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◇◆ Sword 2 ◇◆
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バールに戻れば楽勝だ。思う存分、力が使える。
けれど、オチオチしては居られない。グランドがこれに気付けば、鈴をまた人間界へ押し戻すだろう。 ということで、アルと共にバールへ戻った後、鈴に憑いていたゼロを呼び戻し、勘だけが頼りな作戦を立てる。 『さぁ、何でも言って? 何でも言うこと聞いちゃうよ?』 カプチーノ城の鏡の間で、尻尾を尻ごとビュンビュン振りながら、やる気満々のゼロが騒ぐ。 「分かったから、そんなに動くなよ」 余裕の笑顔でゼロを宥め、そんなゼロの額に、指で小さな六角形を描きながら呪文を唱える。 そして、その描かれた六角形の中に、息を吐き出しながら自分の幽体を注ぎ込んだ。 早い話が、幽体離脱という代物なのだけれど、肉体を持たないゼロに憑依させるのがミソだ。 ゼロの力と自分の力を融合させられるから、自分だけの幽体よりも遥かに強力になる。 けれどそれに伴い、不都合なことも多少起きる。 魂みたいなものが合体する訳だから、当然ゼロと俺の心も合体しちゃうわけで…… 『さて、間抜けなジュリエットさんに、会いに行きますか』 『なんだよそれ? ベルを助けに行くんだろ?』 『ゼロちゃんよ、俺がロミオなんだから、ベルはジュリエットだろぉ?』 『ハッ!』 か、かんじ悪い狐ね…… 全速力でエスプレッソ城まで飛び、窓辺でアホ面しながらたそがれる、鈴を見つけてつぶやいた。 「あの馬鹿……なんて格好をしてるんだ」 いくら極寒なエスプレッソだとはいえ、あそこまで着込むことはないはずだ。 あれではまるで、雪だるまだ。脱がしても脱がしても、中から服が現れそうで怖い。 そこで俺の感情を読み取ったゼロが、ここぞとばかりに嫌味を吐いた。 『随分、丸っこいジュリエットだね?』 『いえ、あれは、ただの丸っこいベルでした……』 何かに驚き、慌てふためく鈴をよそに窓ガラスをすり抜けると、明らかにこっちを向きながら鈴が言う。 「ゼ、ゼロ?」 どうやら鈴は、ゼロの姿が見えるらしい。 ここはバールだということが関係するのかも知れないけれど、そんなことよりも怒りの方が先に立つ。 『なにが「ゼ、ゼロ?」だ。全くこいつは、昔から本当にのんきな女だよね』 そんな文句をブツブツ言って、上から下までジロジロと見下しながら、鈴の周りを旋回した。 「ゼロ、お願いだから落ち着いて?」 『何が落ちつけだ! このバカったれ!』 どこまでものんきに放たれる言葉に苛立って、鈴の首に巻きつき、無駄だと知りつつ締め上げる。 けれど、鈴と同等にのんきなゼロが、恐ろしいのんびり加減でつぶやいた。 『エース、そんなことをしても無駄だよ?』 『知ってます!』 何やら自分が空しくなって鈴の首から離れれば、俺に向って両手を擦り合わせながら、鈴が懇願をしはじめる。 「ゼロ、私の居場所を、エースに言わないで……」 『こ、こいつ……絶対にゆるさんっ!』 けれどやっぱりそこで、失笑を漏らしたゼロのツッコミが、間髪入れずに吐き出された。 『ククッ エースはベルのロミオじゃないってさ』 『うっせぇ、黙れこのクソ狐っ!』 ところがそこに、飛んで火に入る極寒の虫。形相のグランドが、喚き散らしながら現れた。 「全く、俺の居ない隙に勝手な真似を!」 そこで当然、待ってましたとばかりにグランドの中へ取り憑いて、内側から声を掛ける。 『その振り上げた拳は、どういう意味を持つんだろうね? まさかベルを殴ろうとなんかしてないよね?』 『えぇ? こいつ、そんなことをしようとしたの?』 『いや、ゼロ? とりあえず黙ってて?』 「くっ…や、やめろっ……」 グランドの内側から軽く首を締め上げ、いつもよりオクターブ低い声で囁いた。 『俺はお前の思惑などどうでもいい。だがベルは別だ。ベルは俺のものだろうが?』 「わ、わかった…わかったから、これを放せっ!」 そんな偉そうな態度のグランドに腹が立ち、さらに力を込めて締め上げ文句を放つ。 『放せだぁ? お前、いつになく偉そうだね? 許してくださいの間違いだろ?』 そこでようやく観念したグランドが、意に反する台詞を口にした。 