うし小屋
『シィルうしになる?』イベントアフター◇2004/09/12 R6
「はっ……くちゅん!」
「にゃあ?」
「あ、ごめんね、起こしちゃった?」
ぐすっとハナをすすり、シィルは横にいた高級ブランドうしのピエールの背中を軽く撫でた。
「にゃー……」
ピエールは満足げに鳴いて再び目を閉じる。
その横で、シィルは、大きくため息をついた。
──あの後来てくださらなかったなあ……
じんわりと滲む涙をこしこしと拭って、シィルはピエールにもたれかかるように横になった。
昼間、ランスはいきなりシィルをうし小屋に連れてきた。コパンドンにもらったうしの世話をしろ、
と言われて素直に従った。首輪を付けられうしと一緒に柵に繋がれても、
パンの耳を食べさせられても、いつもの悪ふざけだと思って我慢した。
夕方になれば悪びれた風もなく(たぶん悪い事をしたとは思ってもいないだろうし)、
ランスが迎えに来てくれると思っていたから。
──ランス様……
もしかしたら、シィルをここに繋いだ事すら忘れているのかもしれない。そう思うと、
再び涙が溢れてくる。日が落ちて、少し冷えてきたうし小屋の中で、シィルは諦めて眠る事にした。
「むーシィルめ、何で戻ってこんのだ」
夜になっても部屋に戻ってこないシィルを、ランスはいらいらしながら待っていた。
昼間、いじわるしてうし小屋に繋いできたのはランス自身だ。
しかし、首輪にこそ鍵は付けたが、引き綱は炎の矢一発で簡単に千切れる程度のものだ。
「腹が減って動けないってこともないよなあ……」
やりすぎたかな、という思いがちらっと頭を掠める。
ひんひん泣きながら戻ってきたところをぽかりとやって、まあその後に頭でも撫でてやるか、
と思っていたら、なんとなく迎えに行くタイミングを失ってしまったのだ。
今更行くのもバツが悪い、かといって放っておくのも。
「……風邪を引かれても迷惑だしな」
誰が聞いているわけでもないのにぼそっと口に出す。
それを言い訳にランスは部屋を出てうし小屋に向かった。
ランスはそっとうし小屋の扉を開けた。
暗闇に目が慣れてくると、うしに抱かれるようにしてシィルが眠っているのがわかった。
引き綱は切ろうとした形跡もなくそのままだ。
「……バカが」
ランスはしゃがみ込み、シィルの睫毛に溜まった雫を指で拭ってやる。
「あ……」
ランスの気配に気付いたシィルが薄く目を開ける。
何か言おうとするシィルの唇に指を当て、ランスはシィルの横に潜り込んだ。
「ふん、お前がいないと夜が寒くてかなわん」
不機嫌そうな声で文句を言いながら、持ってきた毛布を掛けてシィルを抱きかかえた。