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 切り裂いた爪 番外編






 銀木犀が穏やかに咲く、レンガ造りの広場。今日は祭りで人出が多い。
 どん、と人に押され、微服のエリオンはよろめく。それを、ヴェールで顔を覆ったジャックが支えた。
 今二人は貴族の子息とその従者のふりをしている。ジャックの方が街の人に知られているので、厳重に顔を隠している。エリオンは髪の整え方を変えたくらいだ。
「ありがとう」
「手を繋ぎましょうか。……危ないですから」
 ジャックが出した手を握り、エリオンは顔をほころばせる。少し、ただの主従から逸脱した雰囲気だった。

「あれは何?」
 空いている手で、エリオンは露店を指差す。
 綺麗な青色の細工物が並べられている。銀細工のような繊細な曲線、透きとおった青色の材質。
「珍しい。繭人の糸細工だ。繭人は金属のような糸を作れるんだ」
 そういえば露店主は手先がかなり細長い。
「綺麗……」
 青だけど、少しずつ色が違う。指輪を手に取る。
(一番似ている)
 ジャックの瞳の色に。
「それを買うんですか」
 ジャックに聞かれ、
「うん、あ……」
 お金を持ってきていないことに気づく。
「いくらだ」
 エリオンが何かを言う前に、ジャックが買ってくれた。
「あの、あとで返……」
「差しあげます」
 ジャックはエリオンの手を取る。エリオンの指をジャックの指先が滑り、ぴたっと指輪をはめられる。
 こんなに小さく繊細なものだというのに、ジャックに拘束された気がしてどきどきする。
「あ、ありがと……」
 先程からお礼を言ってばかりだ。

 まず、祭りに行きたい、そう口にしたら叶えてくれた。王なのだから行くことなどできないと分かった上で言ったのに。
 護身もできない。街の地理に明るくない。……財布も忘れるエリオンを、ジャックが自ら案内してくれたのだ。
(祭りがあったから、仕事も詰まっているだろうに)
 ジャックに手を引かれ歩きながら、うつむく。
 人通りがまばらになったところで、急にジャックに引っ張られる。
「え……?」
 路地に引き込まれ、抱き寄せられ、
「ん……」
 口付けされる。人の姿のジャックとは初めての……。
 ゆっくりと唇が離れる。ジャックは指輪を着けたエリオンの指を撫でながら、
「俺のエリオン……」
 恍惚と囁いた。
 ドタドタと騒がしい足音が近づいてきて、ジャックが体を離した。
「いかがしました!?」
 遠くから見守っていた兵たちが慌てた様子で駆けつけたのだ。
「何でもない。陛下、土産も買いましたし、そろそろ帰りましょうか」
「……うん」
 真っ赤になったエリオンは、ジャックの言うままに馬車に乗せられた。





 城に戻り、ジャックに私室まで送ってもらう。と思ったら、ジャックは人払いをして、エリオンと共に部屋に入ってきた。
「エリオン……」
 抱きしめられ、顔中に口付けを受ける。
「ジャック……」
 うっとりしていると、ジャックが寝台の帳を開く。はっとして、手を突っ張って体を離す。
「ちょ……ちょっと待って」
 ジャックの腕の方が長くて、大した距離は取れなかったが。
「仕事があるのに、三時間だけという約束で抜け出したんだよ」
「早めに切り上げてきたから、時間はある」
「……そのために?」
 恥ずかしくて動けないでいると、寝台に座らされ、靴を脱がされる。
「時間が掛かるからな。そのくらい考えている」
 二年前に一度だけした交合を思い出し、下半身がうずく。してほしいけど、
「ひゃっ」
 寝転がされ、めくれた長衣の中のエリオンの足を、ジャックが撫でる。エリオンの靴下の中に、彼の指先が入りこみ、つま先までゆっくりと撫でながら脱がされる。
「や、やめて」
「だめか?」
(う……)
 悲しそうに言われると弱る。
「だめじゃない。けど、焦ってするのは、やだ……」
 自分で言っていて、夢見がちだと思う。
「夜がいい」
 エリオンは身を縮ませて、自分の体をぎゅっと抱きしめた。本当は、全身がジャックに触れたがっている。
「時間とか、全て忘れて……、ジャックのことだけ考えて、したい」
 ジャックは息を飲んで、ぐっと歯を喰いしばった。
「ふ……」
 長めの優しい口付けをされた。
「夜……だな」
 太腿のあたりまで下ろされていたエリオンの下着を、ジャックが穿かせ直そうとする。
「自分で穿く!」
 思わず手を払った。
 ……靴下を穿く動作さえ熱っぽく見られている。
(ちゃんと、仕事に集中するんだ)
 エリオンはそう自分に言い聞かせた。
 だがジャックの方が我慢が足りず、
「は、放してっ……」
 エリオンを押さえつけ、その唇を味わいながら靴を履かせた。





