは…」
「アルル。私がお前に男を教えてやる」
「だ、だからちょっと待っ…」
アルルの言葉など聞いちゃいないサタンが、押し倒したアルルの上に覆い被さる。
「ひゃっ…!?」
サタンがアルルの頭上できつく手首を押さえつけると、もはやアルルにはどうすることも出来ない。
普段のサタンからは考えられないような真剣な瞳で見つめられたアルルは思わず目をぎゅっと瞑る。
「ゆくぞ…」
サタンの舌先がアルルの唇の周りを怪しく這う。
「っ…!」
アルルはビクリと小さく体を震わせ、身を固く縮める。
唇の割れ目に行きついたその舌は、僅かに開いた隙間から押し入るようにアルルの口中へと進む。
「んん〜!は、はひゃん、はめ…!」
アルルがしゃべろうともがくほど、サタンはアルルの唇の感触を感じることができた。
何とかアルルと舌を絡ませようとするサタンの唇が、アルルの唇と真空パックのように密着する。
アルルは鼻で息をすることに気付かず、酸欠状態になりながらも必死に空しい抵抗を続けた。

その頃。
シェゾは苦悩していた。
うぅーん。どれがいいか。
ショーケースに映る自分を他人のように見つめているジェゾは、自分が可憐な花屋で浮きまくっていることにも気付かない。
今日こそアルルにこの想いを伝える。
アルルにピッタリな花を添えて。
30分後。
散々悩んだ挙句、両手にサボテンを抱えたシェゾはアルルの家へと急いだ。
待ってろ、アルル。
魔道の力じゃない、俺が本当に欲しいのは、アルル、お前のカラダ、いや、お前そのものだ!
お前が…欲しいっ!

未だアルルの唇を貪るサタンは、アルルが酸欠で気を失いかけているのに気付いた。
「ぷはっ!アルル!しっかりしろ!」
目が星状態になっているアルルを抱き上げてゆさゆさと揺するが、アルルは「はれ〜」と気を失ってしまった。
「おいっ…アルル…!」
しばらくアルルの頬をぺチぺチと叩いたり耳元で名前を呼んだりしたが、どうやら目を覚ましそうにない。
困ったことになった。
まさか息をしていなかったとは。
このままアルルが目覚めるまでそばに居ようと、アルルをソファに寝かせる。
アルルの部屋はスッキリと片付いており、午後の日差しが柔らかく射し込む。
アルルの隣に腰を下ろし、汗ばんだ額を撫でてやっていると、ふと昨日見た夢を思い出した。
私を夢精させた裸のアルル。
サタンは思わず寝ているアルルの体に目をやった。
「幼児体系だとばかり思っていたが…」
今でも鮮明に覚えている。
白い肌、小さいが形のいい胸、プルンとした尻、むちむちとした太もも…。
サタンは下腹部が熱く脈打つのを感じた。

その頃。
シェゾは道端で眼鏡を無くしたというおじいさんに出会い、一緒に探してあげているところだった。
今後のことで頭が一杯なシェゾは、眼鏡がおじいさんの頭の上にあることにも気付かない。

サタンは熱く荒い息を吐き、目覚めぬアルルを思いきり抱きしめた。
駄目だ、我慢できない。
急く気持ちでアルルの服を剥ぎ取り、露出した少女の肌に吸い付く。
ちゅっ…くちゅっ…ちゅぱ…
首筋から胸、胸からお腹…太もも、お尻…アルルの全身に激しい愛撫が降り注ぐ。
しかしアルルは一向に目覚める気配が無く、サタンは完全に我を忘れていた。
アルル…!アルル…!
気を失っているアルルだが外界の刺激は体に伝わるらしく、サタンの口に含まれた乳頭は反応して硬くなった。
アルルの胸は小さいがサタンの手の中でふにゃりふにゃりと形を変え、サタンはそこに無数の刻印をつけた。

その頃。
シェゾは無事におじいさんの頭上の眼鏡を発見し、アルルの家へと急いでいた。
さっきまでご機嫌だった空はいつの間にか暗雲が垂れ込め、すっかり薄暗い。
ポツポツと雨が降り始め、シェゾは抱えたサボテンを守るように前屈みで走った。

一頻りアルルの胸を味わったサタンはその手で足首を掴み、大きく広げて少女の園を見る。
やはり外界からの刺激に反応したのか、その泉は既にたっぷりと潤っていた。
中指を入れるとヌプリヌプリと簡単に飲み込まれてしまう。
「こんな形で行うのは不本意だが…」
我慢できない。
サタンは自分の肉棒を取り出すと、一息にアルルの中へと挿入した。

その頃。
シェゾはどしゃ降りの雨の中を走っていた。
うう、寒い。風邪を引きそうだ。
しかしアルルに約束した以上、ここで引き返すわけにはいかない。
それに何だか胸騒ぎがする。
早くアルルの顔が見たい。
急げ。
アルルの家までもう少しだ。

ドーン!という落雷の音とともにアルルは目覚めた。
そして同時に体を切り裂かれるような痛み。
「いた、いたぁぁぁいっ!」
突然の激痛に襲われ、頭が真っ白になる。
目の前には自分の上で腰を振るサタン。
上手く状況が把握できない。
サタンがぼくの家に来て、ぼくはサタンにキスをされて…それで…それで…
「目が覚めたか、アルル…大丈夫だ、ハァ…最初は少し痛むがハァ…そのうち気持ちよく…なる」
知らないうちにサタンが、サタンがぼくと繋がってる?
「サタンっ!いつの間にこんなこと…!ぼく…ぼく…い、痛ぁっ…!」
「ハァ…ハァ…言っただろうアルル…お前を女にしてやる…ウッ…!」
サタンは出来る限りゆっくりと腰を振り、アルルの耳元で何度も大丈夫だ、と囁く。
「うっ…うっ…サタンっ…!」
痛みと不安で一杯のアルルは、目の前のサタンに必死で抱きつく。
とても積極的とは言い難いが、結果的にアルルと抱き合って繋がる形になりサタンは益々興奮する。
「お前の…体は…美味かったぞ…ハァ…」
そう言いながらアルルを安心させるように再び唇を重ねる。
「んっ…んっ…」
頭の中が上手く整理出来ないまま、体だけがサタンの要求に反応する。
ぼく、ぼく…どうなっちゃうの…?
そんなアルルの気持ちに応えるようにサタンが呟く。
「アルル…愛している」

その頃。
やっとの思いでアルルの家に着いたシェゾは、ずぶ濡れで戸を叩く。
しかし雷の音が激しく、シェゾのノックはすぐさま雨の中へと消えてしまう。
「ちっ、すごい雷だな。アルルは居るのか?」
ドアノブに手を掛けると、鍵は掛かっていない。
「アルルの奴、無用心だな、まったく…」
シェゾは笑うが、不安だった。
扉は開きシェゾを招き入れた。

アルルの中で何度も往復をしたサタンは限界が近づいてきているのを感じた。
アルルは未だしっかりとサタンに抱きついている。
「アルル…そろそろ…ゆくぞ…」
朦朧としていたアルルの意識がにわかに冴え渡る。
「…サタン?中は、中は駄目だよっ!?」
「………」
「サタン?聞いて…あぁっ…!」
「うっ…ウゥッ…!アルルッ…!」
「サタン、だめ、赤ちゃん出来ちゃう!サタン、抜いてっ!」
「………」
「お願い抜いてっ!サタンッ…!」

