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9-427様


 目を開ける。そこに広がっているのは見知らぬ天井だ。身体を起こそうとして、ひどく
重く簡単に動かせないことに気付く。いまだ覚醒しきらないぼんやりとした意識の中、ル
ルーは辺りを見渡した。そして、

「――やあ、お目覚めですかね、お嬢さん」

「――――アンタ……!」
 掛けられた声で、自分の置かれた状況を一気に思い出した。

 ――めちゃくちゃに終わってしまった期末試験の代わりとしてルルーが受けた試練は、
五つの神器の奪還だった。四つを順調に集め、そして最後の一つを手に入れるために、因
縁の伯爵の館へと足を踏み入れたのである。かつてとは違う。もう勝てる、そう思いなが
ら立ち向かったルルーに待っていたのは、悲しいかな敗北の二文字だった。ルルーは伯爵
に負け、意識を手放し、……そうして今、囚われている。

「そう睨みつけないでくれたまえ。言ったでしょう、再びあなたを私のモノにすると」
「お生憎ね。私はサタンさまのものよ」
 ルルーはきつく伯爵を睨みつけたまま、状況を把握していく。伯爵はにこやかに微笑ん
ではいるが、全く油断をしていない。ろくに体力の回復もできていない身体は、満足に動
いてはくれないだろう。意識を失っている間に着替えさせられたのか、身にまとっている
黒いドレスは、胸元が開きスリットが入ってはいるが、いつもの服よりも手足が動かしに
くい作りになっている。
 絶体絶命と言ってよかった。
「わかりやすくていいね。どうやって逃げるかを考えているのだろう」
「いいえ。どうやったらあんたを倒せるのかを考えているのよ」
 正直、ルルーには、今の状態では倒すことが難しいとわかっていた。しかし少しでもそ
れを相手に悟られては、なんとかなるものもなんとかならない。気丈に嘯くルルーを見て、
伯爵は――どこまでも愉しそうに、笑った。
「……なによ。何がおかしいって言うの」
「いいや。二年前のことを思い出してね。あなたは覚えているかな」
「胸くそ悪くて思い出したくもないわ」
「そう言ってくれるな。あの時私はあなたに逃げられてとても悔やんだよ。あんなところ
に閉じこめていないで、さっさとモノにしてしまえばよかったとね」
「今も見逃して構わないわよ?」
 ルルーの皮肉を相手にもせず、伯爵は続ける。
「しかし……今のあなたを見て、全てが必然だったと知った」
「どういうことよ」
「私とあなたとの再会が、さ。こんなにも美しく完成されたあなたを頂けるのなら、あの
頃のあなたを逃したとしても惜しくはない」
「……言っていることの、意味がわからないわ」
 伯爵は語りながらも、決してルルーから目を離そうとはしない。この部屋には豪奢なつ
くりのベッドしかないらしい。振り回せそうな長物も、相手を殴りとばせそうな置物も無
かった。これが伯爵なりに学習した結果なのだろう。ルルーは唇を噛む。
 自力でなんとかすることはどうも難しいようだ。だとすれば、誰かの手を借りること―
―正直なところ自分一人の力でなんとかしたいのはやまやまだったが、この際どんな方法
でも縋りたい――しかないようだ。知り合いの顔をひとりひとり思い浮かべていく。真っ
先に浮かんだのは従者のミノタウロスだったが、屋敷の前で倒れていて傷だらけの彼が、
助けに来られる状態であるとは思えなかった。アルルにシェゾ、ウィッチ、さまざまな顔
を思い浮かべたあと、最後に出たのは――最愛の人の顔だった。

(………サタンさま)

 二年前のあのときのように、助けに来てくれたら。
 それはルルーにとって希望ではなく、限りなく願望と祈りに近かった。
「ちなみに言っておくが」
 それを念入りに踏み砕くように、伯爵が囁く。

「『サタンさま』は来ないよ」
「……どうしてそんなことが言い切れるのよ?」
 サタンは莫大な魔力を持っている。それを自分のために使ってくれるとは思わないが、
やろうと思えば、姿を消したルルーのことを見つけ出すことは容易だろう。ルルーに試練
を課したマスクド校長とサタンの間には、交流のようなものもあるらしい。生徒が行方不
明になれば、捜索協力の要請も行くかもしれない。なんとか持ちこたえていれば、ひょっ
としたら――
「いいや、来ない」
「な……っ!」
「正確には、来られなくなる、という方が正しいかな」
「……サタンさまに、出来ないことなんてないわ」
「人を探すときは、残滓を辿っていくか固有の気配を探るかどちらかだ。大抵は前者を試
してから後者に移る。さて……ここはあなたが訪れた館とは違う私の別宅でね。容易に探
り当てることはできない。加えて『気配』だが……あなたの気配そのものが変わってしま
ったら、さしもの『サタンさま』にも見つけ出すことはできないだろう」
「『気配』が……変わる?」

「そうだ。これからあなたは、私のモノになるのだからな!」

 ルルーの身体に、一瞬にして鳥肌が走った。

 伯爵の――吸血鬼の「モノ」に、なるということ。

「い……イヤ……」
 無意識のうちに、ルルーはじりじりと後じさった。ベッドの上にはスペースは無く、す
ぐに逃げ場所は無くなる。怯えが微かににじみ出したルルーの表情を見て、伯爵はサディ
スティックな笑みを浮かべた。