 ジャックに触られて体が熱くなってしまい、結局、熱を覚ますために、ただ時間を費やした。

「時間通りですね」
 二人で執務室に戻ると、ミシオとイオニスが待っていた。
「出掛けてしまってすみません。何か変わりはありませんか」
「ええ。たまには気晴らしなさってください」
「宰相も祭りを見にいったのは、初めてではないですか? 務めばかりだからなあ」
「別に行きたくもなかったからな」
 ジャックの言葉に、エリオンは胸がちくっとした。
(つまらなかったかな)
「今年は乗り気でしたけど。若い美男と一緒だと楽しいんですかね」
「まあな」
「え」
 イオニスは軽口を言っておきながら、ジャックに肯定されると驚いた。
「ジャック!」
 エリオンは顔を赤くして怒った。ジャックは嬉しそうに頬をつねられる。
 祭りの前は淡々としていた二人の変わり様に、イオニスとミシオは首を傾げた。





 沐浴を済ませ、寝台に座る。
 ……緊張する。
 ただ拳を握っていると、扉の向こう、ノックされた。
「陛下、ジャックです」
「は、入って」
 ジャックが入ってきて、扉に鍵を掛ける。彼が傍に来るのを、何も言えないまま見守る。
 ジャックが隣に座り、髪を撫でられる。
「エリオン」
 肩を抱き寄せられ、髪に口付けられる。
「んっ」
 背筋がゾクゾクして、逃げたくなるのを、ジャックの手が離さない。
「もう、待たないからな」
 すごく優しい声なのに、縛りつける言葉。
「うん……」
 嬉しい。
 寝台の上に、両膝を立てて座らされる。帯を緩められ、長衣をめくられる。股を広げて、片足ずつ靴下を脱がされる。
 ジャックに脱がされていることに興奮して、呼吸が荒くなる。
 下着の中に彼の指が入り、
「……う」
 エリオンの性器に一瞬手が当たり、下着が引き下ろされる。
 はあ、はあ、と欲情を抑えきれない呼吸。股間と素足を彼の前に晒している。
「手を上げて」
 抱き寄せられ、長衣を上に脱がされる。布が顔を覆って、荒くなった息には苦しい。
「ん、ん―はぁ」
「脱がしにくい。今度から夜着は俺が選ぶな」
 ジャックはエリオンの服をベッドの外へ投げた。
 全ての布を取られ、裸にされた。体を隠したい気持ちを、ジャックの服を掴んで耐える。ジャックが服を脱ぎはじめたので、ビクッと手を離す。
「今脱ぐ」
 ジャックが頬を紅潮させ、微笑む。……違う意味にとられてしまったようだ。
 恥ずかしくて目をきつく瞑っていたら、ジャックの体が覆いかぶさってくる。
「……っ」
 熱い人肌が触れた。
 想像していたのと違う。二年間、何度も何度もベッドの上で夢見た、クーシーの体毛と。
 目を薄っすらと開けた。青い目が、まっすぐと見つめている。
(ジャックだ……)
 安心して、彼の頭に手を伸ばし、抱き寄せた。
「エリオン……」
 エリオンの耳元に顔を寄せて、ジャックが息を荒げている。
「あ、あの……」
 すんすんと、匂いを嗅いでいる。
「ふ…あ……」
 首筋をぺろっと舐められたかと思うと、噛みつくように舐め回される。
「ひ…あぁっ」
