3.湧き出るもの
◇2008/04/28
まだ、出来て間もないという綺麗な温泉旅館に、宿泊券を見せて入る。
「ランスとシィルはそっちの部屋、鈴女はこっちで寂しく独り寝するでござるよ」
案内された隣り合った一人部屋と二人部屋、てっきり鈴女さんと私で二人部屋に泊まるのだと思っていたのに。
荷物を降ろして浴衣に着替えてから(その間ランスさんには部屋を出てもらったけど)、鈴女さんと二人で、
大きな露天の女湯に入る。うわあ、広いなあ。ゼスにも水着で入るスパリゾートはあるけど、こんな大きいお風呂はじめて。
最初は空が見える所で裸になる事に抵抗があったけど、この開放感はいいな。
「今のシィルは、全くえっちの記憶がないんでござるな」
「はうっ、い、いきなり何!?」
「今夜は久しぶりだから、多分こってりしっぽりな夜になるでござるよ?」
「ええー、そう思うなら、お部屋変わってくださいよう」
奴隷として五年間も側にいたのなら、多分、ランスさんと私の間にはそういう関係があるんだとは思うけど、
でも、今は記憶がないし、どうしよう、困った。
──時には偽る事も必要、だが、思いのままを表す事が誠意となる
うっ、何で今唐突に性眼様の言葉がひらめくかなー。思いのまま、かあ。やっぱりえっちに抵抗あるし、
断った方がいいのかな……でも……全く興味がないといったら嘘になるし。
「性眼様のいうとおり、思ったままランスに言えばいいでござるよ」
はうう、また表情から読まれてるっ!?
「思ったまま……それって失礼にならないのかな?」
「うーん、そういう事もあると思うけど、今のランスとシィルなら、正直に何でもさらけ出した方が吉、でござろう」
性眼様は多分そういう意味で言ったと思うでござるよ、と鈴女さんは楽しそうに笑う。
そうか、記憶のない五年間、絶対服従の魔法で縛られていた主従関係。ランスさんも疑問に思っていたみたいだし。
ここで、その関係をリセットするべきなのかも。ここから新たな関係を築いていけるのか、それとも終わってしまうのか。
あっ、もしかしてランスさんの『迷い』って、それに関係があるのかなあ。
部屋に戻ったら、ランスさんももうお風呂から上がって冷たい麦茶を飲んでいた。
「長風呂だったな、女同士で話が弾んだか?」
「にしし、うらやましいでござるか?」
鈴女さんは湯飲みと麦茶のポットを引き寄せて、自分の分と私の分を手早く入れてくれる。
「女同士の会話っていうのは、俺様にはさすがに解らないからな」
あの後は結局、えっちに際しての心構えとかそんな話だったんだけど。
あんまりにも具体的な鈴女さんの話を思い出すと、顔が熱くなる。
「どうした、顔が赤いぞ、のぼせたのかシィル」
慌ててぶんぶんと頭を振って、誤魔化す。誤魔化せたかな?
「夕飯食べたら鈴女はあっちの部屋に引き籠もるから、後は二人で楽しむでござるよ」
ちょ、楽しむって!せっかくごまかせたと思ったのに、今なら顔からファイヤーレーザーが出せそう。
ちらっと見ると、ランスさんもなんか顔が赤い。女遊びが激しいって聞いてたから、
そういうのは慣れてると思ったのに、ちょっと意外な反応。
豪華な夕ごはんの後、宣言通り鈴女さんが出て行って、部屋にはランスさんと私、二人きり。
「えっと、シィル……どうする?」
「あの、お、お風呂、お風呂にもう一回入ろうかなと」
「ん、そうか、一緒にはいるか?」
えええーっ!?何気なく差し出された旅館のパンフレットには、混浴できるお風呂もあるって……
で、でもっ!いきなりそれはどうなのよ?とりあえずそれは丁重にお断りして、男女に別れた露天風呂に行く事にする。
髪はさっき洗ったから、ゆっくりお湯に浸かって、鈴女さんに言われたとおり、大事な所をきれいに洗って……
うわあ、なんかすごくえっちの準備、って感じがする。ど、ど、どうしよう、どうしてもいやだったら断っちゃってもいいのかしら。
でも、でもでも、キスくらいならいいかなあ、とか……うわーん、なに考えてるのよ、私ったら!
「ああ、お帰り」
部屋に戻ると、ランスさんはお風呂に行く前と同じ姿勢で寝ころんで、漫画を読んでいた。
JAPANには魔法ビジョンがなくって、大陸で人気のあるドラマは漫画化されて発売されてるって、香様に聞いたっけ。
あれ、漫画のページが、さっきと同じだ。繰り返し読まなきゃいけないほど、長風呂しちゃったかな?