「そうだ。君は『君』ではなくなる。『私の君』になってしまうのだよ」

 伯爵はベッドの上に乗り、ルルーに近づいていく。
「イヤよ……来ないで!」
「レディの頼みは聞いてあげたいが、そういうわけにもいかないのでね」
「この……っ!」
 伯爵を蹴り落とそうと動いた足は、簡単に掴まれ防がれてしまった。ルルーのその白い
足に、伯爵は舌を這わせる。
「ひ……っ いや、気持ち悪……!」
「綺麗な足だ」
 褒められたところで少しも嬉しくない。身体全部を使って暴れ回ろうとしたのだが、足
をぐいと下に引かれ背中が壁から離れ、そのままのし掛かられて身動きが取れなくなって
しまった。
 伯爵はルルーの上に覆い被さっている。右の手のひらは、スリットの隙間から足を撫で
回している。
「いや、いやよ! どきなさい! どいてよっ!」
 暴れても、本調子ではないルルーの力では、伯爵の胸板一つ動かせない。体力の消費に
なるだけとはわかっていても、抵抗をやめることはできなかった。
 伯爵はルルーの首元に顔を寄せ、水晶色の髪をかきあげながら、整った耳朶に言葉を吹
き込む。
「髪も美しいな」
「さわんないでっ!」
「これから私のモノになるのだ、全てを知っておかなくては」
「な、なに……っ」
 髪がかきあげられ、首筋に鋭いものが押し当てられる感触がして――

 ずぶりと。

「いやっ いやああああっ!」
 血が吸われる嫌悪感に、ルルーは叫ぶ。
「ふ……ははははは! これはいい。別格の美味さだ!」

 身体の力がどんどん抜けていく。悲鳴もか細くなり、視界がぐらぐらしてきたところで、
ようやく伯爵は首筋から牙を離した。
「……危ない危ない。全部吸い尽くしてしまうところだった。処女の生き血はもともと御
馳走ではあるが、私が保証してあげよう、あなたのは天下一品だ」
「……かってな、こと、ばっかり……!」
 血を吸われることで吸血鬼になるのではない。バンパイアが「選び」、血を吸い尽くす
ことで、獲物はバンパイアに成り果てる。どうやら伯爵は、ルルーの血を吸い尽くすつも
りはないらしい。ではどういうつもりなのだろうと窺うと、伯爵は応える。
「バンパイアになってしまえば血の味は落ちる。私はあなたをできるだけ損なわないで手
に入れたい」
「じゃあ、私をどうするつもりなのよ!」
「毎晩毎夜の晩餐のためのオモチャさ。なに、心配しなくていい。完全なバンパイアにな
らずとも、私が望めば不老不死の片鱗は手に入る。あなたは老いず美しいまま、私に食べ
られていればいい」
「そんな備蓄食糧みたいな扱い、絶対イヤよっ」
 怒りと恐怖がないまぜになって、力の抜けた身体を再び動かす。けれどその抵抗も、伯
爵にはまったく通用しない。伯爵はあくまで優しくルルーの身体の線をなぞっていく。そ
のどれもが不快でたまらない。
「備蓄食糧? もっと色気のある言い方を選べないのかね。あなたは私の食欲も性欲も満
たしてくれる、最高のパートナーさ」
「――もっと最悪じゃない」
 もしかしたら延々と血を吸われるだけで済むのかもしれないと、そう抱いていた微かな
希望も、今の伯爵の台詞で打ち砕かれてしまった。伯爵は「そのつもり」なのだ。現に撫
でさする手つきも、首を舐めるのも、そういう意図しか感じられない。

 そんなのは嫌だ。
 血を吸われるのも嫌だが、伯爵に犯されることなど、考えただけで吐き気がする。

 ふと、ルルーの脳裏にさきほどの台詞がよぎった。処女の血――伯爵は処女の血が美味
だと言った。もし行為が終わったら、ルルーは「そう」ではなくなってしまう。彼の言う、
極上の血が失われてしまうのではないだろうか。
 思いついた、突破口のように思えるそれに、ルルーは必死でしがみついた。
「ね、ねえ」
「……なんだい?」
「もし、そういうことをしちゃったら……私の血が、まずくなるんでしょ? だったら、
しない方が……いいんじゃないの?」
「…………」
 伯爵はほんの少し沈黙して――盛大に吹き出した。
「な、なによ!」
「つまりあなたが言いたいのは、美味しい血が飲みたければ抱くなと?」
 その通りではあるが、頷きたくはなかった。なんとなく、血を飲まれることを容認して
いるような表現だったからだ。うつむき答えないでいると、伯爵の紅い瞳がルルーを覗き
こんだ。
「あなたの言うとおりだ。確かに人間の男と姦通した女の血などまずくて飲めたものでは
ない」
「だ、だったら!」
「『人間の男と』と言っただろう?」
「……!」
「わかったかね? 私達によって散らされた花は変わらず美しいままだ。それに――処女
を抱くのは、何もかもが美味だ。悲鳴も甘く、破瓜の血や愛液と精液の混合物などは馳走
中の馳走だよ」
「や……やめて……!」
 伯爵はルルーを怯えさせるために、わざと直截的で具体的な言葉を選んでいる。わかっ
てはいても、伯爵の言葉はルルーに、これから自分がされることを想像させた。


