GALZOOデザート

幸運の坩堝P

GALZOOアイランドエリナエンドアフターとクロスオーバー。鬼畜王設定を微妙にアレンジ。

3.遭遇

◇2010/05/01(初2006/04/26) 

「だーっ!この砂漠は一体どこまで続いているんだ!」
あれから数時間、ランスとシィルはまだ砂漠を彷徨っていた。 日が傾いていくらか過ごしやすくなったものの、完全に夜になってしまえば、 砂漠はおそらく氷点下まで気温が下がってしまうだろう。
「一晩あの小屋で休んでから歩き始めた方が良かったでしょうか」
「今更戻ろうにも、どこに小屋があったか解らんのだぞ?」
険しい地形や砂混じりの強いつむじ風が吹きだまっている場所などを避けて歩いた結果、 二人が今いる場所は全く見当が付かなくなってしまっている。
「そうですね……」
シィルは一つ大きくため息をついてから、気を取り直して顔を上げる。 遠くの砂丘の上に人影を見つけ、慌ててランスのマントを引っ張った。
「あっ、ランス様、あそこに誰かいます!」
「何?あのむかつく案内人か?」
ランスもシィルが指さす方向を見た。確かに何者かがこちらに向かって大きく手を振っている。
「よし、あいつを捕まえるぞ!」
「はい、ランス様!」
それまで力無く歩いていたのが嘘のように、二人は人影の方に走り出した。
「Jesus!」
「どわあああああっ!」
ようやく捕まえた人影の正体は、それは奇妙なモノであった。
「ななななんだこいつは!」
「ランス様、これは多分はずれ女です」
「は……はずれ女……?」
「Yes!」
「はずれ女はレア中のレア女の子モンスターです、ラッキーですね、ランス様」
「どこがラッキーなんだあ!このっ、離れんか化け物が!」
「No!」
はずれ女はランスの腰にしっかり抱きついて、ランスが離そうとしても離れない。
「世界に一体しかいないレア女の子モンスターが、こんな所にいるなんて……」
「シィル、何でお前冷静なんだ!さっさと俺様を助けんか!」
「だってランス様、女の子モンスターお好きじゃないですか」
「それはかわいい女の子モンスター限定だ!」
「My God!」
はずれ女相手では、さすがのシィルもやきもちを焼く気にならない。 真っ青になってはずれ女を引き剥がそうとしているランスを、苦笑しながら眺めていた。

「そうだ、もしかしたらはずれ女が、何か知ってるかもしれませんよ?」
「ん?お前何か知ってるのか?シャングリラ宮殿の場所とか」
「Yes!」
「ホントか!ならすぐ案内しろ」
「No!」
「ふっざけんなーっ!」
握り拳を振り回すランスからようやく離れたはずれ女に、ランスは剣を抜いて突きつけた。
「お前のような化け物は成敗してくれるわ」
「Jesus!」
「待てっ、おとなしく俺様の剣の錆びになりやがれ!」
(せっかく離れたはずれ女をわざわざ追いかけなくてもいいのに)
ランスの行動を不思議に思いながらも、 シィルは追いかけっこを始めた二人の後を付いて行く事にした。

「くそっ、意外と逃げ足が早いな……生意気な」
「ランス様、もう諦めた方がよろしいんじゃありません?」
日が沈んで薄暗くなり始めた砂漠を、はずれ女、ランス、シィルの3人が、 息を切らせながら走っている。ふと、はずれ女が立ち止まった。
「チャンスだ、今度こそ……」
ランスも立ち止まり剣を構え直す。
「My God!」
振り向いたはずれ女が、遠くを指して何事か伝えようとしている。
「No!」
「何が言いたいのか解らん、とにかく死ね!」
「ランス様っ」
はずれ女が指さす方向を、じっと目を凝らしてみていたシィルが叫んだ。
「竜巻です!こっちに向かってます!」
ランスアタックのモーションを止め、ランスもそちらを見た。 かなりの規模の竜巻が、夕闇にそのシルエットを浮かび上がらせている。
「む、巻き込まれるとまずい、逃げるぞシィル」

「どこか身を隠すところは……」
ランスは辺りを見回すが、竜巻を避けて隠れる事が出来る場所など、そうそう見つからない。 大荷物を背負って砂漠を歩いていたシィルの消耗も激しく、走って逃げ切る事も不可能だろう。
「シィル、来い!」
ランスはシィルの手を掴んで引き寄せた。
「きゃあっ!」
いきなり引っ張られたシィルが、砂に足を取られて倒れる。 シィルに覆い被さるように倒れ込んだランスは、自分のマントでシィルとシィルが背負った荷物を包み込む。 低い姿勢で、竜巻をやり過ごそうというつもりだ。
「しっかりつかまってろよ、絶対に離れるんじゃねえぞ、いいな?」
「Yes!」
いつの間にか追いついたはずれ女が、ランスの上にのしかかってランスの首根っこにしがみつく。
「お前に言ったのではない!」
「No!」
ランスの予想よりはるかに強い竜巻が3人に襲いかかる。 どうにか抵抗しようとするが、手応えのない砂の上では掴まる物もない。 3人は大量の砂と共にあっけなく空中に巻き上げられた。
「……っ!」
激しい砂混じりの渦に振り回されながら、ランスはシィルをしっかりと抱きかかえる。 口を開けると砂が入りそうで、声をかける事もままならない。 シィルはランスの腕の中で目を回してしまったのか、ランスにしがみつく力も無い。
どれほどの時間振り回されていたのだろうか。
ようやく弱まった竜巻が、3人を砂の上に放り出した。
既に気を失っているシィルをかばうよう、ランスは身体を入れ替えて着地する。 下が柔らかい砂だったのは、まだ幸いだったと言えよう。そのままランスが気絶したのは、 落下の際の衝撃よりも、これまでの緊張と疲れのせいだったのかもしれない。

