学校へ行こう!
R1ビフォーシィル視点◇2008/03/10 R1
ランス様が不機嫌そうな顔で帰ってきた。確かギルドのキースさんに呼ばれてたんだっけ。
左脇に抱えている大きな封筒が、今回のお仕事の依頼書かな?
白いシャツに着替えて、封筒を手に書斎に籠もるランス様。ドアの隙間からそっと覗くと、
封筒から出した写真やレポートを広げている。やっぱり新しいお仕事みたい。今度のお仕事は何だろう。ちょっと興味がある。
「ランス様、お茶が入りました」
まだランス様に呼ばれてないけど、紅茶を満たした白いカップを持って書斎に入る。
相変わらずむすっとした表情のランス様は、私からカップを受け取ると、ひと息で飲み干してしまった。
……ちょっと冷ましておいて正解だったかな?
「あの、次のお仕事、決まったのですか?」
ちょっとだけ表情が緩んだのを確認してから、おそるおそる聞いてみる。
ランス様のご機嫌が斜めのままだとまた殴られちゃうかも、でも気になるんだよね。
「ああ、人捜しをする事になった」
ほっ、大丈夫だったみたい。
ランス様に買われてここに来て数ヶ月、もう、数ヶ月になるんだ。
買われた時にかけられていた絶対服従の魔法はもうとっくに解けちゃってる。
ランス様は魔法が解けた事に全然気づいてないみたいだし、
いつでも逃げられるのだからもうちょっとこの人と一緒にいてもいいかな?って、ずるずると数ヶ月。
お仕事は引き受ければ完璧にこなすけどあんまりやりたがらないし、乱暴ですぐ殴るし、意地悪な事したり言ったりするし、
ほとんど毎晩えっちな事するし。痛いからいやなんだよなあ、だっことかキスとかはそんなにいやじゃないんだけど。
……でも、そろそろ潮時かな。今度のお仕事が終わったら、絶対服従の魔法が解けてる事をランス様にちゃんと話して、
お家に……ゼスに帰ろうかなあ。
「シィル、お前、パリス学園に潜入して情報を集めておけ」
ぼんやりと考え事をしていたら、唐突なランス様の言葉。
「えっ、私、学校に行かせてもらえるのですか?」
「馬鹿、情報を集めるんだよ、情報を」
考え事をしていて話を聞いてなかった私の頭をいつものようにぽかりと殴りつけてから、
ランス様は今回のお仕事の説明をしてくれた。三週間ほど前に行方不明になった、ヒカリ・ブランさん。
どうやら、リーザス城下にある彼女が通っていたパリス学園の寮で、二人の女忍者に攫われたらしい。
パリス学園は、大陸で有名なお嬢様学校だ。ゼスにもあって、応用学校に通うほど魔法が使えるわけではないけど
お金持ちのお家のお嬢様が通っている。制服がかわいいんだよね。でも私は、ゼスの官僚になりたかったから、
勉強と魔法の訓練を頑張ってようやく応用学校の入学試験に受かったんだけど、学校に通う前に盗賊に攫われて。
応用学校、行きたかったなあ……調査のためとはいえ、パリス学園に通えるのはちょっと嬉しいかも。
「途中入学審査の申し込みはキースにやらせておいたから、試験を受けに行ってこい」
「えっ、今からですか?」
「急がないとヒカリちゃんに危険が及ぶかもしれないからな」
ランス様の言う事ももっともだ。急いで支度を整え、私はリーザスに向かった。
「ただいまランス様、試験受かりましたよ」
「ふん、俺様の奴隷たるもの、当然だ」
ちぇっ、褒めてもらえると思ったのにそれだけかあ。ちょっぴりほっぺたを膨らませたら、
ランス様は無表情で私の頭をがしがし乱暴に撫でてくれた。ま、いいか。
「いつから寮に入れるんだ?」
「準備が出来たらすぐにでも、と言われました」
「急いでいるからそれは都合がいいな」
そうそう、今回のパリス学園潜入は、行方不明になっているヒカリ・ブランさんの交友関係とか調べるためだもんね。
でも、お仕事とはわかっていても、久しぶりに行く学校は楽しみだな。
「そうだ、制服もらったんですよ」
パリス学園リーザス校の制服は、ゼス校の制服とはちょっと違う、真っ白でノースリーブのワンピース。
胸元の大きなリボンが、いかにもお嬢様学校、という感じでかわいい。浮かれ気分でランス様に広げて見せた。
「ふーん……」
あれ、無反応?浮かれすぎ、って怒られちゃったらいやだなあ。
「もう着てみたのか?」
「あっ、いえ、まだです」
試験の合格通知をもらった後、採寸だけしてぽんと渡されたから、まだ袖を通してない。
万が一サイズが合わなかったら自分の家で直してくるようにっていわれてるし。
「今から着てみて、サイズをチェックしようと思うんですけど」
「チェックを手伝ってやるから、さっさと着替えてこい」
急いで制服に着替えて、ランス様の前に立つ。
早歩きすると、ふわふわの裾が脚にまとわりつくのがこそばゆくて気持ちいい。
「どれどれ」
ランス様は、私の周りをぐるぐる回りながら、スカートの丈やリボンの形をじっくり見ている。
「ふむ、下着は透けてないようだな」
うわー……やっぱりそういうところを見てるんだ。
どんな些細な事でもエッチな事に結びつけられるランス様の頭の中って、一体どういう造りになってるんだろう。
……はっ、ランス様の目の色が変わってる!まずい、これはひょっとして……
「きゃあっ!」
ランス様はぺろんと私のスカートを捲った。
「ふむ、薄ピンクのパンツは学生さんらしくてグッドだ」
「この色が透けなくていいんですよ……って何ですかいきなり」
慌ててスカートを直して、無駄なこととは思いながらランス様に抗議してみる。
「お前の任務は、学園内での情報収集だ」
「ヒカリさんの友人関係を調べるんですね」
急に真面目になるランス様の顔。お仕事モードなのかな、私も釣られて真顔になる。
「そのため、お前には先乗りしてもらわなくてはならん、一週間もあればだいたいの事は調べられるか?」
「うーん……」
地道に聞き込みをするなら一週間じゃ短いけれど、リーダーを使って心を読んじゃえば……
でも、プライバシーの侵害になるかしら。
「女学生のプライバシーも大事だが、今はヒカリちゃんの無事が優先だ」
「あっ、そうですね」
勝手に心を読む事には抵抗があるけれど、確かに行方不明のヒカリさんの事は心配だ。
もし、私みたいに奴隷商人に売られてしまったりしていたら……
「俺様は一週間後にリーザスに乗り込むからな、それまでにいろいろ調査しておけよ」
「はい、頑張って、手がかりになりそうな事を調べます」
こくこくと肯く私の頭を、ランス様がぽんぽんと撫でた。うん、頑張らなきゃ。
「そういうことで一週間離れる事になるわけだが」
頭を撫でているンス様の顔が変わる。真面目な顔から、これはエッチな事を考えている時の……
「シィルちゃんが寂しくならないように、今晩はたっぷりエッチしてやろう!」
「ええーっ、どうしてそうなるんですかー?」
痛いからいやって言ってるのに、昨夜のランス様は全然容赦してくれなかった。うう、なんかまだ腰とか痛いよう。
「……では行ってきます」
「おお、頑張ってこいよ」
昨夜一杯エッチな事したせいかご機嫌なランス様が、玄関まで見送ってくれた。
うん……やっぱり、今回のお仕事が終わったらゼスに帰る事を考えよう。
お仕事の間に、ランス様を見直すような事があれば、話は別だけれど。