「どのように犯されたい? あなたが私を受け入れるのなら無条件の幸福を保証しよう。
手始めに――では、口づけでもしようか」
「――はっ。死んだってごめんだわ」
「……残念だ。では当初の通り行くとしよう」
 伯爵は指先をスリットの更に奥、ルルーの足の間まで伸ばした。下着の上から撫でるよ
うにして触れる。割れ目と突起があるであろう場所を中心に、何度も何度も往復させる。
「さ、さわんないで……いやだ、気持ち悪い、いやあ……」
 生理的に浮かんだ目尻の涙を舐め取り、伯爵は心底美味しそうに喉を鳴らす。
「泣いても私を悦ばすだけだよ、ルルーくん。もっとも、今のあなたは何をしても私を悦
ばせてしまうのだがね」
「いや、いやあ、やあ……!」
「『嫌』? ……そうか、違うところがいいのだな。すまなかったな」
 ずっと首を撫でていた左手を、伯爵はゆっくりと、肌の上を這うようにして、胸のとこ
ろまで動かす。胸は布に囲まれてはいるが、下着はつけていないし、そもそも胸元が開き
すぎていてあまり布が意味を為していない。
 ぐっと布を引き下ろすと、大きな乳房がぷるんと顕わになった。白い丘の上にある乳首
は、すでにかたく尖り始めている。
「おや。焦らしてしまったか」
「ちがう、ちがうの……あんっ!」
 ルルーの否定を聞き終わる前に、伯爵は右の乳首にしゃぶりついた。左手は乳房を激し
く揉みしだき、ルルーが苦痛の声を上げると優しくしてくる。下をいじる指先も、撫でる
だけだったのがだんだん遠慮がなくなり、少し尖った爪で突起をぐりぐりと刺激する。
「いや! やあ…… あ、いやあ ああっ、あああっ、ふ……いやんっ」
「イイ声だ。気持ちがいいなら、もっときちんと声を上げなさい」
「だ……れが、あんたに触られて感じるって……言うのよ、…あっ!」
「君だよ、お嬢さん」
「違う… ちがうの、あ、あああっ」
「私は触っているだけだよ。こんなに反応がいいのは、君の問題だ。この分だと、しょっ
ちゅう自分を慰めているのだろう」
「! ち、ちが……」
「違わない。少しくらいは正直になったらどうだね? ここはこんなに素直になって来た
というのに」

 くちゅり。
 伯爵の指先がルルーの中に沈んだ、濡れた音が確かに響く。

「う…うそよ。こんなの、うそ」

 くちゅ、くちゅ、くちゅ。

 呆然としたルルーの声を嘲笑うように、みだらな音は伯爵の指の動きに伴って容易く漏
れる。 
「君が淫乱でも私は責めはしない。『サタンさま』のことを想いながら何度も慰めたのだ
ろう? 昂ぶる自分を沈めるためか、いつかの日のためにか――健気なことだ」
「ちがうって、いってるのに………っ」
 反論の声はルルーらしくなく弱々しい。それは肯定しているも同じだった。全て伯爵の
言うとおり、ルルーはよく自身を慰めていた。愛しい人の名前を呼びながら、愛しい人に
触られているつもりで、何度も何度も一人で達した。快感を知ってしまった身体は、心と
はかけ離れて動くモノなのだろうか。伯爵の指先はルルーの弱いところをピンポイントで
刺激する。くちゅ、という濡れた音は、ぐちゅ、と更に粘度を増していく。

(こんなに、憎いのに……!)


431 :5:2009/06/14(日) 03:33:57 ID:OGhLb51t

 ルルーの気持ちを無視して、ルルーの身体は蕩けていく。
「こんな状態だというのに君のここは刺激を貪欲に求めている。わかっているのか、お嬢
さん。今君を抱こうとしているのは愛しの『サタンさま』ではなく、憎い『伯爵』なのだ
よ?」
「サタンさまと、あんたを、一緒にするもんですか……っ!」
「ああ、なるほど」
 伯爵はにやりと笑った。

「誰だっていいのか」

「――――!」
 横っ面をひっ叩こうとして、反射的に思い切り動いた腕は、けれどあっさりと捉えられ
る。
 怒りに朱く染まるルルーを見つめながら、伯爵は捕らえたその手の指先を口に含んだ。
「あう…んっ、な、や ……ぁん、んはぁ……」
「先ほどの元気はどうした?」
「やめて……なめないで、んあ、ふぁん」
「『もっとして』と言っているようにしか聞こえんよ」
 苦笑さえしながら、伯爵はちゅば、と音を立ててルルーの指を解放した。ルルーの息は
ひどく荒い。きつく伯爵を睨め付けていた怜悧な瞳も、どこかぼんやりしてしまっている。
「どこも敏感なのだな」
「ちがう、ちがう…ちがうのに…」
 ふるふると首を振りながら、弱々しく否定を続けるルルーは、いつもより幼く見えて伯
爵の嗜虐心をそそった。
「敏感ではないと?」
「あんたに触られるのなんて気持ち悪いのよ! 離して! 帰してよ!」
「気持ち悪い、ねえ」
 伯爵は身体の位置を変える。スリットの部分をまくりあげ、ルルーの下半身をむき出し
にさせた。薄い布に囲まれたそこは、発情した匂いを放っていた。
「びしょびしょじゃないか」
「あ…いや、やめて…っ」
「シミまで作って」
「言わないで、いや、もうやだぁ…」
「これはもう使えないね」
 伯爵は鋭い爪で下着を切り裂いていく。わざとゆっくり、音を立てながら。ただの濡れ
た布になってしまった下着をひらひらさせながら、楽しそうにルルーに問いかける。
「あなたも見るかい? この布、凄いことになっているけど」
「……見たくないわ……っ」
「そう。まあ、自分が一番よくわかることだろうな」
 布を投げ捨て、ルルーの足を開かせる。閉じようと必死に足に力をこめても、押さえつ
けられてしまって閉じることができない。誰にも見せたことのないそこを曝されて、ル
ルーは羞恥に涙ぐんだ。
「いいね。ぬるぬるでとろとろだ」
「あ、あ あぁ 見ないで…!」
「こんなにひくひくして。物欲しそうだ」
「ひっ あ、ああ、そこで、喋らないで…」
「息がかかって感じるのか。ではもっとお互いに楽しくなろう」
 伯爵は――ルルーの秘部に、舌を這わせた。
「!!!」
「くくく……甘くて非常に美味だ。舐め尽くしてしまうのが勿体ない」
「あ、ああ あんっ、ふぅ、んあああ!」
 ぴちゃぴちゃと、犬がミルクを舐めるような水音と、ルルーの甘い悲鳴が響く。舐めて
も舐めてもとろとろと蜜をこぼれおちさせる身体に、伯爵は喉を潤していく。
「舐め尽くす、などは杞憂だったな。舐めても舐めても増えていくばかりだ」
「もういや……助けて……っ」
「辛いか? なら楽にしてあげよう」


