SAVEyourLIFE

幸運の坩堝P

鬼畜王if。シィルが生きてる状態でランスが魔王になったら。

メイドさんといっしょ

◇2005/09/25 

ケッセルリンクとホーネットのWお小言をやり過ごし、ランスは執務室に戻った。
執務室に二つ並べられた大きな机の上には、書類が山積みになっている。 一方には豪華な椅子。言うまでもなく、魔王ランスの机だ。 もう一方の質素な椅子には魔人シィルが座り、書類と格闘している。
「あ、お帰りなさいランス様」
ランスに気づいてシィルが顔を上げた。
「メイ、お茶を」
「はいっ!」
シィルの斜め後ろに立っていたメイは、元気に返事をしてお茶の用意を始めた。
シィルの使徒であるメイは、元女の子モンスターのメイドさんだ。 人間に追い回されかなり弱っていたのをシィルのヒーリングによって命を取り留めたせいか、 シィルを慕って魔王城まで付いてきてしまった。悪い気はしないのか、シィルも彼女には甘く、 結局使徒にして側に置いている。
「シィル様、どうぞ!」
「メイ、私じゃなくてランス様に……」
メイはきょとんとしてシィルを見て、それからランスを見てちょっと不満げな顔をする。
「えー、魔王様にですかー?」
「……」
「……」
ぶすったれたランスと困り顔のシィル。当のメイは、さっとシィルの後ろに隠れた。
「だいたいお前の躾がなっていないんだ」
「うう、すみませんランス様」
ひたすら頭を下げるシィルの後ろで、メイはランスにあっかんべーをする。
「メイ!ランス様に謝りなさい」
さすがにシィルがたしなめる。
「ちゃんと謝ればランス様は許してくださるから、ね?」
シィルはメイにそう言いながら、ちらっとランスを見る。 シィルに叱られて、さすがにしゅんとなったメイが、おずおずとランスに頭を下げた。
「……ごめんなさい、魔王様」
ランスは握り拳をぷるぷるさせるが、シィルの視線の圧力にはかなわず、大きくため息をつく。
「仕方ない、俺様は慈悲深いからな、今回は許してやる」
本来、魔人は魔王に絶対服従のはずなのに、それ以前にそもそもシィルは奴隷のはずなのに ──最近尻に敷かれているような気がしてならないランスであった。

不満そうな顔のままでメイはお茶を入れている。そんなメイに、シィルは声をかける。
「メイ、どうしてそう、ランス様に反抗的なの?」
「だって……魔王様、シィル様の事いじめるんだもん」
しぶしぶ、といった表情で、ランスにお茶を差し出すメイ。
「……最近はあんまりいじめてないぞ?」
受け取ったお茶を一口飲んで、ランスは口を挟んだ。メイが恨めしそうな顔で見上げている。
「昨夜だってシィル様の事泣かしてたじゃないですか」
「昨夜?」
何かしたっけかなあ、と、ランスは胸に手を当てて考える。シィルもしきりに首をひねっていた。
「そうです、シィル様がもうダメって言ってるのに魔王様が……むぐー!」
「はわわ、ストップ、ストップー!」
首まで真っ赤にしたシィルが、慌ててメイの口を塞いだ。どうやら思い当たる事があったらしい。
「あ、あのね、メイ、それは違うのよ」
「ぷは、だって、一昨日だって嫌がってるシィル様に」
「それはそのイヤだけどイヤじゃなくって……って変な事言わせないでよう」
ははーん、とランスも納得する。
「ああ、そういう事か、あれは泣かすというか啼かすというか」
「ランス様も言わないでくださいー」
ニヤニヤ笑っている魔王ランス、真っ赤になってあわあわしている魔人シィル、 じたばた暴れている使徒メイ。
魔王城執務室は、今日も平和であった。