「えっと、あの」
「ああ」
ランスさんは私の言葉を待っているみたい。もっと強引に迫られるのかと思ったけど……あっそういえば。
「お布団……」
って、これだけ言ったら、いかにもえっち期待してます!みたいじゃない、私の馬鹿ー!!
「隣に敷いてあるぞ」
隣?廊下に続くのとは違う襖を開けると、三人で夕ごはんを食べた部屋よりも狭い部屋に、
お布団が二組み敷いてあった。わ、なんかぴったりくっついてるし、枕元にふわふわ紙があるし……
どうしようと固まってしまった私に、ランスさんが背後から腕を回してきた。
「ひゃ……っ」
「ああすまん、驚かせたか?」
そういいながらも、ランスさんは腕を解かない。というか、さらにぎゅっと抱きしめられて、う、うわあ……
私より頭一つ大きくて、広くて暖かい胸にすっぽり……ちょっと前にも抱きしめられた事はあったけど、
後ろからで見えない分、想像が……どうしよう、何だか身体から力が抜けて、立ってられなくなりそう。
ところで、腰に当たってる棒みたいなのは何なのかしら。ランスさんは冒険者だと言ってたけど、
こんなくつろいだ浴衣姿で剣を吊ってるわけはないだろうし、あ、でもいざというときのために短剣を隠しているとか?
呪文の詠唱さえ出来ればいい魔法使いと違って、戦士は大変なんだなあ。
「何だ?」
「いえ、何でもないです」
振り向こうと姿勢を変えると、短剣がお尻に当たる。ちらっと見ると……えっ?何で浴衣の中に短剣が?
着物の中じゃ、いざというときすぐ出せないんじゃないかしら、不便じゃないのかな?ついまじまじと見てしまう。
「……見たいのか?」
あ、もしかして護身用じゃなくてお守り的な短剣なのかしら?だからあえて見えないように持っているとか?
魔法使い用の魔力を増幅させる短剣とかあるけど、そういうものが戦士用にもあるのかな?ちょっと見てみたいけど。
「あ、いえ、無理には」
「お前さえその気なら、いくらでも見せてやるが」
あ、何だかランスさん困ってるみたい。いくら「思うままに」って言われたからって、
あんまりわがまま言っちゃいけないよね。とはいえ、やっぱり気になって、ちらちらと膨らんだ浴衣の前を見てしまう。
ぴく。
あ、あれ?なんか今動かなかった?というか、ちょっと大きくなってるような……?
「シィル……」
「は、はい!」
どうしよう、ランスさんがますます困り顔になっている。私のせい……だよね?
「ちょっと……便所」
そういってランスさんは私から離れると、ちょっと前屈みでトイレに向かった。
何だろう、私やっちゃいけない事したのかな……不安。
戻ってきたランスさんは、やけにさっぱりした顔をしていた。あ、腰の短剣が無くなっている。
私があんまりにも気にするから、気を遣って外してきてくれたのかしら……やっぱり悪い人じゃないような気がする。
「あー……その」
とうとうその時が。ランスさんが気を遣ってくれているのに、いつまでも態度を決められない私。でも……うん。
「……いいんだな?」
さすがに言葉で返事は出来なかったので、小さく肯く。これが精一杯。顔を上げると、嬉しそうなランスさんがいた。
お布団の上に抱き合って座って、最初はキス。
「あっ、あのっ」
軽く触れた唇が離れたタイミングで、これだけは!というお願いをする。
「暗くして欲しいです……」
「ああ」
肯いて立ち上がったランスさんは襖を閉めた。閉めた襖の隙間から僅かに光が差し込んでいるけど、
お布団の部屋はほぼ真っ暗だ。暗闇に目が慣れてくると、ランスさんが正面に座っているのが見えた。
えっと、こういう時はどうしたらいいのかな。私が中断させちゃったんだから、私から続けるべきなのかしら。
にじにじとランスさんに近づいて、肩に手をかけて、私から口付ける。恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい。
しばらくそのままでいると、ランスさんの手が腰に巻き付いて、ぐっと引き寄せられた。そして。
唇の間から、ぬめっとしたものが入り込んでくる。わ、ランスさんの舌だ、大人のキスだ。
どうしたらいいのか解らないから、ランスさんに全部任せよう。
歯や頬の内側を舐めていた舌が、今度はその奥の舌をざらりと舐める。何だろう、背中がぞくっとするような、変な感じ。
ランスさんの息が、鼻から頬を撫でてくすぐったい。ふわっと身体が浮くような気がして、慌ててランスさんの肩をぎゅっと掴む。
これが『気持ちいい』って事なの?よく解らない、解らないけど、ランスさんにしがみついてると、何だか安心できる。
すごく長いようなキスが終わって、ランスさんの顔が離れる。
「本当に、いいんだな?」
暗いからランスさんの表情はよく見えない。
「……はい」
肯くだけじゃ伝わないだろうから、勇気を振り絞って小さな声で返事をした。ランスさんがふっと笑ったような気がして、
もう一度軽く口づけされる。そして、ランスさんは私の身体を支えて、お布団の上にそっと横にした。
浴衣の前が広げられて、最初は指で、それから舌で、ゆっくりと上から下に触れられる。
鈴女さんのアドバイス通り、浴衣の下には下着を着けていないんだけど、本当にこれで良かったのかしら。
ゆっくりと降りていった手が脚の間に滑り込んできた。ランスさんの手が止まる。やっぱり、おかしかった?