「え――ひ、あああああああッ!」
 伯爵の舌が、ぷくりと尖った肉芽を捕らえる。口の中に含んで、激しく転がす。跳ねる
ルルーの腰を押さえつけて、敏感な芽を弄ぶ。
「いやあ! やああ! ああああッ!!」
 悲鳴のような嬌声で耳を楽しませ、そして最後に、軽く甘噛みした。

「――――んああああッ!」

 ルルーの身体に力が入り、ゆっくりと抜けていく。脱力した身体からは汗が噴き出し、
甘い匂いが部屋中に漂う。
 伯爵は恋人にするように優しくルルーの頭を撫でる。ルルーは不快さに顔を歪めたが、
その手を振り払う力はどこにも残っていなかった。
「感じやすい上にイキやすいなんて、本当に極上の身体だな」
「黙って……黙りなさい……!」
「いいから黙ってことを進めろと? まったく、うちのお姫様は我が侭だ」
 伯爵はルルーに見せつけるようにしてペニスを取り出す。大きく赤黒く、どくどくと脈
打つそれは、ルルーの恐怖を呼び覚ました。

 こんなのに貫かれたら――死んでしまう。

「いや! 離しなさい! 助けて! たすけてえっ!」
 再び暴れ出し始めたルルーを伯爵は嘲笑う。
「いい加減諦めたらどうかね。私はあなたを悦ばせ、あなたは私を愉しませる。我々は良
いパートナーになれる」
「私はサタンさまのものなの!」

「いいや、もう私のモノだ」

 伯爵はルルーの足を頭の方へとひっくり返し、ルルーの頭を秘部が見えるように少し起
こさせた。そして低い声で囁く。
「見えるだろう? 自分がどんなに物欲しそうになっているか」
「見えないわ……っ」

「見るんだ、お嬢さん。『サタンさま』のために大事に守ってきた純潔が、憎い男に散ら
される様をな!」

 ルルーの視界が涙で滲む。はじめては大好きな人とがいい、とずっと夢見てきた。大好
きな人のモノになれる日をずっとずっと待っていた。
 それなのに現実は、大っ嫌いな男のグロテスクな性器が、自分のそこに押し当てられて
いる。

(こんなの……ウソよ)

 伯爵の笑い声が耳に届く。
「押し当てているだけなのに、あなたのは早く欲しいとひくついている。本当にいやらし
い身体だ。血を飲んでいなければ処女かどうかも疑わしいところだね」
「最っ低…!」
「私は事実を言っているまでさ。あなたの身体は――本当にどこもかしこも美味しそうだ。
それではメインディッシュを頂くとしよう」
 押し当てられたそこに、ぐっと力が入る。
 中に入ろうとするそれに、ルルーは震えた。


「ひ……いや、助けて、サタンさま、たすけて、サタンさま、――あああああああッ!!!」

 最初は重みと圧迫感。
 一拍後に、抉られ削られるような、鋭い痛み。

「いやあああ! 抜いて! 抜いてよお!!!」
「まだ半分も入っていないぞ。我慢しなさい」
 ずりゅずりゅと、ペニスはルルーのなかを犯していく。
「いやあ! たすけて!! サタンさま! サタンさま!」
「――ほら、下を見たまえ」
「え……」
 声を掛けられ、反射的に従ってしまう。
 視界に飛び込んできたのは、

 ――伯爵のペニスを呑み込む、自分の性器。

「ひっ………!!」
「全部入った。狭かったが、ぬるぬるだったからどんどん中に進めたぞ。あなたの身体は
本当に協力的だな」
「う…うそよ…」
 こんなに拒んでいるのに。こんなに気持ち悪いのに。身体は想像以上にあっさり受け入
れている。蜜は相手の動きを助け、筋肉の収縮は追い出す方ではなく受け入れる方に動く。

 こんなのは嘘だ。

「いい顔だ。絶望と快楽ほど、人を美しくさせるものはない。さて、動くよ」
「! やめて、抜いて! おねがい!」
「もしあなたが痛みで泣き叫ぶようだったら小休止を挟んでもよかったのだが。大歓迎さ
れてしまっては、最後までやってあげなければ失礼というものだろう」
「……っ」
 ルルーは涙を堪える。悔しくて悔しくてしょうがなかった。伯爵の言葉が正しいことが、
悔しくてしょうがなかった。確かに痛みはある。あるけれど、最初に入ってきたときが痛
かったのが一番で、奥まで入ってしまった今、身体は異物は受け入れてしまっている。押
し広げられている圧迫感と、入り口のじんじんとした痛みと、精神的な嫌悪感から来る吐
き気はあるけれど――それだけだ。噂に聞くような激痛は、全く存在しなかった。
「……ふふ。私達は、案外非常に相性がいいのかもしれないな」
「なによ、それ…あり得ないわ、ふぁんっ!」
「――ほら。少し動いただけでそんな声を上げて。まあ…あなたが気持ちいいのなら嬉し
いよ。私も本当に気持ちがいい」
 伯爵が腰を引く。ルルーの中は、出て行かないでとねだるように伯爵のペニスに絡みつ
いてしまう。摩擦は苦痛よりも、明らかに快楽に近かった。
 ずりゅずりゅずりゅ。
「う、ああ、……ああん、あああっ」
 中に残るのは亀頭だけ、というところまで抜いてから、
「あ、……あ」
 ――また奥まで突き上げる。
「ああああああッ!」
「見えただろう? あなたのここは、簡単に私を呑み込む」
「いやあ! いやよ! うそ!!」
「……ならあなたが信じるまで、何度だってやってあげよう」
 ゆっくりと腰を引き、鋭く打ち付ける。
 何度繰り返しても、ルルーの身体は、伯爵に少しだって逆らわない。抜かないでと求め、
満たされることに歓喜する。ゆっくりと繰り返されたその動きはだんだんと速くなり、身
体と身体がぶつかるぱんぱんという乾いた音と、ぐちゃぐちゃと卑猥にこぼれる水音、ひ
っきりなしのルルーの嬌声が部屋の中に響き渡る。


