GALZOOデザート

幸運の坩堝P

GALZOOアイランドエリナエンドアフターとクロスオーバー。鬼畜王設定を微妙にアレンジ。

6.真相

◇2010/05/01(初2006/04/26) 

「いくよっ、毒マグロアッパー!」
「ぶふっ、お、お前達は……!」
背後にある大きなタペストリーの影から、バニラとクスシが飛び出す。 それを見たデスココは、慌てて膝の上にあった金色のランプを擦った。
「かもーん!アラジン」
ランプから吹き出した煙の中に大きな影が現れると、 その影がバニラとクスシの攻撃からデスココをかばう。
「せっかく私のおもちゃにしてあげようと思ったのに、もういいです」
影の後ろから、デスココの悔しそうな声が聞こえる。
「な……?」
「アラジン、女の子モンスター達を殺してしまいなさい!」
デスココの声に答え、バニラ達にランプの精アラジンが襲いかかるが、バニラ達は動けない。 ランスの腕の中で、シィルが叫んだ。
「ランス様、早くあの子達に指示を!ランス様の指示がないと彼女達は戦えません」
「そうだったな、よし、まずはカメ子、カウンターで攻撃を跳ね返せ!」
女の子モンスター達の攻撃スキルは、一通り聞き出してある。 それをきちんと記憶しているのは、ランスではなくシィルだったが。
「言霊、愛の歌で奴を痺れさせろ、ズかっぱは葉っぱビンタだ」
シィルの助言も受けているとはいえ、初めての従魔バトルとは思えないほど的確に、ランスは指示を出す。
(やっぱり……ランスは魔物使いなの?)
戦闘中にもかかわらず、バニラの脳裏に最初に感じた疑問が再び浮かんでいた。

「私が負けましたので、消えますね」
女の子モンスター達の総力攻撃の前に、アラジンは敗北し、再び煙の中に消えた。
「ひ、そ、そんな……私のアラジンは無敵のはず……」
「ふん、正義は勝つってことだ」
戦闘中きゃんきゃんに命じて装備を持ってこさせたランスが、 真っ青になってぶるぶる震えているデスココの前に立ちはだかった。
「どんなずるい手を使ったが知らんが、女の子モンスター達と従魔契約したらしいな」
「べ、別に私は、女の子モンスター達に無理をさせるつもりは全くなかったのです、 ですから、どうか命だけは……」
床に這いつくばり情けない顔で命乞いをしているデスココを、女の子モンスター達が取り囲む。 服を直しているシィルを右手に、ロングソードを左手にしたランスは、 無様に狼狽えるデスココを冷たく見下ろした。
「……そうだ、ランス殿にも女の子モンスターを分けてあげます、だから」
「お前などに分けてもらわんでも、欲しい物は自分で手に入れる」
ランスはデスココの言葉を最後まで聞かず、一刀のもとに斬り捨てた。

「やった!」
デスココの死と共に従魔契約は破棄され、バニラ達への強制力が消える。
「ありがとうランス、後はここを脱出するだけだね」
「ああ、貰えるものを貰ってさっさとここを出よう、おい、シャリエラ」
ランスはシャリエラを呼んだ。しかし返事は帰ってこない。
「シャリエラ?」
アラジンと女の子モンスター達の戦闘に巻き込まれないようにと、 シャリエラをはじめ給仕をしていた少女は壁際に寄せてあった。 ランスがそちらを振り向くと、少女達は皆、力無く崩れ落ちていた。 その中で、シャリエラだけが、ふらふらになりながらもかろうじて立っている。
「シャリエラ!」
「ランスさん……」
弱々しい声で答え、ぐらりと蹌踉けたシャリエラを、慌ててシィルが抱きとめた。 ランスも、ただならぬ事態に気付き、シャリエラに駆け寄る。
「どうしたんだ、急に……」
シャリエラを支えているシィルが、視線でランスに周りを見るよう促す。
「えっ……?」
壁際で倒れている少女達は人間ではなかった。 宴の途中で触れた時は確かに人間の少女の感触だったのに、今ではただの木の人形だ。
「シャリエラ以外は皆、木の人形だったとでも……?」
「ランスさん……私も……私もお姉様達と同じ、ただの人形です」
人間の女は信用出来ないと、デスココは美しい少女人形を作りアラジンの魔力で魂を吹き込んだ。 苦しげに震えながら自分が知っている事をランスに語ると、シャリエラは目を閉じた。
「シャリエラ!」
ランスはシャリエラをシィルから奪いその身体を大きく揺さぶる。 しかし、ついさっきまで柔らかかった身体は、ランスの腕の中でゆっくりと木に戻っていった。