「アルル?居ないのか?」
シェゾはアルルの家の奥へと進んでいた。
どの部屋も明かりは灯されておらず、家の中は暗くてよく見えない。
時折光る雷が唯一の頼りだ。
「……!……」
シェゾの耳に誰かの声が入った。
「アルル?そこか?」
シェゾは一番奥の部屋の扉をゆっくりと開けた。

「サタン、ぼくの口に頂戴っ!」
思いもかけない言葉だった。
サタンは文字通りアルルの全てを自分のものにしたかったが、アルル自らのおねだりには勝てなかった。
「お願いサタン、ぼくサタンのが欲しいの。ぼくの口に一杯出してっ!」
お望みとあらばと、サタンはズルリと肉棒を引き抜き、間一髪のタイミングでアルルの口中に発射した。
「うぅっ…!」
何とも言えない喉越しだったが、アルルはどうにか中に出されることを免れた安堵感で一杯だった。
一方のサタンは未だ膨張した肉棒を咥え、自分の精液を飲み干すアルルを満足そうに見つめていた。
その時。
二人の後ろでガシャーンという音が響いた。
振りかえったアルルが見た先にはずぶ濡れのシェゾが呆然と立っており、その足元にはサボテンの鉢があった。



―――U・闇の魔導師―――

昼過ぎから降り始めた雨は更に激しさを増し、ビチビチと家の窓を打ちつける。
時折光る雷が薄暗い部屋の中を照らす度、机や椅子、アルルの飲みかけのコップだの読みかけの本だのがパッと白く浮かび上がる。
部屋の隅のソファの上のサタンとアルルも同様に。
シェゾはノブに手を掛けたままその場に凍りついたように立ち尽くしていた。
光った。
奴とアルルの白い肌が見える。
二人は裸で、肩で息をしながら脚を広げている奴の股間にアルルが顔を埋めている。
暗い。
また光った。
アルルはまだあどけなさの残る丸い尻をこちらに突き出し、奴のペニスをその小さな口に苦しそうに含んでいた。
両手で奴を包み、奴を咥えた口元からは白濁した液が溢れ出している。
アルルの喉がゴクリと大きく動いた。
奴の精液を飲んでいるのか。
「ケホッ」
アルルがむせた。
それでも奴を口から放さない。
全部飲み干す気なのか。
雨音に包まれながら、未だ荒い二人の息の音が伝わってくる。
目は徐々に暗闇に慣れ、恍惚と顔を歪ませている奴が見える。
奴の指が愛しそうにアルルの髪に触れる。
これは一体何だ?
上手く頭が回らない。
毎夜毎夜、俺が密かに思い描いていたアルルがそこにいる。
肌の色は?
触り心地、抱き心地は?
唇の感触は?
どんな顔をして、どんな声を出す?
全てあの男に奪われたのか。
二人はもう、溶け合ったのか。
そう思った瞬間、体の力が抜け、気付けば抱えていたサボテンの鉢は足元に転がっていた。

「シェゾ!!」
汗ばんだ額、大きく潤んだ瞳、赤く紅潮した頬、そして口元には奴の白液。
こちらを振り返ったアルルと目が合った瞬間、俺の中で何かが弾けた。
「…っのヤロオォォォッ!!サタンッッ!!てめぇ、よくもアルルをォォォッ!!」
「ひゃあっ!シェゾ、待って!」
「む、貴様は…」
間髪入れずにシェゾが飛び掛かる。
「アレイアーーーーードッ!!」
「カタストロフ!」
瞬間、閃光が走り、力と力が衝突して弾ける。
「チッ!」
弾き飛ばされたシェゾは、くるりと宙返りをして机の上に降り立つ。
「曲者めが…」
サタンはその場に起き上がると素早く衣服を身に纏う。
と。
ソファの下にうずくまっているアルルが目に入った。
「アルル!!」
「ん…」
見ると腕に軽く傷をつくっている。
「すまぬアルル、今手当てをしてやるぞ」
そう言ってアルルを抱き上げたサタンの顔に闇の剣が突き付けられる。
「アルルを放せ。その汚い手でアルルに触るな」
シェゾはサタンに抱かれる裸のアルルを見るだけで気が狂いそうになるのを必死に堪えていた。
「シ、シェゾ、あのね、聞いて、ぼくはぼふっ」
アルルの顔を自分の胸に押し当て、サタンの眼光がギラリと光った。
「私とやるのか?そもそも愛の行為の最中に割って入るなど、貴様は礼儀と言うものを知らんのか」
「なっにが愛の行為だ、礼儀だ!このロリコン変態ジジイ!」
サタンの眼前の剣先がプルプルと震える。
サタンはハア、と溜め息をついた。
「変態は貴様のほうだろう?覗き見などしおって。私はロリコンでも変態でもジジイでもない。ただのステキカコイイ魔王さまだ」
「ほざけ…」
「第一アルルも喜んでいたのだ。貴様も聞いただろう、アルルの言葉を」
「!」
シェゾはハッとした。
そうだ。
俺は確かに聞いた。
アルルの、奴を求める声を。

「挙句アルルを渡せだと?その口二度と開かぬようにしてくれる!サタンクロ」
「待って!」
アルルがサタンの腕の中から何とか顔を出した。
「サタン待って。シェゾ、聞いて。サタンは悪くないの。ぼくがいけないんだ。ぼくに隙があったから、こんな…」
アルルの目に涙が光る。
最近、シェゾのぼくを見る目が前と違うことには気付いていた。
口では変態変態言いながらいつしかぼくは、ぼくを欲しいと言うシェゾの言葉を聞くと嬉しかった。
だけど、サタンが来たあの時。
ぼくは確かにサタンにドキドキしてた。
まさかサタンが本気でぼくをそんな目で見ていたなんて思っていなかったから。
始めて見るサタンの真剣な表情に、甘い声に、力強い腕に、どうしていいか分からなかった。
力では敵わなくても、魔道の力でならきっと対抗できた。
でも、ぼくはそれをしなかった。
嫌じゃなかった。
それが本当の気持ちだった。
だけど今、ぼくはこうしてシェゾを傷つけてしまった。
大切なシェゾを。
「そう…か。お前も喜んでいたのか」
「えっ?」
シェゾが下を向いている。
よく顔が見えない。
「すまなかったな…」
「シェゾ…?」
次の瞬間、シェゾは闇の中へと姿を消した。
「シェゾ!?」
追いかけようとサタンの腕から飛び降りたアルルの足に、ちくりと痛みが走った。
「っつ…」
シェゾの落としたサボテンのハリが刺さったのだ。
慌ててハリを抜こうと屈むと鉢の中の一枚のカードが目に入った。
カードには殴り書きのメッセージが書かれていた。
「うっ」
アルルの目から涙が溢れた。
シェゾ、ごめんね、ごめんね。
「あの男…覚えておれよ…」
ささ、もう一回しよっか、と歩み寄るサタンの腕をすり抜け、アルルはコートだけ羽織ると雨の中へと飛び出して行った。
「アルル…ん?」
シェゾのカードを読んだサタンの手がプルプルと震えた。
「なぁ〜にが『お前が欲しい』だ、あの変態魔導師め!
アルルはもう私のモノだもんねー!アルルにあ〜んなことやこ〜んなこともしちゃったもんねー!しかもおねだりまでされちゃったもんねー!フハハハハハハ!」
シェゾのカードをグシャグシャポイと投げ捨てると、サタンはアルルの着ていた洋服をいそいそと畳み始めた。
「クンクン…ありゃはぁ…イイ匂い…これは持ってかえろ」
アルルのパンツをポケットにしまい、サタンもまた高笑いと共に闇の中へと消えた。



