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◇◆ プレイバック ◇◆
 教室の中を、走り抜けてく真っ赤な奥田。
 一人きりの私は、気ままに読書をするの。
 机の前では隣の奥田が媚薬盛ったと、怒鳴っているから私もついつい大声になる……(ここでギター)

「馬鹿にしないでよ、そっちのセイよ!」
 これは昼休みの、私の台詞。
 気分次第で、呪うだけ呪って、悪魔が私を、怒っているだなんて……
 奥田、一体何を教わってきたの?
 私だって、私だって、疲れるわ……(そしてギター)

 ちょっと待って、プレイバック!
 今の言葉、プレイバック、プレイバック!(そして本当にプレイバック)

               ◆◇◆◇◆◇◆

「で、私に喧嘩を売っているのは、どっちかえ?」
 昼休みの教室で、指の関節をボキボキと鳴らしながら、悪魔福島が古代呪文を唱え始めた。
 そんな彼女に一瞬怯んだものの、私は何一つ悪くない。
 だから、隣で熱くなり真っ赤な顔で怒鳴り続ける奥田に、正々堂々と言い渡す。
「私は何も関係ないわ。喧嘩を売ったのは、奥田さんでしょ?」

 ところが、鼻の穴をかっぴろげた奥田が、髪をかきあげながらすっとぼけた。
「あら、私は次元くんに、マドレーヌを渡しただけよ?」
 その言動に余りにも腹が立ち、奥田の肩を突き飛ばしながら
「何を言ってるの? あなたは、媚薬を福島さんの生地に混ぜ込んだじゃない!」
 そう怒鳴れば、わざとらしくワナワナと震える奥田が叫ぶ。
「それならあなたは、ワトソンくんにマドレーヌを差し上げたじゃないの!」

 一体、奥田が何を言いたいのか分からない。
 確かに史彦くんへ、マドレーヌを差し上げたわ。
 けれどそれは今日の占いで、いつもは敬遠しちゃうような方と、仲良くするのが望ましいと言われたからであり、 それを実行したまでのことよ。
 そこまで考えてから素早く身を翻し、美しい切れ長の瞳で斜めから見下げて奥田に言い返す。
「だから何? 史彦くんに、食べて欲しいと思うことが犯罪なのかしら?」

 私の台詞を聴いた奥田が、意味深な失笑を漏らしながら福島を見た。
「私は福島さんの恋を応援しただけなのに、そんなことを言われるなんて心外だわ……」
 そうやって、自分だけは、あなたの忠実な僕だと言わんばかりに言葉を繋ぐ。
 そして久島のように首を軽く横に傾けて、小動物目線で福島に媚びたところで、悪魔の爆弾投下。

「ほぉ? では聴こう。お前は許可なく、何の媚薬を混ぜ込んだのかえ?」
「ウシガエ……あ、いえ、好きな人を、振り向かせることのできる媚薬でございます……」
「ほぉ? そしてそれを食べた文子が、あのように?」
「そ、それは、アッパレ見事な、お推理でございます……」
 オスイリって何かしら?(ポン酢とか?)

 動揺しまくる奥田にクスクス笑いをプレゼントして、手の甲で唇を押えたところで、悪魔が私へ振り向き問いかける。
「さてお前、なぜワトソンに、それを食べてもらいたかったのかえ?」
 悪魔は確実に次元のことが好きなはず。
 だから私は、次元なんかどうでもいいと思っていることを、強調しながら返答した。
「私は、次元くんじゃなくて、ワトソンくんが好きだからだわ」
「その言葉に、二言はないな?」
「え、えぇ、ないわ!」
「よかろう。では、お前と心行くまで戦うと誓おう」

 何かがおかしいわ。なぜ私と悪魔が戦わねばならないの?
「な、なにを言ってるのかしら? あなた…さまは、次元くんが好きなんでしょ?」
 けれど私の問いかけに鼻で笑う悪魔が、隣の奥田を顎で指す。
「愚かなことを……あやつは、こやつの奴隷だろうが?」
 そしてそれを聞いた奥田が、小さくガッツポーズを決めながら言い切った。
「そう。次元くんは、私のダーリンなのだ♪」
「ちょ、ちょっと待っ……」

