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1-739様

 ドラコは自宅で、のんびりと午後の一時を楽しんでいた。
「今日は“出勤”も無しだし……」
 ぐぐっとのびをすると、ドラコはベットに飛び込んだ。
(ん〜……でも、暇だなぁ。このまま昼寝でも……ま、たまにはこういうのもアリよね)
 ドラコが半ばうつらうつらしかけていると、ドアがノックされた。
「もうっ、何よ〜。人がせっかく……」
 ぶつぶつと言いながらも、玄関に向かったドラコ。
「誰よ、下らない用事だったら怒るわよ……あ」
 ドアを開けた先に立っていたのは──親友のハーピーであった。
 プライベートな時間を邪魔された怒りがふっと消えて、ドラコに相手を見る余裕が生まれた。
「どうしたの……?」
 ハーピーの様子がおかしい。
 一歩も入ってこようとせず、黙りこくったまま、ただ玄関先に突っ立っているだけ。
 ちょっとぼぅっとした所はあるが、基本的に朗らかな性格のハーピーだが、今はまるでこの世の終わりを目前にしたかのような様子である。
「ハーピー、何かあったの?」
 俯きがちになっていたハーピーが、はっと顔を上げた。
「ド……ドラコさん、私……」
 ぐっとそこで言葉を飲む。
「『私……』、どうしたの?」
 ドラコに促されて、つっかえつっかえ、ハーピーは言葉を吐き出す。
「わ、私……う、歌が……」
 その後に何事か呟いた彼女だが、しかし嗚咽にかき消されてドラコにはよく聞こえなかった。
「え、何?」
「私、歌がっ……歌が、うたえなくなったんです……!」
 吐き出すようにそう言って、ハーピーはわっとドラコに泣きついた。

 さめざめと泣くハーピーを宥めながら、ドラコは自宅に招き入れた。
 ドラコが用意してくれた紅茶を飲んで少し落ち着いたのか、涙をごしごしと拭ってから、ハーピーはぽつぽつと己の身に何が起きたのかを話し出した。
 それによると、五日ほど前に、彼女がいつものように森で歌の練習をしていた所、一人の魔導師に遭遇、「お前の歌は耳障りだ、奪ってくれる」と魔法を掛けられ、以来歌がうたえなくなってしまったのだという。
「私っ……どうすれば……歌がうたえないなんて、もう死ぬしか……」
 ハーピーは再び泣き出しそうになった。ドラコはすかさずフォローを入れる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。魔法が掛けられたんなら、それを解く方法はあるに決まってるよ。ねぇハーピー、その魔導師ってどんな奴だったか覚えてるでしょ?」
「えぇ……若い男の方で、銀色の髪に、碧い瞳の……」
「それだけ分かってれば探せるって! んで、其奴に魔法解いてもらおう! ね?」
「で、でも、私の歌が耳障りだって……その人……」
 どうらやハーピーは、歌声を封じられたことはさることながら、自分の歌を罵倒されたことに酷く傷つけられ、意気消沈しているようだ。
(これはまずいなぁ……ただ、封印を解けばいいってもんじゃないかも)
 ドラコは親友の危機を救うべく、あれこれと思案した。
 沈黙してしまったドラコの様子に、ハーピーは何を思ったか、
「ごめんなさい、ドラコさん……私、誰かに聞いて欲しくて……話したら楽になりました、それでは」
 と席を立ち、帰ろうとした。
 それと同時に、ドラコが大声を上げた。
「そうだ!」
「え、何がですか?」
「……うん。頼りにはなると思うから。あの人に相談してみよう、ね?」
「あの人?」
 何やらよくわからないままのハーピーを連れ立って、ドラコはその人物の元へ向かった。

「ド、ドラコさん、このお屋敷は……?」
 いつもハーピーが歌の練習場にしていたような森とは明らかに違う、鬱蒼とした木々の茂るその最奥に。
 その、古びた──むしろ年期が入ったと言うべきであろう──豪奢な館はあった。

