no title

1-910様

「ふあぁぁぁ〜。」
暖かい陽気な光が窓を差すと、まだ寝ぼけ眼なボクの顔を照らした。視界がだんだん広がってくる。
今、何時なのかな??ちょっと間があいて、ボクの頭がやっと働き出す。窓から見える陽の位置の高さに
きづいたボクは、慌てて飛び起きようとした。
「っ・・・・・・痛!!!!」
体を起こそうとした途端、全身に針が刺さったような痛みが走る。歯を食いしばりながら、ボクは自分に
何が起こっているのか考えてみた。覚えのあるこの痛みと疲労感・・・・・何かしたかな?昨日???
ボクの記憶はあっというまに甦った。昨日の夜の出来事でみるみる頭が一杯になる。
「・・・・・・・・・・・うぅ、サタンの馬鹿ぁ・・・・・。」
体の痛みに呻きながら、ボクは取りあえずやり場の無くなった気持ちを声にした。痛みの理由がわかると
尚更、腹が立ってくる。そう、ボクは昨日、サタン相手に自分が完全に拾得してない段階の攻撃魔法を使っ
てしまったのだ。高度な攻撃魔法になればなるほど自分の身体も危険にさらされる。そうまでして、その
呪文を彼に向けて放ったのには、ふかーい事情があるからなんだけど・・・・・・・・・今は思い出したくもない。
「ぐっー?」
カーくん(謎が多いボクの友達)が、目覚めたまま体を起こさないボクの顔を不思議そうにのぞき込む。
「カーくん。ボクは今日ね、ちょっと元気じゃないんだ。お腹が減ったなら、冷蔵庫の中の何でも食べていいよ。」
ボクがそういうと、彼は嬉しそうにベットから飛び降り、一匹ひょこひょこと台所へ向かう。そんないつ
ものカーくんに元気を貰ったのか少しだけ気力がでてきた。
「・・・・・・・・・ボクもいつまでもこうしてちゃ駄目だよね。」
体力を取り戻すためには、ひとまず何か口にした方がいい。痛みに耐えてボクはベットから起き上がった。
ふらふらとカーくんの後について台所の壁にもたれかかる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ぐぅ!」
そんなボクの目に映ったのは、友達と空っぽになった冷蔵庫だった。


町の商店街まで歩いて15分、今のボクの住んでいる家は何かと便利なとこにある。おかげで、体が多少痛くても、ちょ
っと我慢すればすぐに食料の買い出しに来られるし、何より痛み止めが手に入る。休日のお昼に近い時間、町中は結構賑
やかだ。いつもは好きな雰囲気が今日のボクにはちょっと疲れる。ボクは、人混みをくぐり抜けやっとのことで目的のお
店のすぐ側までたどり着いた。ふと、ボクの視界に入る、銀色の影。鋭く光るダークブルーの瞳でこちらを見ている黒ず
くめの男。それは、ボクにとって今、二番目に会いたくない人物の姿。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ボクは無言のまま、進める足を180度右回りして出す。ゆっくり、ゆっくり気づかなかったように・・・・。
「・・・・・・逃げようとしても無駄だぞ、アルル・ナジャ。」
必死の努力も虚しく、彼は静かにボクを呼び止めた。聞こえなかった振りをして進むボクの背中に彼の視線が突き刺さる。
「随分とお疲れのようだな?」
意地悪そうに問いかけてきた彼にボクはやむなく足を止め、返した。
「あ、変態・・・・・・・・。」
「誰が変態だ!?誰がっ!!!俺にはシェゾ・ウィグィィという名があるっ!」
「・・・・・君はいつも、テンション高いねぇ。」
ちょっとの人混みで完全に酔ってしまった今のボクには、彼の調子についていくことはできない。なのに、何故かからかっ
てしまう。ボクは情けなくため息をつくと続けた。
「シェゾ。ボク、今日はちょっと調子が悪いんだ。話があるなら今度聞くよ。」
彼がいつもの台詞を言い出す前に、会話を終える。今のボクには、これがベストな危険の回避方法だ。なんたって、この
一見お兄さんは、自他共に認める変態・・・・・じゃなくて魔導の使い手、闇の魔導師なうえ、ボクの魔力を吸い取っちゃおう
という超危ない考えの持ち主なのである。そのまま立ち去ろうとするボクの肩を彼の手が掴んだ。やっぱり、このまま帰
してくれそうにはない。
「こらっ!俺は今のお前に用が・・・・・・・・・・っっっ!!。」
彼の手がふりほどけず、振り返ろうとしたボクの足下が思わずよろめく。シェゾが何だか遠くで叫いてる気がして、急に
体が鉛のように重くなり、崩れていくのがわかった。