(本当に……、あの人だ)
 ジャックの姿をしているけど、あのクーシーの愛し方と同じだ。
 両頬を押さえつけられ、唇を奪われる。それどころか、口の奥まで長い舌で掻き回してくる。クーシーの彼にされた時ほどではないけど、息ができない。
 ぐっと彼を押し返すと、
「ん……あっ、ごめん」
 不満げな顔を見せたが、エリオンが必死で呼吸していることにすぐ気づいた。
「大丈夫か?」
 優しく頬を舐めてくる。
「うん……」
 打って変わって、丁寧な舐め方になった。
「ん―」
「ここ、弱かったな」
 乳首を吸われた。
「い、言わないで」
 彼と言葉を交わしながらの交合は考えていなかったから、すごく恥ずかしい。
「エリオン……」
 こんなに熱っぽく名前を呼ばれるのも、弱い。
「あ、待って、ま……あっ」
 優しく舐められて、敏感になったところを甘く噛まれて、我慢できなかった。
―っ……」
 ジャックの下腹部に、エリオンの精液が飛び散った。
「え……」
 ジャックは自分の腹に触れ、白い液体をすくった。
「乳首だけでいったのか」
「…………」
 言葉にされて、その厭らしさに体が震える。蹴るか殴るかしたい衝動にかられたが、両足でジャックの体を挿んだ状態ではできないし、腕は真っ赤になった顔を隠しているので動かせない。
 ちゅっと、水音がなった。
「……?」
 嫌な予感がして顔を隠す指の隙間から窺うと、ジャックが自分の手を舐めている。そこにはエリオンの精液が―。
「ばッばか! 馬鹿ばかっ!」
 慌ててジャックの手を押さえる。下半身の疼きを我慢しながら、寝台の傍らの棚に手を伸ばす。ガーゼを取りだして、彼の手を拭く。
「俺のために出してくれたんだろう」
「……出ちゃったの! 舐めさせるためじゃない!」
 眉を下げて、ジャックは残念そうな顔をする。凛々しい顔を、なんて厭らしい理由で歪めているんだろう。
(普通に、ちゃんと……する)
 少し冷静になった。恥ずかしいからって、こんなに叫んじゃ駄目だ。
「今度は、ジャックも……」
 エリオンは、恐る恐るジャックの男根に触れる。手のひらに、熱が伝わってくる。
(前と、形が違う?)
 二年前に一度きりだけど、何度も反芻していたから記憶は薄れていない。
 クーシー姿ではないから大きさが小さいのはともかく、ジャックの性器はもっと先が尖って、勃起した後はむき出していた。今は、エリオンよりずっと大きいけど、同じ形で、先は少ししか出ていない。
(ここの毛もふわふわかな)
 そっと手を伸ばすが、
「エリオン、触ってくれるのは嬉しいが」
 ジャックが口淀みながら、エリオンの手を止める。
「……クーシーの姿で、射精したい」
 ひと際大きくエリオンの胸が高鳴る。
(クーシーの、姿……)
 エリオンを初めて抱いてくれた、金色の獣。
「ジャック、……なって」
 ねだる声が吐息まじりになる。
「ここ、広げてからな」
 エリオンのお尻の谷間に、ジャックの指が触れる。小さな穴を、ぐっと押される。
「あ……う……」
 振りしぼって出した声が裏返った。
「こ、今度は、ちゃんと自分でする」