 周囲の状況の不気味さと、館の構えに圧倒されて、自然とハーピーはドラコの背に回っていた。
「そんな怖じ気づくことないよ。雰囲気だけだから、こういうのは」
「一体、ここにいらっしゃるのはどなたなの……?」
「んー、会えるかどうかはまだ分からないし、まぁ入って入って」
 ドラコはハーピーの腕を引いて、館の正門からではなく、家の者が入るような通用口から館の中へ入っていった。
 館内も外の威容に劣らない、上品で華やかな調度で整えられていた。
 ドラコはここを熟知している様子で、別段それらに構いもせず、迷路のような廊下をすたすたと歩いていく。
 一方、ハーピーは未知の領域に足を踏み入れてしまったかのように(実際、それに近い状況ではある)
 ちょっと足を止めて周囲を見回しては、小走りでドラコの後へ従った。
「えーっと、キキーモラはどこにいるのかな……」
 ドラコは何度目かの角を曲がったところで足を止めた。ハーピーはその背に危うくぶつかりかける。
「う〜ん、今日は“非番”なんだよね、ホントは来ちゃマズかったかな?」
「ドラコさん、ここでお仕事なさってるの?」
「うん、まぁね……」
 ドラコの返事はどこか歯切れの悪いものであった。
 その会話を聞き付けたのだろう。
「おい、お前ら、何用だ!」
 廊下の真ん中で立ち止まっていた二人に声をかけたものがあった。
 黒を基調としたエプロンドレスを纏った、きつめの、しかし顔立ちは整った少女がそこにいた。手にはモップがある。
 この館の掃除婦だろうか?
「あちゃ。アンタの方か……」
 ドラコは会いたくなかった相手のようで、それも隠しもせずに肩をすくめてみせた。
「む。お前、今日は非番のドラコだろ。何しに来た?」
「アンタには言いたくない……言ったって教えてくれないでしょ」
「言え、言わぬと汚す!」
 少女は持っていたモップを槍のように構えてドラコへ突きつけた。

 ドラコは降参とばかりに手を上げた。
「サタン様、今はお暇かな? ちょっと急ぎの用があってお会いしたいんだ」
「サタン様なら、今は人間の娘と茶を飲んでいる。直に終わるはずだ」
 モップを突きつけたまま、少女は答えた。
「人間の娘って、例の求婚娘? 懲りないね、あの娘」
「そうだ。どうせお茶だけで終わるだろうから待ってればいい。お前のことは伝えに行ってやる」
「……ありがとう。さっきの言葉は取り消すよ。ブラックキキーモラ」
「ふん」
 ブラックキキーモラは不満も露わな表情で、それでもモップだけは降ろすと、姿を消した。
 二人の会話を聞いたハーピーは、ぽかんとしていた。
「ドラコさん、ここはサタン様のお屋敷なのですか?」
「そうだよ。まぁ、だからってそんな畏まることはないよ」
「で、でも……」
 『闇の貴公子』の通り名で知られる魔界のプリンス、サタン。魔界の住人はおろか、
 人間ですら彼の名を聞いて恐れを抱く者は少なくないというのに。
「ドラコさん、一体どうして? サタン様の館で働かせてもらってるなんて、すごい……」
「あ〜、それはその……ちょっと、誤解しているようだけど、
 私は普通のドラコケンタウロスだからね……まぁ、あははは……」
 言いにくいことなのか、ドラコは笑ってごまかし、仔細を説明しようとしなかった。
(本当は言っておくべきなんだろうけどね、どう言えばいいのかな……?)
 ドラコの心中など知る由もないハーピーは、ドラコに尊敬の眼差しを送っていた……。

 今度は赤を基調としたエプロンドレスの少女の案内で、二人はサタンの部屋に通された。
 そこにまだサタンはおらず、二人は室内でサタンが来るのを待つこととなった。
 ドラコによれば、この少女はキキーモラといい、先ほどのブラックキキーモラも、元は彼女と同じキキーモラであったという。
「二人して、この屋敷を色々取り仕切ってくれてるわけよ。
 もちろんあれで一種族だから、交代要員が何人もいるわけだけどね」
 ドラコがそんな雑談をするのも、ハーピーが『サタン』の名を聞いて萎縮しているのを、
 どうにか紛らわせようと意図してのことか。