―――V・サボテンの花―――

どうやら雷はおさまったものの、どしゃ降りの雨は降り止みそうにない。
アルルはコートのフードを被り、白い息を吐きながらシェゾを追いかけていた。
今夜はひどく冷える。
ジワリと視界が滲んでいるのは雨のせいなのか涙なのか、アルルにも分からない。
今はただ早くシェゾに会いたかった。
謝りたかった。
今の自分の正直な気持ちを、この複雑な気持ちを説明しようと思った。

その頃。
シェゾは道なき道をただひたすらと歩いていた。
まるでシャワーのようだな。
雨よ、俺を粉々に打ち砕いてくれ。
今日起こった出来事を何もかも忘れてしまいたい。
アルルが奴と、よりによってあのサタンの野郎と。
二人の残像が目に焼き付いて離れない。
何故アルルなんだ?
他に女はいくらでもいるだろう。
魔導力のことだって―――
…いや、アルルが受け入れたことだ。
俺がとやかく言う資格などない。
俺だって最初はアルルの魔導力が目的で近づいた。
だけどいつしかアルルに会う度、あいつの笑顔を目にする度、俺はあいつに夢中になっていた。
自分のことしか考えられなかった俺が、初めて誰かを守りたいと思った。
素直じゃなくて、意地っ張りで、負けず嫌いで、おっちょこちょいで…だが飛び切り綺麗な花を咲かせる。
アルルは俺のサボテンだったんだ。
そうだ、とシェゾは立ち止まった。
あのサボテン。
あいつをアルルの代わりにしよう。
どこか日の当たる、暖かい場所に移るんだ。
あいつと一緒に暮らそう。
のんびりと静かに暮らせればそれでいい。
シェゾはアルルの家へと引き返した。

アルルはブルブルと震えていた。
寒いよう。
それにサタンに突かれたところがズキズキ痛む。
ぼくの体、もうぼくじゃないみたい。
アルルは立ち止まり、コートの下からそろりと手を差し込んだ。
コートの中は裸体だ。
アルルの手を妨げるものは無く、その指は滑らかに脚の付け根を割って奥へと潜り込む。
ぬるりとした感触を感じ引き抜いた指先は血の混じった白液を絡み取った。
慌ててコートの中の脚を覗くと、太ももの間にも同じものがこびり付いていた。
アルルは自分がもの凄く汚れた生き物のように思えた。
どうしてあんなことができたんだろう。
ぼくは何も考えられなくて、痛くて、怖くて、ただ必死でサタンにしがみついていた。
だけどぼくの体の中でサタンが行き来するうちに、ぼくの腰は円を描くようにサタンに吸い寄せられながら動いていた。
初めは息ができなかったから、2回目のキスはサタンがぼくに舌を絡めてきては唇を離した。
口の中に入ってくるサタンの舌はあったかくて濡れた生き物のようで、その動きに反応してぼくも舌を動かした。
そうやっているとぼくの中がじんわりとして熱くなって、ぼくの腰は勝手に前より深く大きく動いた。
それまでの痛みはだんだん麻痺してきて、ぼくの中のサタンが熱くて硬くて大きくて、ぼくの乳首がサタンの乳首と擦れ合って、ぼくは、そう。
気持ちよかった。
「ふう…」
アルルは深く息を吐いた。
駄目だ、やっぱり帰ろう。
ぼくはシェゾに謝る資格なんかない。
サタンのことは好きだけどそれはきっと愛じゃない。
でもぼくはあの時確かに、ぼくを求めるサタンを愛してしまった。
こんな卑しいぼくにシェゾに逢う資格などないんだ。
そう思い、家へ帰ろうと後ろを振り返ったアルルはそのままバタリと地面に倒れ込んだ。

その頃。
雨も止んだ静かな夜の道をシェゾはゆっくりと歩いていた。
アルルには何て言う?
いや、何も言う必要もないか。
俺はただアルルの家に忘れ物をしただけ、ただそれだけだ。
しかしシェゾの歩みは遅かった。
再びアルルの顔を見て自分を抑えていられる自信が無かったからだ。
こうして先刻のアルルの姿を思い浮かべるだけで下腹部が熱を持って突出してくる。
無理もない。
好きな女の裸を見て冷静でいられる奴がどこにいる?
しかもその女は他の男に抱かれていた。
再びシェゾに嫉妬の渦が沸き起こる。
アルル、俺のアルル。
お前は毎晩ああしてあの男を受け入れるのか?
何も知らないお前に奴が色々と教え込むのだろう。
「だあぁぁぁっーーー!!」
耐えられん。
シェゾは近くの木に頭をゴンゴンと打ちつけた。
アルル…。
その時、木のむこうに誰か倒れているのが目に入った。
あれは…
「アルル!?」
シェゾは一目散に駆け寄った。
「おいっ!アルル!?」
シェゾがアルルを抱き起こすとアルルは荒い息遣いでぐったりとしている。
顔が赤い、ひどい熱だ。
シェゾはアルルを抱き、近くの宿屋へと急いだ。

その頃。
サタンは窓の外の星の数を数えていた。
「アルルと1回…アルルと2回…アルルに3回、アルルで4回!うひょーっひょっひょっひょっ」
ポケットの中のパンツを取り出し、色々してからそれを頭に被る。
「アルルの奴、あんなに濡らしおって…前戯も満足にしてやれなかったというのに」
サタンは目を閉じて今日この手に抱いた未発達ながらも魅力的な少女の体を思い描いた。
アルル…数多く居る女の中でも、これほどまでに私を夢中にさせたのはお前が初めてだ。
私はお前に出会ってからというもの退屈と言う言葉を知らない。
何を手に入れても満たされない私の心だが、お前だけは違う。
お前に触れている時の私は限りある私だ。
アルル、お前の時間を一緒に生きたい。
私の存在を価値あるものとするのはお前だけなのだ。
私に愛を教えてくれ。
今夜は冷えるらしく、サタンの吐く息で窓が白く曇る。
梟が鳴き夜の月を流れる雲が隠す。
「さーて、明日は七つ道具持参しちゃおかなーん」
サタンは袋に色とりどりの小道具を詰め込むと意気揚々と入浴場へと向かった。