「ゆ、許してください、エースさん――」 グランドの、心の中はグチャグチャだ。 色々な感情がひしめき合って、どれが誰に向けられている波動なのかすら分からない。 それなのに今度もまた、どこにも憎悪が見当たらない。 あるのはただ、訳の分からぬ苦しみだけだ。 俺やアルにも色々あるように、グランドにもまた、隠された事情があるとは思っていた。 それでも、それとこれとは話が違う。 たとえグランドにどんな事情があったとしても、俺からベルを奪うことは許されない。 『いいだろう。では、ベルを我が国に飛ばしてもらおうか』 締め上げる力を緩め、グランドを鏡の間へと促せば、堪えきれなくなったお喋り狐が、プリプリ怒って言い出した。 『よくないだろ? エースさんじゃなくて、許してくださいゼロさんだろ?』 『お前、次に喋ったらぶっ飛ばすっ!』 けれどそんな俺たちのやり取りに、首を手で押えたグランドが、息絶え絶えに返答する。 「わ、わかった……話さないと約束する……」 グランドの体中で、ゼロと押し合い圧し合いを繰り返し、その度にグランドの体がビクンと揺れる。 それでもなんとかグランドが、赤い布の掛かった鏡をスライドさせて、合わせ鏡の真ん中に鈴を促した。 『下手な真似をしてみろよ? このまま一気にお前をやっちゃうよ?』 鈴が俺の元に戻るまでは、用心することに越したことはない。 だから最後まで気を抜かずに、グランドへ向けて囁いたのだけれど…… 『やっちゃうのは、エースじゃなくて俺だけどね?』 『だから、黙っとけっ!』 そこでやっぱりグランドが、躊躇い震えながらそれに答えた。 「お、俺は……な、なにも言っていない……」 そしてとうとう赤い布が外されて、何も知らない鈴がカプチーノ城にリンクしはじめた。 そこで捨て台詞を残してグランドの体を解放し、鈴の体の中へ乗り移る。 『あ、そうそう、アルが舞踏会で会えるのを楽しみにしてるって』 『麗しい義兄弟愛だね』 このような、ゼロさんの捨て嫌味も加わったけれど―― ◆◇◆◇◆◇◆ 我が城へ着いた途端に鈴の体を抜け出して、ゼロとの融合を解いてから、素早く自分の中へ戻る。 我ながら素晴らしい早業だと自己満足に浸り、お喋り狐のツッコミが聴こえなくなったことに安堵の息を零した。 けれどそんな俺に背を向けて、目を閉じたままボケっと立ち続ける女が一人。 「迂闊。お前は、迂闊過ぎ」 だから背後から声を掛けてみたけれど、鈴は振り向くどころか微動だにしない。 人間界のビオラの家に居たころから、鈴から繰り返し放たれていた嫌な波動。 バールから消える直前、ベルが放っていた波動とよく似たそれに、訳の分からない苛立ちがこみ上げる。 鈴が自分からグランドに頼んだとは思えないが、囚われてからは、自ら進んで存在を消そうとしたのだろう。 その証拠に、ゼロへ向って懇願した。 あれほど約束をしたのに、自らの意思で俺の前から姿を消したんだ。 「俺はお前に、何と告げた? そしてお前は何と答えた?」 その言葉で、鈴の眉間に皺が寄る。 それでも顔を上げようとしない鈴に怒りは増し、頬を押えて強引に上向かせ、今にも泣きそうな鈴へ怒鳴り狂った。 「二度と消えるなと言っただろうがっ!」 その瞬間に鈴の瞳から大粒の涙が零れ落ち、唇を、身体を震わせながら必死で言葉を紡ぐ。 「ご、ごめ……」 どれだけ皆が心配したと思っているんだ! どれだけ皆に迷惑を掛けたと思っているんだ! そんな想いがこみ上げて、鈴を押える両手に力が入る。 それなのに気がつけば、形振り構わず鈴の唇を塞ぎ、狂うほどにきつく抱きしめていた。 拒むどころかこんな俺を必死で受け入れる鈴は、離すもんかとばかりに俺へしがみつく。 そしてそんな鈴が、聞き取れないほどの小さな声で囁いた。 「逢いたかった……」 その小さな言葉が、俺の中の何かを壊した。 そうだ。こいつの言う通り、俺も逢いたかったんだ―― 「エース……んっっ!」 ベルを、鈴を失うことが何よりも怖い。二度と失いたくないんだ。 それなのに、なぜこんなにも、自分が鈴を求めるのかが解らないから、苛立ちだけが募り続ける。 ベルには俺の中の化け物を抑える力があったけれど、今の鈴にはそれがない。 鈴がベルの記憶を完全に取り戻せば、またその力が戻るかも知れない。 それでもそんな力はない方がいい。