少女がうちに秘める力、潜在能力と呼ばれるものに自分は惹かれていた。その高密度で純度の高い魔力には今まで見てき
た文献や遺跡には感じたことのない魅力があったのだ。今もそれは変わらない、俺はそいつを己の力にするためだけにこ
の少女に関わってきた・・・・・・・・・・・そのはずである。ただ、崩れゆく少女を目の前にしたとき咄嗟に抱きかかえてしまった。
負ぶって日陰まで運んでやる義理もないのに、気がついたらそうしていた。理由などない・・・・・・・・・・ないんだ。
そう自分に言い聞かせながら彼は、少女の目が開くのを見守っている現状については考えようとしなかった。答えが出て
しまうことに気づいていたのだろう。彼は、少女がうなる度に、今まで他人相手には使ったこともない回復魔法をひたす
らに唱える。

「うぅん・・・・もうちょっと寝かせてよ〜カーくん・・・・・・・むにゃむにゃ。」
「こらっ、寝ぼけてる場合か。アルル!!起きろ!!」
ぼーっと見える誰かがボクを起こす。誰?こんな朝早くから何でボクを起こしに来・・・・・・・・
「あぁぁぁぁ!!!!!」
「やっと、目を覚ましたか・・・・・・・この寝坊助。」
目の前にあるシェゾの顔がはっきりわかると同時に、ボクは彼の前で意識がなくなった事を思い出す。
「まったく、お前がなかなか起きんせいで足が痺れたぞ。」
ボクは彼の一言で自分が枕にしてるものに気づくと、慌てて頭を上げようとした。が、目眩がそうさせてはくれなかった。
彼の膝の上で、辺りがもう暗くなっていることを知る。
「随分と無茶な馬鹿をしたらしいな。」
シェゾがボクの頭の上で再び話しはじめた。ボクの方は、何だかこの体勢が恥ずかしくて気が気じゃないのに・・・・。やっ
ぱり彼は変態だ。ボクは自分で勝手に答えを出すと彼に相づちを打った。
「うん。まぁ・・・・・・ね。」
「どういう理由があったかは、俺の知ったことじゃないがな・・・・・・・・・・・・・・・。」
詰まる言葉にボクがシェゾの顔を見上げると、彼は意地悪く微笑んで見せて続けた。
「・・・・俺は、お前が欲しい・・・・・・だから、勝手に食われてんじゃねぇぞ・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・え?」
ボクは耳を疑う、「俺は、お前が欲しい」まではいつもの発言だ、そういつもの変態ぶりである。だから決して驚く事じゃ
ないんだけど、その後の台詞が納得いかない。まるで、そう、昨日何が起こったのかを知っているような言い回しに。
「今のどういう・・・っっ!」
聞き返そうとする途中でボクの口は塞がれてしまった。シェゾの唇は冷たくて、ボクの倒れていた時間の長さを伝える。お
昼からずっとボクを看ていてくれたのかな?そんな事を考えているうちに彼のキスはどんどん激しさを増した。彼はボクの
唇を食べるみたいに何度も口の中に入れる。そのうち暖かなものがボクの舌に絡みつく。唇との温度差にボクは思わず、彼
の舌を噛みそうになるが、そんなことにはお構いなしにシェゾの舌はボクの深いところにまで入ってゆく。突然、歯茎にこ
そばゆい快感が走る。だんだん気持ちよくなってきたところでシェゾはボクから唇を離した。
「・・・・・・・・こういう事だろ?」
「はぁ・・・・・はぁ・・・・い、言ってる意味がわかんないよ。」
彼とのキスに息が乱れる。それはサタンのキスとは全然違う、初めての昨日のキスとは。体が脈を打ち、その気持ちよさに
我を忘れそうになってしまった。ボクはその快感に惑わされないように自分の頬を軽く叩くと、シェゾに答えた。彼は暗闇
に響く声でボクに再び問う。
「あいつと・・・・・・・・サタンと昨晩、何をしたんだ?」
その声は震えていた。彼はなんだか怒ってるようにもみえる。ボクは今自分がされたことと、彼のわけのわからない発言に
精一杯、答えようとするけど・・・・・・・・・・。昨日のことを思い出すとボクの顔が赤面してしまい、なかなか言葉にならない。
そんなボクの様子を見てシェゾが言い放った。
「お前、あんなオッサンと寝て恥ずかしいとは思わないのか!?」
「え、えぇぇぇ!?」
彼の素っ頓狂な台詞に、ボクの声が裏返る。シェゾはどうやら昨日、ボクとサタンが・・・・・その、なんだっけ・・・まぁつまり、
いかがわしい行為をしたと考えてるらしい。部分的には当たってるんだけど、サタンに身を委ねた覚えはない。ボクは、彼の
膝からふらつく頭を起こし全力で否定した。
「ち、違うよ。シェゾ何か勘違いしてない?」