 だが、一向にハーピーの緊張は解けなかった。
 ドラコにぴったりと密着してソファーに座っているその身体も、強ばっている感じがする。
(これは、実物に会わせた方が早いわ……)
 ドラコは扉の方をじっと見つめ、己の主が来るのを待った。
 ブラックキキーモラの言葉に反して、二人はそれからけっこうな時間待たされた。
 そして。
 威勢よく、扉が開かれた。
「ふぃ〜……疲れた」
 それがハーピーが間近に聞いた、『闇の貴公子』の第一声であった。
 サタンは肩アーマーごとマントを外すと、それをポイと後ろの方に放り投げた。
 それは器用に衣裳スタンドにばさりと引っかかった。
「おぉ、ドラコ。取り次いだのがブラックキキーモラだった所為で、用件がまるでわからん。
 二度手間になるかもしれんが説明してくれ」
 そう言ってドラコたちのソファーの、漆黒の石製テーブルを挟んだ向かいのソファーにどっしりと腰掛けた。
 組んだ足は今にもテーブルに届きそうなばかりである。
「えぇと……その、非番で来ちゃってすみませんでした……」
 一応、最初にそれを断るドラコ。サタンは手を振った。
「そんなことに私がこだわるタマだと思ってるのか」
「いえ、その……私用なので」
「政治的な用向きでなければいくらでも聞いてやる。言え」
 その辺の線引きはするんだな、と思いつつ、ドラコは用件を切り出した。
「あの、私の友達の、この娘……ハーピーなのですが、魔導師に魔法を掛けられて歌を封じられてしまったようなのです。
 サタン様の御力で、いえ御知恵でもいいのです、お貸しいただきたいのですが」
 ドラコに言われて初めて、サタンはドラコの隣で小さくなっているハーピーの存在に気を留めた。
「お前に異種族の友人がいるとは知らなかったな」
「隠していたわけではないのですが」
「咎めているわけではない。そこのハーピー、こっちを向け。顔が見えない」
 ハーピーは自分に矛先が向いたのに、恐る恐る顔を上げた。その半身はほぼドラコの後ろに隠れている。
「は、はい……わ、私が……その」
「何を恐れる、ハーピー」
「いえ、あの、ドラコさん……ドラコケンタウロスが、まさかサタン様にお目通りが適うとは知らず……その、あの」

「おいドラコ、この娘は何にもわかってないようだが、さては話してないな?」
 そうあけすけに話せることではない。ドラコは嘆息してしまう。
「まぁ、いい……その程度の呪文なら解くことは簡単だ」
 放っておいても一月程度で解ける呪文であることも見抜いたサタンだが、それは言わなかった。
「でも、私……」
 サタンの言葉を聞いたハーピーは、喜ぶでもなく、むしろ落ち込んでしまう。
「どうした、元通り歌がうたえるようになりたいのだろう?」
「私、歌、下手だって……あんなに酷い言葉で、私、……」
 罵倒されたことを思い出して、ハーピーの瞳がみるみる涙に満たされていく。
「ふむ」と、サタンは事情を飲み込んで首肯した。
「サタン様、ハーピーは歌がうたえなくなったこと以上に、魔導師から罵られたことに傷ついているようで……」
 ドラコの言葉を最後まで聞かず、サタンはすくっと立ち上がった。
「よしよし、そういうことなら私が一肌脱ごうではないか」
「あの、サタン様?」
 ドラコが眉を寄せる。己が主の考えを察したか。
「何故そんな顔をする。まぁ二人とも、こっちに来なさい、ほらほら」
 と、サタンは二人を追い立てるように別室へ案内した。
(やめておいた方がよかった……?)
 ドラコはちょっと後悔しかけていた。

