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◇◆ 彼が盗んだもの 強敵 ◇◆
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夏休みが近づいた7月頭に、事件勃発!?
「えぇ、転入生を紹介する。松島さんだ」 桜庭のなぜかウキウキ声とともに登場したのは、そりゃあもう可愛らしい女の子で 「はじめまして。松島藤子です」 顔にバッチリ似合う、これまた可愛い声で自己紹介を始めた彼女に 「ほ、本物のフジコちゃんだっ!」 ゴエモンがそう叫んだのは言うまでもない…… 「ということで、ルパン? せっかくだから、お前の隣に座ってもらおう」 何が『せっかく』なんだか分からないけれど、とにかく嬉しそうな桜庭がそう言って、 席替えをしたばかりの教室を見渡した。 毎月頭に行われる、くじびきで決めた席順。 3回目の今回、とうとうルパンの後ろをゲットした。 ルパンの大きな背中に隠れて、やりたい放題やれると喜んだのもつかの間。 「ルパンくんって言うんですか? 私はフジコだから、なんだか気が合いそうですね」 彼女の屈託のない笑顔とその言葉に、なぜか胸がざわついた。 「エセフジコなら、こちらに――」 突然振り返ったルパンが、私を手のひらで指しながらそう答え、そこで初めて彼女と目が合った。 なんで私にフルんだよ? 妙な間が襲った後、こんにゃろってなくらい飛びっきりの笑顔を放ちながら彼女が言う。 「はじめまして! エセフジコさん」 彼女に悪気はないとわかりつつも、その台詞にたじろいだ。 偽者だったのか私…… 教科書がないから見せて欲しいと、ルパンと席をくっつけ始めるリアルフジコ。 「先生から聞いたんだけど、ルパンくんって学年トップなんでしょ? すごいよね!」 「まぁ、俺は賭けのためなら何でもやるからね」 「え? 何それ? 賭けしたの?」 こんなイチャイチャラブラブ会話を、一体いつまで聞かねばならないんだと、 ぶすったれた顔で頬杖をつけば 「そーいや文子? 期末の賭けはどうする?」 リアルフジコの問いには答えず、思い出したようにニヤケ顔でルパンが後ろを振り返った。 既にイライラが限界に来ていた私は、ルパンの胸倉をつかむ勢いで静かに叫ぶ。 「はぁ? そんなもんやるわけないだろ!」 「さては、俺に負ける気満々だな?」 「どんな日本語なんだよ!」 いつもなら、先生に注意をされるまで続けられるアフォバトルだけれど、 どうやら今回からストッパーが交代したらしい。 「あはは! エセフジコ怖いぃ〜!」 リアルフジコの発言でわれに返り、ルパンから目を逸らして席を正した。 外した私の視線に入りこもうと、授業中だということもかまわずルパンが私の顔を覗きこむけれど 「ルパンくん、おうちどの辺?」 ルパンの制服のすそを、やっぱり可愛らしく握り締めながら彼女が聞いた。 ようやく前に向き直ったルパンが、私には絶対に見せないような笑顔で答える。 「俺? 俺は『辻が丘』よ」 「そうなんだ! 私もそっちの方だから、一緒に帰ってもらえないかな?」 その答えを小耳に挟む前に、丁度よくチャイムが鳴る。 自分でもよく解らない腹立ちを押さえながら、そそくさと由香の席まで急いだ―― 「文子? ぬわんだこの眉間の縦皺!」 私の膨れ上がった眉間に、人差し指を突っ込みながら由香が笑う。 由香の隣の席になったワトソンがスッと立ち上がり、私に席を譲ってくれた。 「強敵ですね。久島さん、今回は頑張らないとね」 よくわからない言葉を、なぜか耳元でワトソンに囁かれ 「誰が強敵で、私が何を頑張るのさ?」 半開きではなく、大口を開けてワトソンを見上げれば、その口の中に久恵がチュッパッチャップスを押し込んだ。 「エセは、お黙り!」 エセってあなた…… でもおいしいけど。 同じく久恵にもらったであろうチュッパチャップスを頬張りながら、ゴエモンが言った。 「エセフジコって最高なネーミングだよね!」 どう最高なんだ! 言ってみろ! けれどそこに次元がやってきて 「元々文子はフジコじゃなくフミコなんだから、エセもクソもないだろ?」 