「えぇい!まだ言うのか?! 俺は昨晩、夜も更けてからお前が奴の城から出てくるところを見たんだ!!」
なんとなく、彼の発言の背景がわかってきた。昨日、ボクがサタンのお城から出てきた時間を彼は気にしてる
らしい。でも、なんでそんなこと気にするのかな?ボクには、さっきキスといい彼の意図がくめない。
「だから、それは誤解だって・・・・・・・・。」
自分の疑いを晴らそうとするボクを再び目眩が襲う、後ろに倒れそうになるのをシェゾが抱きとめてくれた。
「・・・・・・・・・・そんな体で町をふらつきまわることすら、信じられん。」
シェゾは、そのままボクを抱きしめると囁いた。
「真実かどうかは、俺が確かめてやる・・・・。」

「どうやって確かめるの?」
自分の疑問を素直に口に出したボクは、すぐにそのコトを後悔する。彼は耳元でなにかを再び囁くと今度は、
戸惑うくらい優しくボクの体を愛撫し始めた。彼の手は、すぐにボクの下半身へと運ばれる。抱きしめられ
ているボクに抵抗する間もなく彼の手は動いていった。
「ふぁあっ・・・・・。」
シェゾはボクのスカートの中をいじくり回す。湿った音が、静まりかえった空間にひどく響く。さっきのキス
の快感とは異なる衝撃がボクの体をのけぞらせた。
「・・・・・アァ、・・・・・・・はァゥっん・・・・・ッ!!!」
少しばかり痛みがある股の間がどんどん濡れていくことがわかる。彼の指がだんだんとボクの深くに沈み込ん
でいった。昨日とは違いはっきりした意識にボクは困り果てた。なんでなんだろう?昨日といい、今日といい
どうしようもなく気持ちいいのだ。これが、とてもおかしいことは理解っているのに・・・・・・・。
「やめ・・・て・・・・・・・止めてよぉっ!」
どんどん入れる指の数を増やしていくシェゾに、ボクは必死で叫く。力の入らない体でボクを抱きしめる彼の
片手から逃げようとするが、次の瞬間には押し倒されてしまった。そんなシェゾにボクはさっきからの疑問をぶつける。

・・・・ん、どうしてぇ・・・・・・?どう・・・て、こんな、コト・・・・ス・・るの?」
言葉が上手く紡げない。息も絶え絶えにボクはやっとのことで自分が思ってたことを言えた。
ボクの様子を見ながら彼が苦々しく笑う。
「あいつにさせたことを俺にはよせというのか?」
耳元にシェゾの吐息がかかり全身に鳥肌がたつような感じになる。ボクは真っ白になりそうな
頭を理性で持ち直すと、再び思いを巡らせる。彼の返したそれは答えになっていない。だって、
ボクをお嫁さんにしたいといってるサタンと、ボクの魔力が欲しいシェゾ。こういうことをす
るのは、別に彼の目的には繋がらない。
「・・君はぁ・・・・ッ・・ボクのこと・・・・・っっあぅ・・・。」
君はボクのことをどう思ってるの?言い切れる前にシェゾの指がボクの中で動きだす。ボクは、
心地よさに火照った体全体で彼の冷たい指を感じた。動きが激しくなるにつれ、ボクの声は裏返り、
体はどんどん熱くなる。ボクは、ほんとに彼から逃れたいんだろうか?もう、その答えすらも危うい。
快感に囚われたボクの腰が揺れ始める。
「あぅッッン!!」
彼の指がひとしきりボクの中で動き回った後にその感覚はきた、今度は背骨が折れそうなくらい仰け
反ってしまう。指が体の外に出ると同時に足の間がびちょびちょに濡れる。意識が薄れそうになる
ボクにシェゾは弱々しく返した。
「・・・・・・わからない。よくわからないが、俺は・・・・・・・・。」