「……ぶえっくしょい!」
夜の砂漠に、昼とはうってかわった冷たい風が吹き抜ける。
その冷たさにランスが目を覚ました。腕の中にシィルがいることを確認し安堵するが、 同時に背中に重みと生暖かさを感じ、はずれ女が外れていない事に落胆する。 氷点下まで冷え込んだ砂漠でランスとシィルが凍死せずに済んだのは、 背中に引っ付いていたはずれ女のおかげなのだが、それはこの際気が付かなかった事にしておこう。
「シィル、起きろ」
ランスはシィルの頬をぺちぺちと叩いた。
「ううーん……」
もぞもぞと身体をくねらせるシィルに、はずれ女も手を伸ばそうとする。
「こら、シィルに触るな」
「My God!」
ランスに払いのけられ、はずれ女はしぶしぶその手をひっめる。 そのやりとりに、ようやくシィルの意識が戻った。
「ん……ランス様、それにはずれ女も無事だったんですね」
「はずれ女はどこか別のところに吹き飛ばさてしまえば良かったのに」
「No!」

「それにしても、ここは一体どこなんでしょう?」
これもまた無事だった荷物を広げ、シィルは防寒用に毛布と温かいお茶を準備する。 毛布にくるまりシィルが淹れたお茶を飲んで一息ついたランスが、ぐるりと辺りを見回した。
「真っ暗で何も解らんな」
見える見えるでミニ太陽を出現させているものの、 そもそもが迷宮探索用の魔法なので、そう広い範囲を照らし出す事は出来ない。 最も、明るくなったからといって、何か目標物が見つかる保証もないのだが。
「魔物の気配もありませんし、明るくなるまでここに留まった方がいいかもしれませんね」
「Yes!」
「ここにモンスターがいるじゃねえか」
魔物の気配がないのは、何もない砂漠だからなのか、はずれ女がいるせいなのか。
ランスはシィルが巻き付けていた毛布を剥ぎ取ると、その毛布ではずれ女をぐるぐる巻にした。
「Jesus!」
「黙れ、こうしておかないと身の危険を感じるんだよ」
イモムシDXのようににじにじ蠢いているはずれ女に、ランスは吐き捨てた。
毛布を取られたシィルは、自分の身体を抱えるようにして寒さに震えている。 それに気付いたランスは、シィルを指先で呼び寄せ自分の毛布の中に入れてやった。
「ランス様……」
嬉しそうに頬を染めるシィルに、ランスはわざと不機嫌そうな顔を作ってみせる。
「勘違いするなよ、お前ははずれ女から俺様を守るための盾だ」
「あう……はい」
がっかりして俯くシィルをランスは抱えなおし、自分の胸にぴったりと押しつけた。 冷たい風が吹き抜ける砂漠で、シィルの暖かさが心地良い。
「それと暖房器具の代わりだな……まあいい、シィル、少し眠っておけ」
「ランス様こそ、お休みにならなくてよろしいんですか?」
「……今眠ると危険だ」
「Yes!」
「お前が危険だと言ってるんだ!」

砂漠に日が昇る頃、シィルは目を覚ました。見上げると、ランスもうたた寝しているようだ。 更に頭を上げて周りを見ると、はずれ女もぐるぐる巻のまま眠っている。 シィルはちょっぴり名残惜しそうにランスの腕の中から抜け出すと、朝食の支度を始めた。

「うーむ、明るくなっても、ここがどこだかさっぱりわからんな」
「真っ直ぐ歩けば、いつかは砂漠の外に出られるとは思いますけど」
朝食を済ませていくらか元気になったランスとシィルが、辺りを見回すが、 朝焼けに赤く染まった砂漠には、相変わらず砂以外の物は見えない。
「おい、はずれ女、お前本当にシャングリラ宮殿の場所を知ってるのか?」
「Yes!」
毛布を解かれたはずれ女が元気に肯く。そして、やや高くなっている砂丘に上り、一点を差した。
「シィル、ちょっと見てこい」
ランスに命令され、シィルははずれ女が立っている砂丘に登った。 しばらくして、あっと声をあげると、慌ててランスのところに戻ってくる。
「ランス様、あっちに建物と緑が見えます」
ランスも立ち上がって砂丘に登る。確かに、緑に囲まれた金色の建物が見えた。
「よし、行くぞシィル!」
「はい、ランス様」
シィルは慌てて荷物をまとめて背負い、返事も待たずに歩き出したランスの後を追った。