GALZOOデザート

幸運の坩堝P

GALZOOアイランドエリナエンドアフターとクロスオーバー。鬼畜王設定を微妙にアレンジ。

1.砂漠

◇2010/05/01(初2006/04/26) 

ヘルマンとゼスの境にある大砂漠は、昔は緑豊かな大地だったという。 だが、二国の大戦のおり、双方の破壊兵器と大魔法の影響を受け、 現在では、命ある者を拒む岩と砂の地となっている。
その砂漠のほぼ中央にある、オアシス都市シャングリラ。
大陸のその他の国とは隔絶されているシャングリラだが、自由都市やリーザスなどとの交易はある。 交易商は砂漠の案内人と呼ばれる古い民に案内料を支払うことで、シャングリラへと通される。 その案内料は決して安いものではなくまた行き来の回数も制限されていたが、 ここでしか手に入らない不思議な工芸品は大陸各地で高く評価されるため、 シャングリラとの交易を望む商人は多い。
それほどまでに高値で取引される工芸品が、 何故隔絶された地であるシャングリラで生産されるのか。 一説には、大戦で砂漠化する前にその地にあった都市の財宝が砂の下に埋もれており、 シャングリラ王は何らかの手段でそれを手に入れる事に成功したともいわれている。

最も、理由はどうでもいい。一攫千金を狙う者達にとって重要なのは、 シャングリラに工芸品を作るための材料と技術があるという事なのだ。 過去に様々な国や団体、あるいは個人がシャングリラを征服しようと試みたが、 誰一人、成功したものはいなかった。
まず、自力ではシャングリラに到達する事すら不可能だ。 広大な砂漠は常に砂嵐が吹き荒れ、星で方角を知る術もない。 そもそも、シャングリラが砂漠のどこにあるのか、詳しい情報を持っている者もいない。 そこにお宝が眠っている事はほぼ確実なのに、それを手に入れる方法はない。
それでも、シャングリラに眠る秘宝の噂は、まことしやかに冒険者達の間で語り継がれていた。

「交易を行っている商人は、どうやってシャングリラまで行っているのだ?」
シャングリラの噂を町で聞きつけたランスは、一攫千金を夢見て早速計画を練り始めた。 普段はだらだらしているランスだが、こういう時は行動が早い。 お宝に加えて、その工芸品が若い女性達の手によって作られているらしい、 とまで聞かされては、ランスのやる気もますます高まるというものだ。 反面、シィルのテンションは地味にダウンしているのだが、ランスは気にも留めない。
「大きな取引をしてある程度あちらに信頼されると、シャングリラ宮殿に招待されるそうですよ」
テンションは低くても、ランスの問いに答えないわけにはいかない。 シィルは、以前聞いた事のある話を、そのままランスに伝えた。
「あそこと大きな取引をやってそうな商人か……」

「んー、確かにシャングリラ宮殿には、何度か行った事はあるけど……」
ランスに呼び出されたのは、ポルトガル出身の商人コパンドン。 同じポルトガル出身の商人であるプルーペットと肩を並べるほどの権勢を誇っている彼女は、 幾度かランスと共に戦った戦友でもある。ランスに言わせれば「俺様の女の一人」であるが。
「シャングリラまでの道は覚えているか?」
「いや、全くわからへん、案内人がいなかったら絶対迷って砂漠で干物になるわ」
「うーん、やはり案内人か……」
「でも砂漠の案内人は、名のある商人でないと会ってもくれないって聞きましたけど」
「シィルのいう通りや、ウチも案内人に面会するまで、ずいぶん金をつこたもん」
「つまりコパンドンは、案内人に連絡を取る事が出来るって事だな」
「まさか、ウチの名前を使ってシャングリラに潜入しようっていうの?」
含みのあるランスの笑みに、コパンドンの顔色が変わる。
「それはちょっと、いくらランスの頼みでも聞けへんわ」
商人にとって信用は一番の武器だ。それを失うような事は、商人生命に関わる。
「だが、シャングリラが俺様のモノになれば、お前にとっても得になるはずだぞ?」
「……」
『他では手に入らない』が売りであるシャングリラの工芸品は、とにかく高い。 もちろん仕入値よりも高く売れるから交易商が群がるのだが、 仕入値を下げる事が出来れば利幅が大きくなるのは当然だ。 ランスがうまくやれば、シャングリラ交易はコパンドンが独占できるかもしれない。 失敗した場合でも、シャングリラとの交易はできなくなるが、うまく立ち回れば、 それ以外の商売には影響を出さずに済む可能性もある。
うまく立ち回る自信ももちろんあったが、ランスに好意を寄せているコパンドンは、 その頼みを断りたくないという情もあった。
「わかった、案内人に連絡を取ったる」