―――W・町外れの宿屋―――

「泊めてくれ、部屋は一つでいい」
ぐったりとしたアルルを抱えたシェゾは無造作に二人分の宿泊代を置くと、居眠りから目覚めた老人の返事も聞かずに突き当たりの部屋へと急いだ。
部屋の中央には小さな白いバスタブが置かれ、小さいながらもどこか暖かい雰囲気の漂う素朴な宿屋だった。
シェゾはふう、と部屋の鍵を掛けると窓際の質素なベッドにアルルを寝かせた。
「アルル、大丈夫か?」
「…シェゾ…?」
「お前、道のド真中に倒れてたんだぞ。あんなとこで一体何やってたんだ?」
「ぼくは…ハァ…ゴホッ…を…いかけゴホゴホッ」
シェゾが咳込むアルルの汗ばんだ額に手を当てる。
「熱が上がってきたな。俺が側にいてやるから今は安心して眠れ」
シェゾの言葉に素直に頷いたアルルは小さくごめんね、とだけ言うとすうっと眠り込んだ。
シェゾはアルルを起こさないよう慎重に濡れたコートのボタンを外していく。
すると驚いたことにコートの下からはアルルの露な体が覗いた。
「なっ…!?」
シェゾは思わず開いたコートを重ね合わせた。
馬鹿かこいつは?
あんな雨の中、こんな格好をしていて風邪を引かない奴があるか。
シェゾはアルルの顔から流れる汗をタオルで拭う。
アルルはあの後すぐ、ろくに服も着ないで外に出たのか?
そのままサタンの野郎と寝ることもできただろうに何で…
シェゾはごくりと唾を飲み込んだ。
まさか俺を追って?
緊張気味に再びボタンを外し始めたシェゾはビクンと体を震わせた。
そこには無数の印が刻まれたアルルの白く小ぶりな乳房があった。
その印と共にまたもシェゾの脳裏に蘇る二人の光景はシェゾの期待を打ち砕くのに十分だった。
アルルはサタンに抱かれたのだ、アルルは奴を…
シェゾは嫌でもアルルの体に触れてしまう自分の指を、それに敏感に反応する自分の下腹部を恨めしく思った。
コートを脱がせたアルルの太ももには処女喪失を示す痕がべったりとこびり付いていた。
シェゾはたまらずアルルに布団を掛け、自分も服を脱ぐとバスタブに飛び込みシャワーを全開にした。
自身の分身は既にどうしようもないほど熱くなり、硬くそそり立っている。
シェゾは気持ちを紛らわすために水で思いきり顔を洗った。
しかしどうしても考えてしまう。
さっき触れたアルルの体。
白く弾力のある柔らかな肌は俺の指を吸い込んでは押し返した。
形のいい小さな胸は淡い小豆をプックリと実らせていた。
奴はどんな風にあの実を口に含んだんだ?
シェゾはサタンに体中を貪られ突き上げられるアルルを想像して益々興奮してしまう。
「クソッ!勃つな、勃つんじゃない!」
シェゾの努力も空しく、その手は次第に自らの股間へと伸びていった。

翌日。
鳥が鳴いている。
アルルはパチリと目を覚ました。
見なれない天井にしばらく瞬きをする。
体を起こすと頭がぐらぐら揺れる気がした。
ポトリと額からタオルが落ちる。
ふと自分の体がスースーすることに気付き、視線を下げると青アザのような痕の残る自らの乳房が目に飛び込んだ。
「○×☆!?」
部屋の中には誰もいない。
アルルがもう一度乳房を見ると徐々に昨日の記憶が蘇ってきた。
まだ少しお腹と腰の辺りが痛む。
「そうだ…ぼくはサタンと…」
その時視界の隅に何かが映った。
足…?
アルルが恐る恐るベッドを降りて床を覗き込むと、そこには腰にタオルを巻いただけのシェゾが寝ていた。
「ひゃあっ」
アルルは思わず後ろに飛びずさったがシェゾはよく眠っているようだ。
と、とりあえず服を…
辺りを見まわすがアルルの服はどこにもない。
バスタブの向こうのテーブルの椅子に濡れたコートだけが掛かっている。
そうだ、あの後ぼくは服も着ずにシェゾを追いかけたんだ。
そして寒くて痛くてぼくは道に倒れて…
アルルはシェゾがこの宿まで運んでくれたことを思い出した。
アルルはもう一度シェゾの寝顔を見た。
「シェゾ…」
それにしてもこの状況は…
そんなことを考えながら床のシェゾをまたごうとした時、うっかりシェゾの体を踏んでしまった。

「うっ…」
シェゾが起きた。
「!!」
アルルは思わずバスタブの中へ飛び込んだ。
ジャブン、という音とともにバスタブの周りに水飛沫が飛ぶ。
「シ、シェゾ、あの」
アルルがバスタブから顔だけを出す。
シェゾは立ち上がり、アルルには近づかずその場で返事をする。
「…ようアルル。体のほうはもう大丈夫なのか?お前すごい熱だったんだぞ」
シェゾはアルルに背を向けコップに残っていた水を飲み干す。
「うん、もう大分いいみたい。ぼくの看病してくれたこと、少しだけ覚えてるよ。ありがとうシェゾ。それから…あの…」
アルルが動くとチャプンという音が静かな朝の部屋に響き渡る。
「安心しろ。俺は何もしてない」
シェゾはアルルに背を向けたまま空のコップをテーブルに置いた。
シェゾの意外にもあっさりとした返事と態度にアルルはほっとしながらもどこか寂しい気持ちで下を向いた。
アルルはシェゾが自分を嫌いになったのではないか不安だった。
「シェゾ。ぼくキミに謝りたいことがあるんだけど…」
そこまで言ったもののその後に続ける言葉が出てこなかった。
シェゾは黙って窓の外を見ている。
暫く沈黙が続くとシェゾがアルルを振り返った。
「病み上がりなんだ、そんな冷えた水に浸かってるとまた熱を出すぞ。俺が昨日使った残り湯だからな」
「えっ」
シェゾもここに…?
アルルはドキリと胸が鳴るのを感じた。
「で、でもぼくすごく気持ち悪いんだ。昨日はすごく汗をかいたし…」
アルルはハッとした。
シェゾの目がピクリと引きつったからだ。
「…だろうな」
シェゾの顔からは表情が読み取れない。
アルルは慌てて言葉を紡いだ。
「あ、あの、その、熱で…」
「俺が洗ってやろうか?」
「へ?」
シェゾがフッと笑う。
「ばーか、冗談だよ。お前も元気になったみたいだし俺は帰る。それじゃあな」
久しぶりに見るシェゾの笑顔が妙にアルルを不安にさせた。
このままシェゾと別れたらもう逢えない気がする。
「着替えるから、お子様はこっち見るんじゃないぞ」
「ま、待って」
背中を向けたシェゾにアルルは言う。
「まだ少し腕の傷が痛むんだ。洗ってよ、シェゾ」



