北の塔
ランクエIF ホ・ラガとランス◇2008/02/19 RQ ♂♂
「ランスよ、ほんっとーに行くのか?」
「言い出したのはお前だろう、カオス」
見渡す限りの雪原を一人歩くのはランス。彼と問答しているのは、彼の剣帯に差された魔剣カオス。
リーザス女王リアの提案に乗った形でヘルマンに進入したランスは、
カオスの古い仲間だという老賢者の元へと向かっていた。
AL教の司教クルックーによって封印されたはずのカオスが再びランスと共にあるのは、
巡り合わせというか腐れ縁というか。
「……それより、そいつなら氷を溶かせるというのは本当なんだろうな?」
「『氷を溶かす方法を知っている』という方が正確だろうな、まあヤツの知識は本物じゃろうて」
カオスはわざとらしいほどに大きくため息をついた。
「ただし代償は大きいぞ、ヤツは絶対おぬしの身体を求めてくるだろうよ」
「老いてなお盛んなババアか……ぞっとしないな」
「いや、ババアではないですよ?」
「ということは若いねーちゃんか?美人ならなお良し、多少のブスでも我慢する自信はあるぞ」
「老賢者がなんでねーちゃんやねん」
「……えーと、じゃあ人外……とか……?」
「ジジイじゃとゆーとろうが、現実を見んかい!」
う、とランスの言葉が詰まる。
「やはり帰るか?」
「……いや、ここまで来たんだ、腹を括る」
「そうか、まあ儂は警告したからな、あとで八つ当たりするなよ」
「魔王の呪いである『永久氷』の溶かし方か……」
北の塔の老賢者、ホ・ラガは、訪ねてきたランスを見て舌なめずりせんばかりだったが、
質問を聞くなり渋面を作る。
「カオスの良き友人である君の頼みは聞いてあげたいところだが」
「別に友人などではない、カオスは魔人が斬れるただの便利な道具だ」
軽口を叩きながらもランスは眉間にしわを寄せる。
「まさか貴様まで『諦めろ』と言うつもりではないだろうな?」
「ああカラーの女王にそう言われたのだったな、だが私も同じ答えを返そう」
「なんだと……?」
「あの娘の氷は、人やカラーはおろか、現在の魔王が完全覚醒したとしても溶かすことはできんよ」
淡々と言い放つホ・ラガの前で、ランスは呆然と立ちつくす。
「君と床を共に出来ないのは残念だが、これが私の答えだ、さあ、帰りたまえ」
ホ・ラガは椅子から立ち上がり、ランスに背を向けた。
「仕方ないのう」
無言のまま動かないランスにきっかけを作ってやろうと、カオスが声を掛ける。
「帰るとするか、のうランスよ……ランス!?」
背を向けたホ・ラガの耳に、カオスの狼狽した声と金属のぶつかり合う音が聞こえる。
外した鎧と一緒くたに投げ捨てられたと思しきカオスが小さく悲鳴を上げた。
「おいコラジジイ」
ゆっくりとホ・ラガが振り返る。その視線が自分に向けられたのを確認して、ランスは着ている服を全て脱ぎ捨てた。
「本当は何か知ってるんだろう」
「積極的だな、ハンサムボーイ」
「俺様を好きにしやがれ、ただし、全て喋ってからだ」
「それは非常に魅力的な提案だが、君のためにならんことは教えたくはない」
ホ・ラガは目を細め、値踏みするようにランスの身体をじっとりと眺める。
腰に手を当て仁王立ちで虚勢を張るランスだが、そのねっとりと絡みつくような視線に鳥肌を押さえるのが精一杯だ。
関わり合いになりたくないカオスは、ランスが投げ捨てた服の下にさっさと潜り込んでいたが、
ホ・ラガの言葉尻に不穏な気配を感じる。
「ホ・ラガよ、まさか、あれに頼れと言うのではあるまいな?」
「……地上最強の存在である魔王、その魔王が暴走した状態で掛けた呪い……」
まるで本を朗読するかのように、ホ・ラガは感情を込めずに続ける。
「その呪いを解けるものは地上にはいないのだ……地上には、な」
「その先は言うでない!」
「続けろ!」
カオスとランスが交互に叫ぶ。僅かに逡巡したホ・ラガは、ひとつため息をつきランスに歩み寄った。
「ヘルマン東部にあるマルグリッド迷宮だ」
「やめろ!」
「一般に開放されている観光迷宮とは別に、隠された扉がある」
ホ・ラガの老人にしてはしなやかな指が、ランスの頬を撫でる。
カオスの叫び声は、もうランスの耳には聞こえていなかった。