コパンドンの紹介で、ランスとシィルは、砂漠の案内人とリッチで落ち合う事になった。 案内料や念のためにと多めに用意した水や食料などの装備代は、なし崩し的にコパンドンが負担する。
「ランス、これはビジネスやで、こんだけ先行投資したんだから……」
「解ってる、俺様がシャングリラを手に入れたら、交易権は全部コパンドンにやるぞ」
「その意気や!それでこそウチが見込んだ男やわ」
盛り上がってるランスとコパンドンの影に、密やかなため息がひとつ。
(いくらランス様でも、そんなに上手くいくのかなあ)

コパンドンと別れリッチに向かう途中でも、まだため息をついているシィルを見かねて、 そのピンクのもこもこ頭にランスは軽く拳骨を落とした。
「ひーん、いきなり何するんですか、ランス様」
「これから御主人様がでかい事をやろうってのに、奴隷が辛気くさいからだ」
「うう、……やっぱり危ないですよ、やめた方が、はうっ」
シィルの丸いお尻に、ランスの硬いブーツの先がヒットする。
「今更ぐずぐず言うな」
「でも、今まで多くの人がシャングリラを狙ったけれど、誰も成功した人はいないんですよ?」
「誰も成功していないという事は、これから誰かが成功するって事だ」
さすがにいつもとは違う様子に、ランスは立ち止まり、真面目な顔でシィルと向き合う。 そして、人差し指でシィルの鼻の頭をちょんと突いた。
「それに、今まで失敗した奴らと俺様には、決定的な違いがある」
「違い……ですか?」
シャングリラ行きに否定的なシィルだが、いつまでもランスに反論するのは本意ではない。 自分を納得させるためにも、ランスが言うところの『決定的な違い』を、シィルは一生懸命考える。
「んと、案内人さんを付けた事とか?」
「それもあるな、だが」
ふん、と鼻を鳴らし、自信満々にふんぞり返るランスに、シィルも思わず身を乗り出した。
「一番の違いは、俺様が世界一の天才だという事だ!」
がくり、とシィルは肩を落とす。
「どうしたシィル、御主人様が天才だという事くらい、奴隷のお前なら知っているだろう」
「はは、そう、ですね……」
シィルは力無く笑い返すしかなかった。
「うむ、だからお前はなーんにも心配せず、黙って俺様に付いてくればいい」

予定通りリッチで砂漠の案内人と落ち合い、ランスとシィルはシャングリラに向かった。
ぱっと見、砂しかない砂漠の要所要所で、案内人が不思議な呪文を唱えると、 足下の砂が僅かに盛り上がり、硬く締まって歩きやすくなる。 シィルがふと振り向くと、今歩いてきた道はきれいさっぱり消えていた。
(こんな仕掛けがあったなんて……案内人さんがいなくちゃシャングリラに辿り着けないはずだわ)
全て使えるかどうかはともかく様々な魔法を知っているシィルだが、 案内人が使っている呪文は、現在系統立てられているどの魔法とも違う聞いた事のない呪文だった。
(人間が使うタイプの魔法じゃないのかも……)