―――X・おまえが欲しい―――

シェゾが片足をバスタブに入れる。
バスタブは小さく、アルルとシェゾが二人入ると体と体が触れてしまいそうだ。
「狭いな…」
シェゾがそう言うとアルルはコクンと小さく頷く。
何とか全身をバスタブに収めたシェゾはタオルの結び目を確認すると、目の前にあるアルルの背中に思わず喉を鳴らした。
アルルの白い背中はうっすらと濡れて肩先の髪の毛が首に張り付き、膝を抱えて座っているため背骨がくっきりと浮き出ている。
シェゾは脚を開きその間にアルルを挟むようにして座る。
大事な部分が大きくなっていることを悟られないよう、アルルとの間に少しだけ間隔を空けて。
シェゾが手を伸ばしてお湯を出し持っていた石鹸を濡らすと、アルルは小さく息を飲み顔の横から伸びたシェゾの腕を見つめる。
十分に石鹸を泡立てたシェゾはそれをアルルの背中に持っていく。
「ひぁっ」
背中に当てられた固く冷たい感触にアルルがビクンと反応する。
シェゾはそっと、アルルの背中の石鹸をくるくると滑らせた。
石鹸は白い孤を描きながらアルルの背中でとても滑らかに動く。
アルルは図らずも昨日のサタンの舌使いを思い出した。
ぼ、ぼくってば何を…
アルルの意識は背中の石鹸の動きだけに集中し膝を抱える腕にぎゅっと力が入る。
もしかしてぼく、ものすごいをこと言っちゃったのかも…
アルルがそんなことを考えているとシェゾがぽつりと呟いた。
「綺麗だな」
「!」
アルルは何と答えていいか分からず、朝の静かな部屋の二人の間に沈黙が流れる。
背中にシェゾの息が吹きかかり膝に爆弾のような自分の心臓の音が伝わる。
「前も洗うぞ」
シェゾの手がアルルの脇の下に伸びる。
「んぁ」
シェゾが腕を伸ばすとアルルの背中にシェゾの胸板がぴたりと押し当てられ肩にシェゾの顎が触れる。
石鹸はゆっくりとアルルの胸のまわりを滑る。
アルルは泉が潤ってきたのを感じていた。
シェゾはアルルの濡れた髪の間から覗く赤い耳を見ながら左手でくびれの辺りを支え、石鹸の回転を少し速める。
「いたっ」
くるくる回る石鹸がアルルの突起した乳首に当たったのだ。
シェゾは慌ててアルルの乳房から石鹸を離した。
「わ、悪い」
「う、ううん」
またも二人の間に沈黙が流れる。
「…直接洗ってもいいか?」
シェゾの問いにアルルの泉は潤いを増す。
「うん…」

左右から伸びたシェゾの手の平がアルルの胸の緩やかな膨らみを包む。
「ひゃうっ」
アルルの乳首はポロリと落ちてしまいそうな木の実のように硬く収縮し、シェゾの手の中でコリコリと転がった。
石鹸はローションのような効果をもたらしシェゾは想像以上のアルルの胸の柔らかさに時の経つのも忘れて揉み続け、いや洗い続けた。
「はぁん…んっ、ふぁ…」
「おい、頼むからそんな声出すなよ」
「だ、だって…ひゃあっ…」
アルルの漏らす声を聞くシェゾのペニスは益々膨張しアルルは背中に硬くなったシェゾを感じた。
「シ、シェゾっ、あっ当たってるよぅ」
限界を感じたシェゾは泡だらけのアルルを力いっぱい抱きしめた。
「ひゃあっ!?」
「すまんアルル、俺は嘘をついた。何もしてないなんて嘘だ。俺は昨日お前を着替えさせ、お前の裸を見て、その後お前で抜いた」
アルルは自分をすっぽりと抱きしめるシェゾの腕を見つめながら答えた。
「ぼ、ぼくで…?」
「お前がもうあいつのモノだってことは分かってる。だけど俺はそれでもお前のことがす」
次の瞬間シェゾの視界は立ち上がったアルルのお尻で一杯になった。
「ぅわっ!?お前何して…」
振り向いたアルルは目に涙を溜めてシェゾに抱きつく。
「シェゾごめんっ!ぼく、シェゾに謝りたかったんだ!ぼくはシェゾを好きなのに、でもサタンのことも好きで、でもぼくが愛しているのはやっぱりシェゾなんだっ!」
「………」
シェゾは自分にのしかかるアルルに手を回し傾いた体でバスタブにもたれ掛かる。
「それはつまり…」
シェゾは窓の外の青空を見つめアルルの香りを感じた。
「俺が一番ってことだよな?」
アルルの目から涙が一筋流れる。
「うん…」
シェゾはハァッと深く息を吐いた。

「お前な…その割にはあいつに凄いこと言ってなかったか?口に出してくれとか…」
アルルは慌ててシェゾの顔を見る。
「あ、あれは、ぼくが気を失って気付いたらサタンと繋がってて、サタンがなかなか抜いてくれなくて、中に出されたら赤ちゃんできちゃうし、だからっ…」
「分かった、もういい」
シェゾはアルルの頭にポンと手を置いた。
「…にしてもあの野郎、やっぱり無理矢理だったんじゃねえか。
…まあ、お前がついあいつを受け入れたとしても無理はない。あいつは女を気持ち良くすることの為だけに生きているようなものだからな」
「で、でも、やっぱりぼくにはシェゾを愛する資格なんてないよ。あんなことがあった後でも、ぼくはサタンを嫌いになれないんだもの」
「………」
まんざらハッタリでもなさそうだな、サタンの奴。
一瞬シェゾの表情が曇ったことに気付きアルルの目に再び涙が溢れる。
「お願いシェゾ、もう少しだけこうさせて。そうしたらぼく、二度とシェゾの前に現れないからっ…」
シェゾに思いきり抱きつくアルルをシェゾは更にきつく抱きしめた。
「ばーか。そんなことしたらまたお前をあいつに渡すことになるだろ」
そう言ってシェゾはアルルをバスタブに押し付けると、溢れるアルルの涙を拭きながら唇を重ねた。
「アルル、お前が」

その頃。
サタンはアルルの家の前に立っていた。
コンコンコンコン、ノックをしてみる。
「むふふ、夜まで我慢できずに来ちゃったよ〜ん」
サタンは腰に下げた皮製の袋を愛しそうに撫でる。
あの後、動作確認は完璧にした。
昨日の今日でコレは早すぎるかもしれんが…
善は急げって言うもんね。
アルルであれだけ出したと言うのに私もまだまだイケるものだ。
うーん若い頃を思い出すなあ…
そんなことを考えながらサタンはしつこくノックを繰り返す。
「ハニー?ハニー?いないのかい?」
試しにノブを回してみると案の定、鍵は掛かっていない。
家の中に入ってみるとそこには昨日の夜と変わらぬ光景が広がっていた。
サタンが畳んだアルルの服もそのままソファの上に並んでいる。
何かおかしい、と感じたサタンは外に出てパチンと指を鳴らす。
するとどこからともなく現れた何匹ものコウモリがサタンの頭上に群がった。
「お前達、私のハニーを見なかったか?」
すると一匹のコウモリが雨の中でアルルらしき少女を目撃したと告げた。
「何?銀髪の男だと?」
にわかにサタンの顔が険しくなる。
あの男、一度ならず二度までも私とアルルの邪魔をする気か。
…許せん。
「よくやった」
サタンは羽織っていたマントを翻し朝靄の如く音も無く消えた。



