シィルちゃん物語りたーんず

幸運の坩堝P

GGS3補完企画。テーマはいつもの『ラブ&お馬鹿』で細切れ文と絵。

決戦!三つどもえ

ランスとシィルとあてなとゲーム◇2010/06/14  日常

四畳半の狭い和室にちゃぶ台ひとつ。その周りを囲むのは、俺様とシィルとてあてな2号。 三者三様、それでも皆真剣な表情だ。なぜなら。
「次はあてなの番なのれすよ」
ちゃぶ台の上には将棋盤、その上には将棋の駒が山積みにされている。 この駒を、指先一つで盤の外に落としていくのが『将棋崩し』というゲーム。駒を動かす時に音を立てたら負け。 繊細さと大胆さそしてある種の戦略性が必要とされる、知的な俺様にぴったりのゲームだ。
ちゃぶ台の下、白熱するゲームの邪魔にならない場所には、白い大きな皿に山積みのクッキー。 昨夜シィルちゃんがちまちま焼いていた本日のおやつである。最初に音を立てた者が脱落、残り二者で勝負を続行し、 最後に残った勝者にクッキーが一枚与えられるというのが本日のルール。 つまり、このクッキーを賭けて将棋崩し勝負をしているのであるが。
「ふふん、あてなには楽勝なのれす」
繊細さの欠片もないと思われるあてなが、現在トップ独走中。そういやこいつは人口生命体だったっけな。 たまに敵の技をラーニングすることもあるくらいで、実はかなり精密な動きが出来るんだったっけか。 次に駒を動かす相手を不利にするような戦略は持ち合わせていないものの、無音で確実に駒をとっていくあてな。
「じゃあ次は私……ですね」
シィルは指をすっと立て、安定している山の麓にある駒に指をかけようとする。 まずい。あそこは簡単に取れそうだから俺様が狙っていたのに。
「じー……」
「えっ、なんですかランス様」
俺様の視線に気付いて、シィルがびくっと指を引っ込める。 ちらちらと俺様を窺いながら、再び駒を取ろうとする。だからその駒は俺様が狙っているというのに!
「ううっ」
俺様が与えるプレッシャーにとうとう負けたシィルちゃんは、安全な駒を諦めて山の中腹あたりに指をかけた。 ふふん、俺様の策略にはまったな。 だが慎重な性格と器用さでもって、シィルは難易度高めの駒をどうにか無音で取ってしまう。
「次は俺様の番だな」
あてなの精密さやシィルの器用さ、そういったちまちましたものは俺様には似合わない。 大胆な決断力と運の高さで勝負だ!

そして一時間あまり。皿の中のクッキーは残り一枚となっている。
「えへへ、あてな取ったれすよー」
盤の上の駒も残り少なくなっており、やや不安定なポジションが目立つ。そろそろ勝負をかける時か。
「いきますよ……」
一つ深呼吸をしてシィルが身を乗り出した。まずは目視で駒の状態を確認しているようだ。 一通り見た後、覚悟を決めたのか駒に指をかけるシィル。慎重にじっくりじっくり、駒を動かしている。 このままでは上手く駒を取ってしまいそうだ。ここはひとつ……
「あ、そういえば」
「えっ?」
ことん。シィルの指の下で駒が音を立てる。俺様の声に動揺したようだ。陽動作戦成功。
「はい、シィルちゃん負けなのれす」
「えっ、でも今ランス様が何か言おうと」
「なんだなんだ、負けたからって俺様のせいにするつもりか?」
「シィルちゃん往生際が悪いのれすよ」
「ううう……」
俺様とあてなにたたみかけられて、しょんぼりと身を引くシィル。これであてなと最終決戦だ。
「ご主人様相手でも、遠慮はしないのれすよ」
「上等だ、かかってこい!」