いつもらしからぬ、私を庇う言葉を吐くから、みんながみんなで片眉を上げた。 そうだ! もっと言ってくれ! モゴモゴ…… 「そうですよ! 僕もワトソンじゃなく、若狭なんですから!」 いや、お前はワトソンだろ…… いつものように、皆が心の中でワトソンに突っ込みを入れている妙な間の後 「しょうがねぇなぁ、可愛い妹のために、お兄ちゃんがチョコスペをおごってやろう」 なにが『しょうがねぇ』なんだと思いつつ、次元がおごってくれると言うんだから、 こんなおいしい機会を逃すわけにはいかない。 「兄貴! どこまでもついていきやすぜ!」 無意味に鼻を手のひらでこすり、先を歩く次元を追いかけた。 「妹ってより、犬だな……」 「えぇ。恐ろしく凶暴な小型犬ですね……」 「そして、次元は猛獣使い?」 「ルパンより適任かも?」 私と次元が教室を出た後、そんな会話が繰り広げられていたことなど知る由もない―― 相変わらず混雑しまくっている購買で、聴きなれた叫び声が響く。 「おばちゃん! チョコスペとメロンパンね!」 「ルパちゃん あいよ!」 ここまでは聴きなれた、見慣れた光景。でも今日は―― 「ル、ルパンくん! 私も同じのを……」 人ごみに押されながら、か細い声で困り果てるリアルフジコの声。 「おばちゃん! 2つずつにして!」 「彼女の分も買ってやるのかい? ルパちゃん優しいね!」 おばちゃんの台詞を聞いて、無意識に眉毛がピクピク動く。 私には、頼んでも買ってくれたことなんて1度もないのに…… またまた胸がキリキリと痛み、胸をなでながら俯けば 「文子、眉間」 由香同様、次元に眉間を挿されてハッとする。 鼻から息を抜いて、珍しく優しく微笑む次元の顔に少し驚きながら 「兄貴、早くチョコスペ!」 何かをごまかすように、次元を促した―― 次元に買ってもらったチョコスペを、モリモリ食べているところにルパンがやってきた。 「なぁ、今日の帰りのことなんだけどさ?」 そう言いながら、私の椅子の後ろに無理やり座る。 「あ、俺はミスドのバイト」 と、なぜか挙手して答えるゴエモン。 「うちらは部活〜」 恵子と久恵が肩を組む。 「僕は委員会です。久島さんも忘れてないですよね?」 「えぇ? そうだっけ?」 私のとぼけた返答に、わざとらしい大きな溜息をワトソンがつく。 けれど、すかさず由香が言った。 「じゃ、ミスドで次元と待ってるよ」 「いや、俺は今日ちょっと用があるからパス!」 誘いを断ったことのなかった次元にそう言われ、固まる一同。 「めっずらしぃ〜!」 当然、そう全員にハモられることになる―― 「てか、俺って微妙にハブられてるっぽ?」 私の残ったチョコスペを、ちぎって頬張るルパンが何気なく言えば 「ルパンは、リアルフジコと親睦をあたためたほうがいいかもぉ」 訳あり顔でニヤニヤしながらゴエモンが突っ込んだ。 「なんだリアルフジコって?」 ルパンがそこまで言いかけたとき、リアルフジコがこの場に現れて 「ルパン、さっきはありがとう! これ、パンのお金なんだけど……」 中に小銭を入れた、これまた可愛らしく折ったメモ帳を差し出した。 「いやん。もう呼び捨てよ奥さん!」 久恵とゴエモンが、後方でコソコソ言っているのが聞こえたすぐ後に 「文子、眉間!」 今度は由香とワトソン、そして次元の3人同時にデコピンを食らった。 い、痛い…… こんなやり取りを交わしている私たちをよそに、リアルフジコがこっちを指差して言った。 「てゆうか、見てて暑苦しいよ? それ」 どうやら私とルパンが、1つの席に座っていることを言っているらしい。 いつものことだから何とも思わなかったことだけに、そんな指摘をうけて驚いた。 けれど、隣の席でふんぞり返っていた由香が 「いつものことだから、このアフォ2人のことは気にしないでね」 やはり私には、絶対に見せたことのない笑顔で彼女に言った。 おかしい。かなりおかしい…… なんでみんな、そんな素敵笑顔を振りまいているんだ? なにかよからぬことを、また誰かが企てたに決まってる! そう思いつつ、そのよからぬ企てに巻き込まれていくのであった―― |
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