―――Y・はじめてのアルル―――

「んっ、うっ…」
水の排出された空のバスタブにアルルの涙がポトリと落ちる。
唇を重ねながらアルルの濡れた髪を、涙の伝う頬を、シェゾは幾度も幾度も撫で上げる。
アルルは力の入らない腕でシェゾにしがみつき、シェゾはズズズ…とバスタブを滑るアルルの背中に手をまわしてアルルを支える。
シェゾの舌がアルルの唇を割って入り込む。
ゆっくりと力強く進入するシェゾの舌先にアルルも自ら追い求めそこに絡みつく。
手練なアルルに少々驚いたものの、シェゾもすぐにそれに応える。
「ふ…ふは、んっ…」
絡んでは離れ、触れては絡み合い…貪るように唇を重ね、狭いバスタブの中で二人はまるで一つの体のようにピタリと密着する。
それだけでシェゾの下腹部は腰に巻いたタオルが浮き上がって突出し、アルルの内部もトロトロと溢れそうに潤った。
やがてシェゾの唇がつ…とアルルの唇から離れ首すじに吸い付くとアルルがピクンと震える。
シェゾはアルルの肩をつかみそのまま鎖骨へと舌を這わせる。
「ひうっ…」
シェゾは片手を伸ばしシャワーを出してアルルの胸の泡を流す。
泡が消えるとサタンが与えたいくつもの刻印が浮かび上がる。
「クソッ…」
シェゾはシャワーの水流を全開にすると刻印めがけて当てがった。
「ぁぁああっ」
突然乳首に強い刺激を当てられたアルルは思わずブルッと震え大きな声をあげる。
「シェ、シェゾぉ」
悶えるアルルの乳首にシェゾはさらにシャワーのノズルを近づけ、円を描くように動かす。
「ぁぁぁああ」
アルルがビクンビクンと飛ぶ。
「おい、こんなモンでイっちまう気か?」
シェゾはシャワーノズルを置くとアルルの刻印に思いきり吸いついた。
「ひゃぁあっ」
シェゾはその小さな実を口に含むと小さく転がすように舌を動かし、同時に小刻みに吸い上げる。
ちゅっ…ちゅうぅ…くちゅ、くちゅ
「やっ、シェゾっ」
シェゾは口の中で乳輪をまわすように舐め、舌先で先端を押し込んでは左右に弾く。
アルルはシェゾの髪を両手で掴み、頭を抱え込むように腕をまわす。
「んっ、はぁんっ…ん、ふぅっ」
アルルの胸を銀色のシェゾが包む。
「あいつの印なんか俺が全部消してやる」
シェゾが顔を離しアルルを見つめる。
「あいつの体なんか、俺が忘れさせてやる」

そう言って再びアルルに唇を重ね、片手でアルルの脚をそっと開く。
「ん、んん!(シ、シェゾ!)」
シェゾの指がアルルの太ももを滑る。
膝にいきついたその指先は折り返し太ももの内側を蛇行しながらゆっくりと、次第に目的地へと近づいていく。
「ん、はふっ」
シェゾの唇を受け止めるアルルにゾクゾクとした快感が走る。
脚の付け根に辿り着いたシェゾの指が、そっとアルルの溝のまわりを撫で上げる。
「んふぅっ」
シェゾの唇にアルルの振動が伝わる。
シェゾの指はゆっくりと溝のまわりを這い回り先端の突起をきゅっ、と摘み上げる。
「んっ、んっ」
アルルがビクビクと震えるのも構わずシェゾは揃えた中指と薬指でそのつぼみを小刻みに刺激する。
「んん〜っ、ふぅっ」
シェゾは唇を離して置いていたシャワーノズルを持ち、全開の水流をそこに当てがう。
「ぅぁぁああっ」
アルルの震えが激しさを増す。
シェゾは時折わざとシャワーをずらしながらアルルを焦らして遊ぶ。
「や、だめぇ、シェゾぉっ」
そんなことを繰り返していると、突然アルルがガクリと下を向いた。
アルルがピクピクと痙攣する。
「ぁぁあ…」
腕の中で力なくうなだれるアルルの髪を撫で、シェゾはアルルの呼吸が整うのを待った。

「昨日の今日だし、ここで止めてもいいんだぞ」
シェゾがアルルの耳元に唇を寄せて囁く。
アルルは首を振る。
「でもお前、その…まだ痛むんじゃないか?」
アルルはドキリとした。
確かに、まだ微かに痛みがあったのだ。
少女の成熟しきらない膣内を半ば無理矢理サタンが突いたのだから無理もない。
微妙な表情の移り変わりに気付いたシェゾはアルルの頭を優しく撫でた。
「まあ、お前のはじめてをあいつに奪われたのは心底腹が立つが俺はお前とこうして」
「はじめて、は今だよ」
アルルがシェゾの手を取った。
「こうやって最初から最後まで、ぼくの記憶に丸ごと残るのはこれがはじめてだもん。お願い、シェゾ。ぼくの中に出して」
「なっ、な…」
シェゾがカアァ〜ッと赤くなる。
「お前誰にそんな台詞ってぅわっ」
アルルがシェゾの股間に手をやる。
既に盛り上がったシェゾを覆うタオル部はアルルが触れるとギン、と更に硬度を増した。
「シェゾ、すごい」
アルルはそう言い、タオルの上からそっとシェゾを包む。
「うわ、お前、やめ…」
アルルはタオル越しに包んだシェゾをゆっくりと撫で、手の平で往復し、指先で愛撫する。
「うっ…」
シェゾはビクリと体を震わせ熱い息を漏らす。
アルルはタオルの下に手を差し込み直にシェゾを確認する。
昨日はこうやってゆっくり感じる余裕も無かったが、手の中で熱く張り詰めたシェゾのペニスはまるで生き物のようだ。
アルルはそんなことを思いながらシェゾの肉棒をさすり始める。
「うっ、うあっ」
シェゾの感じる様子を愛しく思い、アルルはシェゾのタオルを外して竿にそっと唇をつけた。
アルルの口から舌が覗きテラテラとシェゾを濡らしながら上下に行き来する。
指で袋を刺激するアルルの舌がゆっくりとシェゾの竿を這う。
「クッ、アルルっ…」
シェゾの先端に汁気を感じたアルルはすかさず口にシェゾを含む。
口の奥まで一杯にシェゾを咥えそのままゆっくりと上下し始める。
「うぁあっ…」
シェゾは自分を包むアルルの狭く生暖かい口中にたまらず声をあげる。
アルルは両手でしっかりとシェゾを包みながらゆっくりと上下を繰り返す。
アルルの運動に合わせてシェゾが声を漏らすのを見て、アルルはその動きを速める。
「う、ううっ…アルルッ」
アルルの口から涎が溢れ喉の奥まで当たるシェゾの肉棒が嗚咽感を招く。
しかし不思議と嫌悪感は無く、バスタブに響くそのいやらしい音にアルルの泉もまた潤い始めた。
ジュプッ、ジュポッ…ジュプッジュプッ…
アルルはわざと大きな音を出し顔の動きのスピードを速める。
限界の近づいたシェゾがアルルの髪に触れる。
アルルはゆっくりと肉棒から口を離し、脚を開いてシェゾに腕をまわす。
シェゾはかつてないほど大きくなった自身を手に持ち、アルルの秘穴に先端を当てがった。