 三人は、五人はゆうに眠ることが出来そうな天蓋付きのベッドがある部屋に入った。
 寝室は寝室でも、用途がひどく限られる場所であることは容易にわかる。
「サタン様。私の話、どう聞いていたんですか?」
 ドラコがきっとサタンを睨む。
「真面目に聞いていたぞ。
 つまりこのハーピーちゃんは、歌がうたえなくなったばかりでなく、自分の歌声に自信喪失したわけだろう。
 だからその自信を取り戻させることが必要だ」
「……で、どうしてベッドルームに来る必要があるんですっ!?」

「つまり、こういうことだ。己の声の美しさを再確認すれば、歌をうたうことにも自信を取り戻せるだろう。
 それには声がいっぱい出るようなことをすればいいわけで……」
 サタンが全てを言い終わらぬ内に、ドラコは己の主人の頭をぶん殴っていた。
「わっ、『闇の貴公子』たる私に何をする!」
「と文句をおっしゃるなら、その名に恥じない言動をしてください!」
 状況を理解していないハーピー一人が二人の漫才をきょとんとして見ている。
(一瞬でも期待かけた私がバカだったかも……)
 心中で嘆くと、ドラコはハーピーの手を引いた。
「帰ろう、もうちょっとまともな方法考えよ、ね?」
「えっ、そんな……サタン様がせっかく私の歌声を戻してくださるというのに……?」
「戻し方にも色々あるでしょうに」
「これドラコ。非番のくせに私の所へ押し掛けてきた挙げ句にその言い草は何だ!」
 サタンはするするとハーピーの肩に手を回して引き寄せると、ドラコを突き飛ばした。
「あ、ドラコさんっ!」
「君の友人はどうやら君の歌声を戻す気はないようだな」
「そんなっ、ドラコさんは……」
 サタンはドラコの方を向いていたハーピーの頤をくいとしゃくって自分の方を向かせ、その目を覗き込む。
 自然、ハーピーの頬はほんのりと朱に染まった。
「案ずることはない。この私に任せておけば何も怖いことはない」
(あぁ、いくらサタン様でもいきなりこういう方向には持ち込まないとは思ってたんだけど、甘かったなぁ……)
 突き飛ばされて少々尻を打ったドラコは、そこをさすりさすり立ち上がった。
「サタン様、歌声戻すだけのことに怖いも何もないでしょう」
「う、うむ。それもそうであった。
 よってドラコ。怖くないということをわからせてやろうではないか」
「は、はぁ……?」
 気の抜けた声を上げるドラコに、サタンはそっと耳打ちした。
 みるみる内にドラコは耳まで真っ赤になった。
「で、できるわけないだろっ、そんなこと!」
 魔界のプリンスに対する敬意も忘れ、ドラコは怒鳴った。
「さてハーピーちゃん。ドラコ君が今から特別の発声練習を実演してくれるから、それをよく見ておくように」
「え……は、はい?」
 戸惑いながらもハーピーは頷いた。

 ドラコはぱくぱくと口を開くばかりで声が出ない。
 サタンはそんなドラコを引きずるようにベッドへ連行し、ちょいと突き飛ばして彼女をベッドへ上がらせた。
 正座を崩したような膝を曲げた座り方で、ドラコはベッドにぽつんと取り残される。
 その正面に、どこからか椅子を用意してサタンとハーピーが座った。
「ドラコ。言っておくがこれは命令だからな」
「うっ……」
 サタンの宣言に、ドラコも覚悟を決めざるを得ない。
 実際、サタンとの関係において、ドラコだってハーピーとそう代わりはしない。
 親しい間柄とは言えても、その力関係が縮まっているわけではない。
 結局、ドラコはサタンに逆らえないのである。
 二人と向き合う形で、ドラコは膝を立てて座り直した。その足を開く。
 チャイナドレスの裾を横に流すと、踝まである黒いスパッツに包まれた、すらりとした足の曲線が浮かび上がる。
 ドラコの身体が、羞恥で小刻みに震えている。
「あ、あのっ……」
「脱げ」
 ドラコが何を言い出すのかわかっていたのだろう、サタンはさっさと命令を下した。
 いくらサタンの命令とはいえ、無条件には従いがたいものだ。ドラコは抗った。
「でも、全部は……嫌です」
「わかった、じゃあその黒いのだけ」
 サタンは唇をとがらせ、譲歩を口にした。
 ドラコはぶるぶると震える手で、スパッツに手をかけた。
 ずるずると、脱ぐと言うより『剥く』ような感じで、スパッツを降ろしていく。
 膝まで降ろした所で、ドラコは手を止めた。
「もうちょっと下げろ。こっちから見えん」
 サタンに言われ、ドラコは泣きそうな顔で、脹脛の方までスパッツを下げた。薄いブルーのパンティが丸見えになる。
 さすがに状況の異様さを悟って、ハーピーはサタンの方を見て何事か言いかけるが、
 サタンの顔が真剣そのものなので、声がかけづらく、そのまま口を閉じてしまった。
 ドラコがおずおずと、自分のパンティへ指を這わせていく。

