秋の日







カコン。


清々しささえ感じさせる音が色づく秋の庭に響く。
まるで時を打つかのよう。
音の発生源―――緋村剣心は一息つくかと手を置き、神谷家の縁側に腰を落とした。
ふぅ、と疲れの色を滲ませた溜息の先には薪の山。
随分と割り続けたお陰か、彼の腰まで届くくらいには積み上がっている。
もうじき来るかと言う季節の為の準備だ。
秋の風が、あつくなった体をさらりとなでていく。



「あら、休憩中?」



ころころと鈴の音のような声に剣心が振り向くと、そこには愛しい人。
銀杏色の地に紅葉色の帯の着物を纏った神谷薫。
手に持った盆の上には、揃いの柄の湯飲みが乗っている。



「丁度よかった。お茶どう?」
「忝い。では遠慮なく」



剣心が笑って答えると、薫も剣心の隣に腰掛けて、
用意していた急須からゆっくりと交互に茶を注いでゆく。


「おろ。こんな茶菓子あったでござるか?」


差し出された茶に添えられた菓子に剣心が反応する。
神谷家の台所事情を一番把握しているのは彼だった。


「さっきお隣さんに頂いたの。剣心と一緒に食べたいなって」


はにかんだ表情で笑う。
小さな器の上に乗せられた菓子は、白い中に薄く紅を刷いたように
色づいた可愛らしい練り菓子だ。
そこで薫はようやく庭先に目線が向いたらしく、目を見開いた。


「わっ、もうこんなに終わったの? 早ーい」


薫が薪割りをしていたならばこうまで進んではいなかったであろう量の薪。


「いや、まだまだ足りぬから。一息ついたらまた作業に戻るでござるよ」


剣心の目線の先―――薪の山の向こうに、『これから割られる予定のモノ』が
薪に負けずおとらず、こんもりと積み上がっていた。


「そうね、あのくらいないとまだ足りないかもね」
「おろ」


苦笑いする剣心。


「まぁ、今日中にやり終えなければならぬわけでもないでござるし」
「頑張ってね、旦那さま」


やれやれ、と呟きがもれる。


「まぁ、愛しい妻と一緒に冬を越すため、頑張るでござるよ」







風が縁側を吹き抜ける。
冬将軍の訪れの前触れが届くのもそう遠くはない。


しかし、今年の冬は暖かいだろう。


そういう予感を感じるのは何故だろうか。
答えなんてわかりきったこと。
お互い自然にほほ笑んでいた。









手の中には、揃いの柄の湯飲み。











あとがき++++++

9月くらいに書いていた小説(途中まで)が出てきたので仕上げてみた。

友人の父親が庭で薪割りしていた光景を思い出しつつ。
(家がカントリー調だったので毎年薪割りしてたんです)

刀作るには砂鉄がいいそうですね砂鉄!!
楽な鉄鉱石から鉄を作るんじゃなくて。鉄鉱石にはリンとかが含まれているから、
もろくなるんだとか。逆に砂鉄にはチタンが含まれているのでいいそうです。
ただ、チタンは難しい金属なので(でもチタンはレアメタル/砂鉄からチタンを取るという
計画もちょっとあるとか)鉄を精製するまでに鉄鉱石よりも幾分か難しいそうで。
島根の砂鉄が有名なのは、砂鉄内に含有されるチタンが0.1%以下で、他の日本の砂鉄
(大体5%くらいチタン含有)よりも全然玉鋼を作りやすいかららしい。
んでさらに、玉鋼を叩き伸ばし、折り、さらに叩き伸ばすという工程は15回がベストらしい。
砂鉄から作られた玉鋼のチタン層が折り曲げることによって2の階乗…1mm〜2mmの間に
分子レベルで3万層にもなるチタン層ができるらしい。ちなみにそれ以上折ると
分子が崩れて駄目になるらしい。チタン層云々は最近現在の研究についてわかった+推測
らしいですがね。15回がいいというのは職人の経験から。鉄鉱石のリンだと別だけど、
チタンだと上手い具合に鉄分子の滑り止めになるから、鉄分子が丈夫でなんたらかんたら。
剣心の刀もこうやって作られたのかと思うとこれを知ってテンションあがった。
けど、この知識使い道あるのだろうか。ない気がするので無駄にこんなところに書いてみた。

日本の鋼がいいとされるのは、チタンが入っているかららしいですー。
過去の話。今では面倒なんて主流は鉄鉱石。
伝統的な鉄づくり名人は、現在日本に一人しかいないそうです…ががーん。




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