その小さな入り口はグググ…とシェゾを受け入れると後はヌルヌルとその中にシェゾを飲み込み、奥深くまで達するとキュッとシェゾを締め付けた。
「うっ」
その快感だけで達してしまいそうなシェゾにアルルがふう、と息を吐いて言う。
「これが、ぼくのはじめてだよ」
「………!」
シェゾはアルルを力いっぱい抱きしめ、ゆっくりと、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「あぁぁっ、シェゾッ」
「アルルッ」
ゆっくりと出入りするシェゾを、アルルが迎える度キュウキュウときつく締め上げる。
「もっと来ていいよシェゾ。ぼく、大丈夫だからっ…」
「うぅっ」
パン、パン、と白く小さなバスタブにみだらな音が鳴り響く。
二人の体は熱く火照り、腰を振るシェゾの体から汗が流れる。
座って繋がる二人にはバスタブの冷たさが心地いい。
浅く、深く…腰を上げては落とすシェゾの体は限界を迎えようとしていた。
アルルの中のシェゾが大きく脈打つ。
「シェゾ、きてっ、ぼくの中に」
「アルル、いくぞっ…!」
二度目の絶頂を感じたアルルの中でシェゾも思い切り放出した。

薄暗い部屋の窓から柔らかな光りが射し込む。
二人は荒い息をして、繋がったまま暫く無言で抱き合った。
シェゾがアルルから自身を引き抜くと、ゴポッと音を立てシェゾの白液が溢れた。
アルルがそこにそっと唇を寄せ口で拭う。
シェゾはふうっ、と息を吐いた。
「なーにが、もっときて、だ。お子様はそんなこと覚えんでいい」
シェゾはシャワーを出し、アルルのまだ赤い顔目掛けて噴射する。
「ぅわあっ!?なっ、何するんだよシェゾッ!」
バスタブに小さな笑い声が響いた、その時。
ガチャガチャ、ガチャ、バキッ、バンッ!
「アルル!」
静かな部屋の蒸れた空間に突如外の香りが流れ込む。
「「サ、サタン!?」」
二人が同時に声をあげた。
扉を開けたサタンの目に、バスタブの中のアルルとシェゾのあられもない姿が飛び込んだ。
「わ、ぼく、ひゃあっ」
アルルは咄嗟に両手で体を隠し、シェゾの後ろに引っ込む。
「チッ」
シェゾはタオルをアルルに与え立ち上がった。
サタンは呆然と扉の前に立っている。
露な前も隠さず、シェゾはバスタブを出て闇の剣を手に取る。
「サタン、悪いがこういうことだ。金輪際あいつにつきまとわないでくれ」
サタンは目をパチクリとさせ、アルルを見る。
「アルル…?」
アルルも体のタオルを押さえながら立ち上がった。
「サタン、ぼくは…」
何故かサタンの顔を真っ直ぐ見れない。
「ぼくはシェゾが好きなんだ」
アルルの心がズキズキと痛む。
下を向くアルルにコートを投げ、シェゾは服を着ながらサタンを見やる。
「さあ分かっただろ。お前にアルルは渡せない。悪いがさっさと出て行ってくれないか」
いくら恋敵とはいえこんなことを直接サタンに言うのは気分が悪く、シェゾはサタンが昨日の自分の姿と重なって思えた。

サタンは暫く黙っていると、おもむろに腰の袋に手を入れた。
「ほ〜らアルル見てみろ。今日はこんなにおもちゃを持ってきたんだぞ」
サタンの手には大小様々、形態も様々、バラエティー溢れる色とりどりの玩具が並ぶ。
「さあアルル、どれが欲しいか言ってごらん」
サタンは何も聞こえなかったかのように笑顔でアルルに問う。
性についての知識は乏しいほうだったものの、その中の明らかな男性器形の玩具にアルルはひぃ、と体を縮める。
震えるアルルに詰め寄るサタンの背中を闇の剣が捕らえる。
「何度も言わせないでくれ」
シェゾがサタンの背中を見つめ静かに言う。
「アルルは俺を選んだ。お前じゃないんだ。俺達は愛し合ってる。だから早く行け」
アルルがお前を忘れるくらい遠くに。
アルルが続ける。
「サタン、お願い…」
サタンの表情が曇る。
カラフルな玩具はサタンの手から花びらのように散って床に転がり、部屋にはヴィィィィ…と鈍い音が響く。
サタンはガクリと膝を落とし、長い緑の髪がうな垂れた顔を隠す。
アルルは静かにコートを着るとシェゾのもとに歩み寄った。
シェゾは黙って頷くとアルルの腰に手をまわし錠の壊れた扉に手を伸ばした。
アルルがちらりとサタンを振り返る。
サタンは床に膝をついたまま動かない。
アルルは心がギュウゥと締め付けられる気がした。
「………」
アルルの目が赤くなっているのを見て、シェゾは心を決めた。
アルルの耳にシェゾがそっと耳打ちをする。
「えっ…」
アルルは驚いてシェゾの顔を見る。
「俺だって本当はこんなことさせたくねえよ。ただ、このままじゃ二度とお前の笑顔が見れない気がしてな」
「シェゾ…」
アルルはコクン、と頷きくるりと向き直った。
うずくまるサタンに、アルルの影が落ちる。
アルルはサタンの前にしゃがみ込みそっとサタンの頬に触れた。
「アル」
驚いて顔を上げたサタンの唇をアルルの唇が塞ぐ。
アルルはきつく目を閉じ、昨日サタンに教えられた濃厚なキスを再現するべく舌を割り込ませる。
一瞬何が起きたのか分からなかったサタンだが、ただひたすらに自分を求めるアルルの舌先を感じるうちに、次第に考えなどどうでもよくなっていった。
サタンは震える指でアルルの髪をすきながら口中で這うアルルの舌を捕らえ、それに自らをゆっくりと絡ませていく。
サタンの顔に両手を添え唇を塞ぐアルルを力いっぱい抱き寄せると、アルルの香りがサタンを包む。
サタンは昨日のキスの続きをしている気分になった。
いや、今はもっと熱く、切なく、そしてアルルが愛しかった。
「んっ、んっ…はふっ」
二人はそこだけ時が止まったかのような濃密な空気に包まれ、どちらともなく互いを求め合った。

その頃。
気を利かせて宿の外で待っていたシェゾだが、アルルの奴、あまりにも遅い。
心配になって宿に戻り部屋の中を覗くと、そこにはサタンに押し倒されて悲鳴を上げるアルルがいた。
「サ、サタン、いーやあ〜」
サタンの手にはピンクの玩具が小刻みに震えている。
「あっ!?てめえサタンっ!!何してやがるっ!!」
シェゾがアルルに覆い被さるサタンをベリッと剥がす。
「シ、シェゾぉ〜」
アルルがシェゾの後ろにまわる。
シェゾがアルルを捕まえようと腕を伸ばすサタンの胸ぐらを掴む。
「む、貴様何をするっ!私はこれからアルルと」
「そんなにアルルが欲しけりゃこれでもくらえ!」
シェゾがサタンを引き寄せ、ぶっちゅう〜〜〜とアルルとの間接キスを熱烈にお見舞いする。
凍りつくサタンとアルル。
シェゾはサタンをドン、と突き放し袖口でゴシゴシと唇を拭う。
「いいか、これ以上アルルに変な真似してみろ。次はこんなもんじゃ済まないからな」
目を丸くして固まっているサタンを一瞥して振り向くシェゾにアルルの冷ややかな視線が送られる。
「シェゾぉ…キミ、ひょっとしてぇ…」
「ハッ!?わー、ばかばかっ、ちがーうっ!!これぐらいやってやらないと懲りないんだあの馬鹿は!」
「なぁ〜んか、焦ってるんじゃなあい?」
アルルは横目でシェゾを見ながらソロソロと後ずさりする。
「だからちがぁーうっ!っておい待てっ!アルルっ!」
部屋には一人残されたサタンがピシリと固まっていた。
暫くするとサタンの氷に亀裂が入る。
ピシ…ピシ…パリンッ!
「ク、ククククク」
自由になったサタンの肩が小刻みに震える。
「そうか…そうなのか…そういうことかあー!フハハハハハハハハ!見ておれあの変態魔導師め!」
「フハ、フハハハハハハハ………!」