 太腿と布の境目のラインから、その中央の方へ。心なしか、そこは窪んでいるように翳って見える。
 中指の先で、ドラコがぐっとそこを押す。そして、その手を前後に動かし始める。
 空いている手を、自分の乳房に回す。少し小振りな乳房を、ちょっと上へ持ち上げるようにして、その全体をこねる。
 恥丘をさする手が、徐々に速くなっていく。ドラコが、羞恥でなくその頬を紅潮させる。
「ドラコ」
 冷たい声がかかる。
「声を出さねば意味がなかろうに」
 サタンの言に、ドラコは顔を背けた。
 目をぎゅっとつぶると、恥丘にやっていた手を一旦離し、自分の乳房を二つの手で下の方から鷲づかみにする。
 あたかも下から手が伸ばされてそうしているかのように。
「ふむ、そうされるのが好きだからな、お前は」
 その言葉に刺激されてか、とうとうドラコは、
「んっ……」
 と、軽い呻きを漏らした。
 乳房を少し乱暴に、時々揺さぶるようにして、揉みしだく。
「はぅぅっ……あん……」
 目をつぶっているのだから二人の姿は見えないのに、ドラコにはどうしても『見られている』という感触があった。
 視線が肌を打つ、そのような感覚で。
 それを股間に受けている──そう思った瞬間、己の股間がひくひくと蠢き始めた。
「あっ、そんな……いや」
 そのドラコの変化を、見逃すサタンではない。
「もういいのだろう?」
「はっ、は……い」
 乳房を掴んでいた手を、そっと股間に戻した。
 パンティの生地の中央を、先ほどと同じように指先で押さえると、そこがつるりと滑った。
「あんっ!」
 伝わってきた感覚に、一際高い声を上げたドラコだが、
(嫌だ……見られて、ハーピーにも見られてるのに、こんなになっちゃうなんて……)
 心中では己の身体の変化に愕然としていた。
 パンティーの布地をその下と摺り合わせるように、指先で円を描いていく。ドラコの太腿に、じんわりと汗が浮かんできた。
 ハーピーは、ただ呆然と、けれども食い入るように、ドラコの自慰を見つめていた。

