白い男 黒い男
駅の階段を上りホームに出ると、電車が行ってしまったところだった。
次が来るのは五分後。
待つ人が増え出したので、空いている端まで移動した。
そこにあった自販機を見ると、喉の渇きに気づいた。今日の日差しは眩しい。一本買って一口飲む。
さあ並ぼう、と振り返った時、それが目に入った。
白い人影、黒い人影。
上下白の服と、上下黒の服の男が、白線の手前に二人で並んでいる。
線路に向き、こちらに背を見せて。
普通のYシャツとチノパンではあるのだが、色の組み合わせが目立つ。しかも対称の色とはいえ同じ印象の二人。
そして肩を前に落としたダランとした姿勢が、気味の悪さを醸し出している。
少し離れよう。
二人の男に視線を残しながら、ホームの中程へ向かおうとすると、ふと、白い服の男が首だけを持ち上げて、こちらを向いた。
線路に差す光が眩しくて、逆光になる男の顔が暗い。
いや、肌の色……違う。怪我を……。
男の顔は潰れていた。顔全体にわたる擦傷。
ぞっと鳥肌が立ち、一歩後ずさると、二人はふっと離れていった。
線路側に傾いたのだ。
あっと気づいた頃には、電車が進入してきて、二人は消えた。
急ブレーキの音とともに、電車はホームの途中で止まった。
周りがざわつき、すぐに駅員や警察がきて、ホームにいた数人に声を掛ける。
自分も質問された。
他の人は、落ちたのは男一人。近くに人はいなかった、と答えた。
二人の男が落ちた、そう答えたのは、自分だけだったらしい。
実際に線路には、一人分の死体しかなかった。
自分が一番近くにいたため、最初は証言を頼りに周りを探し直してくれたが、結局何も見つからず、見間違えだと結論付けられた。
……納得はいっていない。
それでも受け入れて、すぐ忘れてしまおうと思った。忘れたかった。
死体は腰で真っ二つになっていたのだ。
上半身と下半身が、別々に線路に転がっていた。
白のTシャツと黒のジーンズが、離れ離れに血に塗れていた。
その日は予定を取りやめて帰ったが、静かな夜にうなされて、次の日にはまた外に出た。
この地域は路線の選択肢が無いため、駅を変えられない。
同じホームに登り、せめて反対の端で電車に乗った。シートは埋まっていたので最後尾の運転席の壁に背を預ける。
電車が速度を上げていく。きっとあの場所は見えない。そう思っていたのに、発車直後のホームは人が少なくて見通しがとても良いのだ。気づいた時には、もうあの場所を通り過ぎる瞬間だった。
今日は誰もいない。
安心して、つい振り返ってしまった。
二人の男がいた。
白いTシャツの男の顔の怪我はこの距離だと見えないが、あの組み合わせは間違いない。
最後尾の窓から目が離せないまま、駅から離れていく。
……ホームの下の隙間に、砂利にしては大きい黒と白の固まりがある。隙間から溢れて線路に届こうとしている。赤くくすんでいるようにも見えた。
〈終〉