「あっ、あのっ、鈴女さんが下着は着けない方がいいって……」
あっ、こんな言い方じゃ鈴女さんが悪いみたいに聞こえちゃう。でも、言い訳せずにはいられない。
「ふうん、それで風呂に行ったのか」
ランスさんの声は機嫌良さそうだったので一安心。ほっと息を吐いた瞬間、ランスさんの手が大事な所に入り込んだ。
「ひ……」
「痛いか?」
痛くはないけど、え、そんな所触るの?ランスさんの左手が、真ん中をなぞるように動いてる。
なんかぬるっとする感触は気のせい?
「濡れているな」
「えっ、あの、おかしいですか?」
濡れてる方が痛くないって、鈴女さんは言ってたけど……
「おかしくないぞ、いい事だ」
そっか、良かった。でも、ランスさんが前の方を触るたびに、びくってなっちゃうのが恥ずかしいな……
これ、おかしい事じゃないといいんだけど。何回も聞くのも、ムードがなくなっちゃうような気がするし。
「ん……っ!」
ランスさんの指が中に入ってくる。むず痒いような変な感覚から逃れようと、無意識に身体を上にずらしてしまう。
「っと、逃げるなよ」
ランスさんがしっかりと私の肩を押さえる。くにゃくにゃと身体を振っても、どうしても逃げられない。
ランスさんの指が、すごい奥まで入り込んだように感じる。
「や……」
やめて、といったらやめてくれるのかしら。でも、痛いわけじゃないし、ランスさんの指が動くたびに、その、
あそこから何かがとろっと溢れるような感じがして……キスの時とは違うけど、これも『気持ちいい』って事なのかな。
だんだんと激しくなる指の動き。熱くなる息。早くなる鼓動。くちゅくちゅと粘っこい水音がしているのは、私の……
ん、あ……だめ、気が遠くなりそう……っ!
一瞬だけど、意識がなくなっちゃったみたい。気が付くと、私もランスさんも何も着ていなかった。
足を大きく広げられて、その間にランスさんが座っている。あ、あそこを見られて……恥ずかしい……けど。
「えっ、ええっ!?」
ランスさんの足の間ににょっきりと……なっ、何これ!?えっちの、行為の時には大きくなるって、
保健の教科書に書いてあったけど、こんなに大きくなるものなの!?
「ん、ああ、そういえばさっきやけに見たがっていたな」
私の視線をたどって自分のあれを見たランスさんは、そう呟く。えっ、さっきの短剣って……
「触ってみるか?」
ランスさんは私の右手首を掴んで、その異形の塊に触れさせようとする。ち、違います!
私はてっきり珍しい短剣だと思って……ひゃあっ、熱い、そして硬いっ!
「……」
あっ、さすがに驚き過ぎちゃったかな、ランスさんが困ったような顔をしている。どうしよう、こういう場合、
さっきのキスみたいに、私から触ってみた方がいいのかな。おっかなびっくり手を伸ばして、ランスさんのそれに触れてみる。
あ、先端は意外と柔らかいんだ……なんか、ぷるぷる震えてるし……よく見ればグロ可愛いかも?
「気に入ったのか?」
「えっ、あの、その」
「お前専用、というわけにはいかないが、優先くらいにならしてやってもいいぞ」
暗闇の中でぼんやり見えるランスさんの顔は、困ったようにも照れているようにも見える。
それって、どういう意味……と聞こうとした瞬間、それが私の中に入り込んできた。
後はもう、何も考えられなくって……真っ白な……