「はぁっ、はぁっ……んっ、あぅっ……はぁ」
 ドラコの『声』は時々『喘ぎ』に変わっていく。
 時々空気が潰れたような音が聞こえてくる。
(あぁ……そんな、そんなつもりじゃないのにっ……)
 ドラコはとうとう快楽に負けて、自らパンティの布を寄せると、直に己の濡れた花弁を触りだした。
 途端、パンティの外に愛液がどっと溢れ出し、尻の方まで浸食した。
「ふふ……どうだ、ハーピーちゃん、感想は?」
 隣に座っていたサタンがいきなりぐいと自分を抱き寄せてきたのに、
 ハーピーはどきりとしたが、抵抗するでもなく、サタンの胸の中へ入っていった。
 サタンの手がスカートの中から太腿をまさぐってきた。何とも云えない不快感
 ──それは今まで味わったことのないものだからそう思ったのか──に、ハーピーは少し身をよじってサタンから逃れようとしたが、
 サタンは更に強く自分を抱き寄せ、己の動きを封じた。
 太腿から、股間の方へ……まだ薄いハーピーの陰毛に指が触れると、サタンはちょっと驚いた。下着を付けていないとは。
「これは好都合」
 その一言で驚愕を片付けると、サタンはハーピーの陰毛を指先でいじくり回した。
「あ、あの……変なこと、しないで……下さい」
「わかっているんだろう? こういうことだ……」
 ハーピーの拒絶の言葉を無視し、サタンはハーピーに口づけた。ついでに、彼女の『声』にかけられた封印を解いてやる。
「これでもう、歌はうたえるようになった……後は歌い方を思い出すだけだ、なぁ?」
 サタンはハーピーの服をちゃっちゃと脱がすと、彼女を抱えてベッドに運んだ。
 ベッドに落とされたハーピーは四つんばいの格好になった。目の前には自慰でとろけているドラコがいる。
 サタンが横からベッドに乗ってきた。
「どれドラコ、非番だというのによく働いたから御褒美をやろう」
 サタンはドラコのチャイナドレスの胸元のボタンを外し、乳房だけがむき出しになるようにはだけさせた。
 パンティの中に手を差し伸べると、慣れた手つきで一気に足から引き抜いてしまう。
 ハーピーはやっとドラコとサタンの関係を知った。
 ドラコはサタンの愛妾なのだ。おそらく──サタンはこうして何人もの美少女モンスターを抱え込んでいるに違いない。

 サタンは膝を立てた座り方をしているドラコを、そのまま寝かせた。
 太腿を上体にくっつける格好で、ドラコは寝っ転がった形になる。
「ほれハーピーちゃん、ちゃんと見てないとわからなくなるぞ」
 言ってサタンは、なんとドラコの上にハーピーをおっ被せた。
 ハーピーは慌てて手を付いてドラコから身体を離すが、これではドラコをハーピーが押し倒しているみたいである。
 ドラコとハーピーは嫌でも真正面から見つめ合う形になった。
「どっ、どらこ……さん……」
「………………」
 ドラコはただ、潤んだ目でハーピーを……その向こうにいるサタンを見ている。
「よし、準備はいいな? 行くぞ」
 ぱっくりと開き、今か今かと待ちかまえるように痙攣しているドラコの膣口に、サタンは己の一物をあてがう。
 それは滑るように、あっという間に奥へ入っていった。
「あっ……サタン様っ……!」
 ドラコは背中をベッドから浮かせ、びくんと大きくはねた。
 間近に快楽で恍惚とした親友を見せつけられ、ハーピーも己がそうされたかのように、腰の辺りにぼうっと熱くなった。
「ふむ……こっちがお留守ではいかんな」
 サタンはハーピーの腰を掴むと、ぐいと高く上げさせた
 ハーピーの足を自分の肩に掛けるようにして抱え込むと、まだ花開いたことのない部位に鼻先をつきつける。
「あ、その、何をっ?」
 ハーピーは腰を下げようにも、サタンが太腿を掴んでいるのでままならない。
 腕を伸ばして体勢を維持するのが精一杯であった。
 サタンは舌でハーピーのクレヴァスをなぞり始めた。
「あふっ……んっ……」
 今までドラコの痴態を見ていた所為か、ハーピーはすんなりと声を上げたが、
 まだ何の刺激を受けたこともないハーピーの秘所は熱っぽくはなっているものの、濡れてはいなかった。
 サタンはその隙間に舌先を割って入れ、ちろちろと動かす。
「あっ……あん……」
 ハーピーは腕の力が抜けて、ドラコの上体に自分の上体を重ね合わせた。
 ドラコの乳房と己の乳房が互いに潰され合う。