案内人の呪文にシィルが思いを巡らせている隣では、 炎天下を歩き続けているランスが苛立っていた。
「おい、シャングリラはまだか?」
「あと2時間程度といったところでしょうか」
「そんなにかかるのか!くそ、うし車かなんかで、だーっと進む事はできんのか」
「突然のご訪問でしたので、うし車のご用意をする事が出来ませんでした」
この砂漠を横断するには、普通のうし車ではうしが保たないのだと、案内人は説明した。 通常、交易商をシャングリラに招待する時は、交易品を運ぶ都合もあり、 シャングリラの方で砂漠に強い特別なうしを繋いだうし車を用意するのだという。
「コパンドン様の次のご訪問は、来月の予定だったはずですので」
身なりといい言動といい、商人とはほど遠いランスとシィルに、案内人が不信感を示す。
「いろいろ事情があるのだ、しかし暑いな」
「商売は水物だと聞いております、そういうこともあるのでしょうが」
案内人は足を止め、再び不思議な呪文を唱えた。すると、目の前に延びていた道が消え、 かわりに向かって右側に大きくカーブした道が現れる。
「……?」
「コパンドン様の御使者殿は砂漠行には慣れていないご様子、少々休憩を取りましょう」
案内人が新しく現れた道を指すと、向こうに小屋が見えた。
「砂漠の中の休憩所というわけか」
「ええ、少し遠回りになりますが」
外とはうってかわって涼しい小屋の中には、質素なテーブルと椅子がぽつんと置かれていた。 勧められるより先に、ランスは勝手にさっさと座ってしまう。
「あー、疲れた、シィル、お茶だお茶」
「はい、ランス様」
疲れたとは言っているが、手ぶらのランスよりも大荷物を背負っていたシィルの方が、 よっぽど疲れているはずだ。それでも、ランスの指示に、休む間もなくお茶の支度をする。
「ところで御使者殿」
お茶を飲みながらシィルに肩を揉ませているランスに、案内人が切り出した。
「休憩は前払いしていただいた案内料には含まれませんので、追加を……」
「なんだとー!」
「きゃんっ!」
勢いよく立ち上がったランスに、シィルがはじき飛ばされ、部屋の隅までころころと転がっていく。
「当初より、そのような約束になっているはずですが」
「そんなこと、コパンドンから聞いてねえ、これ以上金なんて払わないからな」
正確には『払わない』ではなくて『払えない』なのだが。
「そうですか、承知しました」
案内人は軽く頭を下げると、足音を立てずに小屋を出て行った。 立ち上がったシィルが慌てて後を追うが、既に小屋の外には誰もいなかった。 砂漠の中の道も消え、そればかりか、案内人が立ち去った時に付くはずの足跡まで消えている。
「ら、ランス様……どうしましょう……?」

何もない小屋の中にいたところで、干物になるまでの時間が僅かに長くなるだけだ。 砂嵐が弱まった時を見計らって、ランスとシィルは小屋を後にした。
「でもランス様、案内人さんと喧嘩したのは、やっぱりまずかったと思うのですけど」
「俺様の判断が間違っていたと、お前はそういいたいのか?シィル」
「間違いっていうか……その……」
振り返ったランスが、じろりとシィルを睨む。左手はもちろんグーの形だ。
「……うう……ランス様の判断は、間違っていないです……」
「当然だ、あの野郎、前払いの案内料に、更に上乗せしようとしたのだぞ」
「それは確かにおかしな話ですよね」
「だろう?しかし……何も見えんなあ」
二人の周囲は、見渡す限り、砂、砂、砂。 砂漠の案内人が同行していた時には確かにあったはずの道は、痕跡すら残っていない。
「シィル、あの野郎が使っていた呪文は使えないのか?」
「あの呪文は普通の魔法じゃないみたいで、私には全く……」
「ふん、使えないヤツだな」
「すみません……」
シィルはしょんぼりと俯いた。

(あの時、もっと本気でランス様を止めれば良かった)
悔恨の念だけが、シィルの頭をぐるぐると回っている。 ランスならどうにかうまくやるんじゃないだろうか、と甘く考えていた自分に腹が立つ。
(もしものことがあったら私のせいだ……)
急に無口になったのを訝しみ、少し先を歩いていたランスがシィルの方を振り返った。 足こそ止めないものの、俯いて目に涙を溜めているシィルを見て、慌てて引き返す。
「こら、何を泣いている、水分がもったいないだろうが」
シィルの頬に伝う涙のひとしずくを、ランスは乱暴に指先で拭ってぺろりと舐めてしまった。
「ランス様……」
「こうなった以上、意地でもシャングリラにたどり着く、そしてあの案内人を必ずぶっ殺す」
照れ隠しなのか、シィルに背を向け、ランスは物騒な事を宣言する。
「泣いている暇など無いぞ、しっかり付いてこい、シィル!」
「はい!」
乱暴な仕草も物騒な宣言も、ランスなりにシィルを元気づけようとしているのだろうと解釈し、 シィルはなけなしの気力を振りしぼってランスに返事をした。