 ところがそこに、保健室の養護教員である水戸が現れて
「奥田っ! お前、また何かやっただろっ!」
 奥田を指差して、そう怒鳴りながら教室の中へズンズンと入り込んできた。
 とんだ邪魔者の介入に、心の底から苛立つ。
 だからどうにかしようと思った矢先、奥田が何やら指で六角形を描いて呪文を唱え始め、 福島が蛇の威嚇のようなエラ呼吸を、水戸に向けて繰り広げた。

 負けられない。悪魔は無理でも、腐れ魔女だけには負けたくない!
 せめて奥田だけには負けてはなるものかと、上唇だけを持ち上げて水戸を威嚇すれば
「ひぃ〜っ! ま、松島の犬歯が……犬歯が……っ!」
 訳の分からぬことを狂ったように叫んだ水戸は、転がりながらその場を去った。

 そこでクラスに響き渡る、ルパンの抜けたルパン一味の戯言開始。
「ヴァ、ヴァンパイアです! 松島さんは、ヴァンパイアの血族だったんですよ!」
「ストラーィク!」
「ゴエモン、それはアンパイヤじゃねーか?」
「え? アンパン屋が来た?」
「いや、ジャムおじさんは、こねーだろ?」
「じゅ、十字架、十字架……ありました!」

 ワトソンが、ポケットから取り出した銀色の十字架を、私に向けて突き出した。
 けれど、そんなものを突き出されたところで、私の体はビクともしない。
 だから目をカッと見開き、上唇だけを持ち上げて、ワトソンへ向けて鋭く短い息を吐いた。
「シャーッ!」
「ひぃ〜っ! 瞳が金色です!」

 そこにどうでもいい男、石橋翔也が現れて、シャツのボタンを外しながら、見たくもなく上半身を肌蹴させて言い放つ。
「僕の可愛い天使さんのためなら、喜んでブラッドを差し出すよ。さぁ、心行くまで吸ってくれ!」
 こんな男の、穢れた血など一滴たりとも欲しくない。
 伸びた爪先を穢れた男の喉下に突き刺し、静かにゆっくり囁いた。
「黙れ愚民、そして即座に下がれ」
「うわっ、は、はい!」

 けれどそこで、頭の中に響く声……
『吸血鬼とは面白い。相手にとって不足はないのぉ?』
 直視してはならないと知っていたはずなのに、こともあろうか振り返った瞬間、悪魔と目が合った。
 そして悪魔の瞳が妖しく光り、そこで私は石像のように固まって、意識すら失った――

               ◆◇◆◇◆◇◆

 気がつけばクリーム色のカーテンに囲まれていて、ボーっとしながらも、ここが保健室だということを悟る。
 するとそこに、頬をピンク色に染めたチビッコ久島がニョッキリ現れて、なにやらブツブツ言い出した。
「フジコちゃん、わ、私、ずっとフジコちゃんのことが好きだったの……」
 何かしら、このロリロリっとした匂いは……(クラっとするわ)
「だから、フジコちゃんが望むなら、あ、あたし、あたし……」
 ムチムチとした首筋の血管が……(そそられるわ)
「かぷっとね?」
 そう、そうよ。私もカプっと食べてしまいたい……(って、あら?)

「ぐうっ、フジコちゃ……って、おや?」
 微妙な沈黙の後、うわばきのゴム底を床にパンパン叩きつけながら、チビッコ久島が喚きだす。
「なんでルパンが噛むんだよっ!」
「おいしそうだったから?」
「だからって、噛むことないだろがっ!」
「じゃ、舐めるだけにするぅ♪」

 やってられないわ……(これは絶体絶命)
 今日から一人、旅に出ようかしら?(いい日旅立ち)
 でも久島が望むなら、いけない女と噂されてもいいわ……(青い果実ね)
 そして、しなやかに歌うのよ!(そのまんま)


 〜その後のルパンと文子〜

「ルパン、どうやら私とフジコちゃんは、両想いみたいなの!」
「そうなんだぁ、それは良かった……えぇっ?」
「でさ、やっぱ初デートは、映画かな?」
「ふ、普通は、Wデートだ!」
「そっかぁ、やっぱりいきなり二人じゃ恥ずかしいもんね」
「お、俺が一緒に行く!」
「あ、そう? じゃ、ルパンも好きな人を誘ってね♪」
「こ、こいつだけは……」
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photo by ©あんずいろ