「『イイ』かい、お嬢さん?」
「いいわけ、ないでしょ……あぁ んあっ んああああっ、ああ、あああっ」
「ふふふ。まあ、素直でないあなたも可愛いよ。……ナカでイッたことはないね?」
「なに、言ってんのよ……ッ」

「なるほど、まだか。ではあなたの初めてを更に頂くとしよう」

 力なく開いていた両足を肩にかけて、伯爵が再び奥まで入ってくる。しかし先ほどまで
散々突かれていた場所で止まることなく――さらに奥まで突き上げた。
「ひあああああっ!」
「ふっ……本当にいい締め付けだ」
 激しく打ち付けるのではなく、優しく、けれど力強くなかで動く。
「あ……いや、これ、いや……!」
 さっきまでまた種類の異なる刺激に、ルルーの声は震える。
「いや? さっきからイヤイヤばかりだな。こんなにドロドロで、嬉しそうに私を締め付
けてくるのに――ほら、また」
「私じゃない…私じゃないの……いや…あ、これ、やめて…」
 恥骨が擦れ合うほど近く、身体と身体を完全に密着させたまま、男の性器だけがぐりぐ
りと奥の奥を刺激する。身体の全てを埋め尽くされていると思うくらい、深いところでル
ルーを圧迫する。

 身体が、熱い。

「おねがい……これ、変なの……! これは、いやあ……っ」
 完全に融かされた身体の、なけなしの何かが、必死に警告する。このままではダメにな
ってしまう。戻ってこれなくなる、そう警鐘を鳴らす。
 せっぱ詰まったルルーの声に、伯爵は片眉を上げた。
「変? どんな風に変なのか言ってみたまえ」
「あつ…あついの。あつくて、おかしく、なっちゃ……いやあ! もうぐりぐりしないで
ぇっ!」
「おかしくなってしまっていいのだよ。あなたのすべては、私のモノなのだから」

「ああああ、あああっ! あああ! いやああ! あああ――なんかくるっ! いやああ
ああああッ!」

 目を開けているのに何も見えない。
 目の前が真っ白になって、頭の中がどろどろになって、なにも考えられなくなる。
 今まで味わったことのない深い感覚に、ルルーは放り投げ出された。
 波は大きく、引いてくれない。
「くっ……!」
 ルルーの身体はきつく伯爵を締め付ける。どこまでも熱く、融けて、狭い膣内で、伯爵
は射精感を堪える。奥へと誘おうとする膣壁に逆らい、腰を引く。
 それだけの摩擦で、

「あああああッ!」

 ルルーは再びイッてしまう。先ほどまでの抽挿とは全く質の異なる刺激は、ルルーに逃
げることを許さない。
 伯爵の身体の少しの動きでさえ敏感に拾い上げ、腰に添えられた手でさえ達してしまい
そうな快感になる。



「いやあああ! あああッ! あ あぁぁ、ひああッ!!」

 泣き叫んでいるような嬌声を上げながらルルーはイキ続ける。瞳からは理性が消え、口
はだらしなく開かれて、涎と嬌声をだらしなく漏らす。
 伯爵はルルーの痴態に唇を歪めて笑った。
 腰を動かしながら耳元で、優しく、小さな子供に言い聞かせるように囁く。
「そろそろ私もイカせてもらうよ」
「――え」
 瞳にわずか、理性の光がちらつく。
「お互いこんなに気持ちよくなれたご褒美だ。一番奥に出してあげよう」
「あ――――」
 ルルーの真っ白な思考の中で、その言葉は緩慢に理解された。