 ドラコがハーピーの背に腕を回した。ぺったりと背中に張り付いている白い翼にそっと手を当てて撫でる。
「ドラコさ……ぁん……んっ……」
「気持ちいい、ハーピー……?」
「わ、わかんな……い」
 ドラコの身体が揺れ始めた。サタンがドラコの中を往復し始めたのだ。
「あっ、サタンさ……」
 自分の中に入り込んでいたものの存在感に満足してぼんやりしかけていたドラコの意識が乱れ始める。
 同時に、ハーピーの秘所にサタンは深く接吻し、舌を入れてきた。ちょうど唇にディープキスをする要領で。
「あぁ、そんなっ……あ、あっ……」
 自分の身体がこのような感覚を受けるものだとは知らなかったハーピーは、ただ翻弄された。
 ドラコはサタンが往復するのに合わせ、自分も腰を使い出す。
 快楽に酔ってない時は気持ち悪くすら思える、ぬるぬるとした自分の出す液の感触が今は心地よい。
「あんっ、あんっ、あー……あっ……」
 ドラコが声を上げるタイミングで、ドラコの中がきゅっと締まる。
 格闘技に秀でた彼女の身体は、膣内の締まりも抜群で、少し加減してやらないとサタンが痛いくらいだ。
「これドラコ、少し抑えろ」
 今もサタンは少しきつすぎるドラコの締めに、尻をパチンと叩いてお仕置きしてやった。
「あっ……ダメ、サタン様っ……今日はダメ……我慢できな……」
 ドラコは自分から腰を激しく揺すり、サタンの一物を味わう。腰から下がちりちりと熱い。
 己の中と侵入物の摩擦が生み出す、痺れるような快感。
 時々意図的にきゅっと中を絞り込んで、先端の鋭い部分で中をくすぐらせるように腰を回すと最高にいい。
「はんっ、はぁ、はっ……あっ……イッ……んっ……!」
 とうとうドラコは、サタンを置いてきぼりにして、絶頂へと上りつめた。
「おいドラコ、何という勝手な……」
 文句を言いかけて、サタンは己の眼前のあるものをふとじっと見つめた。
「ほほぉ……」
 サタンが舐めていたハーピーの秘所が、いつの間にか華美に花開いていた。
「あ……どらこ、さん……?」
 激しい行為に耽った末、ぐったりとした友人を、ハーピーは熱っぽい目で見つめている。
 サタンはドラコから男根を引き抜いた。まだその怒張は鎮まっていない。

「よしハーピー。手順はわかったな?」
 サタンはハーピーに対し“ちゃん”付けを止めた。
「え……そんな、私……」
「ドラコはいい声で歌っていただろうが。どれ、お前も歌ってみせろっ!」
 サタンは膝立ちになると、ハーピーを再び四つんばいにさせた。
 こちらは初めてのようなので、いきなり入れるようなことはせず、まずはその先端で花弁を軽くなぞってやる。
「はっ……くすぐったぃっ……」
 更に花弁を押し上げて、膣口の上のころころと丸くふくれた雌蕊になすりつける。
「あっ……そこは、止め……」
 ハーピーが逃れようとしたので、サタンは腹の方にぐるりと手を回し、身体を密着させる。
「嘘はいかんぞ、嘘は」
 サタンは男根全体を駆使してハーピーの秘所を擦った。
 ねちねちと水っぽいものが絡む音。
「さたんさまぁ……」
 ハーピーの羽根が、ふるふると揺れている。
 まるで小鳥が怯えているような風情に、サタンは情欲をかき立てられてしまう。
(おぉ、何とも初々しい反応ではないか……ではそろそろ)
 サタンは動きを止めた。そして膣口の位置を先端で探り、見つけるとぐっと押し当てた。
「あっ……ああぁぁっ……!」
 初めて受ける男根の侵入に、ハーピーは激しく身震いした。
 突き上げる激痛と、圧迫感と。それは前戯で受けた快楽をうち消してしまった。
「痛ぃ……さたんさまっ……」
「初めてなら仕方ない」
 と突き放すものの、動きは多少加減してやる。
 処女特有の狭い膣内を、サタンは強弱を付けて、徐々に奥へ行くように動いてやる。
「あ、あはぁっ……はっ……あ……」
 その動きから、痛みの先に何か別の感覚がハーピーの中に生まれかける。
「さたんさま、わたし、へん、へんですっ……」
「変ではない、それでいい……頑なになるな」
「あ、でも、でもこれっ……あぁっ!」
 ハーピーの最深部に、サタンがついに行き着く。

