短編まとめ

幸運の坩堝P

一話完結系

足利の姫

阿樹姫◇2007/02/26初出 2008/05/18改稿  過去捏造 戦国R

「阿樹はほんに不細工じゃのう、将来が心配でおじゃる」
「兄上、阿樹ももう物心付く歳です、そのような事をおっしゃるのはおよしなさいませ」
足利家を継ぐ長兄、そしてその長兄によく似た姉。阿樹の一番古い記憶は、兄と姉の会話であった。
(わたくしは醜いのですね……)
一般的とは言い難い兄姉の美的感覚によって評価され、幼い阿樹は常に劣等感に苛まれていた。
やがてJAPAN屈指の美姫に育った阿樹だが、兄・超神の評価は相変わらずであった。 その頃にはさすがの阿樹も己の容姿が劣ってなどいない事を知っていたが、 幼い頃の記憶というのは強烈なもので、どこか引け目を感じていた。

「阿樹、阿樹や」
「何かご用ですか、兄上」
阿樹は超神が手にした釣書に目を落とす。美形とも若者とも言い難い男性の似絵に、阿樹は思わず言葉を漏らす。
「ま……随分とお歳を召してらっしゃる殿方ですこと」
「原家当主、原昌示殿でおじゃる」
原家。一応大名家ではあるものの、国力も低く今ひとつぱっとしない勢力だ。
「兄上、まさか……」
「原と縁を結べば織田を挟み撃ちに出来ると、一休も申しておったしな」
「政略結婚ですの?」
「ほほほ、阿樹も大名の姫と生まれたからには、覚悟はしておろうぞ」
超神の不気味な笑顔から目を背けながら、阿樹は心の内で計算を重ねる。
(そうですわね……現在勢力を伸ばしている足利からの輿入れとなれば、 原もわたくしを低くは扱わないでしょう……このまま足利にいるよりもいっそ……)
「わかりましたわ、兄上、わたくし、原に嫁ぎます」
「うむ、よくぞ申した阿樹よ、それでこそ足利の姫でおじゃる」
満足そうに肯く超神に軽く頭を下げ、その場を去ろうとした阿樹に、一休が耳打ちをする。
「阿樹姫、原殿は美男子と聞いております……まあ、超神様基準で、ですがね」
「兄上の基準、という事は……」
「そういうことですよ、あれでも、超神様は阿樹姫の事を思っているのです」
「……有り難迷惑な話ですわね」

「おお、噂に違わず何と美しい……!」
「……」
「阿樹のように若く美しい姫を正室に迎え入れられるとは、私は果報者だ」
大げさなほどの昌示の讃辞に、阿樹の心の傷がうずく。
(そう、そうですわ、わたくしは決して醜くなど無い……!)
「阿樹よ、欲しいものがあればなんでも言うが良い、阿樹のためなら必ずや手に入れようぞ」
(醜くないわたくしなら、何をしても許されるはず)
足利の家で鬱屈した阿樹の心が、卑屈とも取れる昌示の態度で弾ける。
「ええ、ではまず……」

抑制を失った阿樹によって原家はますます国力を下げる事になる。 そして、大陸からやって来た異人がJAPANを統一するまで、それは続くのだった。