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 じいちゃんの部屋






 幼い頃よく、じいちゃんのところに預けられた。

 じいちゃんの部屋はとても狭くて暗い。
 遊ぶものはないけど、面白い話をしてくれる。 

 しばらく聞いていると、お母さんが迎えにくる。
 半分の食パンと、水の入ったコップを手渡され、それを食べたらまたじいちゃんのところに預けられる。
 その前に毎回トイレに行くように言われる。
 そんなに頻繁に行く気にならないし、食パンも多くて残している。


 学校に行くと友達に、
「どうして学校来ないの」
 と訊かれる。
 きょとんとした。
 毎朝八時になったら学校へ行っている。

 それ以外にも、僕は周りから浮いていた。
 馬鹿なうえに、背も伸びない。
 テストの内容が知らないことばかりだ。


 ある日、役所か何かから人が来て、僕を連れていこうとした。
 僕が友達より体が小さいせいで、先生や近所の人から、お母さんが悪く言われているそうなのだ。
 僕は、
「お母さんはちゃんと食事をくれた」
 と言ったが、信じてもらえなかった。

 話の通じない人たちに連れていかれるのがとても恐い。
 お母さんは椅子に座ってじっとしている。
 じいちゃんに助けてもらおう。
 和室の奥に向かい、襖を開ける。

「じいちゃん! 助けて。お母さんちゃんとご飯くれたって言って!」
 じいちゃんは優しい顔だが何も言わない。
「ぼうや、お祖父さんは押し入れにいるのか」
 役所の人が険しい顔で近づいてきた。
 僕は目を瞑って震える。

「いないじゃないか」
 目の前にいるのに、変なことを言う。
「ここに……」
 僕はじいちゃんを指差す。
「この染みが?」
 じいちゃんはとても体が薄く、壁に張りついている。
 いつものように、口をもごもごと動かして喋ってくれない。



 僕は施設に預けられた。
 学校が変わり、前の学校よりも授業の進みが緩やかになった。
 時計やカレンダー、時間割を、施設の先生が教えてくれて、理解できるようになった。
 頑張って他の子と同じくらい勉強ができるようになったし、背も高くなったけど、お母さんもじいちゃんも迎えにくることはなかった。

〈終〉