「人間だろうが女の子モンスターだろうが、面倒だから楽しいんじゃないか」
宴の途中デスココが言っていた言葉を思い出し、ランスは苦々しげに呟く。
「ちぇっ、まだなーんにもしてなかったのに、もったいないな」
下卑た憎まれ口に、助けてやれなかった悔しさが滲む。 それを察してそっと寄り添ってきたシィルの頭を、ランスはくしゃくしゃとかき回した。
「しかし、シャリエラがいなくては、リッチに戻る道がわからんな……シィル、どうしたらいいと思う?」
喜んでいるバニラ達には聞こえないよう、ランスは小声でシィルに耳打ちする。
「シャリエラちゃんが知ってたっているのは、リッチまで繋ぐ道を造る呪文だったと思うんです」
「だからどうした?」
「案内人さんが使っていた呪文は、他の力を借りて効果を発揮するタイプの魔法です、例えば……痛っ!」
呪文体系を説明しようとするシィルの頬を、ランスはむぎゅっと捻った。
「もっと要点だけ喋らんか」
気の短いランスのために、シィルは赤くなった頬をさすりながら、結論だけ手短に伝えた。
「すんすん、ですから、道を造るための力の源が、この宮殿内にあるのではないかと」
「そういうことか、ではお宝を探しながら、その力の源とやらも探すとしよう」

「えっ、すぐにここを出発するんじゃないの?」
「俺様達の目的は、そもそもシャングリラに眠るお宝だ、それを手に入れるまでは帰れん」
少々不満げなバニラに、ランスはもっともらしく説明する。 確かに、お宝探しも確かに当初の目的ではある。しかし、どちらかといえば、 脱出手段の当てが無くなった、とバニラ達に知られる体裁の悪さを誤魔化すための、一時しのぎだ。
「それとも俺様達を残して、お前らだけ先に砂漠から出るか?」
素直なバニラは、ランスの言い訳を気遣いだと受け取ったようだ。 お宝集めはバニラ族の習性でもあるため、納得しやすい言い訳でもある。
バニラがぶんぶんと頭を横に振ると、大きなうさ耳が揺れた。
「デスココを倒してくれたし、今度は私達が手伝うよ」
「そうか、それはありがたいな」
ランスはバニラの頭をぽふぽふと叩いた。
「おっ、叩くのに丁度いいちっこさだな」
「ちっこいって言うなー!」
バニラが繰り出すマグロアッパーを、ランスはひょいと避ける。
「おっと」
「Jesus!」
ランスに抱きつこうと背後から機会を窺っていたはずれ女にヒットしたようだが、まあどうでもいい。

「確か、デスココはたびたび地下に降りていたんだっけな」
身の回りの事、交易商の対応、そのほとんどは木の少女人形達にやらせていたが、 地下に降りる時だけは絶対に誰にも任せずデスココ自ら動いていたと、 シャリエラが言っていた事を、ランスは思い出した。
「よし、地下室に行くぞ、皆の者付いてまいれ」
ランスはシィルと女の子モンスター達を率いて、地下室への階段を降りた。
「ここに隠し扉があるぞ」
不思議な紋様が描かれているだけに見える壁を、バトルノートが拳で軽く叩く。
「でかした、開け方は解るか?」
「ああ問題ない……だが、その前に」
バトルノートは壁の前に立って、女の子モンスター達をぐるりと見た。
「皆、おそらく感じていると思うが、この扉の向こうには、大いなる存在がある」
「大いなる存在……?解るか、シィル」
「すみません、私にもさっぱり……」
バトルノートの言葉にランスとシィルは首を捻るが、バニラ達は深く肯いている。

「人間であるあなた方が解らないのも、無理はありませんわ」
「儂ら女の子モンスターにははっきりと解る、この先におわすのは聖女の子モンスターじゃな」
フローズンとクスシの会話に、ランスははたと手を打った。
「聖女の子モンスターって、ウェンリーナみたいな子か」
「ランス殿はウェンリーナ様をご存じなのか?」
「お兄ちゃんお兄ちゃん、って懐いてきてかわいかったぞ、一度死んだのを生き返らせて貰ったし」
以前ハピネス製薬の事件で出会った命の聖女の子モンスターウェンリーナの事を、ランスは思い出した。 ウェンリーナを含めて4人いる聖女モンスターは、 全ての女の子モンスターの神であり母である存在だと、その後シィルに聞いた覚えもある。
「ウェンリーナ様に命を救ってもらったって、あなた本当に人間なの?」
聖女の子モンスターは、その特殊能力に着目した人間に狙われる事が多い。 実際、ウェンリーナもその能力のせいで、囚われていたのだ。まじしゃんの疑問は当然だった。
「失礼な事を言うな、俺様は人間だぞ、それも世界一の天才のな」
「ふむ、魔物使いでないランス殿が私達を使役出来るのは、 ウェンリーナ様との縁があるせいなのかもしれんな」
「そういうもんなのか?俺様には良く解らんが」
納得したような顔のバトルノートと、納得のいかない顔のランス。
「とにかく、ランス殿達が聖女の子モンスターの存在とその意義を知っているのならば心配はない、 ここを開けるぞ」