 だめだ。
 それだけは、許してはだめだ。
 そんなことになったら、本当にバンパイアのモノに――

 身体は快楽に溺れきったまま、心にだけ理性が戻ってくる。

 ――それがルルーの不幸だった。

「いや! いやよ! やめてええ! 助けて!! 助けて、サタンさ」

 最愛の人の名を呼び終わるよりも早く。

「これで本当に――私のモノだッ!」

 一番奥まで犯されて、これ以上行きようのない深さで。
 びゅるびゅると――伯爵の精液が吐き出される。

「い――――いやああああああッ!」

 どくどくと脈打ち、身体の中でなにか熱いモノが広がっていく感覚にも、
 びくびくと痙攣しながら膣のなかで跳ねる性器の動きにも、
 射精しながらもぐりぐりと腰を押しつけてくる伯爵にも、
 意識を飛ばしそうなほどの快感をルルーは感じた。 
 上げられた悲鳴は、恐怖の叫びと、嬌声の混合物だった。
 全てを出し終わっても、伯爵はルルーの中から出ていこうとしない。快感と絶望で虚ろ
な瞳をしたルルーに、愉悦に満ちた声で告げる。
「これで『サタンさま』も、あなたを捜し出すことはできない。こんなに美しく穢れたあ
なたを、私以外には誰も知らないからね」
「………うあ」
 睦言のようなその言葉は、ルルーにとっては死刑宣告にすぎない。中にたっぷりと注ぎ
込まれた伯爵の精液と精気は、毒のようにルルーの全てを浸食していく。異物だったもの
が異物でなくなる感覚。何かを無理矢理受け入れさせられ、作り替えられていく感覚に、
ルルーはひたすら嘔吐感を覚える。何かが変わってしまおうとしている。何かわからない
けれど、ひどく大切なものが。
 汗で濡れたルルーの首筋に鼻を当て、伯爵は幸せそうに呟く。
「僅かだが――私と同じ匂いがする」
「助けて……たすけて、サタンさま……たすけて…」
「……おや」
 受け入れたくない現実に、うわごとを紡ぎ続けるルルーに、伯爵は呆れの表情を向けた。
終わった後もきゅうきゅうと締め付けてくるルルーの膣に硬さをほとんど取り戻した性器
を、ずりゅずりゅ抜く。
 ずっと奥まで埋めていたものを失ったルルーの下の口は、ひどく切なそうにひくひくと
動く。もっと欲しいと、物欲しげにねだる。伯爵の性器は、白く泡だったルルーの愛液に
まみれている。
 どこまでもうつろに、ルルーはそれを見た。


436 :10:2009/06/14(日) 03:40:00 ID:OGhLb51t

(こんなの……うそ)

 何もかも悪い夢だった。伯爵に敗れたことも、初めてを奪われたことも、悦んでしまっ
たことも、何から何まで犯されたことも、みんなみんな悪い夢。本当の自分は今頃サタン
の城にでもいて、客間のどこかでこの悪夢にうなされているのだ。サタンはそんな自分を
心配してくれて、手だって握ってくれているかもしれない。

(そうよ……こんなの、現実じゃないわ…)

 思えば思うほど、それはもっともじみているように感じられた。

「――――サタンさま。……サタンさま、サタンさまぁ……」

 何度も名前を呼ぶ。そうしていれば、この悪夢から覚められるのだと、そう信じている
かのように。
 ルルーは抵抗しない。ただ虚空を見つめている。それをいいことに伯爵はルルーの秘部
から溢れる愛液を飲み干していく。精液は一番奥に注ぎ込まれたせいか、かなりの量だと
いうのに逆流してこない。何度も何度も、イキ続けたルルーの愛液は、伯爵の舌を愉しま
せた。全身の汗も舐め取る。一カ所だって、美味でないところはなかった。
「はじめての味はあらかた味わい尽くしたな。では――これからの味見と行こう」
 伯爵の牙がルルーの首に突き立てられる。噛まれて、血を吸われているというのに、ル
ルーは軽いうめきごえしか上げなかった。味見程度に吸い、すぐに離す。
「こちらは相変わらず良い。本当に最高の食料だ。あちらも教え込んでいけば更に私好み
になる」
 いつものルルーなら烈火のごとく怒り狂っているはずだ。ふざけるな、あんたなんか、
とがなり立てていたかもしれない。けれど今のルルーは、ただ、サタンの名前を繰り返す
だけだった。

「『サタンさま』ね」

 虚空を見つめるだけだったルルーの瞳が、サタンの名に反応して伯爵の方へと向かう。
伯爵はルルーを見つめながら続けた。
「そうやって呼んでいれば、いつか助けが来ると?」
「サタンさま、サタンさま……」
「何度も言うがね。君の愛する人は来ないよ」
「サタンさま……」
「でも――私はあなたを傷つけたくなかったからね。さっきは嘘を言った」
「……?」
 不思議そうに、ルルーが伯爵を見る。夢に逃れようとする少女に、伯爵は残虐に告げて
やる。

「あなたを、彼が、探しにきてくれるとでも?」

「――え」
「あなたのことはなんでも知っているよ。彼のことを何年も追いかけて、愛し続けて……
なのに彼は、一向に振り向いてくれない。それどころか他のぽっと出の女にうつつを抜か
している始末だ」
「あ……」
「あなたの愛情は、疎まれ、鬱陶しがられ、拒否されている」
「違……っ」
「違わないのはあなたが一番よく知っているだろう、お嬢さん」
「…………!」
「彼にとってあなたはいてもいなくても変わらない存在だ。むしろ迷惑で、邪魔ですらあ
る。そんなあなたがいなくなったところで、彼が探しに来て、助けてくれるとでも?」
「――――」
 そうに決まっている、と言い切ってやりたかった。けれど――


「答えはノーだ」

 伯爵の言葉に反論する術を、ルルーは持たない。徐々に迫ってくる現実がルルーの心を
蝕んでいく。これは悪夢なんかじゃなくて、本当のことだと。自分は伯爵に敗れ、初めて
を奪われ、悦び、何から何まで犯された。そしてサタンは助けに来ない。
「それに」
 呆然としたルルーの足を開き、伯爵は再び挿入していく。まだ乾いていないルルーのそ
こは、やはり容易に伯爵を呑み込んだ。ずんっと押し上げられると、唇から甘い声が漏れ
る。
 伯爵は低く笑った。

「第一……憎んでいた男にこんなに簡単に身体を許して、あっけなくイッて、今だって喘
いでよがっている淫乱な女が――愛されるわけがないだろう?」

「…………!!」
 抽挿が繰り返される結合部分からは、濡れた音がすぐに聞こえ出す。どんなに堪えよう
としても、甲高い不快な声は途切れてくれない。

(こんなに汚れた私を、あの方が助けに来てくれるわけがない……!)

