4.リーザス王時代03
◇2004/05/02
JAPANを併合した皇帝は、ヘルマン侵攻を再開する。順当に、スードリ13からであった。
途中、当時廃太子とされていたパットンを盟友とし、LP4年初頭にはラング・バウを攻め落とす勢いであった。
その後、傀儡と化していたシーラ=ヘルマンを保護している。
ラング・バウ陥落後も地方で燻る反乱の芽を摘みながら、皇帝はカラーの住むクリスタルの森を 初めて訪問している。それまで、人間を憎悪していたカラーの不信感を払拭し、 女王パステル=カラーとの間に、次期女王候補のリセット=カラーを設ける事になる。
──人間とカラーの間に友好的な関係が持たれたのは、遙か昔、まだカラーの額にあるクリスタルの
効用が知られていない時以来だそうだ。やっぱりランス様はすごい人なんだ。
そんな歴史的快挙の発端がカラーの女の子目当てでなければ、もっと素直に尊敬できるのだけど、
そういうところも含めてのランス様なのだから、仕方ないと諦めるしかない。
相変わらず、皇妃の悩みは尽きないようであった。
◇◇◇
ヘルマン侵攻中、一つの事件が起こる。
後に「ピンクのうし事件」と呼ばれ、正史からは抹殺されたものの誰もがが知っている、皇妃失踪事件だ。
あまりにも有名な事件なので、ここでは当時の日記の引用だけにとどめたい。
当然、失踪中には日記は書かれておらず、後日の回想という形になっている。
──その日、目が醒めると自分の身体に違和感を覚えた。うしに姿を変えられていたのだ。
誰かに、いやきっと無意識のうちにランス様に、助けを求めようと声を出してみたけど、
うしの間抜けな鳴き声しか出ない。
仕方なく部屋を抜け出し、ランス様がいると思われる謁見の間に行ってみる。
当たり前だけれど、ランス様は私に気づかず、そのまま蹴り出されてしまった。懲りずに寝室にも顔を出してみる。
今度はなぜかハムをくれたが、調子に乗ってすり寄っていったら、またもやつまみ出されてしまった。
後日、また謁見の間に行くと、プルーペットさん(訳注:ポルトガルの商人プルーペット)と商談の最中だった。
私を見たプルーペットさんは、ピンクのうしは貴重な食材だから譲って欲しいと言う。
ランス様はそれを聞きながら、ひょいと私を抱き上げ、頭をなでて変な顔をしていた。
どんどん買値をつり上げるプルーペットさんに、本当に売られて鍋の具にされてしまうのではないかと
不安になったが、ピンクのうしが元は人間だったという説明を聞き、ランス様は売却を断ってくれた。
それから私を寝室に隠したランス様は、ホ・ラガの塔に行き人間に戻る薬を入手し、私を人間に戻してくれた。
どうやら、リア様が私に呪いをかけてうしに変えたらしく、泣きながら謝られてしまう。
ランス様が気づいてくれなかったらどうなっていたのだろう。いつ私だと解ったのか、と尋ねてみたが、
俺様は天才だから、といつものようにはぐらかされてしまった。でも、その後何度も何度も私の頭をなでて、
この手触りが同じだったんだよなあ、とそっぽを向きながら呟いていた。
そういえば前にも、胸を触っただけで変装していた私に気づいた事があったのを思い出した。
ランス様って不思議な人だ。
◇◇◇
──五十六さんが懐妊したという噂が、リーザス城に飛び交っている。
五十六さんは真面目な女性だし、父親はランス様以外にはあり得ない。
でも、それを確認する勇気は私にはなかった。そもそも、私に口を出す権利なんて無いけれど。
皇帝の一挙一動に、相変わらず振り回されている様子の皇妃だが、
五十六の妊娠・出産には、思うところも多かったようだ。
皇妃と五十六は、それまでは互いの存在を認識している程度であったのが、
皇帝の第一子である山本無敵の誕生以降、むしろ良好な関係を持つ事になる。
──今日、五十六さんに待望の赤ちゃんが生まれた。ランス様は、一週間ほど前からずっと
赤ちゃんの名前を考えていたが、何というかいつもながらのネーミングセンスが炸裂して、
とんでもないものばかり思いついていた。さすがに一生ついて回る物だし、人の名前としてあんまりな言葉は
鉄拳制裁覚悟で反対したけれど、ランス様は解っているのだかどうか。
最終的に決めた「無敵」くんという名前には、五十六さんも喜んでいた。
──無敵くんは日に日に可愛くなる。
五十六さんが懐妊したとランス様に聞いた夜は、さすがに眠れなかったけれど、
こうして赤ちゃんと幸せそうな五十六さんを見ていると、全然いやな気はしない。赤ちゃんって不思議な存在だ。
──五十六さんにお願いして無敵くんを抱かせて貰う。ふにゃふにゃでちょっと怖い。 いつか私も、無敵くんの弟か妹が産めたらいいな。そんな事、ランス様には言えないけれど。
無敵を通しての五十六との交流は、日記にも繰り返し書き込まれている。 皇帝も、そんな二人を好ましく思っていたようだ。
それまでも長い時間を皇帝と過ごしていた皇妃だが、正式にシャングリラ皇妃となるまで、
一度として妊娠する事はなかった。
冒険者時代からリーザス王時代を通し戦場に皇妃を伴う事の多かった皇帝が、
細心の注意を払って妊娠を避けていた、というのが現在最も有力な説である。当時は避妊魔法があり
(現在では倫理的判断により禁呪認定されている)、それを利用していたと推測される。
妊娠から育児まである程度の期間、一時的とはいえ皇妃を手放す事を皇帝が嫌ったという説もある。
事実、皇妃が第一子を出産したのは、大陸統一後、皇帝が出陣するほどの大きな紛争が地上から
無くなってからの事であった。
「鬼畜王」と揶揄されるほど女性には手の早かった皇帝だが、皇妃とだけは清い関係を続けていた、と
珍説に分類される見方をする集団もあるが、さすがにそれはありえないだろう。