「ひっ……くぅ……ん……」
 腕の力が抜けたハーピーは、ベッドに上体を伏せた。
 火照った体を冷ますかのように、ハーピーの羽が軽く羽ばたいた。
「あふ……さたんさま……」
(うむ、羽が可愛いぞ……ドラコにも羽があるがこんなことにはならん……)
 調子に乗って、サタンは羽と羽の間の背中をぺろりと舐めた。
「あぁん……ッ!」
 背中が弱かったらしい。羽がばさばさと動いて、サタンの顔をばしばしと叩いた。
(い、痛……でも何か幸せだ)
 妙な幸せを噛みしめながら、サタンはハーピーの奥を突く速度を上げた。
「あぅっ、痛ぃ、さたんさまっ、痛いです……」
 慣れないハーピーは、容赦のなくなってきたサタンの責めに悲鳴を上げる。
 だが、サタンはお構いなしにハーピーの中を貪った。
 ハーピーの身体ががくがくと揺れる。ハーピーの手がシーツをぎゅっと掴んだ。
「よし、いいぞっ……やろうっ……」
 サタンの満足げな声と共に、ハーピーの中にサタンのものが深く突っ込んできた。
 反射的に身を硬くしたハーピーは、何かが自分の中で弾けたような感覚を味わった。

「……はぁ」
 ハーピーの中で果てたサタンは、一息吐くとハーピーから腰を離した。
 二人の一部始終を見守っていたドラコは、呆れかえっていた。
(あぁ、結局こうなっちゃったわけね……
 ハーピーがそんなに嫌がってなかったのが救いといえば救いだけど……
 いいのかな、もう……)
 そしてハーピーは、己の股間が血を流しているのに唖然としていた。
「あ……あの〜、これは〜!?」
 歌声が戻った所為だろう、ハーピーの喋り方にも少し歌のような抑揚が戻っていた。
「ん。心配するな、誰でも通る道だ。……そうだ、二人とも風呂に入って来い」
 サタンはベッドサイドテーブルにあるベルを鳴らした。
「おーい、風呂だ、風呂の用意だ、女二人分」

 不躾に扉が開いた。
「……まだ風呂にはあの女が残ってるが」
 ブラックキキーモラは、入って来るなりそう言った。
「あの女?」
 ドラコが首を傾げる。サタンは手をぶんぶん振ったが、あいにくブラックキキーモラには通じなかった。
「それにしてもここまで来ると私には労働のように思えるな。理解できん。
 一日にこの短時間で三人もの女と性交するとは。まぁいい、風呂の準備はしておこう」
 ブラックキキーモラは無愛想に言い捨てて(もっともそれが彼女の口調の特徴なのだが)、部屋を出て行ってしまった。
 サタンはドラコをちらりと見た。
 シーツを千切れんばかりに握っている。
「……いや、つまりだな」
 サタンが何を言おうと聞くつもりのないドラコは、破瓜の血に狼狽えるハーピーをベッドから降ろすと、さっさと身支度を始めた。
「ドラコちゃ〜ん?」
 ハーピーを持っていたタオルで拭かせながら、服装を整えたドラコは、サタンの方をきっと振り向いて、一言。
「見境無しの色ボケ魔王」
 と、言った。
「や、据え膳食わぬは男の恥という古い言葉が……」
(手当たり次第に食ってる雑食魔王)
 とドラコは思ったが、口に出すのも馬鹿馬鹿しく、おろおろしながらも服を着終わったハーピーを連れ立って、
 憤然とした足取りで部屋を出て行ってしまった。
 力強く閉められたドアを見つめ、サタンは思った。
(そんなに怒ることはないと思うが……うーむ、あれだ。やっぱり友達と一緒にやったのはマズかったか?)
 ちっとも反省のないサタンであった。

 後日、歌声の戻ったハーピーはめでたく歌姫として復活したが、
 ドラコはサタンのお陰であると正直に認めたくはなかった……。

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