 初めての時は、クーシー姿のジャックに舌でしてもらった。手を使うと爪で傷つけてしまうから。
 最初は意味が分からず必死で抵抗してしまった。理解してからは途中で替わって、自分の指でしようとしたけど上手くできず、ジャックにお願いしたのだ。恥ずかしくて泣きながら。

 ジャックは困った表情で言う。
「あのな、今回は俺の指でやれるから」
「あ……」
 そういえばそうだ。また舌でされるのかと……。
「お、おい」
 涙目で上掛けの中に潜ってしまったエリオンを、ジャックは焦ってなだめる。
「ごめん、あの時嫌だったんだよな。俺が正体を明かさないせいで……」
 上掛けの端から覗いて、ジャックの沈んだ表情に気づいた。慌てて上掛けを除ける。
「嫌じゃない! 恥ずかしいのと、ジャックにすごく申し訳ないだけで……、その、気持ちよかったよ……」
「じゃあ、もう一度しても―」
 目を輝かせたジャックを、キッと睨む。
「……分かった。やらない」
 目蓋に口付けして、機嫌を取られる。これをされると大抵のことは許してしまいそうだ。
「好きだよ」
 単純な言葉で、胸にとどめを刺される。悔しいから何も言わず、ジャックの胸板に抱きついた。
 ジャックは寝台の傍らの棚に手を伸ばす。
「エリオン、くっつきすぎだ。取れない」
 嬉しそうに言いながら、引き出しから小さなポットを見つける。
 蓋を開けると、中には蜂蜜のようにとろっとした液体が入っているようだった。それを指に取り、またエリオンの後ろに触れてくる。
 額に優しく口付けをくれる。こんな状況なのに落ち着いた動作だった。いつも変なことをするくせして、たまに大人っぽくなる。
「楽にしていろ……」
 髪を撫でてくれながら、エリオンの体を開いていく。ゆっくり、ゆっくりと。
 エリオンは息をついて、緊張していた体から力を抜く。
―ん」
 ジャックの指が、奥まで届いた。
「ジャック……」
 彼にすがりついて、その鎖骨に唇を寄せる。
「エリオンッ……」
 荒い息のジャックが二本目の指を入れる。刺激されながら、徐々に広げられていく中。少しずつあの日の感覚に近づいていく。
 腰に擦りつけられる彼の男根が、大きくなって湿っている。
(こんなに大きくなっているのに、待ってくれている)
 エリオンは一度射精して、今も後ろを気持ちよくしてもらっているのに。
 余裕のない彼の様子がたまらず、胸が震える。クーシー姿のジャックのは大きくて、二度目でも恐怖がある。けれど、それ以上に愛おしい。
 とてもとても小さい声で、
「好きだよ」
 と言う。耳のいいジャックには聞こえたようで、とろけるような笑顔をくれた。

