短編まとめ

幸運の坩堝P

一話完結系

バレンタイン伝説

ほんのりバカ勇者×バカ魔人◇2005/02/14  世界観妄想

「なんだなんだ、このチョコレートの山は!」
数日前からぽつぽつと届き始めた小包の中身は全てチョコレート、しかも差出人は全員女性だ。 大量の小包の山を整理しながら、ランスの疑問にシィルが答える。
「今日は2月14日ですから」
「ん?日付が何か関係あるのか?」
まるで訳がわからん、という顔のランス。
「『バレンタイン伝説』、ランス様はご存じありませんか?」
「知らん、どんな話なんだ?」
「……ちょっと怖いですよ?」
「……いいから説明しろ、シィル」

◇◇◇

遙か昔、バレンタインという名の魔人がいたという。 おかし女から魔人になったバレンタインは、普段はおとなしく、人間にもさほど危害を加えなかった。
ある日、人間界に現れたバレンタインは、人間達が食べていたチョコレートに目を付ける。
「それ、おかし?私にもちょうだい」
人間が恐る恐る差し出したチョコレートを、バレンタインは口に入れた。
「……!」
濃厚な甘さの中に僅かに苦みの混じる不思議な味と、口の中ですうっととろける舌触り。
「こんなおいしいおかし、私初めて食べたわ、もっと食べたい……!」
初めて口にしたチョコレートに、バレンタインは夢中になった。
最初は板チョコで満足していた彼女だったが、やがて、魔人になっても変わる事のないおかし女の習性で、 チョコレートを使った様々なおかしを作り始める。 できあがった大量のおかしは、魔人仲間や使徒達が食べきれる量をはるかに超えていた。
作ったおかしを食べ残される事は、おかし女にとって最大の屈辱だ。
そこで、バレンタインは余ったチョコレート菓子を、攫ってきた人間に食べさせる事にした。 しかし、魔人たちに比べれば、人間が食べられる量などたかが知れている。 チョコレート菓子の食べ過ぎで一つの村が滅びた頃、ようやく勇者が立ち上がった。
「バレンタイン、嫌がる人に無理矢理おかしを食べさせるのはやめるんだ」
「うるさい、お前も私が作ったおかしを食べなさい」
「望むところだ、甘いものは大好きだからな」
勇者は次々と出されるおかしを、残さず平らげていく。 普通の人間だったらとっくに死んでいてもおかしくはないが、なんせ勇者なので、定年までは死ぬ事はないのだ。
「うん、結構美味しいじゃないか」
本当に美味しそうにチョコレート菓子を食べる勇者を見て、バレンタインは嬉しくなる。
それは、恋にも似た感情だった。

◇◇◇

「その勇者はどうなったと思います?」
「20才の定年までは不死身だとして……やっぱり食べ過ぎで死んだのか?」
「そうです、20才の誕生日、2月14日に勇者は死んでしまったんです、 勇者を本気で愛してしまっていたバレンタインは、彼の死を嘆き悲しみ、後を追うように死んでしまったそうです」
「……」
「それ以来、2月14日のチョコレートは愛の告白を意味するようになりました」
「それで俺様の家にチョコレートが送られてくるのか、しかし別に怖い話でもないだろう」
「まだ続きがあるんですよ」
シィルは自分の肩を抱いて、ぶるっと震えた。
「死んでなおバレンタインは、こっそりチョコレートを送っているのだとか、 そう、ランス様のような強い男性に」
「お、おい、シィル……」
「もし無記名のチョコレートが届いたら、それはバレンタインの幽霊からだと、 そしてそれをうっかり食べてしまったら……」