3.リーザス王時代02
◇2004/05/02
皇妃を取り戻した皇帝は、その後一旦ヘルマンから手を引く。
一度は占領したボルゴZの放棄には、さすがに周囲の反感も強かったようだ。
しかしながらこの時期、リーザス城で保護されていた魔王リトルプリンセスを狙って、
反魔王派の魔人の攻撃が激しくなっていた事を考えると、皇帝の判断もやむなしだったのかもしれない。
皇帝は、魔人の攻撃を凌ぎつつ、併合した自由都市群から人材を確保し、
野に下っていたエクスの戦列復帰を促す等、リーザスの国力と軍事力の増強に努めていた。
「カスタムの魔女達」・遺跡探索家メリム=ツェール等、現在も帝国史に名を残す人材の吸収や、
対魔人の切り札として魔剣カオスの回収も行っている。
また、忍者部隊によるヘルマン・ゼスの情報収集、城下施設の充実などが行われたのもこの時期であった。
更には、破壊工作任務で潜入したヘルマンの忍者を懐柔したり、当時身分を隠して見聞の旅をしていた
ゼス王ラグナロックアーク=スーパー=ガンジーとその部下の忍者を麾下に加えたりと、
なかなかに忙しい日々を送っていたようだ。
──新しくランス様の部下となったガンジーさんは、ひょっとしたらゼス王ではないのだろうか?
ゼス王は宮殿を離れている事が多いと、聞いた記憶がある。
しかし他の人達は何も言わないし、私もゼス王に直接拝謁した事があるわけではないので、
たまたま似た顔、似た名前の人なのかもしれないけれど。
皇妃の当時の日記には、ガンジーについての疑問が書かれている。
どうやらゼス出身の皇妃だけは、うすうす気づいていたらしい。
しかし、この疑問を直接皇帝に投げる事はどうやら無かったようだ。
ここで、ガンジーの正体を皇帝が知っていれば、後の「ピカの悲劇」は
起こらずに済んだのかも知れないが、それも今となってはどうしようもない事だろう。
◇◇◇
リーザスの国力を整えた皇帝は、腕試しとばかりにJAPANへ侵攻する。
当時JAPANの覇権を握っていた織田信長が、実は魔人(魔王派・反魔王派のどちらにも与しない
第三勢力の魔人であったらしい)だった事もあり、JAPAN併合は予想外に手こずったようだ。
後に皇帝の第一子を出産する山本五十六を配下に加えたり、信長の娘をハーレムに招聘するなど、
激しい戦闘の中でもそちら方面にはまめな皇帝に、皇妃は密かに心を痛めていたようで、
この時期の日記には、皇妃には珍しく嫉妬心を露わにした記述が多い。
しかしながら、同時期、妙な記述もある。
──昨日初めて大阪に派兵し、一度は兵を退いたランス様だったけれど、今日は様子がおかしかった。
虚ろな、でも妙にギラギラした目で獣のように城内を徘徊していたランス様は、無言のままものすごい力で
私を使われていない倉庫に引っ張り込んだ(訳注:明記されてはいないが性行為に及んだと思われる)。
衝動的にそういうことをするのは以前からあったけれど、それでも、
終わってから少しは優しい言葉をかけてくれたり、冗談の一つも言ったりしてたのに、
今日に限っては、事後もぼんやりとしたままで、何度も声をかけて、やっと正気に戻った感じだった。
先発隊の健太郎さん(訳注:聖刀日光所有者の小川健太郎)の報告によると、
JAPANの織田信長は、魔人である可能性が高いらしい。
何か変な呪いでもかけられているんじゃないだろうか。心配でたまらない。
この小さな事件の詳細は不明だが、皇帝も危機感を持ったらしく、その後、対魔人部隊である 皇帝と健太郎の両部隊だけでなく、魔王の護衛としてリーザスに駐留していた魔人サテラと魔人メガラス、 更には魔王リトルプリンセス本人の出動まで要請し、速攻で信長を倒している。
──明日は大規模な大阪攻略の日。ランス様の部隊と一緒に私の部隊までもが編成に加えられている。
この間のような事(訳注:前述の事件を指すと思われる)があった時に私が側にいた方が便利だから、
とランス様は言っていたけど、対魔人の策を持たない私の部隊が同行したところで、何の役にも立てないのに。
皇帝をよく知る赤正軍の将軍リック=アディスン晩年の述懐に、皇妃を連れて出撃した皇帝は、
そうでない時よりも攻防共に能力が上がっていた、とある。皇帝自身もそれには気づいていたようで、
後に、魔人領に出撃する際には、常に皇妃の部隊を自らと同じ編成に加えていた。実際に目に見える
能力値の上昇は無かったようだが、皇帝と皇妃の率いる部隊の兵達も、身をもってそれを感じていたという。
しかしこれもまた、リーザス王即位の真意と同様、リーザス王時代には公然の秘密であったようだ。
◇◇◇
──リーザス城でランス様の帰りを待つのは寂しい。少しでもランス様と一緒にいたいから、
戦場に出る方がいいのだけれど、私は足手まといになってはいないだろうか。
私の能力が足りず、私の部隊は、全軍の中でも攻撃・防御共に低い部類に入る。
特に弓による攻撃には弱く、今までも何度か全滅の危機に晒された。私の部隊を切り捨てれば勝てる戦闘を、
兵を退く事によって落とした事もある。本当に申し訳ない。
今日なんて、見晴らしの良い丘に墓を用意しておいたから心おきなく死んでこい、と言われてしまった。
どう答えていいか解らず涙ぐんでしまった私に、おまえは泣くとブスになるのだから泣くなと、鉄拳。
自分より先に死ぬのは構わないがその代わり、とたんこぶをさすってる私をランス様は急に抱きしめた。
俺は人間である事をやめるかも知れない、本当に小さな声だったけど、ランス様は確かにそう言った。
そんな脅迫されたって、死んでしまったらどうしようも出来ない。ランス様はやっぱりいじわるだ。
本当は、私の事を心配してくれているのは解っているけれど。
大阪攻略の後、皇帝は魔法研究所を設置し、皇妃の部隊を始めとしたリーザス軍魔法部隊の強化を指示する。
実際の効果は不明だが、後のゼス戦を鑑みての行動だったと言われている。
だが、こうして皇妃の日記を読んでみると、皇妃の身を案じての事だったのではないか、という想像は、
幾らなんでも穿ちすぎであろうか。