 抱き合いながら、後ろをいじられている。
「もう、大丈夫」
 ジャックに伝えると、じっと目を覗きこんでくる。無理していないか確かめているのだ。
「一度すると、止められない」
「うん、知ってる」
 彼の柔らかい髪を撫でる。
 後ろから指が引き抜かれ、
「んっ」
 思わず目を瞑って喘いだ。目を開けると、エリオンの頭の両側にジャックが手をついて、見下ろしている。
「愛してる、エリオン」
 そう言葉を残すと、ジャックの姿が変わっていく。体格が大きくなり、金の毛に覆われていく。
 ふわっ、とエリオンの裸体の上に毛並みが触れる。美しい狼になった。
 騒乱の時はこうして見蕩れる時間はなかった。エリオンの大好きな、金色の獣。
 彼は四本の足でエリオンに被さる。国王の大きな寝台が、彼には狭そうだ。
「……お願い……」
 胸が高鳴る。
「入れて……」
 体を裏返して、手と膝を寝台につく。
―ッ……」
 彼の毛と、その下の熱い筋肉を背に感じる。ゾクゾクと体が震えた。これだけのことで、男根の先から、こぷっと液体が溢れてしまう。
 ジャックが動き、エリオンの股間にぴとっと、濡れながら熱くなっているものが当たる。
「……ここ」
 そろそろとジャックの男根に触れ、入れてほしいところに導く。ググっとジャックが喉を鳴らした。少しずつ、彼が入ってくる。
「ふゥ……ん―」
 ジャックの息づかいを感じる。後頭部を彼の口でつつかれて……、
(違う。これは、口付けだ)
 腕の力が抜け、シーツの上に頬をつく。ジャックと繋がっているので下半身は倒れない。
「はぁ……」
 後ろから、顔を覗きこまれる。心配そうに小さく鳴く。
(優しい)
 微笑んで答える。
「気持ちいいよ」
 クーシー姿の彼には素直になってしまう。
 頬を舐められながら、下半身を揺さぶられる。
「あ……ぁ……」
 彼の男根でお腹の中がいっぱいだ。
(おっ…きい……)
 膨張して、
「んん―」
 中に注がれている。
「は、あ……」
 彼の毛並みを尻と背に感じながら、注がれつづける。お腹の中にトロトロと溢れていく。
 エリオンのお尻を、ジャックの男根がぎちぎちに圧迫していて、下半身が動かせない。犬のように背筋を伸ばし、ジャックの前足に口付ける。口元に当たるふわふわの毛が気持ちよくて、口をすり寄せる。
「えへへ……」
 頬を緩ませていたら、ジャックの突き方が激しくなる。
「ぁあッ……やっ……」
 彼の男根と精液でお腹がいっぱいなのに、まだまだ注がれる。
(いっぱい……。だけど……)
 離ればなれで焦がれつづけた想いには、まだ足りない。
 背に向かって半分くらい振り返ると、彼の長い舌が伸びてきて、唇を舐められた。



