私は不器用ですから。 武士の家で生まれた身ですから。 いかなる時も冷静で穏やかに対処し、考えを詠ませない。 …………………………それだけは完璧だった。そう、嫌になる程に。 上手く、笑えないんです。 上手く、泣けないんです。 上手く、怒れないんです。 「………貴方は、此処に来て笑うようになりましたね……」 そう言うと、目の前の青年は一拍置いて微笑んだ。 「此処の暮らしは、俺に忘れかけていたものを与えてくれる。 任務の一環ではあるけれど、やはり楽しいから」 照れたような、はにかんだ顔。 胸に刺さっていたのは針。 彼が笑う事を嬉しく思うのも本当。 ここの暮らしは、貴方の隣は私の凍った心を溶かしてしまう。 ねぇ、知らないでしょう?一緒に暮らそう、と言ってくれた貴方の言葉が凄く嬉しかったことを。 憎んでいました。清里様を殺した人切りを。 憎んでいました。血の雨を降らせる修羅を。 でも。 「ありがとう、巴」 「…………何がですか?」 「俺が笑うのを嬉しく思ってくれて」 頑張ったんです。 少しでも、気持ちを伝えたくて。 でも、上手くいかないんです。 私は不器用ですから。 なのに貴方は。 …………ああ、どうしてこうも愛しいのだろう。 あとがき++++++ 巴独白。 巴さん大好きだー。……とはまっていたころが懐かしい。 今でも好きですけど。 (2008.9.25修正)