no title
1-910様
「あぁっ、困った・・・困ったぞ・・・・なんたる悲劇だ・・・ぶつぶつぶつ」
ここは、サタンの城の最上階。一番無駄に広く、なにやら黄色い生物のぬいぐるみ
で埋めつくされた部屋を彼がぐるぐると歩き回る。
「あの、サタン様・・・何かお悩み事でも?」
そんなサタンの様子に見かねたルルーが、水晶色の髪を掻き上げながら口を開いた。
「はぁ・・・・そうだな。お前に聞くのも参考になるかもしれん。」
「もちろんです!わたくしはいつだってサタン様のお役に立ってみせますわ。」
サタンは、嬉しそうに二つ返事するルルーをしばらく見つめて考え込む。
(さて、いかに問うか?)
たとえ話が思い浮かばないサタンは少し困って考えるが、そんなことが目の前の
一途でちょっと(?)独創ぎみの彼女に読みとれるはずはなかった。
何やら、既にルルーは浸っている。
「あのな・・・・・・ルルー、もしもの話だが・・・・」
「ハーハッハッハッハッハ!」
本日2度目のご登場にボクはすっかりやる気をなくしていた。すぐに肩にいるカーくんにお願いする。
そして再び赤い閃光が、サタ・・・・あれ?どうやら、今度はマスク・ド・サタンに変装しているらしい。
変装っていっても、仮面つけてるだけなんだけどね。
ちゅどーん!!
彼の立っていた岩が吹き飛ぶと同時に、旋回したサタンがボクの正面に着地した。
おおおおっ、さっきに比べたらかなりの進歩!ボクとカーくんは茶化して拍手をする。
そんなボクの視界に、突然、赤い薔薇の花束が目の前にあらわれた。
「アルル君、私からのプレゼントだ、受け取ってくれ。」
「?」
サタンのインキュバスを彷彿とさせる行動にボクは咄嗟に2歩下がって考える。
・・・・あぁ、そう言えばさっき。
つい先刻、サタンを騙していたことを思い出す。はは、ボクってばすっかり忘れてたや。
「マスクドさん、ありがとう。・・・・・・あのね、実は・・・・・」
にっこり笑って、ボクは花束を受け取ると、彼に今日が4月1日であることを告げるべく、
言葉を続けたその時だった。薔薇の放つ香りに、ボクの目の前の景色がぐにゃりとまがる
身体がびりびりと痺れているのがわかる。あぅ・・・・どうやら、まんまと罠に落ちたのは
ボクの方らしい。
「どうだ?ちょっとは、慣れてきたかな。」
「・・・・・・・どうしたら、これに慣れるって言うんだよ!」
「ハッハハ、それもそうだな。」
サタンは楽しそうに笑ってるけど、仮面から覗く深紅の瞳はどこか冷たい。
なんだか、とてつもなくまずい方向にいきそうな・・・嫌な冷や汗をかく。
「ちょっ・・・・ちょっと待ってよマスクドさんっ!!。」
彼の手がボクの背中に回るが為すすべがない。
「いーや、アルル君、私はどこぞの闇の貴公子、兼、スーパーウルトラすばらしいサタン
様のように優しくはないぞ・・・・・。」
・・・・この人は、自分で言ってて恥ずかしくならないのかな?聞いてるボクが恥ずかしいや。
まぁ、でも、何となく意図はつかめた。要するにサタンは、マスク・ド・サタンのイメー
ジダウンとサタン本人のアップを狙ってるみたいだ。この大きな部屋に担ぎこまれる前から、
ボクは同じ類の台詞を何度か聞かされていたし。
いってみれば、いつものサタンならではの落ち度のある作戦だ。彼らが同一
人物だと知っている者には滑稽以外のなにものでもない。
ボクは、思い当たったことを取りあえず口に出してみた。
「ふーん、そんなに素晴らしいサタン様なら、ボクがこうしてピンチの時に
助けに来てくれるはずなのになぁ・・・・・ぅンッ。」
背中に回った手が腰に降りていく。こそばゆい感覚にちょっと鳥肌が立った。
「・・あ、・・・アルル君、あの方は我々では考えつかんほど忙しいのだよ。
・・・・・・ほんのたまには気づかないことだって・・・・」
「へぇ、じゃあ、ボクなんかよりよっぽど大事な用に気が向いてるんだね?」
「うぬぬぬぬ・・・・・。」
サタンが押し黙る。うん、いい感じ。これなら、絶対負ける気がしない。
ボクはサタンでもう少し遊ぶことにした。
「ねぇ、マスクドさん。ボクね、サタンより君の方がずーーーーーーーーーーーーーっっっと
好きなの。何だったら、いっそこのまま・・・・・。」
今度はボクが痺れて動き辛い手をサタンの背中にそっと回してやった。
みるみるサタンの身体がギクシャクと凍る。
「なあっぁぁっ!!待て!アルル君!私は断じて、そんなつもりで君に盛ったわけではっ、あるんだけど
いやっ!違う!そうじゃなくてだなっ・・・・・これは私が君に迫るべきであって、決して逆ではっ・・・・・!!。」
わたわたわたわた・・・・・サタンが慌てふためく。何だか、最後に言ってる台詞が意味不明だったのは
聞き流そう。ボクは取り乱すサタンの慌てぶりに堪えきれなくなって笑い出してしまった。
「ぷっ・・アッハッハハハ・・・・」
「ど、どうしたというんだっ?アルル・・・・くん」
不思議そうな顔でサタンがボクを見る。
「あははっ・・・マスクドさん、今日が何の日か知ってる?」
「?・・・・・・・・・・・・4月1日がなんだってい・・・・・・・ぬぁんあぁぁぁっっっっ!!!!」
この世界において、おそらく一番のイベント好きであろう彼は頭を抱えてのたうち回りだした。
あーあ、そんなに転げ回ってると・・・・・・・・・・・案の定、サタンの仮面が床に落ちる。
どーーーーーんっ
仮面が床につくとほぼ同時にその爆発音は響いた。
入口の扉が開いかれて?いや、蹴破られていて、その先に佇むのは・・・・・・・・
「サタン様〜〜〜っ、やっとお見つけ致しましたわ。」
嬉しそうに現れたルルーはサタンに飛びつく。よかった、今のルルーにボクの存在は見えてないらしい。
女王乱舞ならぬハート乱舞を前に、手足を動かせるコトを確認すると、ボクはとりあえずその場から立ち
去ることにした。うん。今回はボクの嘘が原因だし、サタンへのお灸はもういいや。
と、ボクが扉に手をかけた辺りでの出来事。
ぼきぼきぼきっっ
なにか嫌―な音が城中に伝わる。起こってることはだいたい想像つくんだけどね。
今のところ、ボクに振り向く勇気は持てそうにない。
ボクは叫ぶサタンにそのまま軽く手を振ると帰路へとつくのだった。