no title
9-245様
男が発していた匂いに引き寄せられた、そうとしか言えない。
お互いの吐息が掛かる距離まで接近した唇が、チュッと軽いリップ音をたてる。
そのまま柔らかく押し付け、より触れ合う面積を増やすが、どこか物足りない思いに薄く唇を開く。
ねじ込んだ舌先が作り出した隙間。そこから吐き出される少女を惑わす匂い。引き寄せられたように舌が伸びる。
伸ばした先は男の口内で、触れるところ全てが深いぬかるみにハマったようにも感じた。
堪らず舌を絡めると男がそれに応えた。
バラバラと動いていた二つの粘膜が上手く重なりあい、お互いの口内を激しく貪りあった。
角度を変えイヤらしい水音共に何度もキスが繰り返されるたび、漏れる吐息。
それは二人の性感を高めていくが、徐々に男から匂いをもぎ取り、少女の脳内を正常に機能させた。
全てを蹂躙し尽くした少女の唇は未だ少女を求める男の舌先を押し出し、二人の間を繋ぐ糸を作りながらゆっくりと離れていった。
「…………ボクって……最っっ低の…女だ……」
全速力で人気のないところまで移動し、荒んだ息を整えるためひたすら酸素を取り込み続ける少女。
それに付いてきた男は顎まで伝った口付けの名残を指先ですくい、舌の上に戻しながらカラカラと笑っていた。
「いやいや最高だったぞアルル?周りの奴らの食い入る目付き、シェゾなぞ口にした飲み物を隣の人間の吹き掛けていた。実に愉快だ」
「え、シェゾいたの!?」
「シェゾどころかルルーもミノタウロスもウィッチももいたな」
「そんなに……!あーもう次会った時なんて言い訳すればいいのさぁ……ルルーなんて怒り狂ってるよ……」
「私への溢れる想いを押さえきれず、公衆の面前で熱い口付けをしてしまいました。と素直に言えばよいではないか」
「ち、がーーーうっ!!決して違うよっ!!」
「では正直に話してみるか?」
言えるなら言ってみろ、と面白がるサタンの視線に言葉に詰まる。アルルは自分のしでかしたことの重大さに頭を抱えた。
―――まさか自分がここまで浅ましい女だったなんて……カーくんのこと食いしん坊だなんて文句言えないよ。
サタンの口から漂ってきた芳醇なカレーの匂いに誘われ、卑しくも唇に食らいついたというあり得ない事実と、
サタンが好きで好きでどうしようもなくなっちゃって人前だけどついキスしちゃいました☆という一波乱巻き起こしそうな嘘。
どちらの方が自分へのダメージが少ないか、アルルは数日悩む羽目となった。
おしまい