帝国覇王史秘話

幸運の坩堝P

鬼畜王if。ランス1~4を絡めて鬼畜王再構成+幸福エンドアフターでランスがシィルと逃げない場合。

2.リーザス王時代01

◇2004/05/02 

ヘルマンまで盗賊退治に行った筈のシャングリラ皇帝は、なぜか盗賊団の新首領となってしまう。 首領を倒したせいで部下の盗賊達が路頭に迷う、それを避けるためにやむなく跡目を継いだ、 との説が今日有力ではあるが、皇妃の日記によると事実は少々違っていたらしい。
近くの街道を通る商隊を襲っては金目の物と美しい女性を奪う、そんな生活が続いていたと、 日記には書かれている。『そんな行為に手を貸してしまう自分がいやになる』、といった文も目に付く。

──どうせ人間なんて他の生き物の命を奪って生きているのだ、 それがたまたま同じ人間だっただけだ、ランス様はそうおっしゃるけれど、やっぱり私には良い事とは思えない。

おそらくこの時期、皇妃は人生で最も多くのため息をついたと思われる。
それでも、貧しい商隊には多少の食料を分け与えたり、貧困のあまりリーザスに亡命しようと山越えした 鉱夫を警備兵から逃がしたりと、決して悪行ばかりでは無かった事も記されている。
裕福な家に育った皇妃と、おそらくは厳しい子供時代を送った皇帝では、 生に対する執着心に大きな隔たりがあったのは否めない。 二人の意識の食い違いが最も大きかったのが、このヘルマン盗賊時代であったのだろう。

当時、ヘルマンの政治は最悪であった。
後に、皇帝がリーザス王としてヘルマンを併合後、パットン=ミスナルジがヘルマン皇帝として ヘルマンを治めるようになってからは国政が安定し、ヘルマンに活気が戻った事は広く知られている。 その時、盗賊団にいた者達は、あるいは兵士として再び皇帝の部下となり、あるいは堅気の職業に就き、と、 皆まっとうな生活に戻ったと言われている。その事実から、先の説が唱えられたのであろう事は想像に難くない。
だが、根が真面目な皇妃には、盗賊稼業はやはり耐え難いものであっただろうし、 また、人として最後の一線を皇帝が越えずに済んだのは、皇妃の存在があってこそだったのかもしれない。

◇◇◇

その後、盗賊団は近隣の街に襲撃をかけるようになった、と日記には記されている。 そして、二度目のゴーラク襲撃の後、日記はしばらく途切れる事になる。

前出の見当かなみの手記に依れば、ヘルマン遺跡警備大隊によって盗賊団討伐が行われた際、 命からがらリーザスに逃げ込んできた皇帝をかなみが保護し、リーザス城へ運んだとある。 その時、いつもそばに置いているはずの皇妃がいない事に大きな疑問を持った事も、手記には書かれている。
リーザス城で手当を受け回復した皇帝は、リーザス王女、リア=パラパラ=リーザスの求婚を受け、 リーザス王に即位する。しかし、この結婚には疑問を持つ者も多かったようだ。

先のリーザス解放戦線で共に戦った将軍達は、「救国の英雄」と王女との結婚を おおむね祝福を持って受け止めていた。しかし、その時同じ戦場に立たなかった将兵、また、 利権を狙うリーザスの大貴族達は、この結婚を快く思っていなかったようで、 後に現役の白軍主将が中心となった大規模な内乱の種になってしまう。
また、皇帝および皇妃と個人的なつきあいがあった者達も、別の意味で、この結婚に反対していたようだ。 近代工業の母と呼ばれるマリア=カスタードや、AL教初の女性法王となったセル=カーチゴルフなどが、 個人的な日記や友人との会話で疑問を呈していたという。
皇帝の隣に皇妃がいない、という一点だけが、彼女たちに違和感を抱かせていたようだ。

◇◇◇

リーザス王としての最初の仕事は、リーザス内乱の鎮圧であった。

挙式後の尊大な演説が不満分子の怒りに油を注いだ、と見る史家が多いが、 では、ここで、皇帝の横に皇妃がいたらどうなっていたのか、という疑問が湧いてくる。 皇妃が側にいたなら、そもそも他の女性と結婚しないだろう、との常識的な結論はひとまず置いておこう。
おそらく皇妃は、どのような手段を使ってでも皇帝の無謀な演説を止めたであろう。 皇妃の前では格好を付けたがっていた若き日の皇帝も、あるいは、もう少しまともな演説をしたかもしれない。
そんな偶然が重なった結果としての、内乱勃発であったのだろう。

