GALZOOデザート

幸運の坩堝P

GALZOOアイランドエリナエンドアフターとクロスオーバー。鬼畜王設定を微妙にアレンジ。

2.迷走

◇2010/05/01(初2006/04/26) 

ランスとシィルが砂漠を彷徨っている頃、別の場所で、不安げに呟いている影があった。
「ここは一体どこなんだ?」
イカパラダイス崩壊と同時にかろうじて繋がった、唯一の脱出手段であるテレポートゲート。 そこにレオ達を乗せた戦艦大和が突入したのは、 つい先程の事のようにも、まるで遠い昔の事のようにも思える。 まだ他の女の子モンスター達が倒れている中、真っ先に目を覚ましたキャプテンバニラは、 自分たちが大和の甲板ではなく砂漠にいる事に気付いた。
「元の世界に帰ってきた……の?」
バニラは慌てて周りを見渡した。クスシ、てんてん、きゃんきゃん……女の子モンスター達の、 共に戦った仲間達の姿が見える。皆気を失ってはいるが無事なようだ。
しかし、見渡す限りの砂漠に、人間は──レオとエリナの姿はなかった。
「そんな……レオ、エリナ……どこに行っちゃったんだ、二人は無事なのか?」
バニラはへなへなとその場に崩れ落ちた。 水辺に生息する女の子モンスターであるバニラにとって、この灼熱の砂漠はそれだけで心を萎えさせる。 そして従魔であるバニラにとって、主であるレオの不在による心細さ。

「どうしたある、そんな暗い顔してるなんてバニラらしくないあるよ」
背を丸めているバニラに明るく声を掛けてきたのは、エリナの従魔中華てんてんだった。
「てんてん……」
「そういえば、エリナとレオさんの姿が見えないあるな」
バニラに声をかけながら、てんてんは辺りを窺っている。 てんてんの言葉に、バニラはますますしょぼくれる。
「そうなんだ……私は……私達はどうしたら……」
「しっかりするある!」
てんてんはバニラの肩を掴んで、大きな声を出した。
「エリナもレオさんも絶対に無事ある、きっと離れたところでてんてん達を探しているあるよ」
バニラははっと顔を上げた。心配そうなてんてんの顔が見える。
「うん、そう、そうだよね……だったら私達も二人を探しに行かなくちゃ」
ようやく明るい顔に戻ったバニラに、てんてんはほっと安堵のため息をついた。
「それがいいある、そのまえにみんなを起こさないといけないあるよ」

女の子モンスター、総勢31人。 レオの従魔だったりエリナの従魔だったりと些細な違いはあるものの、 最後には力を合わせて元の世界に戻ってきた、皆大切な仲間だ。
舞台はイカパラから砂漠に変わり、目的も打倒イカ男爵からレオとエリナを探す事に変わったが、 本来は協力し合う事のない女の子モンスター達が、同じ目的のため団結している。

「ほほう、これは珍しい事もあるものですね」
他国の人間に決して姿を見せないシャングリラの王、ルチェ・デスココ387世。 彼の前に置かれた水晶球には、バニラ達が周囲を警戒しながら移動している様が映し出されている。 デスココは、常にその手にしている金色のランプをゆっくりと擦った。
「一体どういう事なんでしょう、解りますか?」
「あの女の子モンスター達はおそらく従魔でしょう」
ランプの口から流れ出す煙の中に浮かんだ大きな影が、デスココの疑問に応える。
「主である魔物使いがあの場にいないのが、少々妙ではありますが」
「アラジン、お前の力で、あの女の子達を私に従わせる事は出来ますか?」
大きな影──ランプの精アラジンは、深く肯いた。
「ではやってもらいましょう、そろそろ人形遊びにも飽きてきましたからね……」

デスココの企みなど気付く事もなく、バニラ達は砂嵐の続く砂漠を進んでいた。 最初は元気だった女の子モンスター達も、行けども行けども変わる事のない砂と嵐だけの景色に、 少々くじけ気味だ。
「暑い……私達……ひからびて死ぬのかしら……うふふふふふ……」
「縁起でもない事言わないでください」
険しい地形や砂混じりの強いつむじ風が吹きだまっている場所などを避け、 互いに励まし合いながら、いくつもの砂丘を越えていく。