そんな力などあるから、ベルはあの時…… 「…っ…ベル」 浅い眠りに着いては、鈴が消える夢を見て目覚め、俺の腕の中でまどろむ鈴を確かめては、 何かを確認するように飽きることなく鈴を抱く。 まるで何かに取り憑かれた獣のようだ。 何度も自らを鈴の中へ注ぎ込み、それでも身体は鈴を求めて痛いほど高まっていく。 甘い果実を絞った液体を鈴の口に含ませて、首筋に流れ零れるそれを舌で絡めとって吸い上げる。 そのまま既に敏感になった固く尖る胸の先端を、液体で冷やされた舌で転がせば、鈴が仰け反りながら俺の髪を掴む。 ところが今回は、朦朧としながら鈴が俺を拒んだ。 「あっ、んっ……だ、だめ…もうダメ……」 「覚悟しておけと、言ったはずだけど?」 「お、おトイレに……」 ヨタヨタと、エリマキトカゲのごとく歩く鈴を見て、浮かび上がるささやかな疑問。 「ほ、本当に、俺にはあいつが必要なの?」 そしてドアの中へ消えた鈴を見届けて、そんな疑問を口にしては、さらにまた浮かぶ疑問。 「というか、さっきから、俺ばっかりが疲れてない?」 何かが腑に落ちない。 大体、あいつはただ寝転んでいるだけで、俺ばっかりが、まるで種馬のごとく必死なのはおかしいはずだ。 そこまで考えて、媚薬の棚が目に止まった。 透明なトロトロした液体の詰まった小瓶を手に取り、訳もなくそれを翳して仰ぎ見る。 そして片方の口先だけを上げ、不敵な笑顔とともにつぶやいた。 「今度はベルさんに、馬になっていただきましょうか」 素敵な媚薬の力で、意思に反した動きを起こしだす鈴。 素晴らしく積極的に俺の上へ跨って、湯船の縁に俺を押し倒し、自分の唇を重ね始めた。 艶かしいその唇と舌の動きに、声にならない吐息が零れると、唇を外した鈴が、今度は自分の胸を俺の唇に押し当てた。 たまらず下から胸に吸い付いて、わざと音を立てて舐め上げれば、風呂場の壁に反射する鈴の声。 「んあぁっ! ど、どうし…あんぁっ……」 どうして、なんでと繰り返しながらも、淫らな鈴の動きは止まらない。 媚薬の含まれた湯をすくい上げ、ゾクゾクするような指遣いで俺の身体を滑り這う。 「ベル……」 仰け反ったまま、俺の胸の先端を舐め上げる鈴の名を呼ぶ。 そして、止めてくれと懇願しながらも、固く蠢く俺自身を鈴が包み込んだ。 「ぐぅっ…んっ……」 快楽を求めた鈴の身体が、狂ったように速度を上げていく。 「あっ、んっ、あっあっあっあっ…と、とめて……」 「や、あっ、なんでっ…んっ、あ、なんでぇぁぁぁっ!」 そんな言葉を繰り返しながらも自ら揺れ動く鈴が、何度も何度も絶頂を迎え続けていく。 だから少し情に絆されて、相坂口調で種明かしを試みた。 「だって疲れちゃったんだもん。だから選手交代ね?」 「や、え? あ、ま、また…んっ、あぁぁっ!」 「あ、大丈夫よ。お湯に浸かっている限り、疲れないから。まるで鈴ちゃんは馬車ウマねー」 「い、いやぁぁぁぁぁぁ!」 ◆◇◆◇◆◇◆ 「エース、もう二日も経つのにベルが……なっ! あああぁ……やっぱり……」 「なんだよアル、朝っぱらからうるさいなぁ……」 って、ちょっと待て。アル? 今俺は、アルって言った? バレないように薄目を開けて、声がする方をチラ見すれば、アルファードと同じ指輪を嵌めた震える拳が目に入る。 ヤバイ。ヤバ過ぎる展開だ…… だから、わざとらしく寝返りを打って布団の中に潜り込むけれど、 そうはさせないとばかりに、アルファードが布団をめくった途端の叫び声。 「ぬわぁっ! ベ、ベル、お、お前は嫁入り前に!」 「や、えっ? にゅおぉっ!」 このソックリな驚き方は、やっぱり兄弟だと思わずにはいられない。 だなんて、悠長なことを言ってもいられない…… 顔を背け、手で目を覆い隠すアルファードが、鈴に向って吠え立てる。 「だから俺があれほど言ったでしょ! こ、こいつを、信用しちゃいけないって言ったでしょ!」 「ごっ、ごめんなさい……」 「あ、や、ベルは悪くない……悪いのは、全てこの男だっ!」 その言葉と同時に、ビュンと空を斬る音がして、喉元にビシッと当たる剣の矛先。 そして、地獄の底から吐きあがってきたような、恐ろしい悪魔の声が囁かれた―― 「起きたまえエースくん、どういうことか説明していただこう」 ね、眠ったフリは有効ですか? あぁ、最悪だ…… |
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