Border line
境界線と言うものは、誰が決め、誰が引き、誰が守れと強いるのだろう。
答えは自分だ。誰に無理強いされたわけでもない。それでも、そのラインを超えられない。
俺の隣でお前も、そんなことを考えたりするのだろうか。
近い。なのに遠い。
気安く触れることは出来ても、愛しさを籠めて触れることは許されない。
隣に居るのが当たり前でも、手を繋ぐことが許されない。
多分、誰よりもお前の表情を知っている。
演ずることのない素の感情で、顔を歪めて怒るお前も、鼻水垂らして泣くお前も、喉奥を見せ豪快に笑うお前も、幾度となく俺は見てきた。
けれど、それを愛しいと感じ、俺はお前にのめり込む。
短所だって、数え切れないほど知っている。
言葉尻だけを取り捻くれて、露骨に不機嫌さを表すお前も、鼻頭に筋を立て癇癪を起こすお前も、幾度となく溜息交じりに俺は宥めた。
けれど、それを補えるほどの長所で、俺は何時も救われる。
想いと同じ数だけ、あの場所で、この場所で、撮った写真が重なって行く。
どれほどの時を、お前の隣で過ごしただろう。それでも、そのラインが超えられない。
俺の隣でお前も、そんなことを想ったりするのだろうか。
遠い。なのに近い。
涙を指で拭うことが出来ないのに、着いた睫毛を払うことは許される。
上着すら脱ぐことに躊躇いを感じても、隣で眠ることは許される。
「超えたいんだ。ラインを消し去りたい」
初めてそうお前に告げ、驚くお前に腕を伸ばしたけれど、そこにはもう、ラインではなく壁があった。
「超えたかった。こんなラインを消したかった」
初めてそうお前は告げ、驚く俺に涙を見せたけれど、その言葉はもう、過去の文字に彩られていた。
初めて引いたラインは消えた。
だから、新たなラインを俺は引く――
境界線と言うものは、俺が決め、俺が引き、俺が守れと強いている。
答えは簡単だ。誰に阻まれようが揺るがない。そして今、そのラインを超える。
後悔などしない。後悔などさせない。
だから、新たなラインを超えてくれ――