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◇◆ Safe house 1 ◇◆
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「面白い映像をありがとう。親友同士の憎みあいほど、心を震わせるものはないからね」
「シヴァ、ずっと聞きたかったんだが、なぜそこまであいつを憎むんだ」 「憎む? それは的確な表現じゃないな」 「なら、なぜ……」 「求めるものが同じだからさ。勝者は2人もいらないだろ?」 「求めるもの? あんたと呉埜がか?」 「余談はもう結構だ。君に最後の仕事を与えよう――」 仁美と突然連絡が取れなくなったと、不安顔の叔父様が部屋に現れたのは、23時を回った頃だった。 慌てて仁美の携帯に私からも連絡を取ってみたけれど、流れてくるのはアナウンスの声。 『この番号は、現在使われておりません――』 今日の昼間まではちゃんと使えた。いつものように、くだらないメールのやり取りをしていたのだから。 夕方、店に仁美が現れたときも、相変わらずの会話を繰り広げたし、週末に買い物へ行く約束だってした。 「ここに来る前、仁美のアパートに行ったんだ。応答がないから、仁美から預かっていたスペアキーで部屋に入った」 叔父様の言葉で、呼吸が早まる。どうか、荷物が跡形もなく消えていたなんて言わないで…… 「目を疑ったよ。何一つないんだ。空っぽなんだ。キッチンの水垢さえなかったんだよ」 後ろ手の壁に背中を押し付けた。何かに寄りかからなければ、立ってなどいられない。 こみ上げる吐き気を手で押さえ、苦しさに涙が浮かび上がる。 若行が消えたときと同じ状況。それでもまだ、仁美には叔父様がいる。 仁美がこの世に存在していたということを、知っている叔父様が―― 「香里ちゃん、すまないんだが、私の家に来てもらえないかな。家内がダウンしてしまってね。 私はもう少し、心当たりを探したいから、香里ちゃんに家内を頼めないかと思って」 困惑しながら懇願する叔父様に、当然強く頷き 「すぐ支度します」 慌てて身支度を整え、もしものための携帯と財布を片手に、叔父様の車に便乗する。 海沿いの道を、猛スピードで走る車。暗がりの海は、それだけで恐怖を増しているように思えた。 不意に、叔父様が携帯を取り出し電話をかけた。 「呉埜くんだね? 大丈夫だ。香里ちゃんは無事だよ――」 海を見つめ続けていた私の視線は、その言葉で叔父様に向けられる。 なぜ私の安否を知らせるのだろう。呉埜という人は、一体誰なのだろう。 不安を抱くけれど、それを口に出来ずに電話が終わるのをただひたすら待った。 電話の主と話を終えた叔父様は、自販機が立ち並ぶ場所に一旦車を停車すると 「飲み物を買ってくるから、少し待ってて。訳はそれから話すから」 私の返答は待たずに車を降り、ポケットから小銭を取り出して、迷うことなく2本の飲み物を買った。 溜息混じりに屈みながらそれを拾い上げ、また溜息をついてから運転席のドアを閉める。 そして意を決したように、いつもの調子でゆっくりと、けれど真剣に切り出した。 「香里ちゃん、とても厄介な事件に、仁美は関わってしまっていたらしい。 だから今から私が言うことを、冗談だと思わずに聞いて欲しいんだ」 それから叔父様は、私もその事件に巻き込まれていること。 私の身が危険にさらされているということ。 だから私を避難させねばならず、その場所はひとつしかないということを簡潔に告げた。 「どうか私を信じて欲しい……」 そしてその言葉を聞いた直後、私は深い眠りに落ちた―― |
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