no title

9-285様

背中を這い上がる感覚につられて、ゆっくり吐きだした呼吸が震える。
ボクは今、すごく情けない顔をしているんだと思う。
頬に触れる夜風が冷たいのはきっと顔が紅いからだろうし、視界が霞んでいるのはハッキリ目を開けていられないから。
息が苦しくて少しだけ口を開けたけれど、そのままだと声が出てしまいそうで、握った手を押し当てて誤魔化していた。
情けない顔を見られているだけならまだしも、情けない声まで聞かれたら、恥ずかしくてホットのひとつでも出してしまう気がする。

皆ボクのことを子供扱いばっかりしてるけど、ボクだって年頃の女の子だ。
そういう本の一冊くらい見たことがあるし、人並みの知識くらいはある、と思う。
大抵の女のひとは、恥ずかしくて声を我慢しちゃうんだって知ったとき、ボクは少し不思議に思った。
だって、男のひとは、そういう反応をさせたくて色々するんだし、声が出ちゃうのは女のひとのせいじゃないよね。
それなら恥ずかしがらずに、素直に声を出せばいいのにって、そう思ってた。

…それなのに。
こうなる直前まで、ほんの数分前まで、本当にそう思ってたのに。
今のボクは、恥ずかしくて恥ずかしくて、声をあげるどころか、彼の顔をまともに見ることもできなかった。

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