どうやら、ボクの未完全な台詞は彼に届いたらしい。いつも強気な彼の態度からは、想像も出来ない表情を
見せる。気がつけば、シェゾの顔がボクと鼻がぶつかるくらいの距離まで迫っている。ただ、それ以上は近
づこうとせずボクに真っ直ぐな眼差しを向ける。月明かりに映しだされる銀髪は、彼の瞳の色を強調する。
ボクは、シェゾの目の中にいるもう一人のボクを見ながら、言葉を聞き漏らさないように乱れる呼吸を整え
た。すると、自分の鼓動がだんだん大きくなっていくのがわかる。
「俺は・・・・お前が・・・・・・・・・・・・。」
どれだけ耳を澄ましても聞こえない文末。
「アルル・・・・・・。」
彼は、ボクの名前を呼びながら距離を縮めはじめる。顔を背けてキスかわしたボクの耳にその唇がふれる。
「〜〜〜〜っぅぁん。」
快感にボクの思考が鈍る。いくら頭で考えても、体がシェゾに答えてしまう。ボクは、声を漏らさないよう
に呑み込んむと目をぎゅっと瞑って耐えた。シェゾの手がボクの顎にふれると、ボクの抵抗はないに等しく、
顔は簡単に彼の方へと向きをかえた。
「・・・・・・・・・・・・やはり嘘だな。」
シェゾはボクをじっと見つめながら、先ほどからの話にもどす。
「嘘じゃ・・・・ない・・よ。」
彼の言葉を、ボクは力無くでも頑に否定する。目を恐る恐る開くボクに、彼は暗闇に冴える邪悪とも言える笑顔を見せた。
「感度がよすぎる・・・・・・・・・・昨日も同じようなことをされただろう?」
「・・・・・っ。」
昨日の夜、記憶は曖昧だけど似たようなことをされた覚えがあった。言葉が見つからないボクをよそにシェゾは続ける。
「いい、もうじきわかることだ。」
「?」
今、十分に確かめたはずだ。シェゾの言葉の意味がよくわからない。戸惑うボクの体に、休んでいた彼の手
が再び走ってすぐだった、太ももの付け根に何かがあたる感触がする。思わず冷や汗が頬をつたり、気づけば
ただ、懸命にシェゾに抗っていた。
「い、いやだっ・・・・・・いやだよっっ!!シェゾ、離してぇ!!」

昨日のせいで魔法もろくに使えないけど、ボクは自分の両足を持上げようとする腕を力いっぱい叩く。びくと
もしない。必死で藻掻くボクはその無力さと恐怖に泣きそうになった。シェゾは動きを止めず、それをボクの
恥部へあてがう。いやだ、こういうことはいつか愛し合う人とだけでしたい。思いとともにボクの目から涙が
溢れる。ボクは、自分の気持ちを声の限り叫んだ。
「こんなのやだよぅッ!!!!」

少女の頬が大粒の涙で濡れる。俺は今、何をしようとしている?自ら切り詰めた問いに彼女が頬を赤らめたこと
が、これほど己を狂わせるとは思いもしなかった。心の中に今までに味わったことの無い感情があふれた。嫉妬
とも憎しみとも言えない喪失感に胸が張り裂けそうになる。憤りさえ感じていたのだ、優しく肌に触れるたび、
息を切らしあえぐ淫乱な少女の姿に。少女に裏切られたような悲しみを覚える。俺は・・・気づいていた。言い終え
ることができなかった、言葉の最後を紡ぐ。
「俺は・・・・お前が・・・・・・・・・・・・。」


いきなりだった。シェゾの台詞を打ち消すように、彼の頬をかすめ閃光が走り過ぎる。
押し殺された殺気と魔力は、間近に迫るまで彼に気づく隙を与えない。桁が違うその
威力に彼は少女を解放しすぐに構えた。
「小僧、悪戯が過ぎたな・・・・・。」
魔法弾の衝撃で舞った砂煙に浮かぶ、見覚えのあるシルエット。
「貴様・・・・サタン!!」
シェゾがそう呼んだその影は彼に片手を向けてかざす。シェゾは咄嗟にアルルを背に
し魔法防御の呪文を唱えた。砂煙が薄れて男の姿がぼんやりと現れだす。どうやら、
彼の片手は攻撃の為にこちらに向けられたわけではないらしい。立てた人差し指を
左右に振りながら男は答えた。
「いいや、違うな!私こそは愛と正義のヒト!何を隠そうその名も、マスク・ド・サタンだっ」
「・・・・・・・・。」
シェゾは拍子抜けな台詞にしばらく凍る。本当にばれないと思っているのだろうか?
もし本気なら、彼、闇の貴公・・・いや、マスク・ド・サタンと名のるこの男は、立派
な変態のうちの一人であるにちがいない。

