GALZOOデザート

幸運の坩堝P

GALZOOアイランドエリナエンドアフターとクロスオーバー。鬼畜王設定を微妙にアレンジ。

7.聖女

◇2010/05/01(初2006/04/26) 

バトルノートが開けた扉の中に、ランス達が入る。
「暗いな」
「俺は夜目が利く、先導してやるから付いてこい……こら、マフラーを引っ張るな」
やもりんを先頭にランス達は真っ暗な通路を進んでいく。 通路の奥に見える薄明かり、そこから声が聞こえた。
「……誰?誰かいるの?」
ようやく辿り着いた部屋の中には、丸いベッドの上にちょこんと座っているかわいい女の子がいた。
「良かった、デスココじゃないのね……あら、女の子モンスターがたくさん」
ちっちゃい女の子の言葉に、女の子モンスター達は無意識に跪き頭を垂れる。
「聖女の子モンスターだな、名前は何という?」
「人に名前を聞く前には自分が名乗るのがエチケットよ、まあ人間にそれを求めても仕方ないけど」
つん、とそっぽを向く女の子に、シィルが慌てて名乗る。
「あの、こちらはランス様、人間の冒険者です、私はシィルです」
「俺様の奴隷だな、それと女の子モンスターの……」
「女の子モンスター達はみんな解るからいいわ、あたしはハウセスナース、大地の聖女の子モンスターよ」
言うまでもなく女の子モンスター達には解ってると思うけど、とハウセスナースは小さく呟く。

「デスココを殺したようね、それでランス、あなたが新しいシャングリラの王になるの?」
「うーん、こんな外へ出られないような砂漠の王様になってもなあ」
腕を組んで呻るランスを、ハウセスナースは冷めた目で見ている。
「ところで……何で聖女の子モンスターの君がこんな狭いところにいるんだ?」
「初代のシャングリラ王に捕まってここで砂漠の道の管理をさせられているのよ」
「ハウセスナース様……」
こともなげに言うハウセスナースに、バニラ達が暗い表情になった。 聖女の子モンスターが、ここでも人間に不自由を強いられている。
「ハウセスナース様のお力なら、ここから逃げる事は出来なかったあるか?」
「そう簡単な事じゃないわ、中華てんてん」
ハウセスナースはあぐらを崩し、足首を見せる。その華奢な足で、緑色の足枷が光った。
「ほっそい鎖じゃないか、さっさと引きちぎって逃げれば良かっただろう?」
「あの鎖と足枷は、捕獲ロープと同じように封印呪文がかかってるんですよ、ランス様」
「そう、その人間の魔法使い……シィルだっけ?が言う通りよ」
ハウセスナースは鬱陶しそうに、枷に付いた鎖をしゃらりとならして見せた。
「聖女の子モンスターとはいえあたしは女の子モンスター、この呪縛を解く事は出来ないわ」
それはつまり、バニラ達にもどうする事も出来ないという意味だ。 黙りこくったバニラ達、そしてシィルが、ランスに期待のまなざしを向ける。 それに気付いているのかどうか、ランスは一歩、ハウセスナースに近寄った。

「だったら人間である俺様には、簡単に解く事が出来るってわけだ」
ランスは細い鎖に手をかける。簡単にちぎれそうに見えたが、 ランスの馬鹿力をもってしても、その鎖を切る事は出来なかった。
久しぶりに見たデスココ以外の人間、その思いがけない行動を、 ハウセスナースは不思議そうに眺めている。
「むぐー、なんで切れんのだ!」
真っ赤な顔で、ムキになって鎖を引っ張っているランスを、シィルが宥めた。
「ランス様、その鎖は力任せでは切れませんよ」
「それを先にいわんか、馬鹿者!」
「ひんひん、すみませんランス様あ」
ひとしきりシィルに八つ当たりして気が晴れたランスは、あらためて鎖を手に取った。
「ところでどうやったらこの鎖は切れるのだ?」
「人間が枷を掴んで『解けろ』って言えばいいんだけど……」
自分を自由にしてくれる人間がいるはず無い、ハウセスナースは再び無表情に戻った。しかし。
「そうか」
ランスはハウセスナースに言われた通り枷を掴む。
「解けろ」
それまでいくら引っ張っても切れなかった鎖が切れ、ぱきんとか細い音を立て足枷が外れた。
「おお、本当に切れたぞ、これで自由になったな、ハウセスナース」
「ですから、力では切れないと」
口を挟むシィルに、むっとした顔で拳を見せるランス。 それを止めようとセクシーナイトがランスの後ろから抱きつくと、 背中にグッドな質感を感じたランスが相好を崩す。 バニラ達とランス達が合流してから幾度か見られたたわいもない光景を、 当事者以外は微笑ましく眺めている。
そんな中、ハウセスナースは外れた足枷を呆然と見つめていた。

「……いいの?あたしがいないと、誰もこのシャングリラには来る事が出来ないのよ?」
「別にいいだろう、この国は他国との交流はほとんど無いし、 デスココも木の少女人形もいなくなった今、交易を続ける事も出来ないだろうしな」
けろりと言ってのけるランスを、ハウセスナースはぽかんとした顔で見ている。
「砂漠を出るにはあたしの力が必要なんだよ?」
「それはまずいな……だが」
ランスは困ったように頭を掻いてから、ハウセスナースに真面目な顔を向けた。
「かわいい女の子がこんな狭くて暗い地下に閉じこめられているのは、俺様には許せない事だ」
「女の子って……あたし、モンスターだよ?」
「モンスターでも人間でも関係ない」
女の子は幸せであるべき、それは嘘偽り無いランスの本心だ。 「かわいい」女の子限定でなければもっと素晴らしい志だが、そこまでランスに求めるのは難しい。
「ランス……あんた、本当に変わった人間ね」
ハウセスナースはくすりと笑った。
「笑うと更にかわいいな、その笑顔のためなら、俺様は何でもするぞ」
嘘やお世辞のないランスの言葉に、ハウセスナースはほんの少し人間を見直そうと思ったが。
「お礼は言わないわ、あたし、やっぱり人間は嫌いだから」
言葉ほどは刺のない表情で、ハウセスナースはぐるりと女の子モンスター達の顔を見渡す。
「でもそうね、この子達を助けてくれたお礼に、砂漠の外へ繋がる道は造ってあげる」