no title
9-92様
今日のサタンはご機嫌だ。なんてったって愛しい愛しいアルルから、突然お家にご招待されたのだから。
フンフン鼻歌だって歌っちゃう。
お土産の花束も買った、身だしなみもいつも以上にバッチリ、もしもの為のゴムも準備した。
いや、妃になるのだからそんなモノは必要なかったか。隙をついてああしてこうしてムッフッフー。
よからぬコトを頭の中で繰り広げ、妄想の中で一通り済ませた辺りでアルルの家の前に到着した。
ウキウキと心弾ませアルルの家のドアをノックする。
コンコン。
……返事がない。
もう一度コンコンコン。
……やはりない。
いないのか?しかしサタンに標準装備された高性能アルルレーダーは非常に近いところにいると反応を示している。
きっと家の中にはいるはずだ。
ドアノブに手を掛けるとカチャリと音をたて、扉を開く。少しずつ広がる室内にアルルが立っていた。
「アルル!」
「鬼は〜外〜!!!」
「ぶあ!?」
いきなり何かを投げつけられた。自慢の顔にクリーンヒット!な、何事だ?!
しかしアルルは投げつける動作を止めない。次々とサタン目掛けて小さい粒をぶつけてくる。
「いたっ!痛たたたたたあ〜!!妃よっ!未来の旦那様に何をするのだ!」
「后じゃない!そしてキミはボクの旦那様でもないっ!…そう、キミは鬼、鬼なんだよ〜」
「オ、オニ?!」
「そう、その立派なツノは鬼さんの証だ!くらえっ!鬼はぁ〜外ぉ〜福はぁ〜内ぃ〜!!」
「うががががががぁ!!」
いったいアルルが何を言ってるのかわからない。オニハソトでフクハウチ?そして私はオニ??
思考を働かせるも、マシンガンのように激しく浴びせられる謎の攻撃に身を守ることで精一杯だ。
肌の露出の多い顔を腕で覆っているせいでアルルの姿がよく見えない。こんなに近くにいるのに見れないなんて。
アルルが見たい、アルルを抱っこしたい、アルルにチューしたい、アルルとエッチしたい。
痛みに耐えながら愛しい少女に近づこうと家の足を踏み入れ、一歩、また一歩と歩みを進める。
「む、鬼が家に入って来ようとしている。カーくん、とっておきのアレやっちゃって!」
突然アルルの攻撃が止まった。
ホッとしながら顔を上げると、カーバンクルちゃんが…異様なまでに膨らんでいる…。
普段の三倍ほどの大きさで黄色の表面はブツブツで突起でいっぱいだ。
不気味な姿をマジマジと凝視していたら、パカッと大きく口が開いた。
口の中にはアルルにぶつけられていたあの大量の丸い粒が。まさか、まさかまさかまさか。
「……カーバンクルちゃん…それは…やめろぉ〜!!」
「いっけぇ〜!カーくん砲・節分バージョ〜ンッ!!!」
ド・ドワアアアァァァァァン!!!
「ぐげげげえぇぇ!!!」
体内に溜め込んでいた粒を一気にサタン目掛けて大・放・出!
小さな粒が寄せ集まり大きな塊となってサタンの腹を思いっきりえぐった。
そのまま家の外まで吹っ飛ばされ、運がいいのか悪いのかに木にドカンとぶつかってサタンは気を失ったのだった。
ペチンペチン
『……ン』
――んー痛い、ペチペチ叩くな。
ゆっさゆっさ
『……て…タ…ン』
――んー揺らすな、まだ寝ていたいのだ。
う…ぐすっ、…ひっく
『起きてよぉ、サタン…!』
――んーうるさい、耳元で泣くな。ん?泣く?この声…この声は……。
「アルル!泣くな!愛しているから泣くんじゃないぃっ!」
「うひゃあ!」
ガバァ!飛び起きるなりぎゅうっとアルルを抱きしめる。
いつもは嫌がってサタンをはね除けるアルルも、よっぽど心配していたのか
すっぽり胸の中に収まったまま抱き返し、安堵の表情を見せていた。
「よ、よかったぁ…白眼むいて気持ち悪い顔で倒れたから死んじゃうんじゃないかと思ったよ…」
白眼で気持ち悪い顔…なんてことだ、醜態をアルルに見せてしまったのか。なんたる不覚。
いやいやソレよりも心配を掛けさせるなんて旦那様失格だ。できるだけ安心させるように優しく頭を撫でてやる。
「愛しいお前を置いて死ぬものか。ところでさっきのはいったいなんなんだ?オニハソトとかフクハウチでオニとは?」
「あれ?あれね、どこか遠い世界の風習で豆を鬼にぶつけるの。
そしたらその一年無病息災で過ごせるっていうからやってみたくって」
「その為に私を呼んだのか?」
「うん。鬼ってツノがあるんだって。だから初めはドラコに頼んだんだけどそんなのヤだって言われたの。
サタンならボクの為に豆ぶつけられてくれるかなって思ってさ」
そういうことだったのか。
先にドラコに頼んだというのは癪だが、それでもアルルの役に立てたのならそれは何よりも嬉しい。
この痛みも名誉の勲章だ。
「でもちょっとやり過ぎちゃったね。ゴメンサタン。痛かったよね、肌赤く腫れちゃってる」
申し訳なさげな顔ですりすり頬を撫でてくる。柔らかくてすべすべした手に触れられ心臓がドキンと跳ねた。
「ボクだけ一年幸せに過ごせるなんてズルイね、サタンにも何かしてあげなくっちゃ」
真っ赤になった手もスリスリ。これは…このままエロエロモードにいっちゃう?
おっきく育っちゃって真っ赤に腫れたおちんちんもスリスリしてくれって言っちゃう?
言うか言うまいか押し倒そうか悶々と悩んでいると、あ、と言う声と共に手をパチンと鳴らすアルル。
「そうだ!お詫びにこの豆あげるよ!
年の数だけ食べると元気いっぱい、風邪も引かないんだって。
はい、十万と二十五個あるからぜ〜んぶ食べてね!」
バーン!両手を広げたアルルの背後には山と積まれた豆・豆・豆!!
こ、これを全部食べるのか?
「ボクからのプレゼント!節分は今日だからね、今日中に全部食べるんだよ。絶対だよ!」
…ああ、満面の笑みでそんな無体なコトを言わないでおくれ、未来の妃よ。
もう外は真っ暗だ、時計を見れば九時を指しているではないか。あと三時間、三時間で約十万個。さすがのサタンも目眩がする。
そんなサタンをじぃーっと見つめながら、耳元でぽしょりと囁いた。
「…全部食べれたら、その後ボクも食べていいから…ね?」
――その後サタンは根性で食べきった。が、やはり十万と二十五個はキツかった。
カーバンクルちゃんと同じように異様に身体が膨らみ、アルルに抱きつこうとするもお腹が邪魔して近づけないのだ。
サタンは泣いた。アルルからのお誘いなんてもう一生無いかもしれない。超泣いた。
そんなサタンを側で見つめながら、ニヤニヤ笑みを浮かべるのは未来のお妃様。
こうなることを予想していたのかはその少女しか知らない。
終わり