何時間歩いただろうか。金色に輝く宮殿が、いきなりバニラ達の視界に入った。 先程よりはやや弱まった砂嵐に霞んでいるが、宮殿の周りには緑も見える。
「こんな所に宮殿が……?」
「砂漠の中のオアシス都市ってところかしら、それにしてもイカ御殿に劣らないほどの趣味の悪さね」
砂漠の蜃気楼かと疑ってもみるが、他に何の目標物もない。 疲れ切っている仲間達を元気付けるように、バニラは明るく決断を下した。
「まずはあそこに行ってみよう、もしかしたらレオとエリナも辿り着いているかもしれないし」

バニラ達が辿り着く同時に、宮殿の門がゆっくりと開いた。
そのタイミングの良さにバトルノートは顔を顰めた。
「どうした?」
バトルノートの表情にバルキリーが気付く。
「うむ、罠があるかもしれん、と思ってな」
「こんな、誰が通るかも解らないような砂漠の真ん中に罠を張るなんて、あり得るのか?」
バルキリーの言う事にも一理ある。
確かにここは、罠を張るには効率の悪い立地条件だ。地形や砂嵐に誘導された形ではあるものの、 バニラ達があの地点に出現しなければ、その誘導さえ無駄になる。 何者かが意図的にテレポートゲートの座標をずらした可能性もあるが、 テレポートゲートで女の子モンスターの集団が転移してくるなど、普通は想像も付かないだろう。
そこまで考えて、バトルノートはかぶりを振った。
「確かに私の考えすぎかもしれんな」

「ようこそシャングリラへ」
大きな門をくぐると、美しい少女が、笑顔でバニラ達を出迎えた。
「砂漠を長い事歩かれて、さぞやお疲れのことでしょう、どうぞゆっくりおくつろぎください」
女の子モンスターと人間の女の子は、一目で見分けが付くものだ。 そして、魔物使いに率いられていないモンスターは、本来人間の敵である。 なのに、出迎えの少女は、バニラ達を恐れる事もなく、中に入る事を勧めてくる。
「奥の広間で、シャングリラ王デスココ様が、皆さんをお待ちしています」
ここへ来て、バトルノートの違和感は更に強まる。 長い廊下を先導する少女をさり気なく観察していたバトルノートは、 注意を促そうとバニラの腕を引っ張った。
「どうしたの?」
バトルノートが口を開こうとした時、先導の少女が振り返った。 少女が手に持った香炉の蓋を開けると、甘い香りが廊下に充満する。
「……っ、やはり罠が……」
その言葉を最後まで言い終えることなく、バトルノートは深い眠りに落ちる。 そして、それはその場にいた女の子モンスター全てに及んだ。

「彼女達が目を覚ました時には、私の従魔になっているという事ですね」
ふかふかの絨毯の上に寝かせた30人の女の子モンスター達を、デスココは満足げに眺めた。
「私の言う事を何でも聞く、かわいい女の子モンスター達……素晴らしい事です」
イカパラを脱出した時、そしてつい先程までは31人いたはずの女の子モンスター。 香によって眠らされた彼女達がこの部屋に運び込まれた時、はずれ女を見つけたデスココは、 宮殿の外に捨ててくるよう命じた。それゆえの30人だ。
「確かにレア女の子モンスターですが、私の宮殿にこんなモノはいりません」
デスココに言いつけられたものの、宮殿の美少女達もまた、 はずれ女に触るのもいやだと互いに牽制し合っていた。 結局、みそっかすでお荷物扱いされていたシャリエラが、はずれ女を担ぎ出す事になったのであるが。
「貴女もみそっかす扱いなのね……」
見た目はともかく、自分と同じような境遇のはずれ女に、シャリエラの同情心が刺激される。 しかし、デスココに逆らう事は出来ない。せめてもと涼しい日陰にはずれ女を寝かせ、 シャリエラは宮殿に戻った。