「そうだ、私のルルー。あなたはこんなに淫乱で、こんなにいやらしく、指の先から足の
先まで私のモノだ…」
 ねっとりと囁きながら、傷ついたルルーの瞳を伯爵は見つめる。

 紅い瞳が――ぬらりと光った。

「なあ、お嬢さん。あなたは何年も一人を愛し続け、その人に全てを捧げるために自分を
磨いてきた。そうだろう?」
 瞳から目が離せないまま、ルルーは子供のようにこくりと頷く。
「その人のためなら全てを捧げてもいい。あなたのすべてはその人のために存在している。
身体も、心も、純潔も、その人生もすべて」
「そう…よ」
 ルルーはずっと、その人に出会ったそのときから、その人のモノだった。
「そうか。それでは聞くが――『その人』とは、一体誰だ?」
「そんなの、決まってるじゃない、――」
 紅い瞳が、ルルーを捕らえる。

「ひょっとしてそれは、私ではなかったかね?」

「…………え?」
 血のように濡れる深紅の瞳。それは確かに――
「あなたは私に出会い、それからずっと私のモノだった。離れていた二年間自分を磨き、
ようやく得た再会のチャンスにあなたは飛びついた。私に会えると、喜んで城に来た」
「………」

 紅い瞳は、ルルーを離さない。

「ようやく再会した私とあなたは、その日のうちに結ばれる。あなたが大事にとっておい
た純潔は、無事に私に捧げることができた。あなたは愛する男に抱かれて、深く深く悦ん
だ」
「…………」
「そして今も」
「ふ、んああっ!」
「――こうして、少し突き上げられるだけで喘いでしまう。それは相手が愛おしい相手だ
からだ。身体よりも心が悦んでいるからだ」
「あ………」

(そうだわ――私の愛する人は、たしかに紅い瞳だった)


438 :12:2009/06/14(日) 03:41:16 ID:OGhLb51t

「どんなに淫乱でも、私はあなたを受け入れる。なぜならあなたが私を愛していることを
知っているし、私もあなたを愛しているから」

(……ちがう! 私が愛しているのは、■■■さまで――)

 初めて会ったとき、強くて素晴らしい方だと思った。
 この人しかいないと思った。
 この人のモノになりたいと願った、その相手は――
「もう一度聞こう。あなたが愛しているのは、誰だね?」

 紅い瞳が――妖しく光る。

「あたくしが……あいしているのは……」

(強くて、誰よりも素敵な■■■さまで)

 くちゅくちゅ水音がする。こうやって問いかけている最中でも、伯爵が腰を動かしてい
るからだ。思考はどろどろとろけていき、もっと奥まで欲しい、もっと突いて欲しいと、
そんなことくらいしか考えられなくなってくる。
 気持ちよくなりたい。伯爵は、最高の快楽をルルーにもたらす。
 伯爵だけが、ルルーを求め、ルルーに与えてくれる。

(――そうよ)

 白く濁る思考の中でルルーは結論に至る。

(こんなに気持ちいいのは、あたくしが、この方を……)

「ルルーくん?」
「あたくしが、愛しているのは……」
 ルルーは濡れた声で囁く。


「あなたです、伯爵さま」


 伯爵のペニスをしっかり呑み込みながら、ルルーは愛の言葉を告げる。その瞳には、し
っかりとした理性が灯っていた。ルルーは心から伯爵を愛している。ずっとずっと求めて
いたものが、こうして与えられている。

 テンプテーション。
 吸血鬼の瞳が持つ魅了の力。
 心を守る壁がなければ、その力はなにもかもを支配下に置く。

 ルルーのうっとりとした目線に微笑みながら、伯爵は優しく言った。
「やはりそうだったか――では、順序を間違えてしまったな」
「順序、ですか?」
「ああ。口づけも交わさないまま、こうしてあなたと結ばれてしまった」
「……あ」
 ルルーは頬を朱く染め、恥じらう素振りを見せる。
「ルルーくん。今更と思うかも知れないが、――キスをしては、くれないだろうか」
「伯爵さま……!」


 繋がったまま、伯爵はルルーに顔を近づける。ルルーは少しの間躊躇ったが、自分から
伯爵の唇に己のそれを重ねた。
 震える、触れるだけの、優しいキス。
 それだけで離れていこうとするルルーを止める。
「もっとだ、ルルーくん」
「も、もっと、ですか…?」
「そうだ。もっとあなたを味わいたい」
「あ――は、はい。私でよかったら…いくらでも、召し上がってください…」
 ルルーは伯爵に再び口づける。柔らかいくちびるは舌で突かれることでおずおずと開き、
愛しい人の舌を受け入れた。にゅるにゅると舌と舌が絡み合う。伯爵が唾液を送り込み、
ルルーは抵抗なくそれを呑み込んだ。
「……あ……」
「口づけはお気に召したかね?」
「はい……伯爵さまに、キスをしてもらえる日が来るなんて。ルルーは幸せものですわ」
「あなたが望むのなら、いつだってしてあげよう」
「伯爵さまぁ……」
 媚びを含みさえする甘い声が、ルルーの唇から漏れた。もう一度伯爵から唇を重ねると、
今度はルルーの方から舌を絡めてくる。伯爵はその舌をきゅうと吸い上げた。
「んあっ…!」
「気持ちいいかい、ルルーくん。いまあなたのここが、私を締め上げた」
「あう…はしたなくて、すみませ……っ」
 真っ赤になって俯くルルーを突き上げて、「ああんっ!」声を上げさせてから、耳元で
囁く。
「何を謝ることがある。あなたが私を愛している証拠だ。喜びこそすれ、怒りなど感じな
いよ」
「……伯爵さまは」
「なんだね?」
「伯爵さまは、ルルーとこうしていて、気持ちが…いいですか?」
「――もちろんだとも。私のために作られたかのように、あなたは私を咥えこむ。いやら
しくて可愛くて仕方がない。ずっとこうしていたいくらいだ」
「ルルーは、あなた様のために作られたのですわ…」
 とろりととろけた瞳で、ルルーは幸せそうに宣言する。