 ジャックがようやく脱力して、エリオンの側に横たわる。
「ひぁっ……」
 繋がったままのエリオンは引きずられる。彼の性器がずれて、その僅かな隙間から精子がドプドプと零れていく。股に液体が伝う感覚を、エリオンは体を震わせて耐える。
 耐えているところを、ジャックが前足で引き寄せてくる。喉を鳴らして、抱きしめやすい位置を探している。彼の柔らかな毛に埋もれ、その下の熱い肉体の形を感じる。
―っ」
 また、勃起してしまった。ジャックは気づいていないようで、うつむいたエリオンの顔を上げさせようと、ひたすら頬や額を舐めてくる。
「ジャッ……」
 やめさせようと口を開いたとたん、舌を入れられる。
「は、あ―……」
 長い舌で奥まで舐められて、息ができない。後ろにひねった苦しい体勢で、思うように動けない。ジャックの焦った動きにつられ、股をぐりぐりと揺らしてしまう。
 ジャックを押しのけて、
「抜いてッ」
 と擦れた声で叫んだ。
 押さえつけてくる力が抜ける。
 お尻の中を刺激されて、全身が火照っている。肩で息して、それをだんだん落ちつける。ようやくジャックの様子に目がいった。
(しおれている?)
 お尻から男根が引き抜かれて、思考が遮断した。中をきつく圧迫していたものが抜けて、さみしい。いっぱい注いでくれた精子さえ、零れでてしまう。
 敏感になっている股間に気を使いながら、体を裏返した。
「ジャック」
 精液まみれのシーツを背に、ジャックを見上げる。少し視線を彷徨わせて、エリオンは言った。
「今度は、向かい合ってしていい……?」
 そう言ったとたん、ジャックの目が輝いた。勢いよく襲いかかってくる。
「やっ、一度……中の掻き出さないと、入らな―っ……」
 ジャックの性器の先がエリオンの中に入れられる。エリオンの手で導かなくても、一発で入れられるようになっていた。
「あ……ぁ」
 ゆっくりではあるが、有無を言わせず押し入ってくる。
 また中にいっぱい、彼を感じる。思ったより精子は外に零れたみたいで、残りは中の滑りを助けるのにちょうどいい量だ。背中から足にかけて、白い液体でとろとろだ。
(……気持ちいい)
 手を伸ばし、彼の頬を撫でる。
「ね……、もっと」
 エリオンにねだられて、ジャックは、
「っ……」
 エリオンをかかえこむように抱きしめてきた。ふわふわの彼の首筋に鼻が埋もれる。呼吸できない。横を向いて、どうにか一息ついたが、
「ひっ―ゃ……」
 抱きしめられたまま、激しく腰を揺さぶられる。彼の毛並みに全身が触れた状態なのに。
「……、―……!」
 乳首の先が、彼の毛にくすぐられる。
 彼の前足を枕にした首筋に、彼の荒い呼吸がかかる。
 エリオンの性器が、彼のお腹の毛に包まれている。その状態で激しく擦られるのだ。
「や……、いやぁッ……」
 おかしくなりそうだ。興奮して目元が熱くなって、涙がぽろぽろと零れる。
 ぴたっと、揺さぶりが止まった。
「え……」
 エリオンを拘束する力が抜け、ジャックが顔を上げる。心配そうにエリオンを見つめている。
 涙をぺろっと舐められた。
「……う……」
 彼の理性を見せられた気がした。
(ジャックは、ずっと年上だし、変だけど頭いいし、格好いいから……)
 恥ずかしくて、エリオンの頬はさらに紅潮する。涙がとめどなく溢れて、ジャックの優しい舌が追いつかない。
「一度、すると……止められないって、言ったくせにぃ……」
 泣きながらで、舌が回らない。
「止めないで。して……」
 ジャックは舐めるのをやめる。
「いっぱい触れて、突いてもらうの……、夢みたいに嬉しい……」
 ジャックの目が大きく開いて、力いっぱい貫かれた。
「ぁあッ」
 もう止まらない。
 低い唸り声を上げながら、エリオンの体を貪っている。エリオンも彼の腰に足を絡ませ、ジャックの体を感じようとすがりつく。
 彼の性器が内側で膨張する。もう、果てるまで離れられない。





 体が疲れきっている。ふわふわで温かい恋人に抱きしめられながら、今にも寝そうだ。
(けど、毛並みを汚しちゃったから、お風呂に入らないと。それで、陽なたで乾かしたら……)
 微笑みながら眠りに落ち……。
「エリオン」
(……声)
 薄っすら目を開けると、ジャックが人の姿になっていた。凛々しい顔を、にこにこと崩している。
 ジャックは話をしたそうだ。寝返りをうって彼と向き合う。
「なあに?」
「いや、何か話したかっただけで、眠いなら……」
「いいよ。ジャックの声、好き」
 ジャックは驚いたような顔をした。
「人の姿の俺も好きか?」
「え、うん。好きだよ」
「クーシーの方が好きなのかと」
 エリオンは笑った。
「最初に好きになったのは外見だけど、……恋したのは、話ができたからだよ」
「最中も、俺がクーシーになったとたんに目がきらきらした」
「だって……、……素敵だし」
「面食いだ」
「そう、かな?」
(……そうかも)
 同じように想っているが、クーシー姿のジャックを見ると、逆らえないくらい、ときめいてしまう。
「二年前のセンユタムで、お前に本当の姿を見せて良かった」
 そう言って、抱きしめてくれる。
「うん……」
 多分、クーシーの彼に出会わなければ、好きになることはできなかっただろう。
 ジャックの体が大きくて、手が回せないけど、エリオンも抱きしめ返した。
「ジャックを好きになって……」
 エリオンにとって、とても悲しいことをした人でも……。
「幸せだよ」
 抱きしめるジャックの腕に、ぎゅっと力がこもるのを感じた。
<終>


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