今、ボクの目の前に・・・・・・またひとりおかしなコトを言う人(変態)が現れた。彼
の決め台詞とほぼ同時にとられる決めポーズに、さっきまでの甘い雰囲気が吹き飛
ばされると、なんだかぼーっとしてたボクの頭がしっかり働き出す。あぁぁ、何や
ってるんだボクは、肝心なことをすっかり忘れちゃってたよ。ついさっきまでボクがこの身で感じていた相手、シェ
ゾだってこの人(変態)の部類に・・・・・・・・・。

「おい、アルル・・・・今、妙なこと考えなかったか?」
絶対、本人には言えないようなことをシェゾの背中に隠れながら考えていたボクは
ギクッと肩を強ばらせる。
「・・っううん。ぜんぜん。」
続けて首を勢いよく横に振って否定した。ちょ、ちょっと、今のは心臓に悪い。声
に出しちゃったのかな?どきどきするボクをよそに、シェゾは小声で耳を打った。
「隠れてろ・・・・・。」
そう言ってボクにもう一度魔法防御の呪文を唱えると、彼は一気に仮面の男目掛け
て走り込む。
「ハッ、貴様が誰だろうと興味はないっ!ただ、無粋に水を差した責任はとって貰うぞ。」
がなりながら、シェゾが右手を振ると空間の割れ目から大きな剣が姿を現す。闇の
剣って言ったけ?ボクもあんまり詳しくは知らないけど、主を選ぶと言われている
その剣は、彼、闇の魔導師にしか使えないらしい。重い音が静かな夜空に響いた。
シェゾの切り込みを受け止めた仮面の男は、その状態まま呪文を発動させる。あっ
というまに爆風と共に再び視界がなくなった。シェゾ、だいじょうぶかなぁ?
ボクは、すぐ側の木の後ろに隠れながら、彼らがいた位置を覗き見る。まだ、砂煙
に隠れてよく見えない。
「!!」
その時だった。ボクの後ろに気配を感じた途端、ボクの口が彼の手で押さえられる。
片手を自分の口元にそえながら、仮面の男は、ボクの目の前にその隠された顔を近づけて言う。
「しっ!大声を出さないでくれ、見つかると面倒だからな。」
ボクが頷くと、彼はボクの口から手をどけた。どうやら、シェゾより少し年上といった
感じ、見覚えのある色の長髪をなびかせ、黒いマントを翻すと、そのお兄さんは続ける。
「アル・・・こ、コホン、お嬢さん、君を助けに来た。」
な、なんだかなぁ。変態に襲われているところを変態に助けられる心境に似ている。
というか、そのまんまだ。ボクは出来るだけ小さな声で彼に返した。
「お兄さん、危ない人?」

「なっ、実にストレートなお嬢さんだ・・・・・ハッハッハハ・・・。」
「そう?・・・・あぁでも、ほんと助かったよ・・・ありがとう。」
何やら笑って誤魔化された気がするけど、ボクはとりあえずお礼を言った。そうな
んだ、あのままこの人が現れていなかったら今頃、シェゾに。ボクの全身にちょっと
した鳥肌が立つのを感じた。まぁ、このお兄さんが何者であれ、ボクを危機から救っ
てくれたことに変わりはないし、感謝しなきゃばちが当たるくらい・・・・だよ・・・。
あれ?ぐらりと視界が揺らぐ。安心したと同時に、ボクの身体から力が抜けたみたいだ。
どっちかっていえば、腰が抜けたと言った方がいいかもしれない、もともと無理に動かし
ていた体は、完全に歩くこと、立つことすらも許さなかった。地面にへたり込むボクの
肩を仮面のお兄さんが支えてくれた。
「家まで送ろう。」
彼がそう言うと、ボクの周りの景色が一瞬にして変わる。ワープ、瞬間的に遠距離を移動
する魔法を唱えたことによって、すぐに慣れ親しんだ場所に運ばれたみたいだ。今朝起き
たままのベッド、目を通した魔導書が積み立ててある机、そういやクローゼットも今日は
開けっ放しで家をでたんだっけ?そう、お兄さんに抱えられボクが着いたのは、決して見
間違うことのないボクの部屋だった。彼は感心するボクをベットまで運ぶと、毛布をかぶ
せてくれた。右手でそっとボクの瞼をなで下ろす。
「おやすみ、お嬢さん。」
不思議な暖かさ、ふいにボクの頭の中に昔見た父親の面影が浮かぶ。いつの間にかお兄さ
んの気配は消えボクは眠りについていた。

index