この時期の皇帝は、皇妃と離れていたせいもあってか、いつも以上に漁色が激しかったらしい。 反乱軍の将兵のうち一定の容姿と年齢を満たした女性は、余すことなく手が付けられたと言われている。 さらに、各都市徴発の際にも、何人かの女性を連れ帰ったという記録もある。
自らの力や業績をもって女性を口説く、あるいは関係を強要するという事は過去にも多々あったようだが、 権力を傘に女性に関係を迫るなど、それまでの皇帝では考えられない所行であった。 後に対抗勢力から「鬼畜王」と揶揄されるようになったのは、この時期の行動が原因であろう。

内乱は驚くべき早さで鎮圧され、皇帝の指導力を再確認する結果になった。 特に軍事訓練を受けたわけでもない一介の冒険者であった皇帝の能力に 疑問を持っていたリーザス軍の大半の将兵も、皇帝の指揮能力の高さに驚き、後に素直に従う事になる。
皇帝の実力をあまねく知らしめたという点に於いて、かの内乱は皇帝にとって必ずしもマイナス要因では なかったといえるだろう。内乱の指導者が、知将として今なお名高いエクス=バンケットだったこともあり、 乱を起こすことで皇帝の実力を計るという意図が隠されていたのではないか、という説も一部では唱えられている。

◇◇◇

内乱鎮圧後、皇帝は周囲の反対を押し切り、現在の帝都であるシャングリラ攻略に手を付ける。 当時は交通機関も未発達で、他都市からシャングリラ入りするためには、広大な砂漠を越えなければならなかった。 そのためか、このシャングリラ攻略には、皇帝にしては珍しく一ヶ月強の時間をかけている。
資料が残されていないため詳細は不明であるが、聖女モンスターを使役してかの地を治めていた ルチェ=デスココ387世を倒した皇帝は、その後、シャングリラを足がかりにヘルマン侵攻を行う。

この時皇帝は、ヘルマンの首都ラング・バウに続くスードリ13ではなく、 あえて遠回りになるボルゴZへと兵を進めた。実質的な宰相であったマリスと リーザス軍総大将であるバレス=プロヴァンスは、この進軍に難色を示していたようだ。 当時、リーザスとヘルマンは緊張関係にあり、互いの領地への正規軍侵攻が、 本格的な軍事衝突の引き金となる事は、容易に予想が付いたからである。
そのため、軍を進めるなら一刻も早くラング・バウ陥落を狙うか、あるいは、 先に自由都市群や国力に劣るJAPANを攻略し、人材と財源の確保を優先させるよう進言したと言われている。

しかし、周囲の反対を押し切り、皇帝は自ら率いる緑正軍を中心とした編成で、ボルゴZを攻略し、 皇妃と盗賊時代の妹分であるソウル=レスを奪回。
監獄都市ボルゴZに、二人が留置されているという情報は、かなみ率いる忍者部隊の功により、 かなり早い時期から皇帝に知らされていたようだ。 また、ボルゴZに捕らわれた妙齢の女性が、しばしば行方不明になる、という噂も当時有り、 二人がその犠牲になる事を避けるため、性急とも思える進軍を行ったとの見方が強い。

そもそも、皇帝がリーザス王に即位したのは、二人の救出のため、リーザスの軍事力を 手に入れるのが目的だったのではないか、との説もある。さすがに、リーザス王時代には、 マリス率いる秘密警察(ただしその存在については真偽が問われている)の粛正を恐れてか、 それを大っぴらに口にするものは、一部の皇帝に近しい人物以外にはいなかったようだ。

◇◇◇

──晩春の寒々しい牢の中で、何度もランス様が救けに来てくれる夢を見ていた。 目が醒めて、状況が変わっていない事に落胆しながらも、いつかその夢が実現すると信じていた。
そして、ようやく寒さが緩んだ日、ランス様は来てくれた。
リア様と結婚してリーザス王となり遠い人になってしまったけれど、 それでも私たちを忘れて無かった事が何より嬉しかった。

再開された日記の冒頭には、皇帝への感謝と寂しさが綴られている。

──結婚しても一国の王になっても、変わらず側に置いてやる、とランス様は言う。 牢から救出された時は、ランス様と共にいられる、ただそれだけで幸せだったのに、 落ち着いた今ではそれ以上のものを求めてしまう。
私はこんなに強欲だったのか。