「お好きなように使ってくださいませ。ルルーは――あなたのモノです」

「――ルルー。私はあなたが愛しいよ。愚かで憐れで、どこまでも可愛らしい」
 ルルーに聞こえないくらいに小さく、愉悦と嗜虐に満ちた呟きを落としながら、伯爵は
自身とルルーの身体の位置を入れ替えさせる。すなわち、伯爵が下で、ルルーが上。つな
がっていた性器は離れてしまい、ルルーはさみしくなってしまう。
「は、伯爵さま……?」
「さっきは私があなたをイカせた。今度はあなたの番だ」
「え……」
 不安と期待の入り交じった視線を受け止めて、伯爵は淫らに告げる。
「あなたが動きなさい」
「――……はい、伯爵さま」
 こわい。どうしていいのかわからない。なにより恥ずかしい。
 けれど、大好きな人が求めてくれるから、自分はやらなくてはならない。
 ルルーは伯爵の上に跨る。硬く勃ちあがるペニスに膣口をあてがい、ずるずると腰を下
ろしていく。
「ん……あっ、あああっ、伯爵さまのが、入ってくるぅ……っ」
 けれどさっきまでとは違う。さっきまでは入れてもらっていたのが、今はいれさせても
らっている。こんなに気持ちいいことを、許してもらっている。

 それはルルーが伯爵に愛されているからだ。伯爵を愛しているからだ。

 ルルーのなかはやわらかく形を変え伯爵のペニスを咥える。根本までしっかり呑み込ん
で、ルルーは甘い息を吐いた。
「ああん……あつい……っ」
「あなたのなかもとてもあついよ」
「う、動きます、ねっ」
 伯爵をもっと気持ちよくしてあげたい。自分が気持ちよくなるよりも、もっと気持ちよ
くなってほしい。
 その一心で、拙いながらもルルーは一生懸命腰を振る。胸板に手をついて支えるように
して、上下に激しく動く。
 ずちゅっ ぐちゅっ じゅばっ!
 肉と肉が擦れ合い、愛液が絡みつく音が、ルルーの耳には届く。それは自分が伯爵を受
け入れられている安心感に繋がった。
「ああ、ああ、いやあっ……気持ち、気持ち、いい……っ!」
 伯爵の身体の上でルルーは跳ねる。豊満な胸がぷるぷると揺れ、その先の乳首は誰にも
触られていないのにかたく尖っている。
 伯爵はその乳首に手を伸ばし、爪先でひっかいた。

「ひぃやぁっ! あ、ああああ、うそ、いっちゃ――あああああッ!」

 まったく無防備なその責めに、身体は突然に高みまで引き戻される。
「……だらしない。私をイカせてくれるのではなかったのかね?」
「ご……ごめんなさ、ごめんなさい、ごめんなさい、んあッ」
 謝罪の声も、下から突き上げられて途中で嬌声に変わる。失態を犯したことによる申し
訳なさで眉をハの字に下げ、そのうえ与えられた快楽に眉を寄せ必死でこらえるその姿は、
ひどく淫らで艶めかしい。
「……あなたは本当に反省しているのかな」
「し、してます! 伯爵さまを、いっぱい、気持ちよくしてあげたいですっ!」
「――本当に?」
 達しそうになるのを必死で我慢しながら、一生懸命上下に身体を揺らすルルーの、白い
尻を伯爵は叩いた。

 ぱん!
「んああああッ!」

 やたらと音が高く鳴るだけで、痛みは少ない。いたずらをした小さな子供のように尻を
叩かれた事実が、ルルーをさらに昂ぶらせる。
「……叩かれてこんなに締めるなんて――いけない子だ」

 ぱん! ずんっ!
「ああああっ あああっ きもちいい、いい、ああん、ああ、また、おかしく、なっちゃ
う!!」

 尻を叩かれながら、下からも激しく突き上げられて、ルルーは今日何度目かもわからな
い絶頂に達した。
 きつく収縮するルルーの膣壁は、ペニスを一番奥まで導き、あつくやわらかくきつく締
め上げる。


「く……っ 出すよ、ルルー」
「あああっ! はいっ! ぜんぶ、だして、くださいっ!!」
 ルルーは奥の奥で伯爵の精を飲み込めるように、からだを深く擦りつける。ぶるりと震
える伯爵の身体を感じながら、ルルーはまたイッた。

「……ああ、いっぱい、びゅるびゅる、してる……ぜんぶ、でちゃった……」

 ルルーは嬉しそうに微笑み、呆けたように感触を楽しむ。上半身が倒れ込み、伯爵の顔
がすぐ近くにある。強くて優しくて愛おしい伯爵の顔。うっとりと見つめていると、伯爵
がまたキスをしてくれた。

 ルルーの身体の、自分ではかきだせないくらい深いところに、伯爵の熱さが広がってい
る。だんだんと硬度を取り戻しつつある伯爵の性器は、ルルーの細胞の隙間を完全に満た
す。全身に染み渡るとろけた感覚。重なる唇。交わる吐息。ルルーの血は伯爵にとって美
味になり、ルルーの身体も伯爵を満足させられる。

(……ああ)

 ルルーは胸の中に広がる感情の名前を知っていた。
「……伯爵さま」
「どうした?」

「愛しています。ずっと、お慕いしておりました」

 伯爵は満足そうに微笑んだ。

「私もあなたを愛しているよ。あなたは永遠に、私だけのモノだ」

(ああ、……幸せ)

 ルルーは伯爵の腕の中、そっと目を閉じる。
 世界で一番大好きな人と、心も体も結ばれた、その幸福感に包まれながら。




 ――――――そのあと、格闘女王ルルーの姿を見たものは誰もいない。

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