―――Z・ただいま―――

アルルとシェゾは暖かく柔らかな日差しに包まれ家路を歩いていた。
なんだか照れくさくて、お互い黙って手を繋いで歩いた。
アルルの家の近くまで来るとアルルが口を開いた。
「ありがとうシェゾ。もうここでいいよ」
「ん、いや、家の前まで送る。そしてお前が無事家に入るところまで見届ける。それと鍵は絶対に閉めろよ。」
「あははっ、シェゾってば心配性〜」
シェゾはポリポリと頭を掻いた。
「あんな奴に目をつけられてるお前を女にしちまったんだ、心配で夜もオチオチ眠れないぜ」
「それじゃあぼくと一緒に暮らす?」
「!!な、なっ…、おまっ…」
「シェゾがくれたサボテンも二人で世話したほうが喜ぶよ!そうだよシェゾ、一緒に暮らそう!きっと毎日がもうっと楽しいよ!」
「………!!」
シェゾは耳まで赤くなりゴホン、と咳ばらいをする。
「ま、まあ、お前がそう言うなら…」
「そうだ!」
肩に手をまわそうと伸ばしたシェゾの腕をアルルがスルリとかわす。
「あのサボテン!床に落ちたままだった!」
そう言って走り出すアルルの背中をシェゾが見つめる。
あいつは魔性の女だ…。
シェゾはふう、と息を吐き透けるような空を仰いだ。
「…フン。しかしこの闇の大魔導師シェゾ・ウィグィィ様の相手にはそれくらいが…っておいアルル!待て!」
もうじき春がやってくる。
二人の未来を見守るような優しい風がシェゾの頬を撫でた。

アルルの家。
アルルが床のサボテンを拾い上げる。
「はあ〜、よかったあ。鉢は割れちゃってるけど、中は大丈夫みたい」
そこへシェゾも現れる。
「どうやら無事のようだな。それよりアルル、おまえ着替えたほうがいいんじゃないか?」
「え?」
自分が下着もつけていないことすら忘れていたアルルは慌てて服を探す。
するとソファの上にきちんと畳まれた自分の服が並んでいた。
「これ…もしかしてサタンが?」
見慣れた青い服にはあの時のサタンの香りが染み込んでいた。
サタン…。
ソファの下に座り込んで洋服を抱きしめるアルルを見たシェゾは面白くなさそうにドカリと椅子に座る。
「おいアルル、見ててやるからさっさと着替えろ」
さっきの仕返しとばかりにシェゾはニヤリと笑って足を組む。
「な、何言ってるんだよキミはぁー!後ろ!後ろ向いててよぉ!」
アルルは立ち上がりシェゾの頭をポカポカと殴る。
「俺達これから一緒に暮らすんだろ?着替えくらいで恥ずかしがっててどうするんだよ」
シェゾがアルルの手首を軽々と掴んで抑えつけ、目を細める。
「〜〜〜…///!!」
アルルは素直に抵抗を止め、シェゾの肩にポフン、と顔をもたれる。
「やっぱり、変態…」
シェゾはフン、と笑ってアルルをギュウと抱きしめる。
「その変態が好きな変態はどこのどいつだ?」
シェゾの腕の中でアルルは思った。
シェゾ、大好きだよ、シェゾ。
アルルは少しだけ顔を離すと、シェゾにちゅっとキスをした。
「シェゾ、ただいま。…そしておかえり」
「アルル…」
シェゾがアルルを強く抱き寄せるとアルルの手から青い服がハラリと落ちる。
「ただいま」
そう言ってシェゾがアルルに唇を重ねようとした、その時。
二人の後ろでカサリと何かが動いた。
二人は蛙のように飛び上がり、慌てて顔を離して振り返る。
そこには何やら白い紙くずを手に持ったサタンが佇んでいた。
「「サタン!?」」
アルルはとっさに身構え、シェゾは闇の剣を抜いた。
「おいサタン!てめえ、この後に及んでまだアルルにちょっかい出す気か!?」
シェゾは素早くアルルを自分の後ろに引き寄せ、歩み寄るサタンに剣先を向ける。
「ムフフフフ…」
サタンは片手で顔を抑えながら二人に近づく。
「シェゾぉ…」
「おい、貴様、それ以上近づいてみろ。この闇の魔導師シェゾウィ」
シェゾの前に白い紙が差し出される。
それはシェゾがアルルに書いたあのカードだった。
サタンはシェゾを真っ直ぐ見つめて言う。
「お前が欲しい」
シェゾとアルルは顔を見合わせた。
「「へ?」」

ガシャーン、というけたたましい音に驚いた鳥達がアルルの家の屋根から飛び立つ。
太陽は沈み、淡いオレンジ色に包まれた町に鐘の音が鳴り響く。
「ほうら見てごらん。こっちのピンクは女の子用で、こっちのブルーは男の子用だぞ〜」
「寄るな、来るな、この変態っ!!」
逃げ回るシェゾをサタンが捕らえる。
ヴィィィィィィィ…
「わあ、やっ、やめろっ離せっ!!」
サタンの腕の中で迫り来る玩具と格闘するシェゾがジタバタと暴れる。
アルルを手中におさめるにはまずシェゾを堕とせばいい、と考えたサタンは七つ道具に新たな顔を仕込んでシェゾを追いまわす。
「あまりはしゃぐな坊主。照れるではないか」
「誰が坊主だっ!それに俺ははしゃいでなどおらんわ!でぇーい離しやがれっ!!」
ビシビシビシビシッ!
シェゾのチョップなどものともしないサタンが抱えたシェゾの耳にフウッと息を吹きかける。
シェゾはビクンと飛び上がる。
「うぁぁっ………!…って何しやがる貴様ーっ!うきぃーっ!!」
「フハハハハハ…案外男も可愛いものだな」
「ちょ、ちょっとぉ〜、二人とも、ぼくの存在忘れてないー!?」
はたから見ると実に楽しそうな二人の様子にアルルがちょっぴりやきもちを焼く。
「ハッ、アルルっ…よし分かった。ならば今夜は三人で」
「「いい加減にしろ」」
サタンの頭に二人の拳が降り注ぐ。
サタンはコブをさすりながらフラフラと窓に近づき、うっすらと星の咲く空を見つめた。
「…フッ。まあいい。これからじっくりお前達にこの私の実力を見せてやるとしよう。あっそうそう、後で私の荷物届くから」
「「ここに住む気かーーーっ!?」」
二人の雄叫びなどお構いなしに、サタンはニヤリと笑って星の数を数え始める。
「アルルと一回、アルルと二回、アルルに」

かくして新たな三角関係は誕生し、二人の住人を迎えたアルルの家は一層賑やかになるのだった…。

THE END…?

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