伝えたい。
離れている時間が長くなればなるほど、心まで離れてしまう気がして
大丈夫。
そうやって自分自身に言い聞かせても、あなたの気持ちがわからない。
もういいや。
ハッピーエンドなど訪れないと半分諦めて、それでも半分期待して
やっぱりダメ。
心に決めて立ち上がれば、軽くなった足はあなたの元へと走り出す――
Want to tell
夢に向かって旅立ったあなたを、笑顔で見送ったのは一年前。
たくさんの約束を交わし、私なら大丈夫だと、乗り切ってみせると断言した。
だけどそんな余裕は最初の数ヶ月で使い果たし、今は歪んだ顔で携帯の画面を眺めている。
逢いたい気持ちはこれ以上ないほど膨らむけれど、待つと誓ってしまった手前、
自分から起こす行動がそんな誓いを破るものな気がして、
何度もボタンに手をかけては溜息混じりに画面を閉じた。
ようやく掛かってきた、ぬくもりなどなにもない、携帯を通したあなたの囁き声。
どんなに優しく、どんなに愛を誓ってくれたとしても、それだけじゃ足りなくて、
記憶に残るあなたの温もりを、思い出しては涙ぐむ。
そんな私の現状じゃ、楽しい会話になどなるはずもなく、あなたは溜息ばかりを繰り返す。
私がつかせているのは分かっているけれど、その溜息が余計に不安を煽り、
被害者根性の染み付いた私が放つ言葉は……
「待ってるほうは、すごく辛いんだよ!」
そしてあなたは、また重い溜息をついて黙り込む。
些細なあなたの言葉尻に傷ついて、早く電話を切りたがるそぶりもまた苦しくて、
遠く離れてしまった人を思い続ける切なさが、重く圧し掛かってくる。
だから苛立ち紛れに自分から電話を切って、切った後に後悔するんだ……
「もういいよ! こっちで新しい彼氏作るから!」
携帯を睨みつけて、繋がってなどいないあなたに向かって恨み辛みを吐き出して、
新しい彼氏と腕を組んで歩く自分を妄想する。
なのに妄想の新しい彼氏の顔が、結局はあなただったりするから、意味もなく顔の前でブンブンと手を振って、
最後には大きな後悔の溜息をついた。
恋人たちのクリスマス。
去年の私たちを思い出し、あの頃は楽しかったなどと年寄り染みながらつぶやいて、
そこからそのまま過去を遡る。
あなたと出逢った頃。あなたに片思いをした自分。あなたが告白してくれた時間。
どれもこれもが、つい昨日のように鮮明な輝きを放つから
「やっぱり駄目! 行かなくちゃ!」
思わずそう叫んで立ち上がり、中っくらいのバッグにありったけの荷物を詰め込んで、
コンセントを指差し、元栓を指差し、大きく頷いてから部屋を飛び出した。
改札を抜け、冷たい風を切って到着した電車。
ひるむことなく乗り込んで、ドアが閉まった瞬間に後悔の声が頭で響く。
「約束なく、押しかけちゃって大丈夫なの?」
色とりどりの暖かな光に包まれた、白く染まる街。
流れる景色を目で追いながら、逸る気持ちと後悔する気持ちがごちゃ混ぜで、
あなたの元に近づくたび、そんな不安だけがこみ上げる。
驚くあなたの顔が目に浮かぶ。だけど、その先の表情は?
部屋に誰かが居たらどうしよう。玄関にヒールがあったらどうしよう。追い返されたらどうしよう……
だから……
真っ暗闇の中に灯る、あなたの部屋の明かり。
それを見て、いろんな意味の溜息をついて、チャイムに手を伸ばしては引っ込めた。
伝えたい。
離れている時間が長くなればなるほど、恋しい気持ちが溢れてくるから
大丈夫。
そうやって自分自身に言い聞かせても、やっぱり怖いあなたの表情。
もういいや。
ハッピーエンドなど訪れないと半分諦めて、駅の方向に体を向けて
やっぱりダメ。
心に決めて人差し指を突き出せば、押す前に開く白いドア――
「で、いつになったらチャイムを押すの?」
「な、なんで分かったの?」
「来なきゃ、俺が行ったから」
「な、なにそれ!」
「たまには、待つ立場を味わってみようかと?」
そこからは、内緒内緒の素敵な時間。
きっとあなたにも、暖かいクリスマスがやってきますように――